#インタビュー

一般社団法人ひのくにスマイルプロジェクト|子どもたちの笑顔が溢れれば地域が変わり、地域が変われば、県が、国が、世界が変わる

一般社団法人ひのくにスマイルプロジェクト 茶木谷さんインタビュー

茶木谷 与和
1987年10月9日、熊本県菊池市生まれ。一般社団法人ひのくにスマイルプロジェクト代表理事
大学在学中に児童福祉を学び、現在子ども食堂やフードバンクなどの活動をおこなう。また児童相談所やUSJ(ユニバーサルスタジオジャパン)で多くの笑顔を創り、子どもたちとふれあった経験を活かし、様々な視点からのアプローチ方法を模索駆使し、子育て相談や不登校相談などの相談援助活動をおこなっている。また様々な活動を通して 老若男女問わずみんなが前向きに生きる〝きっかけ〟〝えん〟をつくるお手伝いをするために日々奮闘中。

introduction

かつて児童相談員だった茶木谷与和さんは、「何か」が起こってしまう前に子どもたちを救いたいと、「ひのくにスマイルプロジェクト」を立ち上げました。〈子ども食堂〉、〈フードバンク〉、〈子育て相談〉、〈熊本県北部子ども食堂ネットワーク〉という四つの柱の連携で、子どものみならず、保護者、孤立しがちな高齢者までがつながり、地域の絆が育っていきました。企業やボランティア、やがては学校や役所なども支援に加わり、プロジェクトは大きく育ちつつあります。 

今回は茶木谷さんに、四つの活動それぞれの状況やプロジェクトの展望について伺いました。

子ども食堂で困難を抱える子どもを察知し、個別のサポートにつなげる

–まずは「ひのくにスマイルプロジェクト」の活動の概略をご紹介ください。

茶木谷さん:

私たちの団体は、大きく分けて〈子ども食堂〉、〈フードバンク〉、〈子ども食堂のネットワーク〉、〈子育て相談〉という四つの活動をしています。

子ども食堂には、子どもだけでなく、保護者をはじめ地域の方々も参加できます。フードバンクでは、企業や店から無償提供して頂く飲食物を「フードバンクひのくに」の登録組織に届けています。子ども食堂のネットワークは、正式には「熊本県北部こども食堂ネットワーク)」と称し、この地域の子ども食堂がつながり、支え合うことで、より質の高い活動を目指しています。子育て相談は私の担当で、個別の相談から講演会まで、さまざまなかたちで行っています。

–拡がりのある「プロジェクト」ですね。茶木谷さんがこの活動を始めたきっかけは何だったんですか?

茶木谷さん:

私は熊本で生まれ育ったんですが、大学以降は大阪で暮らして働いていました。熊本地震をきっかけに故郷に戻った時、人のつながりが薄くなっていることに気づいたんです。地元が新興住宅街に変わりつつあったから、というのもありますが、隣人でありながら顔を知らなかったり、声かけをしたら不審者扱いされた、なんていう話まで出ていました。

地域で互いに顔を知っていればそういうことは起きないし、災害の避難所でも、見知った人と過ごすほうがストレスは少ない。地域の人々の居場所が必要だと感じたんです。

まずは「子ども食堂」を作ろうと思いました。それも、子どもだけに限定せず、親たちやご老人たち…集える人みんなで、月に一度いっしょにごはんを食べることから始めよう、と。だから、「子ども食堂」というより「子ども・地域食堂」なんです。

–とはいえ、なぜ「まずは子ども」だったのでしょうか?その理由と、子ども食堂の状況、参加者の感想などをお聞かせください。

茶木谷さん:

「まずは子ども食堂から」には、明確な理由があります。かつて、児童相談所の児童相談員として様々な体験をしてきました。そこには、虐待やネグレクトを受けた子たちがやってくるわけですが、つまりは「何か」が起こってしまった子を救う場所なんです。

親、保護者の考え方が変わらない限り、この状況も変わらないとつくづく思いました。親たちの気持ちが変われば「何か」は起こらないはずだ、「何か」が起こるのを予防することはできる、と思えたんです。だからこそ、単なる「子ども食堂」ではなく、子どもと保護者、周囲の人々の接点を作りたかったんです。食堂の名は「ひのくにスマイル食堂」であり、あえて「子ども」という言葉を入れていません。

月一度の大きな集いの場から、子どもたちやその家庭、地域の人々の様々な状況が見えてきます。次のステップとして、サポートが必要だと思えた子どもや家庭への個別対応に細かくつなげていきます。

学校に行けていない子どもには、こちらからちょこっと家に立ち寄って話してみるとか、家計が苦しそうな家庭には食材の支援をしたり、孤食がちな子どもがいれば、いっしょにご飯食べる?と声をかけてみたり、子育てに悩んでいる親がいれば、子育て相談の時間を持つこともあります。

参加者の感想としては、子どもはとにかく「楽しい!」ですね。親たちは、親同士のコミュニティができたことを喜んでいます。高齢の方々は、子どもたちの笑顔を見ていることが楽しく幸せ、とおっしゃいます。これが生きがい、という人までいるんです。一人暮らしであっても、健康と経済の問題がない限り支援の手は入りませんから、誰かと話せる時間もなく孤立するケースが多いんです。そんな心の貧困にも目を向けていきたいです。

自宅の一部を開放し、子どもたちの「第二の家」をつくる

–「ひのくにスマイル食堂」やプロジェクトの拠点となる場所はどこですか?

茶木谷さん:

自宅の一部をリフォームし、活動の拠点にしています。一室をオフィスとして、食堂に使ったり、子どもたちが自由に遊びに来れる場所にしています。もちろん誰でも訪問して頂けます。もう一室には本やタブレット、ホワイトボードなどを常設し、自由に勉強ができる部屋にしています。

この二部屋は、いつ来てもいいよ、何をやっていてもいいよ、という「第二の家」のような場所ですね。悪いこと以外なら自由に楽しくやっていてね、と。過干渉はしません。こちらも自宅を開放していますし、つかず離れずでないと続きません。食堂も集いの場も、もっとも大事なことは「維持」です。とにかく続けることに意義がある。「おや来てたの」くらいがちょうどいいんです。「おいでおいで」は強制になりますから。

–コロナ禍の行動制限があった時期はどのように対応したのですか?

茶木谷さん:

大切な居場所ですから、規制事項を守りつつ、一度も閉じずにやってきました。ご飯を一緒に食べられないなら、売上減で意気消沈している飲食店と子どもたちをつなごうと考え、その時期は弁当方式に変えました。

飲食店側に頼んだのは、自らが「ひのくにスマイル食堂」に弁当を届け、子どもたちに直接手渡すこと。子どもたちが、弁当の作り手に直接「ありがとう」を言えるからです。飲食店の方々も、その言葉を聞き、笑顔を見て、自分たちも沈んでいられないな、という気持ちになったそうです。その期間は18回開催し、18店舗に合計1800食の弁当を発注しました。今では、飲食店側もプロジェクトの応援団になってくれています。

もう一点、学校の先生も引き入れました。当時は家庭訪問が禁止でしたので、弁当配布の場に来てもらい、自然なかたちで気がかりな子どもの様子がわかる機会を提供したんです。結果、学校も全面的にこの活動をバックアップしてくれるようになりました。コロナに負けず、逆手をとってやっちまえ!です。

よいパートナーシップはすべての活動の基盤

–「フードバンクひのくに」をつくったきっかけと、どのようなシステムで運営されているかをお聞かせください。

茶木谷さん:

食堂や居場所を始めたことで、経済的な困難にある家庭の存在も見えてきたので、フードバンクを使ってそのような人々の支援もしたいと、設立しました。もちろん、地球環境としての食品ロスの問題も頭にありました。

実は、「フードバンクひのくに」で調達した無償食材は、「ひのくにスマイル食堂」のためにはにいっさい使いません。配布先は、当フードバンクに登録している熊本県内の95団体です。自分たちの先取りはせず、頭を下げて寄付してもらったり、助成金で調達します。

–熊本県北部子ども食堂ネットワークは、どのような仕組みをもつネットワークなのでしょうか?

茶木谷さん:

一応代表理事は茶木谷ですが、皆が横並びで自由に情報交換や支え合いができるネットワークです。

どこの世界でもそうでしょうが、トップは孤独なものです。最後は自分にすべての責任があります。だからこそ、連携が必要です。

「ひのくにスマイルプロジェクト」の敷地に、みんなで「防災倉庫」も建てました。発電機、トイレ、水や食料、たいていの防災必需品はそろっています。災害があった際には、熊本北部地区の子ども食堂拠点にすぐに届けるシステムができています。

SDGsのゴールでは、17番の「パートナーシップで目標を達成しよう」が一番好きですね。これがしっかりできれば、すべてのゴールの基盤になると思います。

子育てには、とっておきの「コツ」がある

–子育て講座や相談は、どのような内容が中心なのでしょうか?

茶木谷さん:

『イライラしない子育て講座』という基本の方向性をもち、親が子どもへのコミュニケーション能力を高めて、子育てのとっておきのコツを学ぶことで、子育てを楽しめるものにする無料講座です。

「伝わりやすい指示」「子どものほめ方・認め方」など、講座によってテーマを決め、質疑応答の時間も持ちます。「こうしなさい」ではなく「子育てにはちょっとしたコツがありますよ、それを知っていることで大きく変わる可能性もありますよ」ということを一緒に学んでいきます。

市区町村や学校、幼稚園からの依頼で開催することもありますし、子育てに悩む親への個別相談もやっています。

念のために、医者や公的組織など、諸問題に関係するすべての組織とのバイプを持っています。一度、当事者ではなく外部者から子どもへの虐待の相談があった時は、状況を聞いて、命にかかわると判断し、即刻児童相談所に通告してもらいました。三日遅かったら手遅れだったかもしれないと言われたそうです。

–プロジェクトが大きく育っていることがわかります。その過程で、なんらかの困難を感じることはありますか?

茶木谷さん:

現実的なことでは、費用は困難の一つですね。率直なところ、自腹を切ることも多いです。まずは助成金をうまく活用し、企業や店などにひたすら泥臭く足を運び、頭を下げてまわります。ただ「こんなことしていますから、お金を出してください」なんて言っても、誰ひとり目を向けてはくれません。自分の足で歩きまわり「営業」します。

費用面、そこは正直赤字です。黒字にはなりません!でも、お金がないから悲観的になる必要などなにもありません。もしその月の費用が足りなければ、麦茶を飲んで遊ぶだけでもいい。豪華な「ごはん」である必要はなく、一番必要なのは「場」。うちの食堂は、ひたすらカレーとスパゲティミートソースの繰り返しですが、子どもたちはそれが大好きです。お金はなくても、ポテンシャルがあるんです。

–子どもたちの笑顔が浮かんでくるようです!最後に、プロジェクトの展望をお聞かせください。

茶木谷さん:

これを「継続し続ける」、それが展望です。子どもたちの笑顔が溢れれば、地域にその笑顔が拡がって地域が変わります。地域が変われば県が、国が、やがて世界が変わります。そのことを信じ、その一助になれればと思っています。

–熊本北部に「子どもと地域」の規範モデルあり!となっていく予感がします。今日は貴重なお話をありがとうございました。

関連リンク

一般社団法人ひのくにスマイルプロジェクト:https://hsp.gicz.tokyo/