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一般社団法人Earth Company|「インパクトヒーロー」たちの存在が人々をインスパイアし、次世代につなぐ未来を創る

一般社団法人EARTH COMPANY 佐藤さんインタビュー

佐藤 真美
一般社団法人 Earth Company
日本事務局長
徳島県出身。ピッツバーグ大学国際行政大学院修了後、北米、アジア、アフリカで、ジェンダー、保健医療、食料分野などの開発プロジェクトに従事。また複数のNGOにおいて団体運営も担う。2019年より、「次世代につなぐ未来の創出」をビジョンとする一般社団法人 Earth Companyの日本事務局長として、主にアジア太平洋のチェンジメーカーを支援するIMPACT HERO支援事業を担当。また、Earth Compamyは「次のチェンジメーカー」を育てるアカデミー事業、バリ島ウブドでエシカルホテル事業も展開。その経営企画メンバーとして、団体の経営戦略の立案・実施にも携わる。

introduction

Earth Companyは次世代につなぐ未来のために、人と社会と自然が共鳴しながら発展する「リジェネラティブ(再生型)」なあり方を追求しています。その一環として、類まれな資質と情熱でSDGsに取り組む社会起業家を「インパクトヒーロー」として年に1人選出し、彼らが社会に変革を起こす活動を支援しています。さらに、リジェネラティブな未来を創る人材の育成プログラムとバリ島のエシカルホテルを合わせた3つの事業によって、ヒーローたちの支援のみならず、地域社会の経済やよき未来への足場も育んでいます。

今回は、Earth Companyの佐藤真美日本事務局長に活動の状況や展望などを伺いました。

「この地球は、先祖から継承したのではなく、私たちの子供たち、子孫から、借りているのである」

–最初に、Earth Companyの事業の概略をご紹介ください。

佐藤さん:

Earth Company(2014年設立)は、インドネシアのバリ島と日本を拠点とする二団体の総称です。「この地球は、先祖から継承したのではなく、私たちの子供たち、子孫から、借りているのである」というネイティブ・アメリカンの格言を活動指針として、次世代につなぐ未来のためのリジェネラティブなありかたを追求しつつ、三つの事業を展開しています。

インパクトヒーロー支援事業では、アジア太平洋地域で社会環境課題にとりくむ傑出した活動家を1年ごとに一人選び、3年間支援します。インパクトアカデミー事業は、次世代につなぐ未来を創る人材を育成する研修プログラムです。 バリ島エシカルホテル事業は、泊まるだけで社会貢献ができ、リジェネラティブな未来の在り方を具体的に体験して頂ける次世代のホテルを運営しています。

ダイレクトに細やかに活動家を支援し、その結果が受益者たちに速やかに届くシステムを創る

–インパクトヒーロー支援事業について伺います。初めに、この活動を始めたきっかけを教えてください。

佐藤さん:

まず、きっかけを作ったEarth Company共同創設者の二人を紹介させて頂きます。代表理事は濱川明日香、もう一人の共同創設者は濱川知宏です。二人は夫婦で同じ姓のため、明日香、知宏とさせて頂きます。

「2014年2月、ダライ・ラマ14世から
『Unsung Heroes of Compassion(謳われることなき英雄)賞を授けられる濱川夫妻」
「2014年2月、ダライ・ラマ14世から
『Unsung Heroes of Compassion(謳われることなき英雄)賞を授けられる濱川夫妻」

明日香がハワイ大学で学んでいた時期に、東ティモールから来たベラ・ガルヨスと出会ったことが、のちの「インパクトヒーロー支援事業」につながりました。ベラの人間性、類まれな資質や社会変革への情熱に圧倒され、(いつか彼女が計画を行動に移すときには支援しよう)と心に決めたそうです。

Earth Companyを創設する前から、明日香と知宏は、それぞれが様々なかたちで国際協力の現場に関わっていました。多額な資金を投入して課題解決に取り組んでも一過性で終わることも少なくない現実にジレンマを感じる反面、「この人に必要な支援さえ届けば、リーダーシップを発揮して変革を起こし、そのインパクトが広がりうるだろう」と確信できる人たちにも出会ってきたそうです。その最初の一人が、ベラだったわけです。

ベラさん

ベラは、東ティモールに環境教育の学校設立を計画していました。同国政府から受ける予定だった大規模な資金援助が突然白紙に戻されたことを聞いた明日香は、「その時が来た」と、迷いなく支援を決めました。これが濱川夫妻がEarth Companyを設立するきっかけであり、インパクトヒーロー支援事業のきっかけともなりました。

インパクトヒーローを選定した後、私たちは彼らに、大きく5種の支援を実施しています。

  1. 1,000万円以上の資金調達
  2. ブランディングやマーケティングツール制作などのマーケティング支援
  3. 財政基盤を強化するための事業計画立案支援
  4. 経営コンサルティング
  5. リーダーシップコーチング

言葉ではビジネスライクになりますが、そうではありません。当人と親密な交流を重ね、互いの信頼感をしっかりと築きます。心にも寄り添う第二の家族のような存在として、3年間支援を続けます。

どんなに優れた才能があっても、それだけでは変革を起こせません。資金調達の経験が不十分、事務まで手がまわらないなど、それぞれに弱い部分があるものです。そこを強化する支援ができれば、彼らの力は最大化されます。

政府や国際機関などの大きな支援も必要ですが、組織が肥大化すると、直接的な支援につながりづらくもなります。Earth Companyは、よりダイレクトに細やかに活動家たちを支援し、それが受益者たちに速やかに届く支援システムを創っています。

「人をインスパイアする力を持っている」ことが最も重要

–インパクトヒーローたる定義と、その選考方法について教えてください。

佐藤さん:

私たちが掲げている「インパクトヒーローの7つの資質」をご紹介します。

  • 原体験に基づくゆるぎないモチベーションを持ち、人生をかけて社会課題に取り組んで  いる
  • 類まれな資質を持ち、コミュニティにとって唯一無二の役割を担っている
  • 従来のモデルに替わる、地球の包括的なウェルビーイングを実現する未来を創ろうとして いる
  • 壮大な情熱、信念、熱量の持ち主である
  • 並外れた「世界をインスパイアする力」を持っている
  • 人の心を突き動かし、コミュニティだけでなく、国、また世界をも巻き込む求心力がある
  • 人々から深く信頼され、地域の「希望の星」として期待を背負うコミュニティ・リーダー である

私たちは「人をインスパイアする力を持っている」ことを最も重視しています。言語化、一般化が難しいそのところを何とか言葉にしたのが7つの資質ということでしょうか。情熱的な心があって初めて行動に移せます。そして、活動を成功させるには、人をインスパイアして巻き込む力が不可欠なんです。

活動規模が世界的なものか、地域に限定されたものかは関係ありません。たとえ小さな地域での活動であれ、その成功モデルは、異なった国の異なった活動にも大きな影響を与えうるからです。

–インパクトヒーロー第一号となった、ベラ・ガルヨスさんの経歴や活動の内容、支援の実例や成果などをご紹介頂けますか。

佐藤さん:

インドネシア軍侵略下の東ティモールで、ベラの兄弟は殺され、父は投獄され、本人は幼くして5ドルで人身売買されました。なんとか生きのびた彼女は、国を救うためには国を出るしかないと悟り、インドネシア賛成派に扮してインドネシア軍に入隊。

カナダに派遣されたその日に脱出しました。国連より難民認定を受けて22歳で亡命を果たし、以来、東ティモールの独立に貢献しました。

帰国後は大統領補佐官として国の発展に力を注ぎましたが、やがて見えてきたのは、自然破壊とコミュニティの分断、地方の荒廃や都市のスラム化でした。ベラは、自然と共存する発展の在り方を子どもたちに教え、地方も自然環境を活かせるという経済モデルを目指し、環境学校の設立を計画しました。

そのタイミングでベラがインパクトヒーローの第一号となりました。

2015年5月、ルブロラにグリーンスクールが開校しました。その後も当社からベラへの支援は続き、学校運営を支える収益母体として、飲食事業と宿泊事業を開業しました。

また、貧困女性が経済的に自立できるように、女性のオーガニック農業組合も設立しました。現大統領からは「東ティモールで最も美しい場所」と賞賛されました。

環境に負荷をかけず、バリ島の人々にもプラスになるホテル

ビレッジの全体写真

–次世代につながる大きな成果ですね。インパクトアカデミ-事業とバリ島エシカルホテル事業についてもお聞かせください。

佐藤さん:

インパクトアカデミー事業は、リジェネラティブな未来を創る人材を育成する、学校と企業向けのプログラムです。個人向けにも開催してほしい、という社会人の声から、「世界を良くする」を本気で考えるオンライン人材研修プログラム「REGENERATIVE FUTURES CAMP」を提供したところ、2022年初頭に大好評を博しました。

第二弾が9月15日からスタートします。

コロナ禍以前、このような研修はバリ島で行っていました。バリ島には観光ホテルが多数ありますが、ホテルが使う大量の水により現地農業の水が不足するなど、観光業は環境や地域の人びとの生活に多大な負荷をかけています。どんなに環境問題を学んでも、夜には観光ホテルに宿泊する矛盾を感じていました。

そこで、環境に負荷をかけず、バリの人々にプラスになるホテルを創ることにしたんです。泊まるだけで社会貢献ができる次世代のこのエコホテルを『マナ・アースリー・パラダイス」と名付けました。

「マナ」は「愛娘」のように「大切に愛し育む」という意味の大和言葉であり、ポリネシアでは人、自然、土地などに宿る「力、魂」として神聖な生命エネルギーを意味する言葉です。人間が地球に対して2つの「マナ」を尊重していけることを願い、この名をつけました。

建築は土のうを積むアースバッグ工法、木材は廃材です。水は雨水貯蓄、照明も100%太陽光発電です。環境だけでなく人間の身体にもよい酵素玄米カフェや、地元のエシカル商品がそろうマーケットも創りました。

「環境によいですよ」だけではなく、楽しく素敵でないと拡がりません。フードも美味しく、建物の内装もおしゃれなんです。実際に宿泊してくださった方々は、いろいろな人を連れてきたいと言ってくださいます。

インパクトヒーローたちにインスパイアされ、その生きざまを内面化する

Gardens of The Sun – Kalimantan Gold Mine

–ホテルと教育事業では、コロナ禍にどのように対応をしてきましたか?

佐藤さん:

バリ島での研修はすべてキャンセルとなり、ホテルも営業停止という大打撃の時期でした。ただ、組織文化というか、スタッフはへこたれないんです。

いろいろなアイデアを出しあった結果、インパクトアカデミー事業は、オンラインプログラムが充実してより大きく発展しました。バリ島の現地スタッフも、誰一人辞めなくていいように収入を減らしてシェアする道を選択してくれました。

私たち全員が、インパクトヒーローたちにインスパイアされ、その生きざまを内面化させています。皆が、くじけない、打たれ強いというポジティブさを共有しているんです。

–人をインスパイアする力の証明ですね。最後に、今後の展望をお聞かせください。

佐藤さん:

設立8年目を迎え、新たなステージに向かいます。具体的には、海外展開を強化します。まだ認知度がうすいアジア太平洋地域でさらにネットワークを広め、インパクトヒーローたちの活動をサポートする人々を増やす予定です。そのために組織を強くするプランを立てています。

SDGsは通過点で、ゴールではありません。未来を見据えて動きを作っていかないと、地球も人もだめになる。そうならないような活動をしていくつもりです。

自分もインスパイアされ、前向きな力が湧くのを感じます。今日は貴重な話をありがとうございました。

関連リンク

一般社団法人Earth Company:https://www.earthcompany.info/ja/