株式会社陽と人|地方と都市部の魅力を組み合わせて地方創生を目指す起業家の挑戦

株式会社陽と人 代表 小林さんインタビュー

小林 味愛

株式会社陽と人(ひとびと)代表 東京都立川市出身。慶應義塾大学法学部政治学科卒業後、衆議院調査局入局、経済産業省出向、株式会社日本総合研究所を経て、福島県国見町に株式会社陽と人設立。福島の地域資源を活かして地域と都市を繋ぐ様々な事業を展開。直近では、あんぽ柿の製造工程で廃棄される柿の皮を活用したコスメブランド『明日 わたしは柿の木にのぼる』を立ち上げ。第5回ジャパンメイドビューティアワード優秀賞受賞、サスティナブルコスメアワード2020シルバー賞及び審査員賞ダブル受賞、ソーシャルプロダクツアワード2021ソーシャルプロダクツ賞受賞、第9回環境省グッドライフアワード特別賞受賞、サスティナブルコスメアワード2021審査員賞・ダイバーシティ賞受賞、2021年度ふるさと名品オブ・ザ・イヤー地方創生賞受賞。2021年3月から復興庁「復興推進委員」も務める。福島放送「シェア」コメンテーター。子育てをしながら福島と立川の2拠点居住。

introduction

「しあわせ・笑顔・豊かさの循環」をビジョンに掲げる株式会社陽と人(ひとびと)は2017年8月に福島県国見町で誕生しました。

設立者である小林味愛さんは東京生まれ東京育ち。そんな彼女がなぜ福島で事業を立ち上げたのか。今回は、小林さんをゲストにお迎えし、地方創生のために私たちができること、”陽と人との関係性”についてお話頂きました。

眠っていた地域資源を”新たな流通”として循環させたい

インタビュアー
インタビュアー

本日はよろしくお願いします。はじめに、事業内容を教えていただけますか。

小林さん
小林さん

よろしくお願いします。

私たち株式会社陽と人(ひとびと)は、地域で使われずに眠っていた資源を見つけ出し、新しい商品として価値あるものに生まれ変わらせ、市場に出して循環させることで地域の魅力を全国に伝えていくという事業をしています。

こんなにもたくさんある”使われていない地域資源”

インタビュアー
インタビュアー

眠っていた資源を活用するというのは、具体的にどういう仕組みなのでしょう。

小林さん
小林さん

規格外で市場に出回らなかった農産物を再利用する仕組みです。

ひとつ例を挙げると、私たちの会社がある福島県の国見町は有名な桃の産地です。たくさんの桃が収穫されますが、その全てが市場に出回るわけではありません。見た目が悪かったり、傷がついていたり、サイズが小さかったりすると、規格外品として出荷の対象にならず廃棄されてしまうのです。

インタビュアー
インタビュアー

味には問題ないのにそれは勿体ないですよね。

小林さん
小林さん

そうですね。そこで私たちは、廃棄される前に契約農家さんから毎日全量買取をして、独自の物流システムで輸送コストを極限まで減らし首都圏に出荷しています。これにより、求めやすい価格で消費者が手にできる仕組みを作りました。

インタビュアー
インタビュアー

独自の物流システムというのはどういったものでしょうか。

小林さん
小林さん

具体的には配送する際に折りたたみコンテナを使っています。そして東京の青果店などに届いた後はコンテナのまま陳列します。

インタビュアー
インタビュアー

箱づめをするといった出荷の際の人件費も抑えられているんですね。

小林さん
小林さん

人件費もそうですし、陳列されるまでの時間や人が何度も手で触れてしまうことを減らす目的もあります。農産物は鮮度が命なので、収穫してからなるべく早くお店に並ぶスピード感が必要ですからね。

「価値のないものはない」地域資源を活用したオーガニックコスメの販売

インタビュアー
インタビュアー

循環という視点で、農産物の流通以外にも挑戦していることはありますか。

小林さん
小林さん

今力を入れているのが「明日 わたしは柿の木にのぼる」というコスメの販売です。

インタビュアー
インタビュアー

こちらはどのようなコスメなのでしょうか。

小林さん
小林さん

はい、国見町の”あんぽ柿”という干し柿の皮を使ったオーガニックコスメです。干し柿の皮って商品になる途中で全部廃棄されてしまうんです。その皮を研究して、美容に有効な成分を抽出して女性のデリケートゾーンに使用できるやさしいケアコスメを作りました。

インタビュアー
インタビュアー

コスメでも、これまで使われなかった地域資源を活用しているのですね。

小林さん
小林さん

そうですね。周りを見渡すとこのように「価値がない」と棄てられてきたものがたくさんあります。それらを「価値のあるもの」として生まれ変わらせ、使った人が生き生きと輝けるようにと願いを込めて製品を販売しています。

これが、“しあわせ・笑顔・豊かさの循環”という私たちが大切にしているミッションなのです。

「福島の役に立ちたい」その一心で東京からひとりやってきた

インタビュアー
インタビュアー

地域に特化して資源循環を展開している”陽と人”ですが、小林さんはもともとは東京にいらしたんですよね。なぜ東京から福島に移住し起業されたのでしょうか。

小林さん
小林さん

私はもともと東京生まれ東京育ちで、大学卒業後も東京で就職しましたが、社会人1年目のときに東日本大震災が起きました。

前職の仕事で福島に関わる機会はあったものの、「震災後の福島の役に立ちたいけれど何もできない自分」がもどかしく感じ、悶々とした日々を過ごしました。

そこで思い切って会社員を辞め、福島の役に立ちたいという一心で会社を立ち上げたんです。

インタビュアー
インタビュアー

行動力が素晴らしいですね。とはいえ、地方でいきなり起業というのは、とてもハードルが高いように感じますがいかがでしたか。

小林さん
小林さん

外部から来た人間ということで最初はまったく受け入れられず、馴染めませんでしたね。私は車を持っていないどころかペーパードライバーでしたので、移動にも困ってしまいました。起業当初は田舎道を2時間かけて歩いていましたね。(笑)

インタビュアー
インタビュアー

生活が一変し、大変な苦労をされたんですね。そこから軌道に乗るためにどういった行動をされたんですか。

小林さん
小林さん

移動など物理的なことは何とかなるとして、地元の人々との信頼関係については、「絶対に信用を勝ち取るぞ!」などという戦略的なことは特にしませんでした。

先ほどお話したように、福島の役に立ちたいという気持ちで会社を作ったので、農家の人や地元の人と話をする中で徐々に仲良くなって信頼関係を築いていったという感じです。

インタビュアー
インタビュアー

地元農家の人とはどのようなお話をされたんですか。

小林さん
小林さん

「いま困っていること」にとことん耳を傾けました。

国見町の場合は、桃農家が多くて、その桃が本当に美味しくて、とても魅力的な地域なのです。ただ、知名度が低く一次産業が儲からないということや、農家の高齢化について悩んでいるというお話を伺いました。

インタビュアー
インタビュアー

話をする中で国見町の課題が見えてきたんですね。

小林さん
小林さん

はい。そうした課題を解決するために私はここに来たので、農家さんたちの負荷がかからない形で、農産物を無駄にせずに売り切る仕組みを作ろうと思い立ちました。そして、全部買い取って販売するルートを開拓したんです。

インタビュアー
インタビュアー

ボランティアではなく事業として行うことで、持続可能なサポートを実現しているのですね。

小林さん
小林さん

そうですね。農家も消費者の方も私たちも、みんながWIN-WINであることが重要なんです。

地方と都市。それぞれの良さを組み合わせて事業を進めていきたい

インタビュアー
インタビュアー

このような事業を展開してきて、どのような変化を感じられていますか。

小林さん
小林さん

農家の方からは、規格外品でも多くの人に美味しく食べてもらえるという喜びの声をいただいております。さらに、私自身が地方と都市部の両方で社会人経験をしたことから、それぞれの良さに気づけました。

インタビュアー
インタビュアー

どのような発見があったんですか。

小林さん
小林さん

まず都市部だと、世の中の流れに素早く対応するスピード感があるところが良いですよね。

ジェンダーに関しても、男性だから女性だからという役割分担を求められず、多様性が理解されているところが魅力だと思います。新しいことを始めたときに受け入れてもらいやすいのも特徴です。

小林さん
小林さん

一方で、地方は人と人のつながりが強く、人間くささが残っているところが好きです。

陽が昇れば起き、沈めば寝る。そういった人間の基本的な生活を大切にできることが魅力だと感じています。

インタビュアー
インタビュアー

目には見えない価値を見つけられたんですね。

小林さん
小林さん

はい。もちろん価値ばかりでなく、東京だったら人間関係が希薄になっているとか、地方だと新しい考え方を受け入れられにくいという要素もありますが、陽と人は両者の良いところを組み合わせて時代の流れに追いついていける会社でありたいですね。

地方創生では”ジェンダーの多様性”に重きをおきたい

インタビュアー
インタビュアー

都市部と地方の良さを組み合わせるという観点で、具体的にどんな活動をなさっていますか。

小林さん
小林さん

地方創生を進める中で、特にジェンダーの課題をイノベーションに繋げることに重きを置いています。

インタビュアー
インタビュアー

具体的にはどういったものでしょう。

小林さん
小林さん

私たちは生物学的・社会学的な性差に着目して製品を開発しています。

私たちの取り組み以外で、社会の中でジェンダーに着目したわかりやすい例でいうと、車のシートベルトや鎮痛剤といった医薬品はこれまで男性を基準に作られてきました。そのため、女性の身体に合わないケースもあったんです。このようにこれまで見過ごされてきた性差による課題が多くあります。

先ほどお話しした、柿を使った女性用コスメもその一例で、女性の身体に特化した製品を開発することで女性が生きやすい社会にしていきたいと考えています。

インタビュアー
インタビュアー

新しい価値観を地方に持ちこんで事業を展開するというのは、都市部から来た小林さんだからできることですよね。

小林さん
小林さん

はい。外から来た人間だからこそ、新しい価値観をその土地で発信しやすい雰囲気はありますが、大切なのは、働く場所ではなく”何をするか”です。

これから社会に出ていく学生さんの中には地方創生に興味のある人も多いと思います。ぜひ新しい価値観を広めていってほしいですね。

新しい価値観を通して持続可能な社会のためのバトンをつないでいきたい

インタビュアー
インタビュアー

福島を拠点に事業を展開されている陽と人ですが、今後の展望を教えていただけますか。

小林さん
小林さん

新しい事業を増やすよりも、今行っている地域資源を循環させる事業を伸ばしていきたいです。

小林さん
小林さん

その過程を多くの方に見ていただき、「”陽と人”で働きたい」「地方創生って面白い」と思うきっかけを作ったり、他都市へ出て働いている方たちに「福島に戻りたいな」「地元っていいな」と思ってもらえたりする存在になれたらと思います。

インタビュアー
インタビュアー

これから社会人になっていく人にとっても、地元で働くことを選択肢のひとつに入れてもらいたいですね。

小林さん
小林さん

そうなんです。地方で働くとなると、公務員か新聞社か工場勤務というイメージを持つ方もいるかもしれません。ですが、地方でも起業という形で事業を生み出し、都市部と変わらない働き方を手にすることは可能です。

私たちの姿が、若い世代へ働くことの楽しさを伝えるバトンとなれば幸いです。

インタビュアー
インタビュアー

本日は貴重なお話をありがとうございました!

取材 大越 / 執筆 Mayu Nishimura

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