#インタビュー

髙田織物株式会社|国内シェアNo. 1の畳縁(たたみべり)が倉敷で魅せた進化とは

髙田織物株式会社 代表取締役 ​​髙田さん インタビュー

髙田 尚志

1981年8月11日生まれ。岡山県倉敷市出身。2004年3月慶應義塾大学環境情報学部卒。同年4月に家業である「髙田織物」へ入社。畳縁の存在を多くの人に認知してもらうべく、多方面にわたって事業を展開。2020年5月に同社6代目に就任。畳縁の更なる普及拡大に情熱を注ぐとともに、住空間やハンドメイドの時間に華やかな彩を与える高品質な畳縁の開発に奮闘している。また、地方で持続可能なモノづくりを展開するための就労環境の整備にも力を入れ、令和2年には、倉敷市男女共同参画推進事業所にも認定され、自身も同市のダイバーシティ推進検討会のコアメンバーとして参画している。さらに、商工会議所や青年会議所活動といった社会活動にも力を入れ、地場産業の活性化にも尽力している。

introduction

髙田織物株式会社は、明治25年に岡山県倉敷市児島で創業した伝統ある織物メーカーです。畳縁(たたみべり)で全国一のシェアを誇り、国内で作られる畳縁の約4割を占めています。近年の需要減少とともに目立つようになった製品ロスを解決するため、余った畳縁をハンドメイド素材として販売する取り組みを始めました。多くの女性社員が働きやすい環境づくりや、地域の活性化にも積極的に取り組む6代目社長の髙田さんにお話を伺いました。

畳を「リユース」して使う昔ながらの知恵

–どうぞよろしくお願いいたします。まずは事業内容を簡単にご説明いただけますでしょうか。

髙田さん:

はい。私たちの会社では、畳の長手方向につける織物である畳縁(たたみべり)を生産しています。畳縁には、畳のふちを守る役割と、畳を敷くときにできる隙間を埋める機能があります。

畳はいろいろな方向から踏まれて力がかかるので、畳同士がぶつかることで畳の角が傷みやすいので、とても重要な役割を担っているんですよ。

–最近では畳縁のない畳もあるようですが、何か違いはあるのでしょうか。

髙田さん:

畳縁があるほうが再利用しやすいという特徴があります。

まず畳縁のある普通の畳ですが、これは「畳床」があって、その上にイグサで編んだ「畳表」をのせます。両端に畳縁をあて、糸で縫い合わせて作られています。畳床・畳表・畳縁の3層構造にすることでリユースしやすくなるんですよ。

–古くなった畳を再利用するんですか。

髙田さん:

畳を長く使い続けるための工夫ですね。

その方法は大きく3つあって、まず1つめが、畳表を裏返して、日焼けや傷みの少ない裏面を使うのが「裏返し」。さらに古くなれば畳表だけを交換する「表替え」。中の床材も古くなれば、材料を全て新しくする「新調」です。

畳を縫い合わせている糸をほどくことで全ての部材をバラバラにできるので、こうしたリサイクル方法が可能になるのです。

–資源の少ない日本ならではの知恵ですね。反対に畳縁がない畳というのはどういうものでしょうか。

髙田さん:

これは最近になって作られるようになったのですが、畳床と畳表を直接のり付けするものです。直接のり付けしてしまっているので、畳表の貼り替えもできませんし、傷みやすいので寿命は短いです。リサイクルできないので、廃棄にも手間がかかってしまうんですよ。

–こういう製品が出てきた背景には、最近の和室に対する考え方の変化もあるのでしょうか。

髙田さん:

そうですね。部屋が広くすっきりと見え、洋間やフローリングの部屋ともマッチしやすいという利点もあるので、目新しいものを一概に否定するわけではありません。両方の特性を理解して使えばいいと思います。

減らない畳縁のロス

–住宅の変化や新しい畳の登場で、事業に影響はありましたか。

髙田さん:

畳縁のロスが多く出るようになったことが悩みの種でした。畳業者さんから畳を受注する畳数が変わってきたので、使われずに余ってしまう畳縁が出てきたんです。

畳縁は基本的に10畳一間分を1ロットで納入しますが、最近は8畳から6畳、あるいは4畳半で畳を作ることが多くなりました。すると、多いときは5畳半分もの畳縁が余ることになるんです。

–納入する量と、実際使われる量の差が大きくなってしまったのですね。

髙田さん:

余った畳縁を別の畳に活用できないか、一度にお届けする数を調整できないかなど、様々な対応を検討しましたが、どれも解決には至りませんでした。

畳縁は織物なので、どうしてもわずかに色味の違いが出てしまい、同じ部屋に半端な余りを使うと違和感が出てしまうことがあります。個別のご注文に合わせて必要数量だけ切り分けてお届けするにはコストと納期がかかりすぎてしまい、全国からの受注に対応できなくなる危険性もあったのです。

ただ一方で、業界をリードする立場として、これではいけないという思いもありました。織物として不良品ではないものが、畳を覆う長さとして足りないだけで廃棄されたり、畳店さんの棚にロットが違うもの眠っている現状を見て、何かに使えないだろうかという思いがありましたね。

倉敷市児島だからこそ見えた畳縁の活路

–そうして始まったのが、ハンドメイド素材としての再利用だったのですね。

髙田さん:

そうですね。ただ最初のうちはこの畳縁が何に使えるのか、全くわかりませんでした。洗えませんし、熱にもそんなに強いとはいえない。その代わり、耐久性や耐摩耗性には優れていました。

私たちの知識だけでは限界があったので、手芸業界の方々や地元の繊維産業に従事している方々に、畳縁を使ったモノづくりにチャレンジしていただいたところ、実に多くの魅力的な製品アイディアが集まったのです。

–手芸の先生や繊維産業の方たちは、素材を活かすプロですもんね。

髙田さん:

もともと倉敷児島はデニムや学生服、作業着などで知られた会社が多く、繊維産業が盛んですからね。ミシンを使う人も多く、耐久性の強い畳縁の応用に向いていたのだと思います。実に多くの方が興味を持ってくださり、「これはいける」とハンドメイド素材として販売することを決めたのです。

–廃棄予定だった製品が見事に生まれ変わりましたね。色も模様も多種多様で非常にバラエティに富んでいます。

髙田さん:

余った畳縁ももちろんですが、長さが足りずに畳縁としては商品にできなかった織物も活用できています。おかげさまで現在では、畳用・ハンドメイド素材用、関連グッズの販売と事業自体も拡大し、ご好評をいただいています。

残業ゼロ、有休は最短1時間から

–話が少し変わりますが、御社では女性の活躍にも注力なさっているそうですね。

髙田さん:

社員のほとんど、8割方が女性です。女性の活躍が重視されている現在、家庭との両立がしやすい環境は、地方でのものづくりには不可欠です。

具体的な取り組みとしては、社員の皆さんが安心して働けるように、残業は基本なしにしています。またお子さんの面談や送り迎え、ご家族の介護など、生活上の出来事に対応できるよう、有給休暇は最短で1時間から取れる制度にしました。

–それはすごいですね。

髙田さん:

おかげさまで社員の定着率は高いです。

–顧客や取引先の反応はどうでしょうか。残業をなくしたことで、受注できる量などに変化は無かったですか。

髙田さん:

その日に出荷する注文は16時に締め切り、それ以降は翌日に回してもらうようにしています。理由を聞かれたら、「社員を定時に帰すため」と答えていますが、取引先の方もとても好意的に受け取っていただいています。

–取引先からも理解を得られているのですね。

髙田さん:

古くから築いてきた信頼関係があってのことだと思っています。多少コストがかかる注文でも、無下にお断りせずに要望に応じた商品を提案し、責任を持って対応するようにしています。地域に根付いた産業だからこそ、パートナーシップが重要だと考えています。

今後の展望は

–最後に、今後の展望についてお聞かせください。

髙田さん:

まず、大量生産、大量消費ではなく、少量でも質の高いものが受け入れられる世の中をつくることを目指します。そのためにはムラなく無駄なく適切に作っていける事業体制を整えていくことが大事です。

それと、「地方でのものづくり」の永続的な基盤を作りたいですね。

畳業界に限らず、今後地方でものづくりを続けるためには地域全体の活気が不可欠です。産業が落ち込んで町から人が流れて行き、町の活力が失われたら自分たちの仕事も成り立たなくなりますからね。

短期的な業績も大事ですが、長期的に持続可能な産業基盤を作るために、地元の人々と手を取り合って事業を進めていきたいと思っています。

–本日は貴重なお話をありがとうございました!

取材 大越 / 執筆 shishido

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