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【SDGs未来都市】(一社)鹿児島県大崎町SDGs推進協議会/大崎町役場|大崎町を新しい人材が担うサーキュラーヴィレッジに

(一社)大崎町SDGs推進協議会 中村さん/大崎町役場 宮下さん SDGsインタビュー

中村 健児

1973年10月、鹿児島県大崎町生まれ。北九州大学を卒業後、鹿児島市内の民間企業に就職。1998年に大崎町役場に入庁し、教育委員会管理課、企画財政課、総務課を経て、2015年より現在の企画調整課に所属。企画調整課では、地方創生や総合計画策定に携わり、2020年からSDGsに携わる。2021年からは企画調整課に籍を置きながら、同年4月に設立されたSDGs推進を目的とした官民連携組織「一般社団法人大崎町SDGs推進協議会」の事務局長も務める。

宮下 功大

1986年9月7日、鹿児島県奄美市生まれ。2009年に大崎町役場入庁し、税務課、鹿児島県庁大阪事務所(出向)、企画調整課に配属。現在は企画調整課企画政策係として、地方創生やSDGsに関する業務を担当している。

introduction

2019年度、SDGs未来都市に選定された鹿児島県大崎町。20年以上前から町全体で徹底したごみの分別に取り組み、資源リサイクル率80%超を達成。市町村別の資源リサイクル率ランキングで12年連続日本一に輝いています。現在、「サーキュラーヴィレッジ」のヴィジョンを掲げ、新たなチャレンジを始めています。

今回、一般社団法人大崎町SDGs推進協議会事務局長の中村さんと、大崎町役場企画調整課の宮下さんに、どのような取り組みを行っているのか、お話を伺いました。 

SDGsで人を呼び込み、リサイクルを進めていく

–まず、SDGsに力を入れるようになった背景について教えてください。 

中村さん:

きっかけは、2018年に鹿児島相互信用金庫・慶應義塾大学SFC研究所と大崎町が、リサイクルをキーワードに連携協定を結んだことです。ここではリサイクル資源を売却した益金を、大崎町の子どもたちが大学へ進学する際の奨学金の原資として充てる事業を始めました。

そして、この事業を進める過程で、外部人材の方々の視点を通して、我々がやってきたことが、SDGsの一つなんだと気付きました。そこから大崎町が進めてきた取り組みを、SDGsの視点で再定義し、少しずつ力を入れるようになりました。

SDGsを、町に人を呼び込むツールとして活用する

–まちづくりは、外部の方々の力も不可欠ですよね。

宮下さん:

そうですね。大崎町は他と合併していない町なので、行政のマンパワーや財源は限られており、外部の方々との連携を取る必要がありました。特に、2018年の連携協定をきっかけに、様々な方が大崎町に出入りするようになり、多様な視点やアドバイスをいただくなど、外部人材の方々と積極的に連携する流れができました。

–その頃から移住する方も増えてきたと伺いました。 

中村さん:

はい。今では移住者の方にも何かとお手伝いいただいており、非常に助かっています。今後も移住者が増えれば、さらにまちづくりが加速すると思います。

とはいえ、全国的に移住者を必要としている自治体は多いので、補助金制度を設けるだけでは差別化ができません。そこでSDGsを、人を呼び込むためのツールのひとつとして活用していこうという流れになったんです。 

SDGs未来都市の2つの軸は、「リサイクルで持続可能な町をつくる」「女性の活躍の場を広げる」こと

–その結果、大崎町は2019年にSDGs未来都市及び、自治体SDGsモデル事業に選定されたんですね。では、未来都市計画と具体的な取り組みについて教えていただけますか?

中村さん:

大崎町は人口1万3千人弱ですが、世界の同規模のまちでも応用できるような、循環型地域経営モデルの確立を目指しており、その軸となるのがリサイクルです。

リサイクルを通して、資源を持続可能なものにすることはもちろん、雇用・教育・環境といったあらゆる面の整備を進めることで、地域を維持していくことを目指しています。

–これまで力を入れてきたリサイクルとSDGsを融合させたんですね。

中村さん:

はい。そしてもう一つが、女性の活躍の場を増やすことです。現在、公的な役職や、決定権を持つ役職に就いている女性が少ないため、より働きやすくする機運をつくろうという計画もあります。

リサイクルを始めたきっかけは埋立処分場の延命化

–では、ここからさらに踏み込んだ話をお聞かせください。なぜここまでリサイクルが浸透しているのでしょう?

中村さん:

まず、リサイクルに力を入れるようになった背景をお話しますね。

大崎町には焼却処分場がなく、家庭から出るごみはすべて埋立処分場にて処理していました。ただ、この埋立処分場に問題が発生したんです。

–どのような問題でしょう?

中村さん:

もともと埋立処分場は、平成2年から使用を開始し、平成16年まで使える計画で運用していました。しかし、生活スタイルの変化で一人当たりのごみの量が増え、計画期間を待たずに満杯になってしまうことが判明したんです。

–どのように解決されたのでしょうか。

中村さん:

この解決方法が、まさしく徹底したごみの分別によるリサイクルの取り組みでした。

埋立処分場は、いわゆる迷惑施設と言われています。

迷惑施設とは

社会一般としての必要性は認められるが、地域にとっては不都合であるため、建設や維持管理において近隣住民との合意形成のむずかしい施設。

コトバンク

当時はほぼ全てのごみを埋め立てていたので悪臭がしたり、ハエ、カラスが集まったり、衛生環境が良いとは言えませんでした。そのため、新しい埋立処分場をつくるにしても、受け入れてくれる地域を確保するのが難しい。また、焼却処分場をつくる場合でも、膨大な建設コストやランニングコストがかかるため、次の世代に負担をかけてしまいます。議論を重ねた結果、今ある埋立処分場を長く使い続けるために、ごみを減らす手段として分別し、リサイクルする方法が選ばれました。

その結果、埋立処分場の衛生環境は改善され、もはや迷惑施設といわれるような施設ではなくなりました。そして、最大の目的である埋立処分場の延命化ができました。

住民と協力して、リサイクル開始

–リサイクルの取り組みはどのように進めたのでしょうか?

中村さん:

大崎町では、住民の方々に、かなり細かく分別してごみを出していただいています。

出されたごみは、それぞれの用途でリサイクルされますが、例えば生ごみや草木であれば有機工場で堆肥になります。ここで作られた堆肥が、地域の農地や家庭で活用される仕組みです。

また資源ごみについては、月1回の回収を実施しています。この回収には思わぬ副産物もあって、住民の方々が自分の出したごみと向き合う時間にもなっているんです。「今月は、ビールを飲みすぎたから来月は減らそう」「プラごみが多かったから買い物を見直そう」というように。

–これが高いリサイクル率を誇るポイントなんですね。

中村さん:

はい。このような取り組みを続けてきた結果、今ではリサイクル率は80%を超えています。

また、リサイクル関連でも雇用が生まれたり、地域のつながりがさらに強化されたりするなどのメリットが期待できます。

リサイクルを推し進めていく中での苦労やその過程

–とはいえ、いきなり「分別をしよう」と町の方々にお願いをするのはハードルが高いと思います。どのような働きかけをして、現在のリサイクル率80%超えという高い数値を達成することができたのでしょうか。

宮下さん:

当時の職員から聞いた話によると、住民にいかに危機感を理解してもらうかがポイントだったと言います。町には、ごみを出す全ての世帯が加入する「大崎町衛生自治会」という組織がありますが、その会長や理事、地域の信頼を得ている方に埋立処分場の現状を丁寧に説明しました。

「なぜやらなければならないのか」「分別したごみはどこへ行くのか」を地道に伝え、現場を見ていただいたそうです。その後、住民説明会が実現しました。

行政も住民の汗をかく「泥臭い」取り組みでリサイクルが実現

–住民説明会はどのように行ったのでしょうか?

宮下さん:

たくさんの人に参加していただく必要があるため、地域のリーダーに「私たちは朝でも夜でも土日でもいつでも行くので、住民の方々が集まりやすい日時を教えてください」と聞き、説明する場を設定していただきました。

大崎町には当時150の自治会がありましたが、1つの自治会につき3回程度、合計約450回の住民説明会を開催したそうです。先ほど話した会長や理事と一緒に、何度も何度も説明して、最終的には「あなたたちが言うんだからやらないといけないね。」と理解していただいたと聞いています。

–これらの過程を経て分別が始まったんですね。その後は、順調に進んだのでしょうか。

宮下さん:

いきなり、「はいスタート」とうまくいった訳ではなかったようです。当時、150ヶ所あった各自治会のごみステーションにおける分別の日には、朝6時半から地域住民の皆さんと共に職員も立ち会って、一緒に分別を行ったそうです。最初はお互いどう分別していったら良いか分からず、一緒に探りながら進めていったと聞いています。その中で、徐々に理解が広まり、分別も浸透していったようです。

–地道な努力の末、実現したということですね。

宮下さん:

そうですね。「行政だから」「住民だから」と押し付けあうのではなく、住民と向き合って、「どうやったらうまくいくのだろう」という対話と改善を繰り返しやってきた結果ではないかと思います。

行政も住民も汗をかく。お互い補い合いながらやっていこうという姿勢が、大崎の仕組みの泥臭い部分でもあり、良いところであると感じています。

–その結果リサイクル率が80%を超えるようになったんですね。

中村さん:

そうですね。そして、このようなリサイクルシステムを未来に向けてさらに推し進めていき、大崎町を、サーキュラーエコノミー※を実現する「サーキュラーヴィレッジ」と名付け、全てのものはリユース・リサイクルされて循環することを目指しています。

サーキュラーエコノミーとは

廃棄物を出さずに資源を循環させる、経済の仕組みのこと。従来の経済活動では廃棄されていた製品や原材料を「新たな資源」として再利用することから、循環型経済とも呼ばれている。

引用:日経ビジネス「サーキュラーエコノミーとは? 循環型経済に向けた

女性の社会進出を後押しする

–続いては女性の社会進出について、お聞かせください。 

中村さん:

計画の策定時点では、女性が「小商い」つまり、初期投資をして自ら起業しようということを支援していくという内容でした。その後、起業し、個人事業主になる女性が徐々に増えてきています。女性が役職を担うかというところは、まだまだですが、小商いを中心に女性の社会進出を促進しようというのが、取り組みの一つです。

今後、外部の意見も取り入れながら、さらなる具体策を検討していきたいですね。

官民連携の組織「一般社団法人大崎町 SDGs推進協議会」を設立

–話は変わりますが、大崎町には「(一社)大崎町SDGs推進協議会」がありますよね。こちらはどのようなものでしょうか。

中村さん:

「(一社)大崎町SDGs推進協議会」は、官民連携のための組織です。大崎町が掲げる未来都市計画の実現に向け、町が抱える課題の解消するために、地域外の企業や研究機関とつなげる役割を果たしています。

大崎町は、2018年に「ジャパンSDGsアワード内閣官房長官賞」を受賞し、2019年に「SDGs未来都市」、「自治体SDGsモデル事業」に選定されましたが、その後「まち」としてどのようなアクションを起こしていくかが課題になりました。小さな町だけではSDGsの達成や、他の自治体の見本となるような動きができるかどうかが疑問だったんです。そこで、2020年度に、SDGsの取り組みを推進する官民連携の組織「(一社)大崎町 SDGs推進協議会」を設立しました。

–具体的にはどのような活動を行なっているのでしょうか?

中村さん:

2021年4月から情報発信や企業連携を行い、資金源として「企業版ふるさと納税」(※)の獲得に向けて動いてきました。

企業版ふるさと納税は、当初予定していた額を大きく上回り、資金や人の呼び込みができてきています。企業連携についても、いろいろな企業さんからお声がけいただくようになり、今まで町に欠けていたパーツがどんどん埋まりつつありますね。大崎町が、今後大きく変わっていくことを期待しています。

企業版ふるさと納税とは

地方公共団体が行う地方創生の取組に対する企業の寄附について法人関係税を税額控除

引用:地方創生

すべての資源が循環するサーキュラーヴィレッジ・大崎町の実現を目指して

大崎町役場

–SDGsの達成期限である2030年まで残り10年を切っています。今後の大崎町の展望をお聞かせください。

中村さん:

我々の軸は、リサイクルですが、大崎町は分別が好きな訳ではありません(笑)

分別には苦労しているんです。

そこで、分別がいかに楽になるかを突き詰め、町に入ってくる商品の過剰包装をやめたり、複合素材で提供する商品を減らしたりできるよう、メーカーに働きかけています。そして、もっと資源が有効に何度も使われる町をつくっていきたい、そういう提案をできたら良いと思っています。

–分別の取り組みで苦労した経験が、生きているのですね。

中村さん:

そして、我々のフィールドと実績をもとに、これまで地域にない、新しい仕事を生み出していきたい。そうすることで、その仕事に就きたい人たちが大崎町に移住し、サーキュラーヴィレッジ・大崎町が、より完成度の高いものになると考えています。そのためにも、外部と連携をとり、住民の方々と対話しながらまちづくりを進めていきたいですね。

–本日は貴重なお話をありがとうございました。

インタビュー動画

関連リンク

>>鹿児島県大崎町公式ホームページ