木口 昌幸
2001年、生駒市に入職後、環境政策部門で11年間勤務。生駒市環境基本計画の改定や環境マネジメントシステムの導入に従事。その後福祉部門などの勤務を経て、環境モデル都市推進課係長。2019年に生駒市がSDGs未来都市に選定された後、環境モデル都市推進課が環境を基軸にSDGsを推進するSDGs推進課となり、現職に至る。
introduction
奈良県北西部に位置する生駒市は、人口12万人の中都市です。生駒山がそびえ、山肌に沿った斜面に多くの住宅地が立ち並びます。
この生駒市は2019年にSDGs未来都市に選定され、市民と連携しながら取り組みを進めています。今回、生駒市の木口さんに取り組みの背景や想い、今後の展望などを伺ってきました。
いこま市民パワー株式会社を軸にSDGsを推進
–本日はよろしくお願いします!早速ですが、生駒市がSDGsに力を入れている背景から教えてください。
木口さん:
生駒市は、もともと2014年に「環境モデル都市」に選定されており、低炭素化社会の実現に向けた取り組みを進めてきました。
その中で2015年にSDGsが採択され、2018年から内閣府による「SDGs未来都市」の選定がスタートしました。私たちは、環境モデル都市として推進してきた「いこま市民パワー」を中心とするまちづくりをさらに発展させることを提案したことが認められ、「SDGs未来都市」に選定していただきました。
–具体的にどのような取り組みを進めているのでしょうか?
木口さん:
「市民力」をキーワードにまちづくりを進めています。生駒市では、主婦層や、現役時代にビジネススキルを持った元気な高齢者(=アクティブシニア)の参画意欲が非常に高いんです。この力を活かして、市民を巻き込んだ取り組みを進めていくことを考えました。
その軸となるのが、市民による市民のための電力会社「いこま市民パワー株式会社」です。
–いこま市民パワー株式会社とは、どのような会社なのでしょう?
木口さん:
エネルギーの地産地消、脱炭素化社会の実現、地域課題の解決を目指した地域新電力会社です。2017年に、生駒市が過半数を出資し、商工会議所や金融機関に加えて、市民団体にも出資していただき設立しました。
–市民力と電力会社の関係が興味深いところです。順を追ってお話を伺います。まず、いこま市民パワー株式会社の特徴を教えてください。
木口さん:
いこま市民パワーでは、市施設の太陽光発電所と小水力発電所、お隣の大東市にある木質バイオマス発電所の電力など地産の再生可能エネルギーを最優先で調達し、市施設のほか、地域の事業者・市民の皆さまに電気を供給しています。
いこま市民パワーが、発電の過程で温暖化の原因となる二酸化炭素を排出しない電力を活用することで、再生可能エネルギーの普及につながります。
–地元で作った電気を地元で使い、脱炭素にも貢献できるんですね。
いこま市民パワーで得た利益を地域内に還元
木口さん:
はい。これは生駒市にも良い影響を与えます。いこま市民パワーでは、事業で得た収益を地域内の課題解消や利便性向上のために活用しています。
–具体的にどのように活用されているのでしょうか?
木口さん:
例えば、ICTを活用した登下校の見守りサービス「ミマモルメ」や置き配バッグ購入支援が挙げられます。
–それぞれ詳しく教えてください。
木口さん:
まず、登下校見守りサービス「ミマモルメ」についてです。
これは、2019年に市内全小学校に導入したサービスで、ICチップを持った児童が校門を通過すると、あらかじめ登録された連絡先にメールが届く仕組みになっていて、児童・保護者の安全と安心につながっています。
本来、「ミマモルメ」はサービス利用料がかかるものですが、いこま市民パワーの収益を活用し、新1年生の1学期の間、無料で利用できるようにしています。
–特に新1年生は、保護者も不安だと思うのでうれしいサービスですね。
木口さん:
続いて置き配バッグ購入支援として、不在でも宅配物を受け取れる置き配バッグ「OKIPPA」の購入費用を一部支援する取組を2022年2月から開始しました。
インターネットによる買い物が増えた昨今、再配達時のガソリン代や配達員の労働時間が課題になっています。これは生駒市も例外ではなく、置き配バッグを利用することで再配達の機会の減少が期待できます。
–再配達時に排出されるCO2の削減にもつながりますね。
木口さん:
そうなんです。置き配バッグの購入費用は、通常であれば約5,000円かかるところを、いこま市民パワーの電力を利用している方は約1,000円の負担で済むようにしています。2022年度以降も、いこま市民パワーから新たに電気契約を結ぶ方を対象に支援が継続される予定です。
卒FIT電気の買取で、さらなる加速を
–いこま市民パワーの収益が、市民の生活に還元されているのがよくわかりました。他にも市民を巻き込んだ取り組みはされていますか?
木口さん:
最近では、家庭の太陽光発電の卒FIT電気の買取を始めました。
–こちらはどのようなものでしょうか?
木口さん:
まず簡単にFIT制度を説明しますね。
太陽光発電の余剰電力買取制度は、2009年に開始され、その後2012年に再生可能エネルギーの固定価格買取制度(FIT制度)に移行しました。この制度により、家庭の太陽光発電で発電した電気は、10年間、一定の価格で買い取られることとなりました。
ただそろそろ、制度の開始から10年が経過し、2019年からは、買取期間が満了した方は、電気を売る相手を自由に選ぶことができるようになっています。
売電先を変えることなく、そのまま大手の電力会社に売る方も多いと思いますが、生駒市で作られた電気は生駒市で活用したいと。そこで少しでもメリットを感じていただける単価で買い取ることになったのです。
–どのくらい金額が異なるのでしょうか?
木口さん:
関西電力の買取価格は1kWhあたり8円とされていますが、いこま市民パワーは基本料金を10円に設定しています。また、それが生駒市内で発電されたものであればプラス1円。いこま市民パワーの電気を使っている場合はさらにプラス1円というように加算制にし、スタートキャンペーン期間中には、最大15円での買い取りを可能にしていました。
これにより、市民の方にはメリットを感じてもらえて、いこま市民パワーがより広がるきっかけにもなるのではないかと。
–実際に市民の方の反応はいかがですか?
木口さん:
これらの取り組みを開始してから日が浅いと言うこともあって、認知度についてはまだまだかなと感じています。市の広報誌で取り組みを紹介するなどもしていますが、プロモーションの面はこれからの課題ですね。
ただ、利用いただく方からは好評なので、今後普及活動に力を入れていければと思っています。
自治会、市民と連携しさらなる発展を目指す
–今後どのように展開していくご予定でしょうか?
木口さん:
2022年度から開始予定のコミュニティサービスの1つなのですが、「エコタウンまちづくり応援補助金」を創設し、脱炭素、省エネ・節電、資源循環などに取り組む自治会の自主的な活動を支援していきたいと考えています。自治会にも、いこま市民パワーの取組を自治会員に周知する等の協力をいただくことで、顧客の拡大を図りたいと考えています。
また、この事業や顧客ワークショップ等を通じて、地域のニーズを吸い上げながら、いこま市民パワーを中心とするまちづくりを推進し、地域課題の解決と生活利便性の向上につなげたいと思います。
–本日はありがとうございました。