村上 大介
1977年生まれ、千葉県出身。2001年株式会社山櫻へ入社。印刷業界を中心とした法人営業として活動をスタートし、現在はSDGs(持続可能な開発目標)の達成に貢献するエシカル製品の企画開発や山櫻公式YouTubeチャンネル「やまチャンネル」運営、およびSDGsセミナーの企画などを通じ、エシカルな企業活動とセールスマーケティングを手掛けている。
目次
introduction
1931年に創業した紙製品の総合メーカー株式会社山櫻。名刺やはがき、封筒などの紙製品の製造・販売がメイン事業ですが、現在はウェブサービスやプリンター販売、オリジナル文具の販売など、幅広い事業に拡大しています。近年は、エシカル商品の開発やSDGsの取り組みに力を入れており、紙でできたハンガーやバナナの繊維を使った紙が注目を集めています。
今回は山櫻の事業内容やSDGsに取り組むようになった背景、エシカル商品などについてお話を聞きました。
紙製品から始まり、時代に合わせて事業を拡大
-まず、株式会社山櫻の事業内容を教えてください。
村上さん:
弊社は2022年5月に創業91年目を迎える紙製品の総合メーカーです。名刺から始まり、封筒や賞状などの紙製品全般に広がり、今ではプリンターの販売やウェブサービスなどの事業も展開しています。
-紙製品の会社がプリンター販売やウェブもやっているんですか?
村上さん:
はい。というのも、紙製品を印刷するときに、その特性をよく知る私共がプリンターといった印刷関連の資材も一緒に提供できれば強みになりますからね。また、発注業務などのDXを進める企業も増えたり、コロナ禍を理由に名刺を直接渡す機会が減り、デジタルで名刺を渡すことも増えてきました。もともとあった紙の事業に関連するものを一緒にやることで、お客様に利便性を提供できるので事業を拡大してきたんです。
-お客様へのサービス向上と、時代に合わせて事業を展開しているんですね。
古紙の偽装問題が、SDGsに力を入れるきっかけに
-山櫻は様々なSDGsの取り組みを行っていますが、そのきっかけはなんだったのでしょうか?
村上さん:
紙製品は森林資源の消費につながるため、環境に負荷をかけているという問題をずっと感じていました。そこで1990年、業界に先駆けて再生紙の名刺を企画・販売したんです。しかし、名刺は「その人の分身」とも言われているため、当時は「大切な分身である名刺に古紙を混ぜるなんてけしからん」といった声もいただきましたね。
-その頃は、まだ環境問題への理解は少なかったですよね。
村上さん:
はい。しかし、2000年に「グリーン購入法」が制定され、徐々に世間の様子が変わっていきました。再生紙への需要も増えてきて、弊社も再生紙や非木材、間伐材などを使った製品を揃えていったんです。
-法整備が社会を変える後押しになったんですね。
村上さん:
しかし、2008年に古紙配合率の偽装問題が世間を騒がせました。製紙メーカーが「100%古紙」をうたって販売していたものが、古紙はまったく含まれていないか、わずかしか含まれていないことが発覚したんです。
弊社も再生紙の製品を販売していましたが、再生紙ではなかったことに大きなショックを受けました。この事件をきっかけに「環境配慮ってどういうことだろう?森林資源のことを考えるだけでいいのか?」と、いろんな思いが生まれました。
-当時、ニュースでも大きく取り上げられた問題で、世の中の衝撃も大きかったと思います。
村上さん:
それまでもSDGsに関連することはしていましたが、この件をきっかけにしっかり意識して取り組むようになりました。紙の問題だけではなく、地域社会や人、環境問題など、多くの社会課題を捉えて事業活動をしていきたいと考えたんです。この考えがSDGsとリンクしましたね。
山櫻のエシカル商品
-具体的なエシカル商品について教えてください。
1.「One Planet Paper®」(バナナペーパー)
村上さん:
一つ目は「One Planet Paper®」(バナナペーパー)です。これは、アフリカ・ザンビアで廃棄されるだけだったオーガニックバナナの茎の繊維に、古紙や森林認証パルプを加えて、日本の和紙を作る技術を用いて作ったものです。ザンビアの貧困地域に雇用を生むだけではなく、SDGsが掲げる17の目標すべての貢献につながる商品です。
-目標すべてに貢献するなんて、すごいですね!
村上さん:
はい。一般的な木が10〜20年かけてゆっくり成長するのに対し、バナナの茎は1年以内に成長して新しい実をつけます。バナナの収穫には古い茎を切らなければならず、捨てるだけだったものを有効活用できる取り組みです。なおかつバナナは成長が早いので、サステナブルな素材でもありますね。
村上さん:
そして、このバナナペーパーは、日本の紙としては、はじめて世界フェアトレード機関(WFTO)の国際フェアトレード認証を受けています。
-最近、もう一つの認証も取得したそうですね。
村上さん:
2021年に、バナナの繊維が20%以上配合されたバナナペーパーは「クライメート・ポジティブ」の紙になりました。バナナの繊維から紙の生産までに排出するCO2の1.5倍のCO2を吸収・固定化しているので、バナナペーパーを使うことは脱炭素につながるんです。
炭素クレジットはVSC(Verified Carbon Standard)という第三者認証を取得しています。
-数多くの課題解決になる素晴らしい商品ですね!世間の反応はいかがですか?
村上さん:
最初は認知度が低く、なかなか手に取っていただく機会がありませんでした。しかし、ここ1〜2年でSDGsの認知が高まり、「こんなにいい紙があったんだ」と、たくさんの方にご利用いただいています。バナナペーパーは名刺や封筒、賞状の用紙や賞状を入れる筒など、さまざまな商品に加工して販売しています。
2.エシカルハンガー
-もう一つの商品についても教えてください。
村上さん:
弊社ではセカンドブランド事業も展開していて、その一つに「rik skog®(リーク スクーグ)」があります。スウェーデン語で「豊かな森」という意味です。このブランドで紙製のエシカルハンガーを製造・販売しています。
-なぜハンガーだったのでしょうか?
村上さん:
アパレル産業はゴミ問題など様々な課題を抱えていることもあってか、SDGsへの意識が高い企業が多いと感じていました。そういった事業者さんに向けて、いい提案ができないかと考えた時にハンガーにたどり着いたんです。
-エシカルハンガーの素材はどのようなものですか?
村上さん:
森林認証の紙にバナナペーパーを挟んで作っています。これがすごく大変で、販売まで3〜4年かかったんですよ。
-どんなことが大変だったのでしょうか?
村上さん:
紙なので強度を担保するのがすごく難しかったんです。紙を貼り合わせて強度を保ったり、作業工程に様々な工夫を重ねたりして、やっと実現した商品です。また、重いコートを長時間かけても大丈夫か、といった検証作業にも時間がかかりましたね。
-世間の反応はいかがでしたか?
村上さん:
SDGsへの関心が高いアパレルショップからお問い合わせをいただくことが多く、ショップや展示会で使っていただいています。
村上さん:
また、エシカルハンガーは紙なので、ショップのロゴなどを印刷できる利点があります。今まではハンガーに名前を入れたり、自由なデザインをしたりすることはあまりなかったと思いますが、ハンガーでブランドの表現ができるのも魅力だと感じていますね。
-エシカルハンガーを使って、トータルでお店のブランディングに活用できますね!
95%の商品をエシカル素材に
-御社の今後の展望を教えてください。
村上さん:
弊社では、現在約3,500のアイテムを取り扱っていますが、2025年までに既製品の95%をエシカル対応製品にすることを目標に掲げています。「選択してもエシカル、選択しなくてもエシカル」をスローガンに、意識しなくても弊社の商品を手に取った方が、自然とSDGsに貢献できる未来になればいいなと思っています。
-95%とは、すごく高い目標ですね!
村上さん:
そうなんです。実はこれ、すごく大変なことなんですよ(笑)。新商品はいいんですが、今まで販売してきた商品に課題があります。今まで多くのパートナーさんとともに作ってきたものなので、皆さんの理解が得られないと素材を変更していくのは難しいと感じています。
-確かに、理解を得られないと進められないですよね。
村上さん:
この目標を達成するためにも、弊社には「伝える責任」があると感じています。そのため、YouTubeチャンネル運営や無料のセミナーを開催して、SDGsへの理解を深めてもらうための活動もしているんです。「ターゲットファインダー」という教育ツールも販売し、SDGsを広げる活動をしていきます。
-掲げた目標達成のために、ますます活動が広がっていますね!
村上さん:
はい。また、SDGsに取り組む事業活動を通じて、今までは縁のなかった業界や人とのつながりが増えています。そういった方々との交流を通じて知る課題もあり、その課題解決に向けて弊社ができることをしていきたいですね。我々の持っているノウハウや製品の提供、スキーム作りのお手伝いなどに取り組んでいきたいと思っています。
そういった活動が世界の貢献につながっていくと信じて、これからも活動していきます。
-本日はありがとうございました。
公式サイト https://www.yamazakura.co.jp/
rik skog(リーク スクーグ) https://www.yamazakura.co.jp/rikskog