#インタビュー

「SDG大学連携プラットフォーム」を通じて、”より良い社会”作りを目指す(前編)

国連大学サステイナビリティ高等研究所(UNU-IAS)所長 山口さん インタビュー

山口 しのぶ

2019年に国連大学サステイナビリティ高等研究所(UNU-IAS)所長に就任。
人類と地球の持続可能な未来の実現を目指し、学問と政策立案の両面から解決策を生み出すため研究・教育および人材育成に邁進する研究所を、抜群のリーダーシップで牽引。
専門は、国際開発・協力や教育におけるICT、教育改革、科学技術政策、世界遺産保全における技術の応用など。東京工業大学教授も兼任している。それ以前は、国際連合教育科学文化機関(UNESCO)のパリ本部、北京事務所に勤務。UNESCOでは、主に中国、インドネシア、モンゴル、パキスタンの教育システムの開発に携わった。
日本学術会議連携会員、比較国際教育学会、日本国際開発学会、教育研究会、世界比較教育学会協議会会員など幅広く活躍。外務省、文部科学省、国際協力機構、日本学術振興会などの委員会にも多数所属し、精力的な活動を行っている。
1991年、コロンビア大学(ニューヨーク)にて教育経済学の博士号を取得。
これまでに200以上の出版物や会議・セミナーでの発表を行っている。

国連大学サステイナビリティ高等研究所(UNU-IAS)とは

東京を拠点とする先導的な研究・教育機関。サステイナビリティとその社会的・経済的・環境的側面に注目しながら、 政策対応型の研究と能力育成を通じて、持続可能な未来の構築に貢献することを使命とする。 具体的には、国際的な政策決定や、国連システム内の議論に有益で革新的な貢献を果たすことで、国際社会に奉仕している。

参考:「国連大学サステイナビリティ高等研究所(UNU-IAS)

introduction

学生のSDGsへの興味関心が高まっている昨今。SDGsへの取り組み強化や国際社会で活躍できる人材育成などを目的とした「SDG大学連携プラットフォーム(SDG-UP)」があることを知っていますか?

今回は、国連大学サステイナビリティ高等研究所(UNU-IAS)の所長であり、SDG大学連携プラットフォーム(SDG-UP)の代表を務める山口しのぶさんにインタビューさせていただきました。SDG大学連携プラットフォーム(SDG-UP)が果たす役割や、山口さんが思い描く日本の大学の未来について前編・後編にわたってお送りします。

前半では、SDG大学連携プラットフォーム(SDG-UP)が果たす役割や具体的な活動内容についてお伺いしました。

SDGs達成における大学の役割とは

–本日はよろしくお願いいたします。山口さんは国連大学サステイナビリティ高等研究所(UNU-IAS)の所長であり、SDG大学連携プラットフォーム(SDG-UP)の代表も務めていらっしゃいます。まず最初に、SDGsについてどのようにお考えか教えてください。

山口さん:

皆さんもご存知の通り、SDGsは17のゴールと169のターゲットから構成されており、地球上の「誰一人取り残さない(leave no one behind)」を目標に、すべての人が平和と豊かさを得ることのできる社会を目指し策定されました。これは2030年という期限が定められた国際社会の共通目標です。

地球上の環境、経済、社会は強く結びついています。我々が将来に渡ってより幸せに暮らすためには、国際社会全体でSDGsに取り組む必要があると考えます。

これほど強い目標が立てられた背景としては、「自国と他国の環境問題、社会問題を一緒に解決することなしには、全世界の発展はない」という共通認識が根底にあると思います。

–そのうえで、大学にはどのようなことが求められていると思いますか?

山口さん:

持続可能なより良い社会作りに貢献するために「各大学の独自性を磨き上げ、社会に発信していくこと」が非常に大切だと思います。それと同時に、企業や行政、NPO団体など様々なステークホルダーと密接な連携を図り、互いの強みを引き出しながら新たな動きを生み出していくことも重要でしょう。

全国の大学に関わる研究者、学生、教職員が一緒になってより良い社会、持続可能な社会を作っていこうと努力すれば、大変大きな影響を社会に及ぼすことができるのではないかと期待しています。

–日本全国には非常に多くの大学があり、関わる人の数も多いので、大きなインパクトが期待されますね。

山口さん:

そうですね。特に大学という機関は多くの専門家が集まっているため、新しい発見のために試行錯誤を重ねた活動ができます。

同時に、中立性を保っているという点も重要ですね。

学ぶことへの情熱や知的好奇心に溢れた次世代の教育を担っているという意味でも、ビジネスとは異なった視点でサステナビリティに貢献できる活動を促進できるのではないかと期待しています。

また最近では、出張講義という形で地域の小中学校や企業に、大学の教員を派遣する取り組みが積極的に行われています。学生や地域の方々に向けて「持続可能性の大切さやそのために環境や生活をどのように構築していくか」を伝える重要な役割を担っていると感じています。

それぞれの大学の強みを活かしながら政府機関やNGO、企業などと連携し、研究、教育、社会貢献という多様な分野で貢献していく、というのがSDGs達成に向けた大学の役割だと思います。

SDG大学連携プラットフォーム(SDG-UP)設立の背景

SDGsへの興味関心が高まる若者世代

–SDG大学連携プラットフォーム(SDG-UP)を設立された背景について、教えてください。

山口さん:

ここでは、特に3つの設立背景について説明いたします。
第一の理由は、若い世代を巻き込んでSDGsを浸透させていく必要性についてです。

毎年、日本社会におけるSDGsの認知度調査が行われているのですが、若い世代で特にSDGsの認知度が向上しています。

2021年のデータによると、10代のSDGs認知率は7割を超え、全年代で最も高いという結果が得られています。さらに「内容まで含めて知っている」と回答した割合も10代男性で45.7%、10代女性で31.1%と高く、若年層の認知理解度の高さが示されました。

この機を逃さずに、次の世代をもっと巻き込んでいく活動をすべきだと考えました。

編集部のポイント

2021年1月に実施された調査によると、10代のSDGs認知率は7割を超え(10代男性75.9%、10代女性72.2%)、全世代の中でも最も高いという結果が得られた。

参考:電通、第4回「SDGsに関する生活者調査」を実施

日本の高等教育における発信力を強化する

2点目は、日本の高等教育のvisibility(発信力)を上げていく必要があると感じたためです。

英国のタイムズが発行するThe Times Higher Educationという高等教育情報誌の中に「THE インパクトランキング」というものがあります。これはSDGsの達成に関して、大学がどの程度貢献しているかのランキングですが、2020年の時点での上位はオセアニアや欧州の大学が中心です。

日本においても、各地の大学でユニークな取り組みが行われているにも関わらず、知られていない部分が多いと感じています。国連大学サステイナビリティ高等研究所は、SDG大学連携プラットフォームという情報共有の場を設立したうえで、日本の大学のSDGsの取り組みや日本国内外への発信力の強化、さらに日本の高等教育のプレゼンス向上に取り組むべきだと考えました。

そして、3点目として、国際社会で活躍できる人材育成という点でもこのプラットフォームが重要な役割を担っていくと考えています。

2019年のデータでは、国連関係の機関で働く邦人職員数は912人でした。一方、フランスやアメリカ、英国などG7各国のほとんどが1000人から3000人という職員数ですので、その差異は明白です。その中でも、邦人の幹部職員数は国連全体で88名と大変少数に留まっているのが現状です。

また、世界の約300の大学が参加する「高等教育サステナビリティイニシアティブ(HESI)」で行われる高等教育セッションでも、日本の大学の登壇数が大変少ないことが確認されています。

高等教育サステイナビリティ・イニシアティブ(HESI)とは?

高等教育サステイナビリティ・イニシアティブ(HESI)は、国際連合機関と高等教育サステイナビリティ・ネットワークとを繋ぐ、他に類のない国際的な団体です。教育カリキュラム、教育・学習能力、運営、地域社会参画、研究が与える波及効果の変革を通してSDGsの達成を目指しています。UNU-IASはHESI創立に関わったメンバーです。

HESIは現在、30以上のネットワークをまとめ、世界中の18,000の大学と繋がっています。また、300以上の加盟団体を有しています。

引用元:国連大学

大学同士のコラボレーションが生まれるきっかけとなる場へ

国連大学が中心となり、大学同士が連携できる場となること

–SDG大学連携プラットフォーム(SDG-UP)では、どのような活動を行われているのですか?

山口さん:

主に海外の大学による講演会や定期的なワークショップを開催しています。

SDG大学連携プラットフォーム(SDG-UP)は、国連大学サステナビリティ高等研究所と日本の大学が連携する初めての取り組みです。大学が持続可能な発展に貢献するための活発な議論を行う場として活用いただきたいと考えています。

2020年10月から、約1年で11回のワークショップを開催しました。大変中身の濃い議論が展開されるとともに、SDGs推進に積極的な大学のユニークな取り組みが積極的に共有されています。

また、海外の取り組みの情報共有も実施しています。これまでにイェール大学サステナビリティセンターの副所長や、アリゾナ州立大学のサステナビリティ統括担当の教授、Times Higher Educationのチーフデータオフィサーを招き、サステナビリティ推進のために大学がどうあるべきかについて意見交換や議論を展開してきました。

提言から実行のフェーズへ

–約1年間の活動を通して、どのような効果が得られたと感じていますか?

山口さん:

2021年3月に、1年目の総括ワークショップを開催しましたが、「大学として何ができるのか」について各参加大学が真剣に考えており、大学組織全体の行動変容へと繋がっていくと考えています。

2年目は、日本の高等教育や海外での取り組み事例を参考にしつつ、SDGs推進に向け大学がなすべきことを、「カリキュラム」、「マネジメント」、「大学間連携」、「外部評価・アカウンタビリティ」という4つの分科会を通して、提言を具現化していくことに力を入れていきます。

特に、SDGs達成への貢献や、ポストSDGs、BEYOND2030をどうするか、また、その先を見据えた未来の人材育成のための教育カリキュラムの策定など、各大学と連携して実施しています。

参加大学の行動がSDGs推進の原動力に

–このプラットフォームの設立から1年が過ぎ、良いシナジーが生まれてきているようですね。様々な議論を重ねる中で、日本の大学の共通の課題だと感じていることは何かありますか?

山口さん:

言語の問題もあると思いますが、世界に向けての情報発信がまだ足りていない点が課題だと感じています。

私自身も日本の大学で20年以上教員として教育・研究に携わってきています。基本的に、研究者や教育者は、それぞれのミッションへの遂行に邁進し、その成果をどのように社会に発信・還元していくかは次の段階の話なのです。

SDGsを促進していくための様々な情報を共有し、社会に発信するという部分を担うのがSDG大学連携プラットフォームであり、各々が情報を持ち寄ることによって、有機的な大学間連携が生まれる場にしていきたいと考えています。

–「発信」という部分に関して、SDG大学連携プラットフォームでは具体的にどのような取り組みを行う予定ですか?

山口さん:

1つは国連大学サステイナビリティ高等研究所のウェブサイト上で、本プラットフォームを通じた活動の情報や関連資料を、国内や海外に向けて継続的に掲載していくことが大切だと考えています。

同時に、各大学の取り組み事例集や映像をウェブサイトで公開し、国連の会議でも積極的に情報発信していく予定です。

今まで日本の大学がSDGsに取り組んでいなかったわけでは決してありません。各地域で行われているユニークな取り組みをお互いに学び、取り入れられるところは取り入れ活用をしていく。つまり、「コンペティション」ではなく「コラボレーション」することで、更なるシナジーを創造する形を目指しています。

–プラットフォームはあくまでもきっかけであり、大学同士のコラボレーションを通じて新しいものが創造される。そういった姿を目指されているのですね。

山口さん:

そうですね。現在31大学が参加していますが、それぞれの大学が持つ強みに合わせて分科会に所属し、提言を具現化するための議論を進めているという段階です。

参加大学の積極的な行動が、SDGs推進の原動力になっていくことを期待しています!

まとめ

インタビュー前半はここまでとなります。

SDG大学連携プラットフォームの取り組みを通じて、様々な大学との連携が生まれていく未来がイメージできたのではないでしょうか。

後半では、SDG大学連携プラットフォームが描く今後の展望についてをお伺いしています。山口氏のインタビュー動画もございますので、是非そちらもご覧ください。

「SDG大学連携プラットフォーム」を通じて、”より良い社会”作りを目指す(後編)