#インタビュー

育休プチMBA®|「子どもを持ちながら働くが当たり前になる社会の実現」にむけて

育休プチMBA 国保さん インタビュー

国保 祥子
株式会社ワークシフト研究所 所長/育休プチMBA®代表 博士(経営学)

2014年、第一子出産後「育休プチMBA勉強会」を立ち上げる。静岡県立大学経営情報学部准教授/慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科非常勤講師/早稲田大学WBS研究センター招聘研究員/厚生労働省イクメンプロジェクト推進委員(2017年-)/内閣府男女共同参画推進連携会議議員(2019年-)他。著書に『働く女子のキャリア格差』(ちくま新書)、『人材開発研究大全』第20章女性管理職の育成(東京大学出版会)

introduction

育休プチMBAは、育児と仕事の両立を目指す方がマネジメント思考を学ぶ勉強会です。赤ちゃん連れで参加でき、育休復職者が職場で経験する可能性の高い状況についてディスカッションし、復職後に備えます。

2014年にマンションの一室で始まった勉強会。これまでに延べ16,000名以上が参加し、育児と仕事の両立を模索する人材の活躍を支えてきました。今回は、育休プチMBAの創設者である静岡県立大学准教授の国保祥子さんにお話を伺いました。

育休をブランクでなく、ビジネス能力を伸ばすチャンスに

–育休プチMBAとはどのような取り組みですか。

国保さん:

育休中の方が1歳未満の赤ちゃんと一緒に1日から参加できる勉強会です。子育てしながら仕事をする従業員が陥りやすい状況をケースメソッドで疑似体験することで、復職後に課題を自分で乗り越えられる力をつけます。もちろん、勉強会中は赤ちゃんの抱っこ・授乳・オムツ替えをしても大丈夫です。

具体的にご紹介すると、例えば「組織における自分の役割を考える」というテーマでは、『退職を考える時短勤務の仁美』というケースを使います。

時短勤務で業務量をこなせないことに悩んで、退職を考えている「仁美さん」を題材に、客観的に意見を出し合います。勉強会で使用するケースは組織や人にまつわる本質的な課題を踏まえて作られているので、リアリティがあるシチュエーションばかりなんです。

参加者は状況を俯瞰できることで、復職者にありがちな問題に気がつきやすくなります。また、組織の目的を達成するためのコミュニケーション方法を体感できます。

勉強会では「お母さん」ではなく「ビジネスパーソン」としての自分の考えを話せるし、ディスカッション形式なので他の参加者の意見からも学ぶことが多いと思います。

勉強会後には参加者同士、ママ友を超えて同志のような関係性になっています。育休プチMBAでは子ども大好き、でも仕事も大好きな、スーパーウーマンではない等身大の女性たちにたくさん出会えますし、それだけでも他所にはない価値だと思います。勉強会参加者限定のオンラインコミュニティも運営しており、現在では1,500人が集まる場所になりました。

育休中の教育投資が、キャリアの延命に繋がる

–育休者向けのキャリア支援サービスは他にもあると思いますが、その中でも育休プチMBAの強みは何ですか。

国保さん:

時間や場所・内容など、仕事に対して何らかの制限がある「制約人材」を「組織で求められる人材」に育成するという点が、強みだと思います。

子どもを育てながら働く方法や手段は様々ありますが、育休プチMBAの勉強会から組織に重宝される人を輩出したいと思っています。

「この人にやめてほしくない」と組織に思わせられれば様々な自由を手に入れることができますし、組織にとって役立つ大事な人材だと思われることが、長く無理なく幸せに働くことに繋がると思っているからです。

育休プチMBAの勉強会を通じてマネジメント思考を身につけると、組織の生産性にも貢献できる人材として復職できます。仕事を通じた評価が付いてくることでモチベーションが保たれ、生涯年収や影響力を考えると管理職への昇進意欲が湧き、リーダーシップをとれる人材になります。

また、リアリティあるシチュエーションから学ぶことで、「キャリアの延命」という点でも効果があると思います。あらかじめ復職後の苦境を想定していると、直面した際に折れにくくなり、復職1年未満で両立にくじけて仕事をやめてしまうのではなく、働き続けることができます。

「子育て中の方が仕事もうまくいく」という現象に好奇心がわいた

–これまでの沿革についてお伺いしたいです。育休プチMBAの取り組みはどのように始まったのでしょうか。

国保さん:

勉強会はママ友のキャリアサポートとして私の育休中に始まりました。第二子妊娠中のママ友から「赤ちゃんと一緒に経営の勉強をするにはどうしたら良いか」という相談を受けたことがきっかけです。

彼女は「第一子を出産して残業できなくなってからのほうが営業成績が良くなったし、仕事のモチベーションもあがった」と話していました。実は私自身、育児をしながら研究業績を出し続けられるのか不安で、子どもを持つことを先延ばしにしていたので、彼女のいう「子育て中の方が仕事もうまくいく」という世界観には希望が持てました。

「自分の知らない世界があって面白そう」という好奇心から、ママ友のリビングルームにて勉強会は小さく始まりました。

2014年当時の勉強会の様子

その後、かねてから友人だった相模女子大学特任教授の白河 桃子さんが興味を持ってくださり、2014年11月にプレジデントオンラインに勉強会を取り上げてくれたことで、参加の問い合わせも急に増えました。そうすると場所を借りる必要が出てきたので、有料で運営することにしました。

育休プチMBAのメインターゲットは「最初から管理職になりたいと思っている人」ではなく、「現時点では管理職になろうと思っておらず、教育投資を将来的に回収できるという確信がない層」なので、参加ハードルを下げるために勉強会代は相場よりも安価に設定しています。勉強会費が高いと思うかどうかは、学びに対するコスト感覚が分かれるところだと思いますね。

また、規模を大きくできるよう育休者たちでチームをつくって運営するようになりました。現在でもこの体制は続いていて、半年に一度募集する運営チームに、勉強会や広報、コミュニティ運営のお手伝いをいただいてます。

キャリアも子育ても諦めずに成長し続ける人材へ

–育休者を取り巻く現在の環境についてお伺いしたいです。復職者が陥りやすい問題に共通点はあるのでしょうか。

国保さん:

復職者が自分の能力を過小評価してしまうという問題は共通してあると思います。子どもの体調不良などの不安要素から、「やれることしかできない」というマインドセットがされてしまうと、個人の成長がとまってしまうし組織への貢献意欲もなくなる。そうすると負のスパイラルですね。仕事が面白くなくなってしまうので、守りにはいらない方がいいと伝えたいです。

また、本来であればチームの仕事を滞らせないことが重要なはずなのに、自分の業務を自分で完了させることがゴールになってしまう、いわゆる「仕事を抱え込んじゃう人」になるというケースもありがちですね。

そのような問題に陥らないためには、自分が今置かれている状況を俯瞰してみる力、優先順位をつける力が必要だと思います。

組織全体での重要度から業務の優先順位をつけて、自分がやるもの、任せるもの、やらなくていいものを提案するなど、組織全体の効率性をあげられるようなやり方を提案できるといいですね。そのためにも、双方にとってWIN-WINな結果をもたらすようなコミュニケーション力が必要になると思います。

–一方で、育休復職者を迎える組織側や、社会全体ではどのような対応が求められるのでしょうか。

国保さん:

まずは「育休復職者」に対する思い込みを外したコミュニケーションをして欲しいです。業務を軽くする配慮ではなく、成長に必要な機会を与えつつ、無理をしていないか見守っていただけたらと思います。

ゆくゆくは、男性も女性も当たり前のように育休をとって、キャリアアップも目指せるような社会になるといいなと思います。男性にも育児の喜び・女性にも仕事の喜びが味わえる機会が平等に手に入るといいですね。

–国保さんがこれから挑戦したいことについて教えてください。

国保さん:

アカデミックに転向した理由に「社会課題を解決したい」という思いがあり、現在は課題の一つとして、管理職育成における社会問題を研究しています。SDGs目標5番に「ジェンダー平等を実現しよう」とありますが、「男女の収入格差」や「女性の就業継続」という社会課題解決に貢献できる研究成果を発表したいです。

その土台となる適切なロジックを導けるように、日々研究を積み重ねています。

–最後に、これから育休をとる方・復職する方へメッセージをお願いします。

国保さん:

「仕事が好きなら諦めないでいいよ」ということを伝えたいです。働くのが好きな人は、その気持ちを諦めずに頑張ってほしい。頑張りたいという気持ちがあれば、やり方次第で両立できるし、両立しながら働くのは意外と楽しいです。家事代行や時短家電などを利用して時間をつくることもできますし、代行サービスは費用ではなく将来への投資。「自分たちが経済を回しているんだ!」という気持ちで色々なサービスを利用するのがいいと思います。

先輩が道を切り開いてくれた過去があって今の環境があるように、今ここで自分が頑張ることが、巡り巡って次世代につながり、自分の子どもを幸せにすることにも繋がるかもしれません。迷ったら自分が楽しいと思える方を選んでくださいね。

–今回は貴重なお話をいただきありがとうございました。

関連リンク

育休プチMBA:https://ikukyumba.jp

育休プチMBAブログ:https://ikukyumba.jp/category/blog/

ワークシフト研究:https://workshift.co.jp

国保さんのnote:https://note.com/akiko_kokubo