宮澤 昌樹(みやざわ まさき)
入間市企画部副参事(政策担当)
埼玉県入間市出身。1991年に入間市役所入庁。入庁後は、建築指導課、企画課、人事課、情報政策課等の部署を経て、2022年より企画部に配属となりSDGs未来都市の提案等に携わる。
金子 淑子(かねこ よしこ)
入間市企画部企画課主査。
埼玉県入間市出身。2008年に入間市役所入庁。国民健康保険の給付業務を担当後、産休・育休を経て2019年より企画課。2021年よりSDGs推進に係る業務を担当し、SDGs未来都市の提案等に携わる。
introduction
「静岡茶」「宇治茶」と並んで「日本三大銘茶」と呼ばれる「狭山茶」の主産地、入間市。官民連携等のパートナーシップを活かしながら、地場産業である狭山茶の振興など地域経済を活性化し、持続可能なまちづくりを進めることを目標に、2020年からSDGsに本格的に取り組み、2022年度にSDGs未来都市に選定されています。
今回は、入間市の企画部でSDGsに携わっていらっしゃる、宮澤さんと金子さんに、お話をお聞きしました。
「おいしい狭山茶大好き条例」のある茶どころ入間市
–まずは入間市の紹介をお願いします。
宮澤さん:
入間市は、埼玉県の南西部に位置する人口14万5千人ほどのまちで、東京へのアクセスも良いことからベッドタウンとして発展してきました。コストコ、アウトレットなどの大型商業施設や西武池袋線沿線を中心とした都市部と、加治丘陵、狭山丘陵、一面の茶畑の広がる自然がほどよく共存しているところです。
狭山茶の主産地でもあり、市内の1/10を占める茶畑が市民にとっても象徴的景観です。
金子さん:
子どもから大人まで茶文化が浸透していて、入間市の小学校では「色は静岡 香りは宇治よ 味は狭山でとどめさす」という言葉を習い、味は狭山茶が一番なんだと身に染みて感じるんです。
美味しいお茶の淹れ方も習うので、小学生でも美味しくお茶が淹れられます。
そして狭山茶と茶文化の全国的な周知、振興、また後世につなぐことを目的に「おいしい狭山茶大好き条例」を制定しました。
市長のリーダーシップと課題への取り組みがSDGsにつながる
–茶文化が浸透した素敵なまちですね。では、入間市がSDGsに取り組まれたきっかけを教えてください。
宮澤さん:
入間市では平成23年以降、人口が少しずつ減少しています。このままでは少子高齢化となり、15歳以上、65歳未満の生産年齢人口が不足することが予想されます。
人口の変化に対応しながら、子どもから高齢者まで「誰一人取り残さないまちづくり」を進めなければなりませんが、技術的にも財政的にも市単独での取り組みには限界があるのが課題でした。
そのため、官民連携のパートナーシップを生かした取り組みが必要になり、それがSDGsの考え方とも合致しました。
また、まちづくりの方向性を示す総合計画は、平成29年度に「第6次入間市総合計画」として策定されています。令和2年度は「第6次入間市総合計画」後期基本計画の策定時期で、この中でSDGsについて見直す必要があり、本格的に取り組みをはじめました。
加えて、令和2年11月に現市長の杉島が市長になったことも関係しています。
市長の公約の一つが「SDGsを活かしたまちづくり」でしたので、そこから取り組みが加速しました。県内最年少の若手市長で、SDGsをはじめ、新たな試みに積極的に取り組んでいます。
狭山茶で経済活性「スマートヘルス・シティ」
–ここからは具体的な取り組みについて伺います。まず経済面からお願いします。
金子さん:
経済面では「スマートヘルス・シティ」の実現に向けた取り組みを進めています。地域経済の活性化や市民の健康維持・増進に取り組み、一人ひとりが元気に地域に参加することで、地域内消費の拡大も目指しながら、充実した人生を送ることを目標としています。
具体的には、「市内企業の最先端技術を生かし、新産業の創出、新産業団地の形成」「ヘルスケアの視点から健康、食品、医療関係の産業創出や企業の誘致」を考えています。
新産業の創出や、産業団地の形成は長期の取り組みであるため、現在は庁内の組織体制の見直しや、新たな担当を設置するなど、少しずつ動き出しています。
加えて、地場産業の振興にも取り組んでいます。特に農業における主要産業の一つである茶業には力を入れていますが、後継者不足、生産性の向上、プロモーションについての課題を抱えています。
そこで産学官で連携し、スマート農業を取り入れる、新商品開発をする、茶畑の景観を守ることを目標に取り組みを進めているところです。
その一例として、狭山茶のフレーバーティーを開発・販売、スマート農業の実現に向けた実証実験、茶畑の景観活用などに取り組んでいます。
特に茶畑の景観活用については、狭山茶に触れていただく新しい体験機会の提供と考えています。茶畑の景観を観光でも生かすために茶畑の中にテラスを作ったり、専用サイトを運用してプロモーションに活用したりと、積極的にPRしていく予定です。
狭山茶は生産から販売までをひとつの茶園が行う6次産業である点が、有名どころの静岡や京都と異なる面であり、魅力のひとつでもあるため、これを活かした取り組みを展開していきたいですね。
高齢者とデマンド交通をかけ合わせる「ウェルネス・シティ」
–次に社会面での取り組みをお聞かせください。
金子さん:
社会面の取り組みとしては、「ウェルネス・シティ」を掲げています。これは、高齢者の外出意欲の向上と、デマンド交通をかけ合わせた事業が中心です。
市内の小林病院、埼玉医科大学をはじめとする大学、民間の企業といった産学官が協力して進めており、「デマンド交通で外出のための交通手段を確保」、「外に出るモチベーションを上げるための、行き先でのイベント連動」などにより、高齢者のフレイル予防や、その先の健康寿命の延伸に繋げることを目指しています。
昨年度から実証実験がスタートしていて、まずはショッピングセンターでお買い物を楽しむ企画を行いました。
ショッピングセンターには、買い物を介護予防に変えるための専用カート「リハカート」を置かせていただき、リハビリを兼ねた買い物をしていただきました。
この取り組みには、要支援1、2の方等に協力していただき、検証期間中に積極的に参加してくださった方々は、日常生活の動作を自力でどのくらいできるかを評価するFIMという数値が向上しているという結果が出ました。
今年度は男性の参加率向上の取組やモチベーションを上げるイベントなどの要素を増やして行う方針です。
今後は実証実験の成果を踏まえ、実装を目指しています。
–デマンド交通も鍵となる取り組みですね。
金子さん:
そうですね。実証実験は、株式会社アイシンの「チョイソコ」のデマンド交通を利用しています。チョイソコは、高齢者を中心とした人々の健康維持・増進を目指した乗合移動支援サービスで、予約をして、近くの停留所から目的の停留所まで気軽に効率よく移動することができます。
免許の返納や足腰が弱くなった高齢者にとって便利である反面、デマンド交通はアプリやインターネットを使う印象が強く、そこが課題と思われますが、実証実験ではコミュニケーションの機会も重視し、事前予約を電話による対応としました。実際に利用してくださった方は、圧倒的に女性の方が多かったという結果が出ており、なぜこのような傾向があるのか、積極的に利用しなかった方の理由なども調査しながら進めていくことにしています。
エネルギーの地産地消「ゼロカーボン・シティ」
–次に環境面の取り組みをお聞かせください。
金子さん:
「ゼロカーボン・シティ」では、2050年のカーボンニュートラルの実現に向け、エネルギーの地産地消を目標にしています。SDGs未来都市選定にあたり、地球環境の保全に向け、クリーンエネルギーをスタンダードにする必要性を感じ、取り組むことになりました。
その入り口として、本年度はまず「入間市ゼロカーボン協議会」を立ち上げました。協議会には、市内の関係団体や事業者、金融機関、自治会関係の方々などが参加し、公共施設、民間施設における太陽光発電設備の設置促進等に着手しています。
他にもエネルギー面では、太陽光発電を電源とした、公用車のEV化と市民向けカーシェアリングにも取り組んでいます。
資源循環の観点では、市内のコンビニエンスストアに、商品棚の手前にある販売期限の迫った商品をとってもらうための、「てまえどり」POPを掲示してもらうようにしました。
これはSDGsの広報と市民の行動の変容を狙ったもので、地道に進めていきたいですね。
大事なのは目指す姿を共有できるパートナーシップ
–様々な取り組みを展開、予定されていることがわかりました。これらを進めていく上で、やはりパートナーシップが重要となりますね。
金子さん:
入間市が掲げているどの事業も大規模で、市単独では成し得ないものです。
一緒に取り組む方々と目指す姿を共有し、同じゴールに向かって進んで行かなければなりませんが、互いの認識や思惑のすり合わせ、調整に時間がかかったり、まだまだ市内企業のSDGsへの意識に濃淡があったりするのが現状です。
多くの方々がSDGsへの意識を持つためにも、地域の金融機関と連携して、入間版の「SDGs金融」といった策を展開していく必要性を感じています。これは金融機関から理解を得なければならないので、話し合いを続けていきたいですね。
みんなで共に歩みたい!SDGsを広める活動
–市民の方との意識共有はどうされていますか?
宮澤さん:
市民との意識共有は「認知」「共感」「共創」の3つのフェーズで進めていく考えで、今は「認知」の段階です。
昨年行った市民意識調査では、63.7%の方がSDGsを知っているという回答でした。これは当初の予想より高い数値ですが、高齢者においては「まったく知らない」と答えた方も多く、この世代にどう伝えていくかが課題でした。
そこで、市の広報紙にSDGsの連載記事を載せたり、市内のケーブルテレビやFMラジオでも取り上げてもらったりといった施策を行っています。最近では、SDGs未来都市に選定されたことを知らせる横断幕の設置や、いるまPR大使の朝日奈央さんから入間市民へのSDGsメッセージ動画を公共施設で流すなどして、より認知度を高められるような取り組みを進めています。
認知が広がって初めて、具体的な行動への理解を深める共感のステップに移行するので、市民との共創の取り組みは、まだまだこれからです。
市民を巻き込むためには、どのようなアプローチが有効かなどはこれからの課題ですね。
あるべき姿「Well-being City いるま」へ向けて
–2030年の理想の入間市に向けて今後の展望を聞かせてください。
宮澤さん:
人口減少を迎える時代になり、入間市が今後も持続していくためには、今までの一歩先へ行く取り組みが必要と感じています。
SDGs未来都市への選定は市にとっても大きなチャレンジでした。目指しているゴールはかなり高い。
しかし、市民をはじめ、入間市に関わる全ての企業などが健康で、幸せを感じ、満たされる人生を送れる市になるよう、一丸となって掲げたゴールの達成を目指していきたいと思っています。
金子さん:
対外的な取り組みを通じて、入間市自体を知ってもらうのも重要だと感じます。
市外の方達にも入間市の取り組みや狭山茶をもっと知っていただくために、地道に取り組みを進めていきます。
–本日はお忙しい中、貴重なお話をありがとうございました。