#インタビュー

JIU|「廃棄花」を助けるためだけじゃない、花の美しさを届けるためのブランド「INVISIBLE FLOWER」

JIU

JIU 出水佳恵さん インタビュー

出水佳恵
空間デザイン・フラワーデザインを主軸とした店舗づくりや空間装飾に携わる。 花が好きで、花業界を深く知る為の勉強の過程で「人に届く機会すらなく捨てられていく 花」がある事を知り、2019年より活動を開始。生産・流通段階に規格外で弾かれる未利用花を対象とし、ものづくりを通して花を人の手に届ける活動をしている。プロダクトのデザインからプロデュース、企業とのコラボレーションやアート制作などを通し、廃棄花をなくす活動を続けている。

introduction

花屋に美しく並ぶ花たち。

実はその影には生産・流通・販売の過程で多くの花が廃棄されてしまう「フラワーロス」の問題が隠れていることをご存じでしょうか。

JIUのデザイナー兼ディレクターである出水佳恵さんは、この廃棄されてしまう花「invisible flowerインビジブルフラワー(見えない花)」を使い、新たな価値を生み出し、多くの人の手に届けようとしています。

今回は出水さんに花に対する思いや、なぜブランド「INVISIBLE FLOWER」を立ち上げたのかなどをお聞きしました。

誰にも届かず捨てられてしまう「invisible flower」見えない花とは

–はじめにJIUのご紹介と事業内容についてお聞かせいただけますか。

出水さん:

JIUは店舗設計、内装デザインといった空間デザインを主な事業として2018年に設立しました。店舗デザインの他にも、グラフィックや花まで含めた装飾の仕事もしています。

JIUという名前は「慈雨 じう」という言葉がとても好きでそこから名付けました。

雨は循環をイメージしています。液体・個体・気体と何にでも変わり、国境や境目関係なく降り注ぐ。その時々の形で必要とされる場所に降り、何かを少しずつ変えていく。そんな「優しい雨」みたいな存在になりたいと思っているんです。

2019年には、廃棄されてしまう花を少しでも多くの方に届けたいと、ブランド「INVISIBLE FLOWER」を立ち上げました。

INVISIBLE FLOWERでは、生花を和紙に漉(す)き込んでいる「花和紙」、その花和紙を使ったしおりやご朱印帳などを作成・販売しています。

《HANAWASHI しおり》
《HANAWASHI しおり》
《HANAWASHI ご朱印帳》
《HANAWASHI ご朱印帳》

–廃棄花を使ったブランドを立ち上げたきっかけはなんだったのでしょうか?

出水さん:

廃棄花の現状を知ったことが関係しています。

一般的にはフラワーロスと言うと、生花店での売れ残りやイベント利用後の廃棄などのイメージがあると思います。もちろんそれも廃棄花のひとつではあるのですが、生産や流通の段階でもたくさんの花が廃棄されているんです。

花屋さんにいくと、店頭にはまっすぐに伸びた綺麗な花ばかりが並んでいますよね。それは、育てやすさ、市場までの運びやすさ、手入れのしやすさなど、流通コストを下げるという目的もあるのです。茎が曲がっていると箱に入る本数も違ってきますからね。

《花市場の様子 》
《花市場の様子 》

 

また「摘花」といって、1本を綺麗に咲かせるために脇芽の部分を切ってしまうこともあります。

このように、商品としての価値がないとされる「規格外の花」が、生産や流通の過程でどうしても出てしまうんです。

また、そんなに多くはないものの、野菜と同じように価格割れを防ぐために出荷調整がされ、一斉に廃棄せざる負えない場合もあるようです。

このような花や、店舗で廃棄される花、イベントが終わった後などに使い道がなくなって捨てられてしまう花が「廃棄花」と言われます。

《廃棄花》
《廃棄花》

これまでに、ウエディングのサービススタッフの経験や店舗デザインの際に開店祝いの花が飾られているのを見ていたこともあり、花が好きでしたし本当に美しくて素敵だと思っていました。

そこでJIUを立ち上げたタイミングで、しばらくの間、花の勉強のために花市場でも働いていたんです。

花市場で朝4時から仕事をし、昼はクライアントとの打ち合わせ、夜に設計やデザインの作業をし、とにかく寝る暇がありませんでした。この時期は辛かったですが、それでも、花を扱う市場での仕事が楽しく、常にハイテンションで過ごしていました。(笑)

そんな中で、花の廃棄について気になり、どういう場面で廃棄されるのか、どれだけの花が廃棄されているのか市場関係者や生産者に話を聞いて回ったことで、廃棄の現状を知ることができました。

そこで感じたのは、農家の方も市場の方も花屋さんも、皆さん花が大好きで、花ときちんと向き合っているということです。目の前の一輪の花をちゃんと誰かに届けたいとプライドを持って仕事をされています。

しかし「以前からずっとそうだから花を廃棄するのは仕方ないこと」という風潮はあるのではないかなと感じます。

それまで、花一輪一輪を命だと思って大事に扱ってきましたが、誰にも届かずに捨てられてしまう花があることを知り、自分のエゴだとは思うものの見過ごせなかったんです。

しかし廃棄があることを「悪」だとは思っていません。

先ほど話したように、素晴らしい1輪の花を作ることにプライドを持ってお仕事をされている生産者もいますし、絶対に廃棄花は出さないと頑張っている方もいます。

どのようなやり方も尊重すべきだと思うので、私も選択肢の一つとなるものを作りたいと思い、廃棄花を使った商品を扱う「INVISIBLE FLOWER」というブランドを立ち上げました。

生花ではなくものづくりを通して、捨てられてしまう花の魅力を伝えるブランド「INVISIBLE FLOWER」

–ここからは、ブランド「INVISIBLE FLOWER」について詳しくお聞かせいただけますか。

出水さん:

ブランドを始めるときに考えたのは、「生花のまま安売りをして花の価値を下げたくない」ということでした。ですから、廃棄されてしまう花を「ものづくり」を通して人の手に届けることをメインにしたいなと。

一番大事なのは花の美しさを届けることなので、美しいものを作ること、そしてなるべく自然のものを使うことを大切にしています。

「廃棄花」と言うとネガティブに考えがちですが、そうではなくポジティブな流れを作りたいと思うんです。「今まで、誰も知らなかったけど、ここめっちゃ素敵じゃない?!」みたいなのりにしたい。

廃棄が「かわいそうだから助ける」ではなく、そこに「美しさや生命力・素敵なものがある」ことを皆さんに知ってほしいですね。

もう一つすごく考えたことは、花に携わるどの立場の方達とも調和してできる形は何かということです。それが、生花をそのまま売ることではなく「形」や「使い方」「届け方」を変えて新しい手法で花を楽しんでもらうこと、付加価値を付けまったく別の商品にすることでした。

とはいえ私はものづくりに関して素人だったので、最初は試行錯誤で始めました。草木染めや花を凍らせるなど、花で何が出来るか色々チャレンジしましたが、なかなか自分の表現したい花の美しさには届かなかったんです。そんなときに和紙と出会い、初めて花と一緒に漉いたときに、花を見ているときの心地よい気分なども含め、思い通りの美しさを再現できると感じ商品にすることにしました。

《花和紙をすいている様子》
《花和紙をすいている様子》

一般的に花を使った和紙は、押し花を使うことが多いのですが、この「花和紙」は生の花を漉きこんでいるのが特徴です。

自然のものしか使っていないので、ドライフラワーのようなイメージで花の色は少しづつ変わっていきますが、なるべく長く色を楽しんでもらえるように、色持ちの良い花を選んでいます。個体差はありますが、ゆっくり少しづつ色が変わる様も楽しんでいただければと思っています。

《作品展示の様子》
《作品展示の様子》

–商品を購入されたお客様の反応はいかがでしょうか?

出水さん:

どの商品もとても好評で嬉しく思っていますが、特にイベントなどでお客様から直接商品についてお聞きできるのはとても貴重な嬉しい機会です。

以前、ご朱印帳を買ってくださったお客様に「ご朱印帳は棺桶に入れてもらってあの世まで持っていくもので、あちらの世界で自分を守ってくれるものだから、きちんとしたものを購入したかった」と言ってもらったことは本当に嬉しく心に残っています。

《HANAWASHI ご朱印帳》

また、先日は築140年の古民家の改装の際に、初めて花和紙を障子に使っていただきました。ゆるやかに花の色が変わっていく花和紙ですので、数年で張り替える障子にはとても良いと思い、このような使い方がどんどん広がっていくと良いなと思っています。

《障子に使われた花和紙》
《障子に使われた花和紙》

誰でも気軽に花のある生活を!花を楽しむ第一歩の手助けをしたい

–では「INVISIBLE FLOWER」での取り組みは、社会にどのような効果をもたらすと考えていらっしゃるでしょうか。

出水さん:

私が考える効果は3つあります。

1つ目は、花を生活に取り入れる人のすそ野を広げ、花業界の下支えになるということです。

生花は手入れの大変さなどから敬遠される傾向が強いんです。そんな人達に、花の新しい楽しみ方を伝えるために、気軽に生活に取り入れられるアイテムを作ることにしています。

そこから1歩踏み出し、散歩をして季節の花を眺め、ふらっと花屋さんに入り花を一輪買うみたいに、ただ花を楽しんでもらえるようになれば良いなと考えているんです。

ワークショップも開催していますので、実際に花にふれ花を楽しむ生活へのハードルを低くしていきたいですね。

《作品展示の様子》
《ワークショップの様子》
《ワークショップの様子》

2つ目は、生産者に「捨てている花にもちゃんと価値がある」と気づいてもらうことです。「捨てている花で利益を生み出せる」ことが広がれば、廃棄花も削減できるはずです。

そのため、ブランドを立ち上げた時から、廃棄花を買い取ることで生産者にも利益が届くようにしたいと考えていました。試作からまだ販売ルートが整っていない時期は、廃棄花を提供していただいていましたが、現在は生産者と提携し、廃棄花を買い取ることができるようになりました。使用している廃棄花は、生産流通段階で規格外などではじかれてしまう未利用花を対象にしています。

花に関わっている皆さんは花を捨てるのは心が痛いと、苦しい思いを抱えている方も多いんです。ですから、捨てなくてはいけない時にこんな受け皿があることを知ってほしいと思います。

経済的な面だけでなく、働く環境がこの取り組みで少しでも良くなるのが理想ですね。

最後は、すごく遠回りな話かもしれないですが、この取り組みを知る人が増えることにより、自分以外の命に目を向ける、やさしい気持ちが増えればいいなと思っています。

物事の裏側を見る視点を持つことや、人間以外の命にも目を向けられるようになることが大事ですよね。

私はデザインの世界から花業界に入っているからこそ、今まで通りでも良いけれど「こんなこともできるよね」と他の視点からも見ることができたのではないかと思います。

花業界に限らず、ちょっと違う視点が入ることで面白いことができる可能性はたくさんある。そしていろいろな生産者や販売者がいるということを、消費者にも知ってもらい、自分の視点でいろいろ選べるようになったら楽しいし面白いと感じています。

そのためにこの取り組みが役に立つと嬉しいと思います。

–最後に「INVISIBLE FLOWER」での取り組みをどのように展開していきたいか、今後の展望をお聞かせください。

出水さん:

まずは、扱う商品をもっと増やしたいですね。

今は「花和紙」中心ですが、和紙に興味がない人達へ届けるための商品を作るにはどうしたらよいか考えています。

また、2022年の7月にフランスのパリで開催された「JAPAN EXPO PARIS 2022」の伝統工芸や地域文化をテーマとしたブース「-WABI SABI-」に「花和紙」を展示しました。非常に良い反応をいただきましたので、フランスをはじめとした海外でも展開していきたいと思っています。

《JAPAN EXPO PARIS 2022》
《JAPAN EXPO PARIS 2022》
《JAPAN EXPO PARIS 2022》

そして、もっとたくさんのいろいろな生産者と提携して仕入れができるようにしていきたいです。

実は今「INVISIBLE FLOWER」の取り組みは、1人でしているので、一緒に取り組んでくれる人がいたら、凄くいいんだろうなと思います。好奇心が旺盛で、この取り組みに共感してくれる仲間ができ、いろいろな人とチームを組んで仕事ができたらと考えています。

–「INVISIBLE FLOWER」の今後の商品展開が楽しみです。本日は貴重なお話をありがとうございました。

関連リンク

JIU:https://www.jiu-design.com/

INVISIBLE FLOWER:https://www.jiu-design.com/invisibleflower#news

INVISIBLE FLOWER online shop:https://invisibleflower-jiu.stores.jp/