オーストラリア北部に位置するケアンズ地域の熱帯雨林は、世界最古の熱帯雨林です。
1988年にはユネスコ世界自然遺産にも登録されており、日本から多くの観光客が訪れる人気の観光地です。
東京ドーム約20個分の規模を誇るオーストラリアの熱帯雨林ですが、実はかつての姿と比べると99%以上のエリアが消失したと言われています。
残りわずかな熱帯雨林を守るため、オーストラリアではあらゆる取り組みを行ってきました。
この記事では、オーストラリアの熱帯雨林の概要、熱帯雨林減少に伴う懸念、熱帯雨林を守るためのエコ活動についてご紹介していきます。
目次
オーストラリアの熱帯雨林とは?
オーストラリアの熱帯雨林は、クイーンズランド州北部のケアンズ地域に広がっています。
1億3,000万年前から存在していたとされており、アマゾンよりも8,000万年ほど歴史が長い熱帯雨林です。
生物多様性が非常に強く、オーストラリアのカエル、爬虫類、有袋類の30%、コウモリと蝶の65%、鳥種の18%、12,000種の昆虫など、バリエーション豊富な野生動物が熱帯雨林に生息しています。
現存する熱帯雨林はわずか0.12%
熱帯雨林は、かつてオーストラリアの全土に広がっていました。
しかし、現存する熱帯雨林は国土の0.12%程度の90万ヘクタール(東京ドーム約20個分)しかありません。
オーストラリアの国土が日本の約21倍ということを踏まえると、多大な範囲の熱帯雨林が消失していることがわかります。
オーストラリアの熱帯雨林が減少した主な原因は、農耕地・商業地などへの転換に伴う森林伐採です。
オーストラリアの熱帯雨林減少に伴う懸念
オーストラリアの熱帯雨林が消失することにより、木々の数が減る以外にもさまざまな懸念があります。
以下では、熱帯雨林減少に伴う生態系への問題点について解説していきます。
①キーストーン種の絶滅
みなさんは、キーストーン種(Keystone species)という環境用語を聞いたことがありますか?
生態系を維持するために欠かせない役割を担う種のことで、キーストーン種が絶滅すると生息地の環境に多大な影響を及ぼすと考えられています。
オーストラリアの熱帯雨林に生息するキーストーン種に、ヒクイドリが挙げられます。
喉元の赤い模様が火を食べているように見えることからヒクイドリ(火食い鳥)と名付けられた大型鳥類で、恐竜を連想させる鋭い大きな爪が特徴です。
熱帯雨林には、ヒクイドリの胃の中を通ることで発芽する植物が数多く存在します。
ヒクイドリの絶滅=熱帯雨林の生態系崩壊に繋がると考えられているため、ヒクイドリと熱帯雨林の両方を守ることが非常に重要です。
熱帯雨林に生息する野生のヒクイドリは、1,200~1,500羽ほどと言われています。
正確な個体数は不明とされているものの、IUCN(世界自然保護連合)のレッドリストでは絶滅危急種に分類されています。
生息地縮小に伴う個体数減少のほか、ロードキルの被害に遭うヒクイドリも後を絶ちません。
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②野生動物の生息地消失
熱帯雨林の規模が減少することで、野生動物の生息地消失が懸念されています。
フクロモモンガ、ポッサム、ハリモグラなどの固有種が生息する熱帯雨林ですが、土地開発によって多くの野生動物たちが住みかを追われてきました。
生息地が減少するということは、限られたエリアの中で多数の野生動物たちが共生を強いられるということです。
生息スペースや餌が不足することにより、本来なら生き残れるはずだった野生動物たちも淘汰される可能性が高くなります。
また、熱帯雨林を主な生息地としているラムホルツ木登りカンガルー(Lumholtz’s tree-kangaroo)は、縄張り意識が非常に強いことで知られるオーストラリアの固有種です。
以前に熱帯雨林の土地開発が行われた際、該当エリアに生息していた複数のラムホルツ木登りカンガルーたちは頑なに生息地を離れようとしませんでした。
土地開発で木々が完全に無くなっても生息地に残っていたため、最終的にその地に暮らす全てのラムホルツ木登りカンガルーが餌不足や野犬からの攻撃で全滅したとされています。
熱帯雨林の規模が縮小されることで、多くの野生動物たちの住みかや命が奪われてしまうということを決して忘れてはいけません。
熱帯雨林を守るための取り組み
オーストラリアでは、熱帯雨林を保護するためのさまざまな取り組みが実施されています。
ここでは、政府や非営利団体はもちろん、一般市民も参加しているエコ活動について見ていきましょう。
①オーストラリア農業水環境局による保全アドバイス
オーストラリアでは、熱帯雨林を保護するための保全アドバイスが採用されています。
環境保護および生物多様性保全法(1999 年)の下で2021年に施行され、熱帯雨林の現状、脅威、マネジメントプラン、生物保護、復元プログラムのためのアセスメントなどがリスト化されています。
絶滅が危惧されている動植物なども掲載されており、国、非営利団体、一般企業などが熱帯雨林の保護活動をする際の基盤として役立てられているのです。
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②植林
オーストラリアでは、政府認定の非営利団体が植林活動を行っています。
一般市民が参加できる植林イベントはもちろん、寄付金を基に非営利団体のスタッフたちも植林を実施しています。
科学顧問による最短での植林及び熱帯雨林の復元をモデリングしており、2023年時点での植林数は3万本弱です。
1ヘクタールに1.2メートル間隔で木々を植えることで、現在の樹木供給量により年間1.5ヘクタールの熱帯雨林が復元可能とされています。
地道な活動ではあるものの、着実に熱帯雨林や野生動物の保護に繋がっています。
③土地購入による熱帯雨林の保全
オーストラリアの熱帯雨林で提供されているのが、非営利団体によるデインツリー低地のレスキュープログラムです。
非営利団体への寄付を行うことで、集まった寄付金を基に非営利団体が熱帯雨林の土地を購入します。
購入する土地には環境アセスメントが実施され、熱帯雨林の中でも特に生物多様性が強く生物学的価値の高いエリアであることを確認してから購入されます。
購入された土地は非営利団体によって保護されるシステムになっており、伐採などのリスクから熱帯雨林を永続的に守れるというメリットがあります。
④エコツーリズム
オーストラリアの熱帯雨林は、国内でも人気の高いエコツーリズムスポットです。
熱帯雨林の中をガイドと共に散策し、熱帯雨林の現状や保護活動に関する知識を深められます。
単なる観光プラスアルファの旅行ができることから、国内外を問わずにたくさんの観光客が参加しています。
また、原住民のアボリジニがガイドをしているツアーも多く、文化的、歴史的、環境的な学習に繋がる点も魅力です。
学校を対象としているエコツアーもあるため、次世代に向けた環境保全への意識強化にも貢献しています。
⑤ロードキル防止対策
オーストラリアの熱帯雨林付近に設置されているのが、ロードキルを防ぐための道路標識です。
カンガルーやコアラはもちろん、ヒクイドリが描かれた道路標識もあり、近辺に何の野生動物が生息しているかによってイラストが異なります。
また、ロードキルの発生ポイントを集計し、ロードキルマップとしてまとめる活動も行われています。
特に野生動物の飛び出しが多いエリアを特定することにより、一般市民が野生動物の存在を気にかけながら運転することに繋がっているのです。
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⑥ボランティア
オーストラリアの熱帯雨林は、多くのボランティアスタッフによって保護されています。
植林に必要な種子の収集、植林、広報、熱帯雨林の一般メンテナンスといった幅広い活動内容があり、環境保全に興味がある一般市民が無償で活動しています。
まとめ
オーストラリアの熱帯雨林は、既に過去の姿の99%以上を失っています。
しかし、残ったわずかな熱帯雨林を守るため、オーストラリアでは政府、非営利団体、一般市民によるエコ活動が続けられています。
広大な自然環境であっても、消失するまでの時間は一瞬です。
対照的に、失くしたものを取り戻すには多くの時間がかかります。
自然環境をこれ以上失わないためにも、遠く離れたオーストラリアの熱帯雨林や現地の人々が行う環境保全に思いを馳せてみてはいかがでしょう?