#インタビュー

「絵本のまち」板橋区に学ぶ!ユニバーサルで持続可能なまちづくりとは

東京都板橋区 政策経営部政策企画課計画・SDGs係 インタビュー

板橋区

板橋区は、武蔵野の面影を残す赤塚の森や、広大な河川敷を有する荒川、美しい桜並木に彩られる石神井川などの豊かな自然に恵まれた、住宅都市・生活都市としての顔を持つ都市です。

特に、区内には光学・印刷等の産業が集積しており、「光学の板橋」として知られています。また、多くの印刷・製本業者が立地している区の特徴を活かし、いたばし絵本国際翻訳大賞では、区内印刷事業者が製本出版に協力しているほか、「ボローニャ国際絵本原画展」を区立美術館で開催し、絵本をアートとして採り上げる美術館として、先駆的な役割を果たすなど、「絵本」に関する取り組みをブランドとして捉えた「絵本のまち」として様々な事業を展開しています。

そういった中で、2022年5月に国から「SDGs未来都市」に選定されました。区では「絵本がつなぐ『ものづくり』と『文化』のまち~子育てのしやすさが定住を生む教育環境都市~」をテーマとして提案し、その取組が認められました。

introduction

光学・印刷等産業が集積する「ものづくりのまち」として発展してきた板橋区。イタリア・ボローニャ市との関係をきっかけとして、「絵本」を軸に様々な世代が交流するまちづくりを推進しています。

2022年5月には「SDGs未来都市」に選定。日本経済新聞社による「第2回SDGs先進度調査」では東京都で2位、「共働き子育てしやすい街ランキング2021」では、東京23区で首位に選出されました。今回は、「SDGs未来都市」に関する内容を中心に、幅広い年齢層の交流や学びの輪をつなげる取り組みについてお話を伺いました。

SDGs未来都市「落選」の経験で、大切なことに気付かされた

–早速ですが、板橋区はSDGsに関してどのような取り組みをなさっていますか。

政策企画課:

板橋区では、平成5年に人と環境が共生する都市をめざし「エコポリス板橋」環境都市宣言を行い、環境学習型施設である「板橋区エコポリスセンター」を開設するなど、SDGsが注目されるよりも以前から、環境に配慮した取り組みを推進してきました。

こういった取り組みが評価された結果、2018年にポーランドで開催された「国連気候変動枠組条約第24回締結国会議(COP24)」に、板橋区の区長が招待されました。環境先進都市として緑のカーテンの普及や日光産木材を使用した教育など、区として取り組んできた事例などについてスピーチをしました。

COP24にてスピーチをする板橋区長

もともと区の施策とSDGsは親和性が高く、より推進していこうという意向もあり、2019年4月に政策企画課に「計画・SDGs係」が設置されました。また、2020年1月には第1回SDGs先進度調査で全国8位(都内1位)の評価を受けました。これまでの区の取組を効果的に発信していく意図もあり「SDGs未来都市」にも応募することになりました。

–SDGs未来都市計画のポイントや、計画に込めた思いについて教えてください。

政策企画課:

SDGs未来都市計画のポイントは、「絵本のまち」という板橋区ならではの視点から、ものづくりや文化を見ている点だと思います。

「絵本」は、いつの時代でも、どこでも身近に、誰もがわかりやすく理解できるものです。板橋区には、絵本を読み物として捉えるだけではなく、絵本が持つユニバーサルな考え方を政策にも派生させて、「誰でも参加できる持続可能なまちづくりをしていく」という思いや考え方が根付いています。

例えば、区役所の窓口業務一つをとっても、SDGsの理念に通じる「誰一人取り残さない」というスタンスで臨んでいます。わかりやすい事例だと、聴覚障がいのある方向けに手話相談員、日本語が不自由な方向けに国際交流員を区役所に配置していることが挙げられます。

–SDGs未来都市の選定プロセスにおいて、大変だったことや新たな気づきがあれば教えてください。

政策企画課:

実は、板橋区は2020年からSDGs未来都市にチャレンジしており、2022年に認定されるまで、2年間も落選を続けているんです。落選自体はショックでしたが、改めて板橋区の強みや課題を分析し、他の自治体の計画書や提案書も比較分析する良い機会になりました。

落選を受けて試行錯誤を続けたおかげで、区の現状分析から将来像までを一貫したストーリーとして提案することができたと感じています。また、計画策定を通じてSDGsという世界共通目標に向き合うことで、未来都市に選ばれることだけではなく、「今後どうしていくか」が大事だということに、改めて気づかされました。

策定時に特に大変だったことは、様々ある計画との整合性を取ることです。

区の最上位計画である「板橋区基本構想」や「板橋区基本計画2025」だけではなく、教育・産業・福祉分野などの個別計画に、横串をさしていく作業には相応の労力が必要でした。

また、KPI(※1)の妥当性を判断するのがとても難しいため、昨今言われている「EBPM(エビデンス・ベースト・ポリシー・メイキング)(※2)」という、「エビデンスに基づく政策立案」という視点も今後は一層大事になってくると感じています。

–試行錯誤や自己分析を重ねた結果、誕生したのが「絵本がつなぐ『ものづくり』と『文化』のまち」というテーマだったのですね。

KPI(※1)

KPI(Key Performance Indicator)とは、組織の目標を達成するための評価指標を意味する。

参考:KPIとは

EBPM(※2)

EBPM(Evidence Based Policy Making)は、「エビデンス(証拠)に基づく政策立案」という意味で、政府全体で推進されている。平成30年度の内閣府取組方針では「その場限りのエピソードに頼るのではなく、目的を明確化したうえで効果の測定に重要な関連を持つ情報やデータ(エビデンス)に基づくものとすること」とされている。

参考:EBPMとは何か?

絵本を通じ、国籍や年齢を超えたつながりを創出する

–「絵本のまち」を推進する理由や、具体的な取り組み事例について教えてください。

政策企画課:

板橋区では、友好都市であるイタリア・ボローニャ市との交流や、印刷産業が多く立地する区の特徴を活かし、板橋ならではのブランドとして、絵本文化を発信しています。

“赤ちゃんから、おとしよりまで、

絵本を読み聞かせる、一人で読む、つくるなど様々な絵本体験を。

絵本作家の育成や、区の特徴である印刷・製本業との連携など、

絵本が生み出される環境づくりを。

「絵本のまち板橋」は、絵本文化の展開・発信を、広く進めていきます。”

引用:絵本のまち板橋とは

イタリア・ボローニャ市というのは、毎年・春に児童書専門の見本市が開催されるなど、児童書(絵本など)の活動が盛んな都市です。

板橋区は、1981年に板橋区立美術館で「ボローニャ国際絵本原画展」の開催がきっかけで、2005年にボローニャ市と友好国際都市協定を締結しました。区立美術館では、毎年「ボローニャ国際絵本原画展」を開催しており、絵本をアートとして扱う美術館として、先駆的な役割を果たしています。

区立美術館で開催されるイタリア・ボローニャ国際絵本原画展

区内には印刷・製本を営む企業が多くあり、各種企業の協力を得て絵本づくりのワークショップなどを開催しています。講師陣は絵本作家・アーティスト・デザイナーなど、さまざまなジャンルで活躍する方々にお願いしています。

また、創作者活動のサポートにも取り組んでおり、イラストレーターの方々を対象に、絵本制作に関して総合的・専門的な指導を行うワークショップを開催しています。

そして、シニア世代の社会参画・社会貢献活動の推進に向けた、「読み聞かせボランティア活動」の支援もしています。

区内の小学校やあいキッズ(※3)、児童館、図書館、高齢者施設などで、シニア世代の介護予防やフレイル防止(※4)だけでなく、幅広い世代で子育てを支えていくことを目的としています。

あいキッズ(※3

板橋区の放課後対策事業で、区内全51区立小学校において実施。

フレイル(※4)

海外の老年医学の分野で使用されている英語の「Frailty(フレイルティ)」が語源。わかりやすく言えば「加齢により心身が老い衰えた状態」のことで、早く介入して対策を行えば元の健常な状態に戻る可能性がある。

参考:フレイルとは

区役所南館7階屋上庭園で実施された読み聞かせイベントの様子

–「絵本」に関連した、様々な活動を行っていらっしゃるのですね。

政策企画課:

そうですね。ボローニャ市との交流やワークショップといった、「絵本のまち」の取り組みを発信する拠点として、2021年3月に中央図書館をリニューアルしました。

中央図書館は、カフェやテラスが併設され、公園と一体化した豊かな緑に囲まれる居心地の良い空間です。「いたばしボローニャ絵本館」も併設され、ボローニャから寄贈された絵本を中心に、世界約100か国、3万冊、70言語の絵本を所蔵しているコーナーもあります。

今後も、中央図書館のホールなどを活用しながら、読み聞かせや絵本展示などを行っていく予定です。国籍や年齢などの属性を超えて、多様な立場の方が同じ絵本を楽しみ、共有できるような空間づくりをしていきたいと考えています。

豊かな緑に囲まれた環境で生まれ変わった中央図書館
いたばしボローニャ絵本館・ボローニャギャラリー

ユニバーサルな「まちづくり」で、幅広い世代の学びが循環する

–子育て世代のみでなく、シニアなど、幅広い世代に愛される「ユニバーサルなまちづくり」を感じる施策が多いですね。この他にも特徴的な取り組みはありますか。

政策企画課:

まず、子育て世代という観点からは、区内外から親子が多数訪れる区の観光スポットの一つに「板橋こども動物園」があります。

2020年にリニューアルをしたのですが、動物の本来の習性を活かした飼育設備や、絵本テイストのキッズルームを併設するなど、多くの方に訪れていただけるよう、施設機能の充実に力を入れました。動物の糞のたい肥化を実施したり、草を敷きつめた草屋根や壁面緑化などを通じた環境負荷低減など、SDGsを体現する施設として、訪れた方々がSDGsに意識を向けるきっかけを作れたらと思っています。

こども動物園の草屋根

また、シニア世代の学習意欲に応え、地域活動を推進することを目的にした2年制の高齢者学校「板橋グリーンカレッジ」を開講しています。

近年では、グリーンカレッジを学びの拠点とし、高齢者だけでなく多世代が連携するさまざまな事業を展開することで、地域の「学びの循環」実現をめざしています。夏休みにはグリーンカレッジを卒業したシニア世代の卒業生たちがそれぞれのスキルを持ち寄り、鉛筆画、似顔絵、ウクレレ、フラダンス、マジック、勾玉(まがたま)作りなどを指導する「夏休み子ども塾」を開催しました。

今後も、学びの経験を誰かに教えることができる場を創出していきたいです。

夏休み子ども塾のウクレレ教室の様子

未来を担う子どもたちから、パートナーシップを広げていく

–最後に、今後の展望について教えてください。

政策企画課:

次のステップとしては、特に「子ども・子育て世帯」「地域・高齢者」「企業」をメインターゲットに、SDGsの普及・啓発をしていきたいです。

また、最近では、小中学校から総合的な学習としてSDGsについての話をして欲しいとの問い合わせが多く来ています。

SDGsを広く普及していく立場として、みなさまのお役に立ちたいと思い、他の課と協力しながら実施しています。

通常業務では区民の方とお話する機会が多くはない部署のため、直接対話をすることで、たくさんの気づきがあって助かっています。特に小学生の意見は鋭いので、刺激を受けますね。未来を担う子どもたちは、SDGsを自分ごととして捉えている印象があるので、授業では「みんなからSDGsの考え方を広めてください」とお願いしています。

ただ、そうは言っても区の担当者だけでできることは限られています。

今後はより一層、子どもたちだけではなく、子どもが経験を重ねるきっかけづくりをする大人も巻き込むことで、板橋区の特徴を活かしてSDGsを実践するパートナーシップの輪を広げていきたいです。

–本日は、貴重なお話をありがとうございました。

関連リンク

板橋区公式HP 「SDGs(持続可能な開発目標)」

絵本のまち板橋

板橋区観光協会 「ぶらり、いたばし」

板橋区美術館「2022イタリア・ボローニャ国際絵本原画展」

板橋区中央図書館

板橋こども動物園

板橋グリーンカレッジ