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IT業界のSDGs取組事例!取り組むためのポイントや解決できる社会問題についても

IT業界のSDGs取組事例!取り組むためのポイントや解決できる社会問題についても

インターネットの普及に伴うIT技術の発達は、私たちの社会のあり方を一変させました。

そして現在、IT企業は世界のどの産業よりも、世界に対して大きな影響を与えるまでになっています。そんなIT業界で今、SDGsへの取り組みに力を入れる企業が増えています。

その背景には何があるのか。ITはSDGsに対して何ができるのか。今後の世界を変える鍵となる両者の関係に、詳しく迫ってみたいと思います。

広がるIT業界でのSDGsへの取り組み

アメリカのIT業界では、2020年ごろから多くの企業がSDGsを重視する姿勢を示すようになりました。

Appleのティム・クックCEOは「最も優れた企業は社会全体の福利に貢献する」と語り、マイクロソフトのナデラCEOも「ビジネスの成功は人間の尊厳や品位とは交換できない」という発言をしています。

また、Googleも2019年にはSDGs関連商品・サービスに焦点を当てたスタートアップ支援を始めるなど、IT業界の大手が続々とSDGsの取り組みに力を入れ始めています。

そして日本のIT業界でも、こうした流れを受けて、SDGsへの取り組みを進める企業が徐々に増えるようになりました。

IT企業がSDGsに取り組む理由

ここにきて、多くのIT企業がSDGsに取り組みだした背景には、以下のような背景があります。

社会課題の解決にはITが必要不可欠

大きな理由のひとつは、現代社会のあらゆる課題を解決するには、IT技術の活用が不可欠だという認識が広がってきたことです。

携帯電話網やブロードバンドなど、インターネットを活用したIT技術は今や世界中に広がり、あらゆる産業でさまざまな技術やサービスが開発され、社会や人々の行動を変えてきました。

一方で、SDGsは先進国・途上国を問わず全世界、全ての産業での取り組みが必要であり、旧態依然とした考え方ややり方では、2030年までに持続可能な世界を実現することは困難です。

そのため、あらゆる産業が抱える課題を解決するには、あらゆる業界で変革の基盤となるIT技術を提供する業界が、SDGsの解決に力を入れることは当然、という気運が高まっているのです。

環境や社会貢献への姿勢が企業のイメージを左右するカギに

IT業界でSDGsへの取り組みが増えているもう一つの理由は、ビジネスの世界で「CSR」や「ESG」に対応する経営の必要性が高まっているためです。

  • CSR(corporate social responsibility):企業活動にあたって負う社会的責任。従業員や消費者、投資家、環境などへの配慮から社会貢献などへの適切な意思決定を行う責任
  • ESG:「環境:Environment、社会:Social、ガバナンス:Governance」を考慮した経営・事業や投資活動のこと

現在、あらゆる企業にCSRやESGを踏まえた経営が求められるのは、SDGsの目標達成は企業としての社会的責任である、という常識が一般化しつつあるからです。つまりSDGsに取り組まないことは社会問題への意識が低いとみなされ、投資や取引の対象からも外されるおそれがあります。当然、多くの産業で大きな影響力を持つIT企業も例外ではありません。

冒頭で紹介したアメリカのIT企業のトップがSDGsを重視する発言の裏にも、いわゆるGAFA(またはGAFAM)と呼ばれる巨大企業に対し、各国政府や消費者が持つネガティブなイメージを払拭しようという狙いがあります。

巨大IT企業に巨額の富や膨大な情報が集中することに対し、社会が抱く不安や摩擦を回避し、社会への貢献をアピールする意味でも、SDGsへの取り組みは必要なことになっているのです。

『Society 5.0』構想実現による社会課題克服

日本のIT業界でSDGsへの取り組みが目立ち始めている背景には、内閣府が現在進めている『Society 5.0』構想も影響しています。

Society 5.0とは

  • IoTにより全ての人とモノがつながり、様々な知識や情報が共有され、新たな価値創出で社会が抱える課題や困難を克服すること
  • 仮想空間(サイバー空間)と現実空間(フィジカル空間)が一体となり、経済発展と社会課題の解決を実現する社会

のことであると定義されており、社会に山積する課題をデジタルの力で解決しようとするものです。

Society 5.0では、AIによるビッグデータ解析やロボット技術を活用し、人間が行っていた作業や調整を代行・支援します。

究極的には快適で質の高い、人間一人ひとりが主役となる社会の実現や、日本と世界のさまざまな課題解決を目指し、SDGsの目標達成に貢献することにも言及しています。

【関連記事】Society 5.0とは?わかりやすくSDGs・DX・IoTとの関係を取り組み事例を交えて説明!

ITで解決できる社会問題

今や社会問題の解決には、IT技術の活用が不可欠なものになっています。

では、IT技術を活用することで、どのような社会課題が解決できるようになるのでしょうか。

ここでは、前の章であげたSociety 5.0の内容を参考に、解決すべき課題とそれに対して求められるITの技術、課題の具体的な解決手段を見ていきましょう。

課題①エネルギー

日本が直面している大きな課題の一つが、エネルギーの安定供給や環境負荷の少ないクリーンエネルギー開発の問題です。ここでは、家庭や事業所などでのエネルギー使用状況、気象予測、発電所の使用状況などのさまざまなデータをAIで収集・解析します。これによって

  • 多様なエネルギーによる安定したエネルギー供給
  • 水素製造や電気自動車(EV)などを活用したエネルギーの地産地消、地域間での融通
  • エネルギーの需給予測による最適な利用提案で省エネを促す
  • GHG(温室効果ガス)排出削減につなげ、環境負荷を軽減

などの効果につなげるという狙いがあります。

課題②医療・介護

高齢化と社会保障費の増大が進む日本では、医療や介護の問題は深刻です。この問題を解決するために、医療現場におけるIT技術の導入促進は喫緊の課題になっています。現在でも電子カルテの導入や遠隔医療などの技術が使われていますが、さらにAIを活用することで、リアルタイムの生理計測データ、医療現場の情報や感染状況、環境情報といった多様な情報の解析を進めます。

これらがもたらす効果としては

  • リアルタイムの健康診断による病気の早期発見や健康相談
  • 整理・医療データの共有によりどこでも最適な治療を受ける
  • 医療・介護現場へのロボット導入で負担軽減

こうした取り組みにより、医療費や介護負担などのコスト削減、医療・介護現場での人手不足の解消、健康寿命の伸びなどがもたらされることが期待されます。

課題③食料供給・農業

食料の多くを輸入に頼っている日本では、食料自給率向上のためにIT技術を使用したスマート農業の導入に期待が持たれています。具体的には、土壌や気象情報などをセンサーやAIなどで収集し、生育や栽培を効率化することや、ロボットトラクターやドローンなどスマート農機による自動化や省力化などが挙げられます。こうした取り組みによって

  • 高品質な食料の増収と農産物の安定供給
  • 農産地での人手不足問題の解決
  • 食料ロスの削減や消費活性化

などの効果が期待されます。

課題④交通

自動車や公共交通機関も、IT技術の活用が進む分野です。現在実用化が進んでいる自動運転技術をはじめとして、MaaSと呼ばれる新しい交通システムの構築には、自動車からの走行データのほか、天気や交通状況、宿泊、飲食などの情報をリアルタイムで処理する高速ネットワークやAIによるビッグデータ解析が欠かせません。ITを活用した交通システムの普及によって

  • 最適な移動経路による渋滞解消やCO2排出削減
  • 交通事故の撲滅
  • カーシェアや公共交通の効率化によるスムーズな移動
  • 交通弱者をなくし地方の活性化や消費の拡大に貢献

といった、より安全で、劇的に利便性の高い移動が可能になるでしょう。

課題⑤製造・物流

かつては日本の基幹産業だった製造業でも、景気の悪化や国際競争の波にさらされ困難な時代を迎えています。また、モノの行き来を支える物流の分野では、深刻な人手不足や労働環境の問題から「2024年問題」と言われる危機に直面しています。

こうした状況を解決するため、製造業では顧客や消費者の需要、サプライヤーでの在庫状況などの情報を、物流では配送状況などのデータ解析が必要になります。

  • 異業種間の連携によるフレキシブルな生産計画・在庫管理
  • AIやロボット活用による生産の効率化や省力化、技術の継承、多品種少量生産
  • 異業種協調配送や配送の可視化などによる物流の効率化

などの取り組みにより、資源やコストを無駄にせず品質の良い製品を作る、現場の人間に負担がなく効率的に動ける物流などの体制構築を目指しています。

IT業界のSDGs取り組み事例

ここからは、国内外のIT業界でSDGsの目標を達成するために、どんな企業が具体的にどのような取り組みを行っているのかを紹介していきます。

【事例①】M-Pesa(エムペサ)

M-Pesaは2007年にケニアの通信会社サファリコムが立ち上げたモバイル決済金融サービスで、身分証明書と携帯電話番号で相手先へ送金したり、公共料金の支払いができます。

手続きはSMSテキストによる通知メッセージを使い、高価なスマートフォンやブロードバンド回線がない、銀行口座を開設できない低所得者層でも利用が可能です。

M-Pesaは現在サファリコムと南アフリカのボーダコムの合弁企業によって運営され、

  • ケニア国内では立ち上げから4年弱で80%もの世帯に普及
  • 西アフリカやエジプトにも進出、約4000万人もの利用者数
  • 月間10億件の決済処理

などの効果をあげており、現地の金融を支えるインフラとしての役割を果たしています。

【事例②】NECによる各種SDGs事業

NECでは、AIや生体認証技術などのITソリューションを活用し、SDGs達成のために、多分野の企業との協働のもと、さまざまな事業を進めています。

主なものでは

  • カゴメとの共同事業:衛生やドローン、センサーで気象や土壌データを収集・分析し、ポルトガルの農場で農作物の収穫量増加、栽培効率化を実現
  • インドでのバス輸送インフラの運用管理システム:キャッシュレス決済やバス位置情報管理、運行計画、乗客向け情報提供などを通して、効率化と利便性向上に貢献
  • 途上国の幼児へのワクチン普及:国際機関Gavi、英シムプリンツ社と協力、出生届やIDのない幼児に適切なワクチン接種を行うための幼児指紋認証技術の確立

などの取り組みを行っています。

【事例③】富士通によるAR河川管理

富士通では、国際協力機構(JICA)と協働し、インドネシア東部のマナド市でAR(拡張現実)を使った河川管理に取り組んでいます。

これは、専用のスマートフォンアプリのカメラで計測地点のARマーカーを読み取ると、画面上に目盛りが表示され、簡単な操作で現場の水位の計測や状況の記録などを行い、クラウドのデータセンターへ送信するしくみです。

これによって、目視による記録の誤差や台帳記入の漏れなどを防ぎ、安全な場所での迅速で正確、効率的な河川管理が可能になっています。

IT業界がこれからSDGsに取り組むためのポイント

では、IT業界でSDGsに取り組もうと考える企業は、どのような点を重視すればよいのでしょうか。

社会貢献と収益の両立

これはどの企業にも言えることですが、SDGsに継続的に取り組むためには「社会貢献」と「収益」の両立が不可欠です。IT企業の場合は他業種との協働が多くなるので、本来のIT事業とは異なる初期投資や維持コスト、人員の配置を考慮に入れる必要があります。SDGsを単なる慈善事業に終わらせず、新しい事業を創出するチャンスと捉え、しっかりとした業績向上の仕組みを作る必要があります。

連携する企業との課題共有

SDGsの達成目標はあらゆる分野の課題解決を必要とし、それぞれの課題が抱える原因も多岐にわたります。SDGsの解決は一つの企業、一つの業界だけでできることは限られ、異なる業界とのパートナーシップが重要になります。

ITとは畑が違う業界、例えば農業ではどのような問題を抱えているのか、その問題を解決するために自分たちに何が求められているのか。直面する問題を自分事としてとらえ、協力する企業・団体との問題意識をどれだけ共有できるかが成功の鍵となるでしょう。

IT業界とSDGsの関係

これまで述べてきたように、IT技術は社会のさまざまな問題・課題を解決するのに大きな役割を果たすことができます。必然的に、SDGsのほとんどの達成目標にも貢献します。

その中でも特に関わりの深い目標について述べていきましょう。

目標8「働きがいも経済成長も」

IT業界が貢献するSDGsの目標でも、大きな役割を果たすものが目標8「すべての人のための持続的、包摂的かつ持続可能な経済成長、生産的な完全雇用および働きがいのある人間らしい仕事の推進」と言えます。

実際、前述した社会課題のうち、農業や医療、製造・流通など多くの分野で、人手不足や非人道的な労働環境など、人間の働き方が問題の根本原因である事例は少なくありません。

しかし、あらゆる職場でIT技術が浸透することで、

  • 業務の数量化や作業量の最適化
  • チャットツールや社内SNSによる円滑なコミュニケーションや意思決定
  • リモートワークによる自由度の高い働き方
  • 自動化やロボティクス技術による省力化・効率化

などにより、労働者が働きやすい職場環境作りが進むことでしょう。

結果として、女性の社会進出が促される、人間がより付加価値の高い仕事に従事して働きがいが得られ、生産性が向上するなどの成果も期待されます。

目標9「産業と技術革新の基盤をつくろう」

IT業界に最も期待されるのはこの分野でしょう。目標9では「強靭なインフラ整備、包摂的で持続可能な産業化推進、技術革新の拡大を企図」することを掲げています。

すでに現在の社会は、人間一人ひとりの力だけでは手に負えないほど膨大かつ複雑なものになっています。高速・大容量のデータを正確に処理し、より広く多彩な分野に応用できるAI技術や、もの同士をネットで接続し物理的に作用させるIoT(Internet of Things)など、ITで使われる技術は、人間の限界を超えて、あらゆる産業で持続可能な産業化や技術革新を進める基盤となります。

目標12「つくる責任 つかう責任」

持続可能な消費と生産のサイクルを担うものとして、IT技術の貢献が期待されている目標です。

具体的には、センサー技術やAIを使うことで需要を高精度に予測し、最適な量の材料で必要な分だけを生産する、環境負荷やエネルギー消費量が低い材料や製品を扱うなどがあります。

また環境省では、「資源循環×リサイクル」プロジェクトの実証試験を予定しており、工場排出物情報の管理システム導入で回収からリユース・リサイクル過程の一体的運営を試みます。

データという目に見えないものを扱うことで、目にみえるものの製造や利用、循環までのすべてに責任ある役割を果たすことができます。

>>目標に関する詳しい記事はこちらから

まとめ

現代の社会を牽引するIT業界がSDGsに本腰を入れ始めたことは、今後の世界に非常に大きな意味を持ちます。どの産業においてもIT技術の活用に無縁ではいられない今、最新のテクノロジーをどのように活用し、社会が抱えるどんな問題を解決できるのか。その問いに対する青写真を描いて社会に実装する力を持っているからこそ、IT業界はSDGsの達成に重い責任を負っていると言えます。

参考資料
Society 5.0 – 科学技術政策 – 内閣府
日経コンピュータ, 2020-01-23:特集1 SDGsテック:〔1〕 SDGsで事業創出 慈善事業にあらず/SDGsテック:〔3〕 出遅れる日本IT大手 求められる「両立」
SDGsテックを用いてIT部門が支援できる社会貢献 | Quriosity | QUNIE
IT分野で考えられるSDGsの取り組み – ワンビ株式会社
ICT と国際開発 ―SDGs 達成に不可欠な ICT 利活用のさらなる促進と課題―内藤 智之|国際開発研究 第26巻 第2号 (2017)
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