#インタビュー

【SDGs未来都市】石川県加賀市|鍵はテクノロジーと人材育成。「スマートSDGs」に取り組む加賀市の未来とは?

加賀市スマートシティ課 寺岸さん・國立さん インタビュー

加賀市

人口6万4千人の加賀市は、石川県の南西、福井県との県境に位置します。

豊かな自然に恵まれ、幕政期には大聖寺藩10万石の城下町として治められた歴史を持ちます。市内には山代・山中・片山津の3温泉による「加賀温泉郷」を有し、多くの観光客が訪れる観光都市であるとともに、製造業や伝統産業が盛んです。

市町村合併を繰り返してきた歴史から、7つの地域にそれぞれの生活拠点が存在する多極分散型の特徴ある都市構造になっており、2024年3月には北陸新幹線加賀温泉駅の開業が予定されています。

将来都市像である「自然・歴史・伝統が息づく  住んでいたい  来てみたいまち」の実現に向け、子育て支援の充実や移住・定住の促進、先端技術を活用した便利に安心して暮らせる持続可能な「スマートシティ」の推進などの取組を進めています。

introduction

「SDGs未来都市」に選定されている加賀市。温泉や九谷焼などの伝統的な文化が残る一方で、人口減少や少子高齢化という難題に直面しています。このままでは市として存続できないという危機感から、先端テクノロジーを積極的に取り入れる政策に舵を切りました。その政策には、市民を誰一人取り残さず、持続可能な都市にしようという思いが込められています。スマートシティ課の寺岸さんと國立さんにお話を伺いました。

このままでは加賀市が消滅してしまう

–加賀市とはどのような都市なのでしょうか。

寺岸さん:

加賀市は石川県の南部にあり、福井県の県境に位置しております。面積は306平方キロメートルで人口は約6万4,000人ほどです。

産業面では、九谷焼や山中漆器といった伝統工芸が有名だったり、製造業では部品メーカーが多かったりと、ものづくり産業が中心となっています。農業・漁業も盛んで、日本最高峰の葡萄ルビーロマンや加能ガニ(ズワイガニ)が特産品です。

江戸時代に大聖寺藩の城下町だったところが、現在の加賀市役所がある大聖寺地区です。市内には山代、山中、片山津という個性豊かな3つの温泉地があり、多くの利用者が訪れています。

–すごく魅力的ですね。加賀市は「スマートシティ加賀」(※)を展開する中で、「SDGs未来都市」に選定されております。どのような取り組みを進めているのでしょうか?

スマートシティ

ICT 等の新技術を活用しつつ、マネジメント(計画、整備、管理・運営等)の高度化により、都市や地域の抱える諸課題の解決を行い、また新たな価値を創出し続ける、持続可能な都市や地域であり、Society 5.0の先行的な実現の場と定義されています。

内閣府HPより

寺岸さん:

加賀市は、これまでに合併を繰り返してきました。そのため、市内各所に核となる町があり、多極分散型の都市形態ともいえます。直面している課題として、2014年に消滅可能性都市との指摘を受けるなど人口減少が挙げられます。1990年には8万人を超えていた人口は、2022年現在では6万4,000人になり、2040年には約半分の4万2,000人くらいになるだろうとの予測が立てられています。

また、近隣の市町村と比較すると、産業集積が起こりにくい現状があります。このように、人口減少や少子高齢化、多極分散型都市、地域間競争の激化という様々な課題を抱えています。

國立さん:

これらの課題を解決していかなければ、2040年には加賀市という自治体がなくなってしまうという大きな危機感を感じています。人口が減少すると、当然労働力も少なくなっていきます。地域産業も担い手不足となり、どんどん弱体化していくのは目に見えています。

そこで、新しい技術を積極的に取り入れて、少ない労働力でも市としての機能が存続し、市民の皆様が安心して生活できるような施策を考えました。市が率先して地域に働きかけて、先端技術の導入と人材育成という二本柱を立てて、「スマートシティ加賀」が始動しました。

先端技術の導入として、まず「加賀市版RE100」に取り組んでいます。これは、再生可能エネルギーを地産地消し、再エネ比率を高めていく取り組みです。地域内で作った電気を域内で使うだけでなく、得られた利益を投資して経済の活性化も目指す構想になります。

ただ、昨今の報道にもありましたように、発電に必要な資源となる原油や石炭などの価格高騰の影響に加えて、大規模な設備投資を行う必要があるため、当初の計画から方針の転換を余儀なくされています。

現在は、再生可能エネルギーを販売する「加賀ふるさとでんき」という企業にご協力いただき、まずは加賀市内で生産されている再生可能エネルギーを、域内で活用するところに重点を置いています。

「加賀市版MaaS」で市内の移動がより便利に。

–「加賀市版MaaS」も、「スマートシティ加賀」の土台となる先端技術が取り入れられています。こちらはどのような取り組みなのでしょうか。

國立さん:

「MaaS」は「Mobility as a Service」の略で、公共交通を1つのサービスとして提供するという概念になります。

旅行に行くときに、目的地にたどり着くためには、様々な交通手段がありますよね。例えば、飛行機や電車、バスなどを乗り継いで向かう場合、それぞれのチケットを購入しなければならず、手間がかかります。対してMaaSは、導入されたアプリを使うことで、これらの予約や支払いが一括で完了し、移動を始めるまでのシステムがより便利になるのです。

現在、加賀市では、「加賀MaaSアプリ・ノルデイ」というアプリを開発していて、今年の秋頃からリリースを予定しています。

このアプリ1つで、市内のバス(生活路線7路線・観光路線3路線の計10路線)や乗合タクシー「のりあい号」の予約やチケット購入ができるようになり、画面を提示することで乗車が可能です。

「のりあい号」は、市内の路線バスが行かないような地域を回る乗合タクシーです。こちらは市民限定の利用となっておりますが、路線・観光バスは市外からいらした方もご利用いただけます。

–このアプリが普及することで、どのような変化を期待していますか?

國立さん:

本来、公共交通機関の乗り換えを使えばもっと便利に移動できるはずなのですが、市民の方にもあまり認知されていません。なぜかというと、大手乗り換え案内のサイトやアプリで検索しても出てこない交通機関があるのです。いくら移動が便利になるとは言っても、今の時代にバスや電車の時刻表を見て、自分で調べるやり方では手間や時間がかかるので、そこまでして乗るメリットをあまり感じてもらえないのです。

まず、そこを一元的に掲載することによって、より便利に公共交通を使ってもらえるのではないかと思います。

次に、一乗車あたりの運賃も安くなります。市内のバスはある程度の移動距離がありますので、距離性運賃だとどうしても金額が高くなります。例えば、バスで市役所のある大聖寺駅付近から片山津温泉付近へ行くとなると、最短距離は10kmほどですが、片道は550円となり、都市部と比較すると割高です。そこを、従来の運賃の片道分で何回も乗れるような設定にすることで、かなり割安感を持ってもらえるのではないかと思います。

また、この地域では公共交通機関と同様に、インターネットでお店や施設を検索しても、名前と住所しか出てないという課題も抱えていました。地元の人なら、「ああ、ここに焼肉屋さんあるよ」とか「うどん屋さんあるよ」ということを知っているのですが、市外から来られた方や、まだ住み慣れていない方、情報検索が難しい方にとってはたどりつけないこともあります。

そこでアプリの中に、店舗、施設、病院などの情報も掲載するようにしました。電話帳の情報をベースにまとめているので、住所や電話番号などの詳細がわかりますし、お得情報、クーポンも掲載できるようにしています。

これにより、加賀市に特化した検索がしやすくなることに加えて、バスやのりあい号の乗車券の購入と合わせて、そのまま目的地に関わる施設の予約をするなどの行動に繋げていけたらと考えています。

移動の利便性を高め、情報にアクセスしやすくなっていくのですね。アプリやスマホを使いこなせない方への支援などはされているのでしょうか。

國立さん:

このアプリは、子どもたちや高齢者がメインのターゲットになってくるので、デジタルデバイド対策(※)というのは非常に重要なことだと捉えています。

デジタルデバイド【digital divide】

コンピューターやインターネットを使いこなせる者と使いこなせない者の間に生じる格差。労働条件や収入、入手できる情報の量や質などに見られる。個人間だけでなく、国家間や地域間の格差を指す場合もある。情報格差。デジタル格差。IT格差。

デジタル大辞泉より

特に高齢者の方は、免許返納をきっかけに、返納後は公共交通の利用機会が増えると思います。しかし、「デジタルツールが使えないから不安だ」という声が多くありました。

そこで、65歳以上の高齢者を対象に、週に1回のスマホ教室の実施と、よろず相談を開催しています。よろず相談は予約制となっておりまして、週に2日開催し、1回30分の間、無料で担当者にマンツーマンでスマホの使い方を自由に相談することができます。

寺岸さん:

また最近では、スーパーでも、スマホでクーポンを配っているところがあるので、高齢者の方でも「それを使いたいからスマホができるようになりたい」という方もいらっしゃいます。

國立さん:

昨年から行っている取り組みですが、市が主体で開催しているので、安心して気軽にスマホのことが聞けるということで意外にも反響がありました。今年は、各地区を出向いてより身近な場所で開催していこうかと考えています。

スマートシティを突き詰めていくことが、SDGsにもつながる

–「SDGs未来都市」に選定されて2年がたちました。市民の皆様にはどのような変化がありましたか?

國立さん:

ここまでお話した取り組みに加えて、官民が連携して協働する「加賀市SDGsパートナー制度」を1年ほど前に設立しました。初年度は25の企業様に、今年度も現時点(2022年8月時点)で10増えて35の企業様に、登録をいただいています。

SDGsという言葉自体は、色々なところで耳にするようになり、「取り組みたい」と思う企業様が段々増えてきている実感がありますね。

その一方で、「言葉は知っているけど、何をしたらいいのかよく分からない」「SDGsって環境のこと?」といった声もまだまだあります。そのため、これからもSDGsについて理解を深められるような啓発を行ったり、企業や団体と一緒に取り組みを進めたりしていきたいですね。

イノベーションを起こしたい方はぜひ加賀市へ!

–今後の展望を教えてください。

國立さん:

加賀市としては、「スマートSDGs」を掲げていますので、まずはスマートシティ化に全力を注ぎ込みたいと考えています。それが必然的に「住み続けられるまちづくりを」を始め、様々なSDGsの目標の達成にも繋がっていくはずです。人口を増やすのは中々難しいことですが、色々な取り組みをしていますので、たくさんの方に興味を持ってもらって、実際に足を運んでもらえるような市にしていきたいと思っています。

また、「先端技術の導入」と「人材の育成」という二本柱を軸に、実証フィールドとしての産業の集積ができたらいいなと考えています。

最近では、国が認定する国家戦略特区である「デジタル田園健康特区」にも選定されました。これは、地方からデジタルの実装を進め、特に地方で問題となっている課題の解決の先駆的モデルを目指しています。

人材育成という観点では、「加賀ロボレーブ大会」というロボットの大会を毎年開催したり、プログラミング教育に力を入れたりしています。国に先駆けて、市内の学校にPCを配布し、情報教育の環境整備を進めてきました。

また、ハード面では「加賀市イノベーションセンター」を開設しました。施設内にある「ものづくりラボ」では、レーザー加工機や3Dプリンターが使える環境を提供しています。また「インキュベーションルーム」では、加賀市で新たにITやIoTなどのテクノロジーを活用した事業を行うスタートアップ企業や、法人の設立予定の方が入居できる事務室を提供しています。

石川県加賀市

3年間賃料が無料となり、すでに14社(累計)に入居いただいています。

近いうちに、このインキュベーションルームを含むイノベーションセンターを大幅に拡張する予定です。デジタルに関することで会社を作ってみたいとか、何かやってみたいと思われる方がいらっしゃいましたら、ぜひ加賀市に来ていただきたいですね。

–これだけの施設であるのに、賃料が3年間無料とは驚きました!

國立さん:

何と言っても、今までの形式で取り組んでいたら加賀市はなくなってしまいます。新しいことにどんどん挑戦したい方に興味を持ってもらえるような、そういう都市づくりを目指しています。それが、産業集積や地域の活性化に繋がってくるのではないでしょうか。

とにかく、どんなことでもいいのでまずは興味を持っていただけたら嬉しいです。本当に色んなことをやっていますよ。

–加賀市がどのように変わっていくのか楽しみです。ありがとうございました。

関連リンク

加賀市HP:https://www.city.kaga.ishikawa.jp/