#インタビュー

株式会社安成工務店|「事業の方向性とあるべき社会の方向性は同一」という信念のもと、環境共生住宅を進化させつつ理想の街づくりをめざす

株式会社安成工務店 代表取締役 安成さん インタビュー

安成 信次

1956年2月 山口県豊北町に生まれる。1977年に日本大学生産工学部建築工学科を卒業。大手建設会社勤務を経て、1980年安成工務店に入社。先代の急逝に伴い32歳で1988年より同社代表取締役となる。

住宅部門では、1989年から「環境共生住宅」の道へ進み、新聞紙をリサイクルした断熱材「デコスドライ工法」を開発、山と連携した「呼吸する木の家」を年間100棟規模で手掛けている。

林野庁林政審議会委員、JBN全国工務店協会環境委員会委員長などを歴任。

(一社)JBN全国工務店協会副会長、(一社)YBN山口県ビルダーズネットワーク会長、NPO法人環境共棲住宅地球の会理事長、協同組合木の家の健康を研究する会会長、JCA日本セルロースファイバー断熱施工協会会長、新・建設業地方創生研究会代表幹事なども務めている。

著書に『家づくりの品格』(風土社2008年)、などがある。

introduction

安成工務店(下関市)は、戦後の日本の家づくりは間違ってきたのではないか?という思いから、「本物の日本の家」を模索した結果、「環境共生住宅」という方向性に辿りつきました。太陽光を集熱するパッシブソーラーシステムと自然素材の断熱材(デコスファイバー)を用いた、国産杉による「木の家」は、環境保全や林業保護にも大きく貢献しています。

住む人の心地よいエコライフや健康の改善のみならず、よき街やコミュニティ作りまで視野に入れる同社が提供する「家」は、結果的に、SDGs11「住み続けられるまちづくりを」にふさわしい「家」と重なりあっています。

今回は、「あるべき社会」に向かって進化し続ける安成工務店の安成信次社長に、揺らぐことのない経営理念や、環境共生住宅をはじめとする様々な取り組みについて伺いました。

「あるべき社会」に添った「本物の日本の家」を追求した答えは、新建材の潮流に逆らう「環境共生住宅」だった

–安成工務店がどのような会社であるか、簡略にご紹介くださいますか?

安成社長:

山口県下関に本社を構える地域工務店です。住宅事業部、建築事業部、商業開発部の三部門を有していますが、いずれの事業部においても、その方向性は、弊社が考える「あるべき社会」に沿ったものです。具体的には、住宅事業を例とすれば、パッシブソーラーシステム※と、新聞紙リサイクルによる自然素材の断熱材(デコスファイバー)を用いた、国産杉の「環境共生住宅」の提供です。

企業理念に〈お客様・地域・時代のニーズに高いレベルで応えられる社会をつくります。~人口減少社会の建設業は、街の再生請負人~〉とあるように、目指す先には理想的なコミュニティや街づくりがあります。

パッシブソーラーシステム

機械や動力を極力用いずに太陽エネルギーを利用するシステム。通風、換気などの工夫や高性能の断熱材の使用なども組み込む建築手法で、エネルギー消費量・CO₂排出量も削減する。

–御社は、1989年にすでにパッシブソーラーシステムを取り入れ、環境共生住宅に方向を定めました。SDGsどころかMDGsさえ存在しない頃から、時代に先駆けて「環境」や「地域」などを重視した事業を展開されてきましたが、その源にはどんなきっかけがあったのでしょうか?

安成社長:

昭和の終わりから平成にかけて、私は事業の方向性について悩んでいました。弊社はもともと住宅事業がメインでしたが、途中から、大型建設も扱う地方のゼネコンのような存在になっていきました。住宅と建設という2つの流れの中で悩みながら行き着いたのは、「本当に社会に必要とされる企業になりたい」という強い思いでした。

次に「本当に良い家とは?」を考えぬきました。その当時は、石油由来の新建材が出てきたあたりで、住宅産業も、効率化、工業化という波にもまれていました。

当初は弊社もそこを追いかけていたのですが、「いや、待てよ…」と立ち止まったのです。「地域の工務店として、自分たちが作るべき家はもっと違うものではないか?」「本当に良い家とは、大量生産した商品を日本中に販売するものではなく、地域を熟知した地元の工務店がその地域の気候風土にあった家を、本物の素材で一軒一軒丁寧に作るべきなのではないか?」という模索をへて、自然素材型住宅というジャンルに駒を進めました。

平成元年(1989年)に奥村昭雄東京芸大名誉教授と出会ったことが、大きな転機となりました。奥村教授が考案した「OMソーラーシステム」(注:OMソーラー株式会社が開発・販売するパッシブソーラーシステム)を取り入れ、「環境共生住宅」へと舵を切りました。

ゼネコンとしても、たんなる受注業態ではなく、企画開発型の建設業を目指しました。現在では社員の23%が設計部門の社員で、住宅のみならず、一般建築の分野でも、ここにはこれがベスト、と提案しての設計施工で受注しています。その形態をデザインビルドともいいますが、現在、全受注案件の95%が設計施工案件となりました。

「あるべき姿を実現するためにそこへ向かう」経営は、シンプルで楽

–御社の「環境」「地域」「林業保護」「パートナーシップ」「健康」「よき街づくり」などの取り組みの基盤となっている信念や理念についてお聞かせください。

安成社長:

私には、「事業の方向性とあるべき社会の方向性は同一ベクトル上にすべき」という強い信念があります。何を作っていくべきか、という「べき論」で真摯に取り組んできた結果が、今の現状です。

あるべき社会、あるべき家を思い浮かべた時、「儲かるからやろう」とはなりません。「あるべき姿を実現するためにそこへ向かう」という経営は、すごくシンプルで楽なんです。私の意思決定も楽ですし、社員もそれを理解しやすいですから。

「あるべき社会の実現のため」という事業ベクトルを、私も社員もグループ企業もパートナー企業も、皆が一本でまっすぐ揃えています。弊社の住宅の進化も、他の事業展開も、ひたすらそのベクトルによるものです。そこはぶれません。

–御社では2021年にCSVレポート「持続可能な未来と共有価値の創造を目指した活動報告」を出されていますね。このレポートが、「CSR」ではなく「CSV」レポートである理由を教えてください。

『CSVレポート2021』

安成社長:

2011年にハーバードビジネススクールのマイケル・ポーター教授が発表したCSV(Creating Shared Value)という概念が、弊社の理念と合致しているからです。

CSVは共有価値、共通価値などと和訳されますが、シンプルにいえば、社会的課題を自社の強みで解決することで企業の競争力も同時に実現する、というものです。

CSR(Corporate social responsibility:企業の社会的責任)が叫ばれて久しいですが「企業活動のうえで若干環境に悪いこともしているので、社会貢献もしましょう」というイメージが多少ありますよね。CSVは、社会の課題解決が企業の事業と連携しています。

近江商人の活動理念「買い手よし、売り手よし、世間よし」の「三方よし」に、「社会と地球によし」を加えたような弊社の事業概念にCSVは極めて近く、大きな指針となりました。

OMソーラー、デコスファイバー、国産杉が成立させた「環境共生住宅」

–御社の昔からの取り組みが、今、結果としてSDGs、CSVと重なりあっていることがよく理解できました。ここからは、取り組みの内容を具体的にお尋ねします。OMソーラーシステム、デコスファイバー断熱材、国産杉材という三要素は、どのように「環境共生住宅」を成立させているのでしょうか?

安成社長:

OMソーラーシステムは「発電」とは異なり、機械を使わず「集熱」した太陽熱を、設計の工夫などの「受け身(パッシブ)」の技術によって有効活用し、省エネを実現します。冬は太陽熱を部屋に取り込み、夏は太陽熱を使って給湯をしたり、日射を遮って風通しを良くするなど、自然の摂理を様々な工夫で生かす設計です。省エネで脱炭素に貢献もしています。

OMソーラーの効果を効率化する鍵が断熱材にあると気づいた弊社は、1994年に、新聞紙をリサイクルした断熱材のデコスファイバーを開発しました。自然素材系断熱材であるデコスファイバーは、断熱材業界で初めて「エコリーフ環境ラベル」(注:原料、製品製造、施行までの環境特性を評価するもの)を取得しています。

デコスファイバーは、生産段階での使用エネルギーが低いことも特徴ですが、建設時のCO₂排出量も少ないことが実験で証明されています。また、音の吸収率が高く静かな環境が提供できること、除湿の効果が高いことも利点です。除湿の実験では、梅雨時の計測で、デコスファイバーを使った当社の住宅は、他と比べて湿度が10%も低くなっています。

温暖化によって高温多湿の度合いが激しくなっている現在、デコスファイバーが果たす役割は大きいと考えています。自然素材系の断熱材はまだ一般的ではありませんが、健康と環境への貢献度の高さの周知をはかり、普及させていく必要性を感じます。

家づくりに使用している国産杉についても、住人の心身の健康に良いことを長い業歴の中で実感してきましたが、説明にはエビデンスが必要です。現在、九州大学、法政大学と共同研究を進めていますが、様々な良い結果が得られています。近い将来、エビデンスを伴っての発表ができることと思います。

木の家の健康貢献度実験

林産地連携システムで林業を保護し、森林体験ツアーで人々に森のゆたかさと「木の家」の意義を伝える

–国産杉の調達に採用されている「林産地連携」システムについて教えてください。

安成社長:

OMソーラーシステムを採用して環境共生住宅に方向転換した当時は、まだ新建材を用いていました。自然素材への脱却を模索していた1996年、大分県日田市の林業会社トライ・ウッドと縁がつながり、弊社の住宅は「呼吸する木の家」へと進化しました。

林業会社は、基本的に木材を販売会社に卸すため、買い手の顔はわからず、その需要も不明です。そこで弊社は、直接トライ・ウッド社と木材を買い付ける契約を結びました。それが、林産地連携システムです。

林産地の経営を不安定にしないため、弊社は年間の発注量をトライ・ウッド社に伝えます。林産地を保護し、こちらも安定して質のよい国産木材を得るという、信頼に基づくパートナーシップが実現しています。

–森林体験ツアー、植林ツアーなども実施されていますね。その目的や参加者の感想などをお聞かせください。

安成社長:

弊社の木の家に関心を持ってくださるお客様を中心に、日帰りや宿泊を伴う森林体験ツアーを複数回実施しています。秋には植林も経験して頂きます。大分県の林産地の森で、人間の営みが自然の一部であることや「木の家」の良さを感じて頂きます。また、森を育てる人々との触れ合いを通じて、家づくりの意義まで考えて頂くことを目的としています。

山口県の里山では、お子様がアスレチックを作って一日遊ぶ企画もあります。「大人になったら木を切る仕事をしたい!」など、喜びや発見を伝えてくれる感想が寄せられます。

アスレチックイベント

植林ツアーでは、2008年のスタート以来約4,050本の杉の苗を植えました。今後も、持続可能な森林資源の開発を目指します。

植林ツアー

「本物の良い住まい」が集まり、似た価値観の住民同士が助け合って楽しく暮らせる街づくりを目指す

–林産地の森で直接木に触れれば、「木の家」に住む気持ちも格別なものになりますね。最後に、今後の展望をお聞かせください。

安成社長:

本物の良い建物をつくり、本物の価値観を伝えていきます。今の日本には大量生産の安いものが溢れ、確かに便利ではあるでしょうが、それらは大切に長く使うものにはなりえません。住宅も同様です。手で丁寧につくったものを大切にする風潮はすたれず、さらにクローズアップされてくると思っています。環境を保全し、住む人の心身の健康に配慮しつつ、「職人が地域の循環のなかでつくる素材の良い住宅」を提供し続けます。

弊社は、すでに2006年に環境共生技術と理想の街づくりを盛り込んだ「安岡エコタウン」の分譲を行いました。その経験をいかし、これからも「本物の良い住まい」が集まる街づくりを続け、住まい手同士のコミュニティづくりのお手伝いをしていきます。

安成工務店は、理念のベクトルを同一とする12社のグループ企業と多くのパートナー企業を有しています。そのすべてと「良き社会、良き暮らし」への理念を共有しながら、たんに家と家が点在する住宅街ではなく、似た価値観をもった住民同士が集い助け合い、安心して楽しい生活が送れる街づくりを目指していきます。

–理想の家が集まる理想の街の実現が楽しみです。本日は貴重なお話をありがとうございました。

関連リンク

安成工務店HP:https://www.yasunari-komuten.com/