國本 和史
2008年金沢市役所入庁、医療保険課、企業立地課、障害福祉課を経て2021年より企画調整課でSDGsを担当。
introduction
石川県金沢市は、SDGsが策定される前の昭和45年に60万都市構想というまちづくりビジョンを標榜し、半世紀にわたるハードのまちづくりの基本を「保存と開発の調和」として掲げ、江戸時代から変わらないまちの骨格や文化を守り続けてきた都市です。
2018年からは、金沢青年会議所、国連大学IAS OUIKの2者と協定を結び、さまざまなSDGsの取り組みを進めてきました。2020年7月にはその努力が認められ、SDGs未来都市と自治体SDGsモデル事業にも選ばれています。今回、金沢市都市政策局 企画調整課の國本さんに、金沢市の取り組みについてお伺いしました。
SDGsが策定される前から「保存と開発の調和」をまちづくり方針にしていた
ーまずは金沢市についてご紹介をお願いいたします。
國本さん:
石川県の県庁所在地である金沢市は、中核市の指定を受けており、2023年9月時点での推計人口は約45万人です。ひがし茶屋街をはじめとする情緒あふれる街並みも有名ですね。そんな金沢のまちの骨格ができたのは、江戸時代までさかのぼります。
左側が江戸時代の地図で、右側が現在の航空写真です。第二次世界大戦中に空襲を受けなかったこと、大規模災害に遭わなかったこともあり、兼六園をはじめ、道筋や用水、町割りなど基本的な骨格はほとんど変わっていません。江戸時代の金沢は、江戸、大阪、京都、名古屋に並ぶ大都市で、「加賀百万石」と表現されていたのは有名ですよね。
その経済力を金沢では、学術や文化の発展に生かしてきました。例えば、金沢の伝統工芸である金箔は、全国の99%が生産されています。伝統芸能である能楽においては、金沢ではかつて「空から謡(うたい)が降ってくる」とまでいわれ、武家や商家だけでなく植木職人などの庶民も、能に親しんでいたことを指します。また、現在も市民がいたるところでお茶会を開いているように、お茶文化も浸透しています。このように、江戸時代から現在まで市民文化が継承されているんです。
金沢市は、そのような江戸時代からのまちの骨格と文化を守るため、「保存と開発の調和」をまちづくりの方針としてきました。全国に先駆けて昭和43年に制定した伝統環境保存条例をはじめとして、歴史(古)を感じさせるちょっとした(小)いいまちなみを保存する「こまちなみ保存条例」などの景観まちづくり関連条例により、まちづくりを進めています。こうした努力が実り、平成21年には歴史都市として第1号の認定を受けました。さらに、4つ重要伝統的建造物群保存地区の指定を受けていますが、これは京都と並んで日本でトップです。
また、伝統文化を継承するには、常に新しい革新の営みが必要であり、創造的であることが重要です。独自の文化を産業に結び付けて新しい価値を創造する取り組みも進めており、金沢市は、ユネスコから、平成21年にクラフト分野で世界発の創造都市として、認定されました。古いものを大切にしつつ、新しいものに取り組むのが金沢の特徴で、そのような特徴がよく出ているのが、昨今多くの方にお越しいただいている金沢21世紀美術館です。
このように金沢市は、SDGsができる前から「保存と開発の調和」を掲げ、まちを守りながら磨き高めてきました。
SDGsを自分ごとにする「金沢ミライシナリオ」
ーもともと「保存と開発の調和」を掲げて取り組みを進めていた金沢市が、「SDGs」にも力を入れるようになった背景を教えてください。
國本さん:
SDGsの取り組みが始まったのは、2018年7月です。金沢で先駆けてSDGsに取り組んでいた金沢青年会議所と国連大学IAS OUIK(サステイナビリティ高等研究所いしかわ・かなざわオペレーティング・ユニット)の2者と協定を結んで活動をスタートしました。金沢らしいSDGsの取組の共同研究の成果として、金沢SDGs共同宣言を行い、金沢におけるSDGsの推進の方針である「5つの方向性」を発表しました。
ー「5つの方向性」について、詳しくお伺いできますか?
國本さん:
2030年に地球があるべき姿ともいえるSDGs17の目標は、自分事にするのがなかなか難しいものもありますよね。そこで、2030年に金沢があるべき姿を想像し、「①古くて新しくて心地よいまち」「②“もったいない”がないまち」「③子供がゆめを描けるまち」「④働きがいも、生きがいも得られるまち」「⑤新しいもの、ことを生み出すまち」の5つの金沢の姿を「5つの方向性」として掲げました。この方向性には、SDGsの17ゴールが密接にかかわっており、例えば「古くて新しくて心地よいまち」には、目標11「住み続けられるまちづくりを」等への想いが、「“もったいない”がないまち」には目標7「エネルギーをクリーンに」12「つくる責任つかう責任」等への想いがこもっているといった形です。
そしてこの5つの方向性を進めるための具体的なアクションの道しるべとなるのが、「目標」「取り組むこと」「実践アイデア」をまとめた金沢ミライシナリオです。
例えば、方向性①の「古くて新しくて心地よいまち(自然、歴史、文化に密着したまちづくりをすすめる)」に対する目標は、「金沢らしい暮らし方、働き方、住まい方を知り、継承する」などがあり、これを達成するために取り組むことは、「金沢の自然・歴史・文化の成り立ちを学んだり、祭礼・風習・季節感を大切にしたりする」ことなどを挙げています。
そして、具体的な実践アイデアは「町会の祭礼に参加してみよう」「まちなかの商店街や、地元のお店で買いものをしよう。」などを掲載しています。
このように金沢ミライシナリオは、市民に「身近にできることがあるんだ」と思ってもらえる内容となっており、市がどういった政策をしたいかを伝えるのではなく、SDGsを意識した行動のきっかけづくりが目的なんです。
ー金沢市、金沢青年会議所、国連大学IAS OUIKの3団体で金沢ミライシナリオを作成されたのですか?
國本さん:
いえ、3団体に加えて、ホームページでの募集やワークショップ、ジャンルや年齢を問わず参加できる「SDGsミーティング」を重ねて、市民からさまざまなアイデアをもらいながら作成しました。
さらに、目標が「どれくらい達成できているのか」を見える化するために、金沢SDGs指標を作りました。「古くて新しくて心地よいまち」は、現在4点満点中2.4点ですね。どのようなことをすれば達成度が上がるのか、どのようなデータに基づいているのかもHPに掲載しています。
例えば、シナリオ1では、町会加入世帯数、文化に係るイベントや後援数、公民館講座の参加者数などがそれに当たります。「こんなことを頑張れば達成度が上がるのか」と認識してもらい、市民のさらなるアクションにつなげることが狙いです。
ーこの金沢ミライシナリオを実践していくために、ほかにはどのようなことに取り組まれていますか?
國本さん:
IMAGINE KANAZAWA2030パートナーズというプラットフォームを作って、パートナーシップで金沢ミライシナリオを実践しています。取り組みの発信やイベント開催のためのメンバー探しなどを目的に、2ヶ月に1回交流会を開催しています。交流会では、パートナーさんのプレゼン発表を聞いてグループディスカッションをしたり、SDGsに取り組む団体や企業の見学会をしたりとさまざまですが、毎回パートナーさんの意見を取り入れています。
そもそも、交流会は運営メンバーをパートナーズメンバーから募集して企画や運営をしているんです。行政が主体とならなくとも、パートナーシップやアクションが起きる状態が理想ですね。
金沢SDGsツーリズム推奨制度で持続可能な観光を目指す
ー金沢SDGsには「5つの方向性」「金沢ミライシナリオ」のほかに、「金沢SDGsツーリズム」もありますが、その内容を教えてください。
國本さん:
金沢市はここまでお話ししたような取り組みが評価されて、2020年7月に「SDGs未来都市」「自治体SDGsモデル事業」に選ばれています。この自治体SDGsモデル事業のテーマは、「市民生活と調和した持続可能な観光の振興」でした。
このようなテーマを設定した背景には、北陸新幹線の金沢開業があります。期待以上に多くの方が金沢に来てくださるようになり、まちに活気が溢れる効果がもたらされました。しかしその一方で、一部の地域では市民生活に影響が出てきてしまったんです。そのような状態が続けば、金沢の資産が観光によって消費され、変質し、中長期的には価値を失ってしまうかもしれません。そこで、SDGsという文脈でまちの魅力を磨き、高めて発信し、責任ある観光客を世界中から呼び込もうと思い立ちました。そういった方々と一緒に持続可能なまちを作ることで、市民生活と観光の調和を図りたいと考えたんです。
金沢の観光においてSDGsを進める重要なプレイヤーである地元の観光事業者さんと「観光におけるSDGsの大切さ」についてのトークセッションや、「持続可能な観光にするためにどんなことをすればいいのか」のワークショップを通して、観光事業者と5つの方向性に沿ったアクションを決めました。
ー観光事業者が、「持続可能な観光にするため」具体的に何をすればいいかを伝える施策もされているのでしょうか?
國本さん:
観光事業者に「どのような活動、どのようなコンテンツを用意すればSDGs推進につながるかのアイデア」を公募型補助の形で募集しました。選ばれたものの中には、例えば、協同組合兼六園観光協会の「兼六園SDGsツーリズム推進プロジェクト」があります。自然環境や景観、歴史といったSDGsの視点で、兼六園を再編集するというものです。
ただ、こういった補助金を出しつづけることは持続可能とは言えませんよね。そのため、持続可能なSDGsの取り組みをしたいという流れから準備を進めてきたのが、「金沢SDGsツーリズム推奨制度(推進事業者認定)」です。
金沢の文化体験を提供したり地の物を取り扱ったりなど、SDGsにつながる観光の取り組みをしている事業者を認定します。基準は、国際認証のGSTC-I(観光事業者向け基準)を参考に、金沢の観光事業者と一緒に検討した金沢で取り組むべきアクションを紐づけた項目です。2022年度末に第1弾の2023年認定として、10者認定しました。
例えば、認定された三井ガーデンホテル金沢の取り組みは、お茶碗などが割れてしまった際に捨てずに金継ぎで埋めるというものです。金継ぎは金沢の伝統工芸の一つですが、なんと従業員自ら勉強して実践しているそうです。ただ、この取り組みは、これまでPRしていなかったためほとんど知られていませんでした。
だから、私たちが金沢ツーリズム推奨制度で実現したいことは、認定事業者さんを増やすだけではなくて、観光事業者さんの取り組みの見える化です。何をしたらいいかわからない観光事業者に、他の事業者の取り組みを見て「これならできる」「これならやってみたい」と思ってもらいたいですね。
金沢のSDGsの取り組みを知ってもらい市民の関心を高める
ーここまで伺ってきた取り組みを、市民の方々などにどのように発信されていますか?
國本さん:
金沢ミライシナリオや金沢SDGsツーリズム推奨制度の取り組みは、広く市民に知っていただきたいと思っています。ですから、新聞や雑誌、ホームページやFacebook、Twitterなど様々な媒体で周知を行っており、普及啓発イベントなども開催しています。
例えば、今年の2023年10月に開催したのが、KANAZAWA SDGs フェスタです。SDGsに関連する身近にあるものの展示や販売を通して、「これもSDGsなのか」と体感してもらっています。
また、今年は会場に天然芝を引き、居心地のよい空間を創出するとともに、会場内飲食の開始に際し、リユース食器を活用するなど、毎年様々なチャレンジをしています。
さらに、北陸SDGs未来都市フォーラムをこれまで2回開催しています。北陸は金沢市以外にも、SDGs未来都市の認定を受けてる都市が多いんです。そこで金沢市が声をかけ、SDGs未来都市の担当者やステークホルダーで集まり、双方の取組の見える化や一緒にできることを探しています。他には、共にSDGsの取組を進めてきた国連大学IAS OUIKとも連携し、国際的な発信の機会をできる限り設けています。昨年度はバリ協定とSDGsのシナジー会議のサイドイベントに金沢市長が登壇して金沢市の取り組みを発信しました。
ー今後の展望を教えてください。
國本さん:
金沢市は2020年にSDGs未来都市に選定されました。その計画期間は2022年度末までの3年間でしたが、昨年度末には今年度から2025年度までの第2期の未来都市計画も策定しました。ですから、引き続き5つの方向性に沿ったSDGsに関する取り組みに力を入れる予定です。
また、金沢市では「eモニター制度」という、モニターに登録した市民に市の施策についてお答えいただく制度があります。そちらを活用して、「SDGsという言葉の内容を知っているか」と質問したところ、2割の方が内容は知らないと回答しました。逆に言えば、8割の方が知っているということになります。SDGsについて最初にアンケートをした令和2年度には「SDGsの内容を知らない方」が約半数でしたのでだいぶ理解が進んでいますね。
そして最も重要な「日頃からSDGsを意識した行動をしていますか」という質問には、令和2年度にYESと回答した人が12.7%だったのに対して、今は半分以上の方がYESと答えています。さらに、「金沢がSDGsに積極的に取り組むまちであると感じている」割合も半分を超えました。
金沢のSDGsの取り組みをさらに進め、市民のSDGsに対する関心度もますます高めていきたいと思います。
ー貴重なお話をお聞かせいただきありがとうございました。