#インタビュー

金沢大学|キャンパス内外で人と”繋がる”ことでSDGsを体得できる大学

金沢大学 Mammadova Aida 准教授インタビュー

Aida Mammadova

She is Associate Professor at Organization of Global Affairs,
Kanazawa University, Japan. Before joining Kanazawa
University, she was working at United Nations University institute for the Advanced Study of Sustainability, Operating Unit Ishikawa Kanazawa. She is a member of UNESCO Mount Hakusan Biosphere Reserve Academic Committee and Hakusan Tedorigawa Geopark Promotion Council Committee. In 2019-2020, she was the winner of UNESCO’s Man and Biosphere Reserves Young Scientist Award. For the last three years, she has been conducted numerous environmental educational activities for youth inside UNESCO Biosphere Reserves, Geoparks and National Parks. Her main filed of research is environmental education towards sustainable development

金沢大学国際機構 准教授・学長補佐(国際渉外・SDGs担当)。金沢大学所属前は、国連大学 サステイナビリティ高等研究所いしかわ・かなざわオペレーティング・ユニット(OUIK)に勤務していた。白山ユネスコエコパーク学術部会員 であり、白山手取川ジオパーク推進協議会会員である。2019年、ユネスコの『Man and Biosphere Reserves Young Scientist Award』を受賞。過去3年で、ユネスコエコパークやジオパーク、国立公園で青少年のための環境教育活動を数多くおこなってきた。主な研究分野は、持続可能な開発のための環境教育である。

Introduction

約1万人の学生が学んでいる金沢大学。学部学科制ではなく学域学類制を採用しており、興味のあることを柔軟に学べる環境が魅力です。SDGs教育にも力を入れる金沢大学では、SDGsに関する授業はもちろん、合宿プログラムにも参加できます。

今回は、2022年度からSDGs担当学長補佐になられたMammadova Aida(ママードウア・アイーダ) 准教授にインタビューを行い、金沢大学で行われているSDGsの授業やプログラムの特徴、そして今後の展望について伺いました。

地域の保全活動から人と人との交流へステップアップ

-本日はよろしくお願いします。早速ですが、金沢大学ではいつ頃からSDGsに取り組むようになったのでしょうか?

Mammadova Aida 准教授:

SDGsに対する活動が本格的に始動したのは、国連によってSDGsが宣言された2015年からです。金沢大学では、後でお話しする能登のマイスタープログラムなど、2015年よりも以前から地域と連携して活動することはよくありましたが、連携の幅を行政や企業などにも広げ、SDGsについて学ぶ教育プログラムもスタートしました。

-連携の幅を広げようと思われたきっかけはありますか?

Mammadova Aida 准教授:

大学と関わりのある場所に「白山ユネスコエコパーク」があるのですが、周辺に集落を増やす目的で、ユネスコから移行地域(トランジションゾーン)に選ばれました。移行地域に認定されたことは、人と人との交流を考えるようになった要因のひとつになりました。

(小原集落での電気柵設置作業)

Mammadova Aida 准教授:

もともと、学生たちによって国立公園などの保全活動はよく行なわれていました。この保全活動に加えて、その地域の集落に住んでいる人々と学生たちが交流することができれば、新しい発見があるのではないかと考えたのです。

-ただ自然を守るだけではなく、そこに住む人々の生活と共存する道を探し始めたのですね。金沢大学では、SDGsについてどのような教育体制をとっているのでしょうか。

Mammadova Aida 准教授:

例えば、学域学類制の特徴を生かし、学生自身が幅広い分野の中から興味のあるゴールを基準に授業や研究室を選択できるようになっています。

自分がいつか解決したいゴールから授業を選ぶなんて、学生さんたちはSDGsへの興味・関心がとても高いのですね。

Mammadova Aida 准教授:

そうですね。大学を卒業してどんなところで働きたいか、それに向けて大学で学ぶべきことは何か、しっかりとしたビジョンを持っている学生が多いと思います。

年齢・国籍問わず大人気!金沢大学のSDGs合宿プログラム

Mammadova Aida 准教授:

金沢大学のSDGs教育では、合宿プログラムもとても人気があるんですよ。

-SDGsの合宿プログラムですか!どのようなことを学ぶのでしょうか。

Mammadova Aida 准教授:

2泊3日で石川県周辺でホームステイをしたり、ボランティアをしたりしながら学びます。集落に住んでいる方のお宅で物づくり体験をすることもありますよ。これまでに白山(はくさん)付近や、金沢や能登で開催しました。

(ロシア文化交流プログラム五箇山研修)
(白峰地区の祭りに参加する留学生)

-とても楽しそうですね。学生さんたちからも人気が高そうです。

Mammadova Aida 准教授:

学士・修士・博士など関係なく受講でき、留学生たちからも人気が高いですね。参加する理由も様々で、授業としてみなしている学生もいれば、国際交流や国連について学べれば単位や修了書は不要と考えている学生もいます。

-留学生の方からは、どういった理由で人気なのでしょうか?

Mammadova Aida 准教授:

留学生たちは、日本の現代的な文化よりも、昔の文化を知りたいと考えているため興味があるようです。

-確かに、普通に留学で日本を訪れただけでは田舎暮らしは体験しづらいかもしれません。ただ、留学生を受け入れる地域の方たちは、「外国の人が来た!」と身構えてしまいませんか?

Mammadova Aida 准教授:

最初はありましたね。特に白山は限界集落に近いところもあって、外国人が来ることはほとんどありませんでした。

-留学生を受け入れてもらうため、気を付けたことはありますか?

Mammadova Aida 准教授:

いきなり大人数で押し掛けるのではなく、徐々に人数を増やしていきました。最初は9人、次の年は15人、20人と徐々に増やしていったところ、今度は逆に「うちにホームステイしませんか?」「学生を派遣してもらえませんか?」と依頼されるようになりました。

-大学の働きかけと、学生の頑張りに心を動かされたんですね。

Mammadova Aida 准教授:

白山では、これまでに400名以上の留学生を受け入れてもらいましたが、留学生たちは帰国後も、お世話になった方とSNSで繋がっています。授業の成果のひとつだと感じて嬉しく思います。

(白山市長(下段中央)と記念撮影)

留学生はSDGsを社会問題、日本人は環境問題と捉えている

-留学生と日本人の学生の間で、何か差を感じることはありますか?

Mammadova Aida 准教授:

この数年で、日本でもかなりSDGsが浸透してきましたが、留学生の方がSDGsに興味があると感じます。また、SDGsと聞くと留学生は貧困やジェンダーなどの社会問題、日本人は環境問題だと考えていることが一番の差だと思います。

-確かに、私もSDGsに関わるまで、SDGsは環境問題だけを扱っていると思っていました。

Mammadova Aida 准教授:

そうですよね(笑)だから、留学生と日本人の学生が一緒になると、社会問題と環境問題をバランスよく話し合えて、活発な議論が生まれていると感じます。

キャンパスの外でも”繋がり”を大切にする精神が息づく

Mammadova Aida 准教授:

合宿以外でも、キャンパスの外で学ぶ機会はたくさんあります。白山ユネスコエコパークのある白山市の中に、白峰という地区があるのですが、学生が気軽に白峰へ行けるように、NPO法人白山しらみね自然学校と連携して空き家を借り、「金沢大学国際機構SDGsジオ・エコパーク研究センター」を作りました。

(金沢大学国際機構SDGsジオ・エコパーク研究センター)

Mammadova Aida 准教授:

また、能登にもたくさん研究施設があるので、学生たちは地域の方と連携しながら研究を行っています。

-合宿以外でも、学生たちは人との繋がりを大切にしているのですね。

Mammadova Aida 准教授:

はい。ボランティアも盛んで、学生団体もありますし、個人で活動している学生もいます。色んな活動が色んな場所で行われているので、大学をあげてSDGsに関する活動をまとめようと考えています。

-大学で把握しきれないほど、活動の数が増えたんですね。

Mammadova Aida 准教授:

そうなんです。キャンパスが自然豊かな場所にあって、近くに熊や狸が出ることもあるからか、キャンパスや周辺の環境を改善しようと考えている学生もたくさんいます。そうした学生も集まって、大学と地域のためにできることを、一丸となって取り組みたいと考えています。

社会人が無理なく学べる”能登里山里海SDGsマイスター”プログラムで能登にビジネスを生み出す

-金沢大学では、社会人向けの「能登里山里海SDGsマイスター」というプログラムがあるそうですね

Mammadova Aida 准教授:

はい。世界農業遺産でもある「能登の里山里海」を起点に、過疎高齢化といった問題を抱えた能登でのプログラムです。地域と行政と大学が一緒になり、地域を守りながらどのようなビジネスができるかを考えています。

-どのようなことが学べますか?

Mammadova Aida 准教授:

能登の里山里海の現状と課題、そして可能性を学び、最後は卒業研究として受講生が一人ずつ独自のテーマに取り組みます。約1年間、月2回の講義を受けていただきますが、地元企業や他の大学から講師を招くこともあります。

-修了者はどれくらいいますか?

Mammadova Aida 准教授:

マイスタープログラムはSDGsが始まる前の2007年からスタートしていますが、2021年度までに218名のマイスターが誕生しています。奥能登地域へ移住し、プログラムを修了した方のうち80%以上が奥能登で定着しています。東京などからUターンして参加する若い方もいるんですよ。

(能登里山里海SDGsマイスターの講義の様子)

-能登をよく知っている方、能登の外で育った方が一緒に学ぶことで、多様なビジネスが誕生しそうですね。

Mammadova Aida 准教授:

能登里山里海SDGsマイスターで培ったノウハウは、能登と同じく美しい棚田があることで知られる、フィリピンのイフガオにも発信し、意見交換もしています。

-同じような魅力を持った地域が、国境を越えて同じ課題について議論しているんですね。

Mammadova Aida 准教授:

産官学の連携は、SDGsにおける世界共通のキーワード

-日本で起こっている問題と、海外で起こっている問題で、似ていると感じることはありますか?

Mammadova Aida 准教授:

過疎化・高齢化・経済悪化・跡継ぎ問題は、世界中のどこにでもあると感じています。さらに共通しているのは、企業や研究機関も一緒になって課題に向き合うことで、良い方向に進む可能性が高いこと。ひとつの問題に対して、行政だけが動いてもうまくいきづらいですからね。

-様々な立場から意見を出し合って、最善策を考える必要があるんですね。

Mammadova Aida 准教授:

そうなんです。産学官連携で考えるのが、21世紀の新しい考え方だと思います。例えば大学がいくらアイデアを持っていても、行政や企業の協力がなければ、SDGsは達成できません。

-企業や行政と連携するときに、難しいと感じることはありませんか?

Mammadova Aida 准教授:

もちろん壁はありますが、少しずつ小さくなっていると思います。企業も行政も、SDGsの観点から見て問題があると思えば、やり方を変えようとしてくれます。

教育で全世代の「人の力」を引き上げ、皆で解決する

-産学官の連携以外で、持続可能な社会を作るために必要なことは何だと思いますか?

Mammadova Aida 准教授:

大切なのは「人の力」ですが、人には教育が必要です。人は悪いこともしますが、教育の力で良い方向へ導くことができます。とはいえ、教育は若者だけに必要なわけではありません。でも日本の大きな課題のひとつが高齢者問題なのに、SDGsには高齢者に関するゴール設定がありません。

-確かに、17あるSDGsの目標に「高齢者」の文字はありませんね。

Mammadova Aida 准教授:

白山や能登でも感じることですが、世界的な認定を受けている地域でも、人がいなければ意味がありません。伝統文化を継承するには、地域の方の力が欠かせないのですが、白山も能登も高齢者がとても多いんですよね。

高齢者の力が必要なのに、SDGsには高齢者問題が足りていないわけですね。

Mammadova Aida 准教授:

はい。高齢者は成長しなくても良いと考えるのは間違いです。どの年齢の人も世代を超えて、新しいことを一緒に学んで成長することが必要です。

Mammadova Aida 准教授:

大学が担う大きな役割は教育、そして研究で課題を探して、解決方法を考えることだと思います。研究して教育して行動に移す。この三つの流れを集落で、全ての世代に行うことが必要です。2030年の目標達成に向けて、残された時間は少ないですが、みんなで一緒に頑張っていきたいですね。

-どの世代でも、成長し続けることが必要なんですね。今日は貴重なお話しを聞かせていただき、ありがとうございました。

関連リンク

金沢大学HP:https://www.kanazawa-u.ac.jp/

能登里山里海SDGsマイスタープログラムHP:
https://www.crc.kanazawa-u.ac.jp/meister