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京浜急行電鉄株式会社|「移動」と「まちづくり」の側面から沿線地域の持続可能な暮らしを共につくる

京浜急行電鉄株式会社 経営戦略室 インタビュー

京浜急行電鉄株式会社

京浜急行電鉄株式会社 (以下 京急電鉄)は1898年(明治31年)2月25日 前身の大師電気鉄道㈱が創立し、1899年に縁日でにぎわう川崎大師への参詣客を輸送するものとして開業し今年で創立124年を迎える。現在営業キロ数87キロ、品川・羽田・横浜・三浦半島と色とりどりのロケーションを保有。京急グループは京急電鉄含めグループ会社47社,従業員数8,938人,交通事業、不動産事業、レジャー・サービス事業、流通事業、その他の事業を展開している。「都市生活を支える事業を通して、新しい価値を創造し、社会の発展に貢献する」というグループ理念のもと2035年に目指す将来像として「日本全国、そして世界とつながり、日本発展の原動力である品川・羽田・横浜を成長トライアングルゾーンと位置付け、国内外の多くの人々の生活と交流を支え、持続的に発展する豊かな沿線を実現する」という長期ビジョンの実現を目指している。

introduction

交通の要所である「品川・羽田」や産業を支え発展を遂げる「横浜・川崎」、豊かな自然に恵まれる「三浦半島」など、陸・海・空の玄関口と人の流れをつなぐ京浜急行電鉄株式会社。鉄道を中心とした移動サービスをはじめ、不動産事業、ホテル、百貨店・ストアなどの事業展開で、沿線地域の暮らしを支えています。2021年5月には、エリア戦略、事業戦略、コーポレートサステナブル戦略の3本柱からなる、長期経営計画を発表。今回は、同社の長期ビジョンである「持続的な沿線地域の発展」に向けた取り組みについてお伺いしました。

品川・羽田・横浜を起点に人々の⽣活と交流を⽀え、持続的に発展する豊かな沿線を実現する

–経営の根幹に「サステナビリティ」を据えている理由について教えてください。

経営戦略室:

品川・羽田・横浜など交通の結節点を走る当社の沿線は、沿線住民だけではなく、通勤利用者、空港利用者・観光客など、国内外の様々な方に利用されています。私たちは公共交通を核とする企業グループとして、沿線地域と共生することを大前提として取り組んできました。

今後も人々の生活と交流を支えるサービスを提供することが、沿線地域と当社の持続的発展につながると考え、サステナビリティを経営の柱の一つとすべく、経営計画においてコーポレートサステナブル戦略を掲げています。

さらに、グループ理念の持続的な実現が社会と京急グループの持続的発展につながるという考えのもと、サステナビリティを巡る課題へより積極的に対応するために、2022年4月にサステナビリティ基本方針を策定しました。

新型コロナウイルスの影響で、当社の事業環境は一変いたしました。当社グループの強みであった羽田空港の航空旅客・インバウンド需要の減少、外出自粛やテレワークといったワークスタイルの変化による旅客の減少など、創業120年余の歴史の中で最大級の変化の波にさらされています。

しかし、コロナ渦で加速した新たな生活様式や価値観が浸透していく過程では、都心から郊外への住み替えをする人やワーケーションにトライする人が増えたり、マイクロツーリズムがさらなる活況を見せたりなど、新たなニーズを掴む機会でもあると捉えています。

時代の変化に適合した事業を進めていく中で、成長トライアングルゾーンと位置付けた品川・羽田・横浜を起点に、持続可能な地域との共生の実現に向けて、全社で取り組んでいます。

–成長トライアングルゾーンではどのような開発が進められているのでしょうか。

経営戦略室:

当社は品川駅において、京急線の発着だけではなく、ホテルやオフィス、商業施設など、さまざまな事業を展開しております。さらに品川駅は、リニア中央新幹線の開業を控えており、当社の陸海空をつなぐ交通結節点としての役割がますます期待されています。

そのような背景から、現在、品川駅周辺開発事業を進めています。品川駅周辺開発事業は、主に「高輪3丁目地区」、「高輪4丁目地区」、「駅街区」の3つの地区に分かれますが、行政や他の民間企業などと連携しながら、まずは、高輪3丁目地区において2026年度の竣工を目指しています。また、利便性向上等を目的とした品川駅の地平化も推進中であり、まさに、「これからの日本の成長を牽引する国際交流拠点」として、品川駅は進化を遂げる予定です。

羽田空港周辺エリアにおいては、新型コロナウイルスの影響を受け、空港線利用者が減少しておりましたが、国内線の回復傾向や政府による入国上限撤廃に向けた動き等、国際線も含めて明るい兆しも出ているため,当社としては引き続き、羽田空港利用者のニーズを充足させてエリアの活性化を図ってまいります。

他にも、横浜エリアでのみなとみらい21中央地区53街区開発事業(横浜シンフォステージ)、横浜市旧市庁舎街区等活用事業や、「都市近郊リゾートみうらの創生」に向けた三浦半島エリアにおけるエリアマネジメントの強化なども推進しています。

成長トライアングルゾーンを中心に、地域事業者や住民、自治体、教育機関等と連携し、地域の個性を活かしながら、利用者に「暮らしたい、働きたい、訪れたい」と思ってもらえるようなまちづくりを推進していきます。

地域の事業者と一緒にエリアの価値を高めていく「新しいまちづくり」

都心での開発に加えて、海や山など豊かな観光資源を持つ「三浦半島」での取り組みも進めているのですね。こちらは、どのようなエリアマネジメントが推進されているのでしょうか。

経営戦略室:

三浦半島は、豊かな自然や歴史と文化に育まれた多彩な資源を有しており、「都心から1時間のマリンリゾート」として他の地域にはないポテンシャルを有している地域です。

しかし、都心からのアクセスの良さから、日帰り観光がメインとなっており、滞在時間の短さや、滞在中の消費額の少なさが観光の課題です。そこで、当社では「都市近郊リゾートみうらの創生」に向けた三浦半島のエリアマネジメントを強化し、地域事業者と一体でエリアの価値を高める活動を推進しています。

具体的には、2020年から「三浦COCOON」として観光型MaaS※プラットフォームを構築しています。

MaaS

MaaS(マース:Mobility as a Service)とは、地域住民や旅行者一人一人のトリップ単位での移動ニーズに対応して、複数の公共交通やそれ以外の移動サービスを最適に組み合わせて検索・予約・決済等を一括で行うサービスであり、観光や医療等の目的地における交通以外のサービス等との連携により、移動の利便性向上や地域の課題解決にも資する重要な手段となるものです。

引用元:国土交通省「日本版MaaSの推進」

その一環で当社としては、新しいレンタルモビリティ「my-mo(ミューモ)」を展開しています。これは、1人乗りの超小型BEVカー「COMS(コムス)」を使ったサービスで、CO2排出量が少なく、小回りが利くので運転が得意でない方も気軽に利用できるものになっています。

さらには当社が中心となり、地域が抱える課題に共に取り組むためのコミュニティ「COCOONファミリー」を形成しました。現在、三浦半島地域の観光事業者や自治体、サポート企業など、約140団体(2022年8月時点)に参加いただいています。

MaaSプラットフォームの整備とともにCOCOONファミリーの方々と協力しながら、WEBサイト「三浦COCOON」を情報のハブに、当日の移動手段を含めて三浦半島での「あたらしいすごしかた」を提案し、予約から決済までワンストップでの観光体験を提供しています。

他にも当社では、沿線自治体との連携のもと、三浦・三崎、横須賀、逗子・葉山それぞれのエリアを楽しんでいただけるよう電車・バスの乗車券と、加盟店舗から好きなお店を選んで食事ができる「お食事券」、レジャー施設やお土産店で使える「施設利用orお土産券」がセットになったおトクなきっぷをを発売し、持続的な誘客促進、沿線エリアの魅力訴求に努めております。

ご利用いただくことでたくさんの方に三浦半島の魅力を感じていただけたらと考えています。

今後は三浦半島だけではなく、こうした地域連携の仕組みを沿線全体に拡大することで、地域特性に応じたまちの魅力向上に取り組んでいきたいと思います。

豊かな自然を守るために、鉄道事業者としてできること

–沿線地域の自然環境を守るためにどのような取り組みをしていますか。

経営戦略室:

当社の沿線は主に海沿いにありますので、特に、SDGs14「海の豊かさを守ろう」の達成に向けた取り組みの推進をしております。継続的なビーチクリーン活動や、プラスチックゴミ削減に向けたマイバッグの利用促進、グループ全社での生分解性素材のストローの導入など、足元で取り組めることから始めています。

また、三浦市にある、「小網代の森」の自然環境保全にも協力をしております。「小網代の森」は自然のままの水系が残され、希少類を含む貴重な生態系が形成されるなど「関東で唯一の自然環境」とも言われており、このような美しい自然環境を地域のかけがえのない財産として守っていくことも、当社の使命であると考えております。

2019年開催のビーチクリーンの様子

また、気候変動問題に対しても、省エネ・創エネ・再エネなど様々な手段を持ってCO2削減に取り組んでいます。鉄道の輸送量あたりのCO2排出量は、自家用乗用車の約7分の1と言われています。鉄道は環境負荷が小さく環境にやさしい乗り物であることから、「ノルエコ」と称してお出かけの際の公共交通機関の利用を推進してきました。

また、「気候変動への対応」を重要課題と認識し、2021年11月にTCFD提言への賛同を行うとともに、グループの長期環境目標として「京急グループ2050年カーボンニュートラル」を掲げました。

空港線における鉄道運行や、一部駅の改札や券売機で使用する電力を再生可能エネルギー由来の電力に切り替えたほか、京急グループ本社の電力を水力発電由来のものに変えるなど、取り組みを進めています。

様々なステークホルダーに対して、情報開示を拡充していく

–情報開示で工夫されている点について教えてください。

経営戦略室:

発信を続けていかないと、ステークホルダーからの応援・共感は得られません。できる限り開示は充実させていくよう、努力をするというのが当社のスタンスです。

広報活動でも様々な企業と連携し、発信の相乗効果を生み出せるように工夫しています。昨年は、移動者が街から空港へ・空港から大空へ・そして目的地へと、そのすべてをサステナブル、そしてクリーンなエネルギーで旅することを目指して、日本航空・日本空港ビルデング・当社の三者それぞれにおける環境負荷低減への取り組みを「サステナブルな空旅」としてPRをいたしました。

また、コーポレートとしての開示の充実にも力を入れています。グループ全社のサステナビリティに向けた取り組みが集約されるサステナビリティページを公式HP内に新設したほか、これまで発行していたCSR報告書から、より当社の価値向上のプロセスを訴求することを目指し統合報告書を2021年度より新たに発行しました。

そして、様々なステークホルダーとのエンゲージメントにも取り組んでいます。近年、ESGに対して機関投資家の関心がますます高まっていることから、例年開催しているESGスモールミーティングへ昨年度は社外取締役も参加しております。

持続的発展につながる都市生活を一緒に作っていく

–これから強化していきたい点など、今後の展望があればご教示ください。

経営戦略室:

地域に密着しながら、沿線に住んでいる暮らしを豊かにしていくということが、当社の使命だと思います。それはまさにサステナビリティに関する考え方と一致しています。そのような社会的な役割を認識しながら、当社グループが持続的に成長していき、企業価値も同時に高めていくというゴールを見据えて、全社で取り組みを進めていきたいです。

Z世代と言われるこれからの時代を担う方々は、特にサステナビリティやエシカル消費といったキーワードへのアンテナが高いと認識をしており、当社の取り組みに共感いただけるよう努めていきたいと考えています。

公共交通機関によるモーダルシフトの推進が社会の環境負荷低減にもつながります。そして、小さな取り組みの積み重ねが大きな希望につながります。地球環境の未来や自然を守り、ステークホルダーの皆さまと持続的発展につながる都市生活を一緒に創っていきたいと考えています。

関連リンク

KEIKYU WEB サステナビリティページ:https://www.keikyu.co.jp/company/csr/

三浦COCOON:https://miuracocoon.com