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人類の平和を守るフォートレス(要塞)たれ!SDGsに通じる創価大学が目指す「世界市民教育」とは

創価大学 副学長 田中亮平さんインタビュー

田中 亮平(タナカリョウヘイ)

創価大学副学長  1953年生まれ。出身大学および大学院は東京大学文学部(1977年卒業)・東京大学大学院人文科学研究科。岡山大学(1980年-1985年)を経て、現在は創価大学文学部人間学科教授。専門はドイツ文学。

introduction

「価値の創造」を意味する「創価」。

東京都八王子市にある創価大学では、中長期計画「Soka University Grand Design 2021-2030」においてSDGsを柱の一つに位置付け、国内外で幅広く活動を展開しています。

創価大学がSDGsの活動を推進する理由。その根底には、創価大学が大切にする「世界市民教育」という教育方針が関係しています。

今回は、SDGs推進センター長  田中教授をお迎えし、創価大学が創立当初から大切にする教育方針と、SDGsに懸ける想いを伺いました。

SDGsを柱に据えることで「価値創造を実践する世界市民の育成」を目指す

–創価大学ではSDGsに対してどのように向き合われていますか?

田中さん:

創価大学では、2019年4月にSDGs推進センターを設け、SDGsの「誰も置き去りにしない」という精神のもと、SDGsの達成に向けた教育・研究・社会貢献を進めています。

本学の中長期計画「Soka University Grand Design 2021-2030」の中でも、SDGsを戦略の柱の1つとして設定し、様々な取り組みを行っています。

–「Soka University Grand Design 2021-2030」はどのような計画なのでしょう?

田中さん:

「価値創造を実践する『世界市民』を育む大学」をヴィジョンに、「教育」「研究」「SDGs」「ダイバーシティ」の4つを重点戦略として掲げたものです。

これらを遂行するため、キャンパス整備などハードの部分に当たる経営基盤の構築も目指しています。

<Soka University Grand Design 2021-2030 4つの重点戦略 画像提供:創価大学>

SDGsに関しては、全学的なSDGsの推進や、SDGsに貢献する人材の育成、国連諸機関との連携、社会や地域と連携したSDGs活動、サステナブルなキャンパスに向けた取り組みなどを掲げています。大学内に限定せず、国内外の関連各所と連携し、幅広い分野で取り組みを行っています。

–Soka University Grand Designを策定された理由を教えてください。

田中さん:

創価大学が建学の理念をもとに、将来的にどういう方向を目指していて、そのためにどのような人材を育成しようとしているのかを明確に示したかったからです。そうすることで、ステークホルダーの皆さまに本学の将来像を理解していただき、ご協力やご支援をいただくことができると考えました。さらに本学に入学することを検討してくださっている学生さんや保護者の方々にも必要な情報を提供できると思いました。

Grand Designは10年ごとに発表しており、前回は2021年の創立50周年を目指して2010年に策定しました。そこでは、創価大学を設立した際の精神に基づいた目標「創造的人間を育成する大学」というテーマを掲げました。

2030年を達成年度とする今回の2021-2030年度版では、「価値創造を実践する『世界市民』を育む大学」という目標を掲げ、SDGsを加えるなどアップデートして取り組んでいます。

–「創造的人間の育成」が、創価大学の大切なテーマになっているのですね。

田中さん:

そうですね。前回のGrand Designの目標であった「創造的人間」は、「知力」「人間力」を基礎としていました。この2つを合わせて「自分力」として、全ての学生がこの「自分力」を発見できる大学を目指しました。

今回は「創造的人間」を発展的普遍化し、「世界市民」として展開しました。

廃棄物を独自の技術で再生し、発展途上国の経済や環境を守る

–Soka University Grand DesignにSDGsが盛り込まれてから、具体的にどのような取り組みを行っていますか?

田中さん:

これは以前から続けていることですが、世界の各地で廃棄物や不要とされているものに着目し、これを価値のあるものに変えることで、現地の課題を解決する取り組みを行ってきました。

例えばアフリカのエチオピア最大のタナ湖という湖で実施しているプロジェクトがあります。ここでは水質の悪化が原因で、外来種の水草・ホテイアオイの過剰繁茂が深刻な問題となっています。

<タナ湖に過剰繁茂したホテイアオイ 画像提供:創価大学>

湖の沿岸部の水面を覆い尽くすほどになったホテイアオイはとても厄介です。

船が動かせず漁業ができなくなり、水中に光が届かなくなることで生態系に影響を及ぼし、経済発展と環境保護の足かせとなっています。

そこでこのプロジェクトでは、ホテイアオイを回収して有価物に変えるシステム作りに取り組んでいます。回収した大量のホテイアオイを、まず圧搾して液体と固体に分離します。液体の方は発酵させてメタンガスと栄養塩を取り出します。メタンガスはエネルギーとして役立てられますが、栄養塩の方はプランクトンの一種で、スーパーフードと呼ばれるきわめて栄養価の高い微細藻類のスピルリナの培養に使用します。

<スピルリナ> 
スピルリナとは

タンパク質と栄養素が豊富で、栄養補助食品として便利な食品。NASAでは宇宙食としての開発も進められています。

培養されたスピルリナはクッキーなどのお菓子や、栄養補助食品として現地での製品化を進め、現地の人々の栄養改善に貢献します。試作品を頂きましたが、なかなか美味しかったですよ。

一方、固体の方は炭化してバイオ炭として活用し、畑に撒いて土壌改良や作物増収に役立てています。

<回収したホテイアオイから有価物を生産するプロセス 画像提供:創価大学>

–発想がとても豊かですね!ところで、なぜ途上国の課題に着目されたのでしょうか。

田中さん:

このプロジェクトの基礎は本学のプランクトン工学研究にあります。その研究成果を生かして世界で起きている問題の解決のために役立てることを目指しました。さらに、こうした理工系の技術にとどまらず、途上国の人々が教育によって技術を身につけ、自ら有価物を生み出して経済発展に寄与する人材となることも大切です。悩みの種であったホテイアオイが、エネルギー源や栄養補助食品に生まれ変わることで、飢餓問題の解決や製品化による雇用創出にも繋がるわけです。

こうしてこのプロジェクトは、質の高い教育、経済発展、環境保護など、SDGsのいくつもの目標をカバーするものとなっています。そのために文系学部の力も結集した文理融合型の全学的プロジェクトとなっています。

–廃棄物を価値あるものに変える、という技術はさまざまな地域で活用できそうですね。国内での取り組み例もありますか?

田中さん:

国内の例としては、理工学部共生創造理工学科の丸田研究室で、国産米の廃棄物を用いて地域経済活性化を行っています。

創価大学が位置する八王子では、特産品である「高月清流米」というお米を生産しています。このお米は地酒を製造するために栽培されているのですが、お酒を作るために必要な部分はお米の内側のみで、表皮に近い40〜50%は削り取られます。削られた部分の米粉を何とか活用できないかと考え、廃棄されていた部分から米粉パンを作りました。

他には、米粉デンプンの力を利用した、「食べられるスプーン」「バイオプラスチック」など、プラスチックの代替となる製品も開発し、プラスチックゴミ問題や食品ロスの改善に取り組んでいます。

<画像提供:創価大学>
<画像提供:創価大学>

「食べられるスプーン」とは斬新ですね!実際に関わった方などの反応はいかがですか?

田中さん:

多方面から高い評価を頂いています。

東京都環境局主催のオンラインイベント「Let‘s 使い捨てプラ・食品ロス削減 Good For Earth~少しいいことはじめよう~」で発表する機会があり、「生物由来の素材を使う素晴らしい取り組み」と、嬉しいお声を頂戴しました。

実際に農家の方々や精米工場にプロジェクトの話を持ちかけた際も、「これは面白い取り組みですね!ぜひやりましょう!」と、とても協力的になっていただけました。

大学と地域が一体となって取り組めるため、学生たちも楽しんで取り組んでいますし、地域貢献できることに誇りと喜びを感じています。

専門家と学生が「対話」することで、新たな気づきが生まれる

–この他に、大学ではSDGsについてどのような活動をされていますか。

田中さん:

専門家や企業の方々、国際機関の方々など、SDGsについて専門的な知識をお持ちの方々を招いて学生たちと語り合う「ネットワーキング会合」という意見交換会を行っています。

<ネットワーキング会合の様子 画像提供:創価大学>

–どのようなトピックについて語り合うのでしょう?

田中さん:

資源循環型社会形成、再生可能エネルギ―率向上、環境問題と経営、難民問題の4つのグループに分けて行いました。

例えば気候変動について。気候変動が起きる要因の一つに地球温暖化があります。

ではなぜ温暖化が起きるかというと、石油や石炭を燃やすことで発生する温室効果ガスの大量排出にたどり着きます。

石油石炭の代わりとして注目されているのが再生可能エネルギーですが、代表的なもので太陽光パネルがありますよね。そのパネルの効果的な使い方や廃棄する際の正しい方法などを勉強します。

再生可能エネルギーのメリットは調べれば理解できるものですが、正しい廃棄方法などはやはり専門知識をお持ちの方々から学んでこそ知り得るものだと思います。

–学生さんや専門家の方々の反応はいかがでしたか?

田中さん:

「とても勉強になった」「自分達の活動を見直すきっかけとなった」と、とてもポジティブに捉えてくれています。

学生たちは、世界で起きている問題について非常に強い関心を持っています。第一線で活躍されている方々のアドバイスをもらえることで触発され、より情熱を持って進めていきたいと意気込んでいるようです。

ご参加いただいた専門家の方々からは、「普段接する機会の少ない学生さんのリアルな意見を聞けることは非常に有意義な時間だ」という嬉しいお声を頂戴しています。

学生ならではの豊かな発想力に感銘を受けたともおっしゃっていただきました。

–普段の生活の中でなかなか関わることのない方と対話することで、得られる学びや発見が非常に多いということが伝わってきますね。

相手を理解し、課題解決へ向け力を尽くす人材を輩出したい

–ここまで伺ってきた中で、創価大学は新たな価値を生み出すことを大切にされていると感じました。どのような理念のもと教育を進められているのですか。

田中さん:

創価大学の目指す教育として、今回のGrand Designでは「世界市民教育」を掲げています。

世界市民とは、「勇気・慈悲・知恵」の3つを兼ね備えた人材を意味します。

1つ目に、勇気。人は、自分と違う考え方を遠ざける傾向が有るかと思います。しかし、多様性を尊重し、相手を理解することで自分の成長につなげる、こうした力は自らの壁を破る力、勇気とも言えます。

続いて慈悲。こちらは他者の苦しみに共感し、その解決に尽力するということですが、ここで重要なのは、実際に会うことのない地球の裏側にいる人たちの苦しみにも共感できる想像力です。これを慈悲との概念で表現しています。

そして、こうした人格を持ち合わせるための知恵。人類全体がひとつであると認識することから、上の勇気や慈悲も生まれます。このように認識できる人材を知恵の人と言います

この3つを備えた人材を世界市民と意味づけており、そうした人材を輩出していきたいというのが創価大学の願いです。

–世界市民教育の考え方と、SDGsの考え方は非常に似たものがありますね。

田中さん:

そうですね。創立者池田大作先生が、本学が目指すべき姿として1971年に示した指針が土台となっています。

それは、「英知を磨くは何のため、君よそれを忘るるな」と「労苦と使命の中にのみ人生の価値(たから)は生まれる」というものです。

これらは全て、全て本学のミッションである、「建学の精神」に基づいています。

<画像提供:創価大学>

建学の精神とは、

・人間教育の最高学府たれ

Be the highest seat of learning for humanistic education

・新しき大文化建設の揺籃たれ

Be the cradle of a new culture

・人類の平和を守るフォートレス(要塞)たれ

Be a fortress for the peace of humankind

から成り立っています。

<建学の碑 画像提供:創価大学>

世界で起きている問題は時代と共に刻々と変化します。

本学の価値創造教育の根本は、自身にも他者にも大きな可能性があることを知ること、すなわち Discover your potential にあると言えます。「誰にでも無限の可能性がある」という認識から人類の一体性への感覚が生じ、勇気・慈悲・知恵も世界市民教育も、そこから生まれるのだと思います。世界中のどこにいるどんな人も、大きな可能性をもつ存在であるという信念から、世界市民性が生まれ、世界で起きていることを自分ごととして気にかけられるようになる。

これが、世界市民教育の根本であり、創価大学の使命です。

2030年の目標達成へ向け、確実に・柔軟に邁進していく

–Soka University Grand Designと創価大学の今後の展望を教えてください。

田中さん:

Grand Designについては、2030年を区切りとしています。今掲げている目標を一年ごとに確実に達成する仕組みを整えていき、最終的には全ての目標達成につなげていきたいです。また前回もそうでしたが、途中で時代の変化に応じたアップデートの必要が生じるかもしれません。

創価大学の今後の目標としては、2014年に文部科学省から採択された「スーパーグローバル大学創成支援」の事業が2023年に終了することから、事業の成果を継続する自走化の取り組みを進めていきます。

もう一つは、教育のデジタル化です。実はコロナの影響によって教育のデジタル化は急速に進みました。オンラインによる授業の拡大は代表的な例です。その一方で、コロナのために学生の派遣や受け入れは大きく制限されてしまいました。こうした制限の中でも、オンラインを使った語学研修を実施するなど、グローバル化の歩みを止めない努力を続けてきました。

今後はさらに、関西大学の「国際協働オンライン学習プログラム(COIL)」や広島大学の教育効果測定ツール「BEVI-J」などの各種プロジェクトなど、国内外の大学とも連携しつつ、スーパーグローバル大学の一員として日本の大学のグローバル化をけん引する使命を果たしていきたいと考えています。

–創価大学の今後のご活躍を期待しています!本日は大変勉強になりました。ありがとうございました。

関連リンク

創価大学 公式サイト : https://www.soka.ac.jp/

創価大学 SDGs推進センター  :  https://www.soka.ac.jp/about/sdgs