#インタビュー

慶應義塾大学|「塾生会議」で多角的・総合的にSDGsを解決できる人材を育成したい

慶應義塾 常任理事 岡田さん インタビュー

岡田 英史(おかだ えいじ)

1986年慶應義塾大学理工学部卒業。1990年同大学院博士課程修了(工学博士)。日本学術振興会特別研究員を経て1991年慶應義塾大学理工学部助手。専任講師、助教授を経て2006年同教授。2019年理工学部長・理工学研究科委員長。2021年慶應義塾常任理事。専門は生体医用光工学、光・画像計測工学。

Introduction

明治初期、激動の日本において「学問のすゝめ」を著し、新しい価値観を示した福澤諭吉。その福澤諭吉が創設した慶應義塾は、SDGsにおいても先駆的に取り組んでいます。環境破壊や貧困問題などさまざまな課題が山積する現代において、学生がSDGsに取り組む意義やそれをサポートする大学の教育方針について、岡田常任理事に話を伺いました。

SDGsの先駆者・蟹江教授と未来を語らう「2022塾生会議」

–慶應義塾大学のSDGs活動に関して、特長的なポイントはありますか。

岡田さん:

学内でのSDGsに関連する活動は、実は、SDGsという言葉が広く一般に知られるようになる何年も前から、学内のさまざまなキャンパスで、また、研究・教育・医療活動を通じて、活発に行われて来ました。慶應義塾大学では、そのようなSDGs関連の活動をグローバル本部が集約し、2019年からTimes Higher Education (THE:タイムズ・ハイヤー・エデュケーション)が開始した大学のSDGsの達成度による社会貢献度(インパクト)を測る、世界大学ランキング、「THEインパクトランキング」に参加しています。そして、今年の「THEインパクトランキング2022」において、慶應義塾大学は、日本の参加大学の中では3番目の順位に入り、私立大学では1位の評価を頂きました。今回のインパクトランキングには、世界106の国や地域から1,406機関(大学)が参加しており、世界総合ランキングでは101-200位に入りました。

また、本学には、SDGsの先駆者とも言える蟹江憲史教授が、大学院政策・メディア研究科に在籍しています。

蟹江教授は、国際連合大学サステイナビリティ高等研究所(UNU-IAS)やパリ政治学院(Sciences Po)、持続可能な開発と国際関係研究所(IDDRI)などに勤務経験があり、持続可能な開発目標の策定メンバーの1人です。

SDGs研究における第一人者である蟹江教授が教鞭を取っていることで、学内でもSDGsへの関心が高まったのは事実だと思います。

写真提供:慶應義塾大学

–インパクトランキングでは、どのような点が評価されたのでしょうか?

岡田さん:

THEインパクトランキングの点数は、「研究力」「大学としてのポリシー」「具体的な活動事例」「活動の継続性・ネットワーク」などの項目別に評価されたものを元にしています。

17のゴールのうち、6つが世界100位以内にランクインしたのですが、ゴール1「貧困をなくそう」49位、ゴール6「安全な水とトイレを世界中に」41位、ゴール11「住み続けられるまちづくりを」87位、ゴール15「陸の豊かさも守ろう」98位、ゴール16「平和と公正をすべての人に」16位、ゴール17「パートナーシップで目標を達成しよう」が94位です。このように、評価の高い分野は、多岐にわたっています。内容を分析してみると、各項目の中でも「活動の継続性・ネットワーク」において、高い評価をいただいたように感じますね。

活動の継続性・ネットワークが評価を得た事例で言えば、ゴール17が挙げられます。このゴールでは、パートナーシップによる地域や社会への還元が重視されます。本学では、医療・教育・法律・行政などの各分野において、医師・薬剤師・看護師、教員・研究者、弁護士・裁判官などの法曹人材、国や地方の公務員などを輩出しています。財界で活躍する卒業生も数多くいます。本学の卒業生ネットワークがつながりを産み、地域や社会に貢献していること、また、寄付講座などSDGsに関する多様な教育への取り組みが高く評価されたのだと思います。

慶應義塾大学の場合、インパクトランキングでは、なにかひとつの事例が評価されて大きな得点源になっているわけではありません。

その点からも、本学の強みは、パートナーシップによる目標達成のイニシアティブが取れること、つまり、さまざまな人と交わることで力を合わせて総合的に問題を解決していく能力だと改めて実感しましたね。

–具体的に、どのような活動を行っているのでしょうか。

岡田さん:

大学を運営する立場として、学生をSDGs活動へとモチベートするために「2022塾生会議」というディスカッション・プロジェクトを展開しています。

「塾生会議」とは、本学の全学部から選抜された学生が集まり、SDGsを達成するための目標やターゲットを考える場です。この会議のねらいは、学生にSDGsを身近なものととらえてもらうことです。スーパーバイザーに、蟹江教授と国谷裕子特任教授を迎えて開催しました。

型にはまらない方法で参加者を選定し、惜しみなく知恵を提供する

2022年塾生会議では、どのような学生たちがディスカッションをするのですか?

岡田さん:

塾生会議の定員100名のうち、半数は公募で、残りの半数は、新入生の中から大学側がランダムに選出しました。

政策に市民の声を取り入れることを目的に、無作為抽選で選ばれた市民を参加させた「フランスの気候市民会議※」のように、学部や入学方式、地域、男女比などバランスをとったうえで無作為に選びました。

定員をはるかに超える約150名からの応募があったんですよ。

フランスの気候市民会議とは

2019年10月4日、フランスで開催された気候変動対策に関する市民会議。黄色いベスト運動を背景に、市民の政策参画を求める要望を背景に誕生した。この会議の目的は、社会的公平を守りつつ、2030年までにGHG排出を40%減らすための政策提言をまとめ、大統領に届けること。会議のメンバー150名は電話番号をもとにくじ引きで無作為に選ばれた。そのユニークで民主的な手法は世界の注目を浴び、現在世界中で開催されている。

–学生たちの、SDGsに関する意識の高さを感じられますね。新入生がいきなり参加するのは緊張してしまいませんか?

岡田さん:

知識の量によって発言の機会に差が出たり、せっかくのアイディアが埋もれてしまわないように、塾生会議のメンバーは、春学期に専門家によるレクチャーを受けます。

「環境」「社会」「経済」など、多角的な視点からSDGsについて理解を深めることで、新入生でも先輩たちと同等の理解に基づいた発言ができるようになります。

慶應義塾大学の学生に限らず、広く学生たちの理解に繋げて欲しいと考えていますので、講義の内容は動画配信サイトでも公開しているんですよ。

※動画はこちらから確認できます。

その上で、秋学期には分科会に分かれてディスカッションを行います。SDGsを実現するための慶應義塾のビジョン・目標・ターゲットを取りまとめて、12月に伊藤塾長に提言することがゴールです。次年度以降も、メンバーを一部入れ替えて継続する予定です。

学年・学部を越え、横断的なディスカッションで主体性を育む

学生がSDGsに取り組む意義は何でしょうか?

岡田さん:

現代は、どの仕事に従事するにしてもSDGsの視点が不可欠なため、世界の諸問題を多角的・総合的に把握する力が必要になると考えています。

人類や環境に関わる諸問題は、それぞれが独立して存在しているのではなく、複合的に関連していますからね。

そのため、この会議への参加を通じて「横断的な視野を養い」「目標を設定するだけでなく、アクションまで繋げる」意識を持って欲しいと考えています。「身近で卒業までに実現できそうな」提言をし、それがアクションにまでつながる醍醐味を味わってくれたら嬉しいですね。

塾生会議で学部を超えて議論したことは、必ず将来役に立つと確信しています。

本学は文系学部の学生が多いのですが、本学の自然科学研究教育センターが中心となって、文系学生を対象とした自然科学教育の取り組みをしてきました。SDGsに取り組むには科学的な視点が必要なため、塾生会議には同センターが全面的に協力しています。

さらに8月末には、多角的・総合的な視野を養うために、2022年塾生会議では日吉キャンパスで、小学生から大学生までが一堂に集う「慶應義塾SDGs会議ーサマーキャンプ」を開催したんですよ。

–サマーキャンプではどのようなことを行ったのですか?

岡田さん:

このキャンプでは、塾生会議の参加者などの大学生と、慶應義塾の一貫教育校の児童・生徒、約100名が集まり、ターゲット別に5~8名のグループに分かれます。そして、SDGsを軸に慶應義塾の目指す姿をみんなでブレインストーミングしました。

写真提供:慶應義塾大学

メンバーからは「慶應義塾の一貫教育校をアフリカに2050年までに5校設立したい」「学内のトイレの温水便座の蓋をきちんと閉めることで電力をどのくらい削減できるか」など、スケールの大きな案から身近なことまで、私たち教員がなかなか思いつかないアイディアが出てきて面白かったですね。

学年も学部も超えて意見交換することは、塾生会議のメンバーにとっても大きな刺激になったようです。

–小学生も大学生も、年齢や属性にとらわれず、とても積極的に意見を出し合っている様子がお写真からも伝わってきますね。

岡田さん:

そのように感じて頂けるのは非常に幸いです。学生の中には、SDGs活動の中でリサーチクエスチョンを得て、自分のテーマに合った研究室の門を叩き、本格的に研究の道に進む学生もいるんですよ。そういった意味では、大学でのSDGs活動は研究の前段階とも言えますよね。

本学では、学生たちに、「まず自主的に考え、自律的に行動して欲しい」と教えるようにしています。誰かに指示されるのではなく、世界の問題に自分自身の目で気づき、目標を立て、計画し、行動する。学生一人一人がこの理念と行動力を身につけて、誇りを持って世界へ羽ばたいてほしいと願っているのです。

創立者・福澤諭吉の建学の精神がSDGsへとつながっている

–横断的な視野を持ち、積極的に課題解決へ向けて行動するという教育方針は、慶應義塾大学のルーツにも通じる部分があるのでしょうか。

岡田さん:

そうですね。SDGsは本学の創設者、福澤諭吉の教えにも通じる部分があると思っています。

福澤は、皆さんもご存知のように、江戸幕府が倒れて日本が近代化に向かう明治時代に、人間の自由と平等、権利について「天は人の上に人を造らず、人の下に人を造らず」と言われていることを西洋から紹介しました。この教えは、SDGsの理念そのものとも言えるでしょう。

そしてさらには、「独立自尊」を体現し、慣習に囚われず、大胆な発想と行動力の持ち主だったとも伝えられています。

福澤のように、慶應義塾大学という学び舎を巣立った学生の行動が、結果的に世界を良くする。我々は、そのための教育姿勢を貫きたいと考えています。

©︎竹松明季(Aki Takematsu)

–最後に、読者へのメッセージをお願いします。

岡田さん:

既存の枠にとらわれず「横断的、多角的に世界の物事を見たい」「より良い世界を創造するために活動したい」「一緒に頑張っていく仲間や師が欲しい」と思う方は、ぜひ慶應義塾大学にいらしてください。

本学の卒業生は「塾員」と呼ばれ、卒業後のつながりが濃いのが特徴です。SDGsはさまざまな分野にまたがる問題解決能力が要求されるため、本学で得た仲間とのつながりは、必ず将来の役に立つはずです。

ともに世界の未来を考えていきましょう。教職員一同、志ある方々の入学をお待ちしています。

–本日は、貴重なお話をありがとうございました。

関連リンク

慶應義塾大学HP:https://www.keio.ac.jp/ja/

慶應義塾大学 2022塾生会議:https://www.sci.keio.ac.jp/eduproject/9165/

慶應義塾大学が6つのゴールで世界100位以内に入る:THE Impact Rankings 2022

https://www.keio.ac.jp/ja/news/2022/5/2/27-123583/