#インタビュー

【SDGs未来都市】千葉県木更津市|「オーガニックなまちづくり」の理念がそのままSDGsの取り組みに直結!人と自然が調和した持続可能なまちを目指す

千葉県木更津市 オーガニックなまちづくり担当 野村さん インタビュー

野村 洋貴(のむら ひろたか)
1971年生まれ。千葉県出身。1992年に木更津市役所入庁。入庁後は水道部業務課、水道部庶務課、財務部納税課を経て、2003年10月に経済産業省に出向(行政事務研修員)し、2年半の間、サービス産業について学ぶ。2006年4月に木更津市に戻った後は、企画部企画課、経済部農林水産課を経て、2022年4月より現職。木更津市の掲げる「オーガニックなまちづくり」の推進に係る業務を担当し、SDGs未来都市の提案等に携わる。

introduction

東京湾アクアラインの千葉県側の着岸地である木更津市。

東京湾環状に位置する同市は、大都市を模倣するのではなく、木更津市らしい豊かさをどうやって未来に向けて創っていくのかを模索し、「オーガニックなまちづくり」を掲げて2016年から取り組みを進めてきました。

令和5年度には、SDGsの取り組みと親和性が高いこの取り組み内容を「ORGANIC CITY PROJECT(オーガニックシティプロジェクト)〜木更津SDGs推進モデル〜」として提案。「SDGs未来都市」に選定されています。

今回は「オーガニックなまちづくり」の業務を担当されている野村洋貴さんに木更津市のまちづくりやSDGsの取り組みについてお聞きしました。

すべては「オーガニックなまちづくり」からはじまった!

–はじめに木更津市のご紹介をお願いいたします。

野村さん:

木更津市は、東京湾アクアラインの千葉県側着岸地に位置する人口約13万6千人の市です。

首都圏中央連絡自動車道や東関東自動車道館山線の整備進展により、広域道路ネットワークを形成する幹線軸上に位置しているため、東京都心部や羽田空港に近く、成田空港への利便性も向上しています。

また、一年を通じて温暖で過ごしやすく、沿岸部に広がる東京湾最大の自然干潟「盤州干潟」や、内陸部には万葉集にも登場する美しい自然景観の上総丘陵など、 豊かな自然環境に恵まれている場所です。 東京湾沿岸部ではアサリ、はまぐり、のりなどの海産物、内陸部では米やレタス、梨、ブルーベリーなどの農産物が収穫されています。

《盤州干潟》

近年では「都心に一番近い田舎」で、二拠点居住やテレワーク居住など多様なライフスタイルが叶うまちとしての魅力づくりや環境整備に取り組んでいます。

《馬来田の路(コスモスロード)》

–木更津市がSDGsに取り組むようになった背景をお聞かせいただけますか。

野村さん:

木更津市では、SDGsを意識した取り組みを一から始めたわけではありません。これまで取り組んできたまちづくりのプロジェクトにSDGsの要素を盛り込み、継続してきました。

その経緯を順を追ってお話いたします。

まず、まちづくりのプロジェクトに取り組み始めた背景です。アクアラインが開通した10年後の2006年から、木更津市の人口は増加に転じ、現在も微増しています。しかし、近い将来は減少に推移することが予想されます。少子高齢化の急速な進行とともに、働き手となる生産年齢人口の減少といった人口構造の不安がありました。

更に、市街地と農村部の人口の偏りも進んでいて、地域の二極化と言う課題も抱えていました。

《アクアライン海ほたる》

これらの課題解決に向け、「循環」「共生」「自立」を、取り組みを構成する重要なキーワードと定め、まちづくりがスタートしました。

2016年3月には、「木更津市まち・ひと・しごと創生総合戦略」を策定し、地方創生に向けた新たな視点として、都心に近く、豊かな自然環境を有する地理的な強みを活かし、人と自然が調和した持続可能な未来をつくる「オーガニックなまちづくり」を掲げました。

オーガニックという言葉は「有機・有機的な」という意味がありますが、これは人間の体のように細胞一つ一つが繋がり合い、連携・補完しあい、全体を形成している様子をあらわします。

市では、この「有機的な」という意味合いをどうまちづくりに活かせるか体系的に整理をしました。そして、「オーガニック」を「持続可能な未来を創るため、地域、社会、環境等に配慮し、主体的に行動しようとする考え方」と捉え、

「地域社会を構成する多様な主体が一体となり、本市を、人と自然が調和した持続可能なまちとして、次世代に継承しようとする取組」

参照:木更津市人と自然が調和した持続可能なまちづくりの推進に関する条例

を「オーガニックなまちづくり」と定義付けました。これを明文化したのが、2016年12月に制定した通称「オーガニックなまちづくり条例」です。

この条例を検討していた頃は、2015年の国連でのSDGsの採択より前〜同時期であったので、市としては条例にSDGsを盛り込むことを意識していませんでした。一般的にも認知されていない時期でしたね。

条例制定後、2017年3月には「オーガニックなまちづくり条例」を効果的に実施していくための行動計画「第1期オーガニックなまちづくりアクションプラン」が策定しました。

この頃、全国の自治体では「地方創生」がトレンドになっていたこともあり、第1期アクションプランには、その要素である「地域経済の活性化」と「主体的でやる気のある若者の獲得」が取り組みの両輪として加えられました。

第1期アクションプランの取り組みが2019年度に終了後、引き続き「第2期オーガニックなまちづくりアクションプラン」(2020年度〜2023年度)の取り組みが始まりました。この時の副題を「木更津SDGs推進モデル ORGANIC CITY PROJECT」としています。

これも特にSDGsに特化した内容にしたわけではありません。それまで進めてきた「オーガニックなまちづくり」の考え、とりわけ「循環」「共生」「自立」のキーワードがSDGsとの親和性が大変高かったため、今までの取り組みを無理なくSDGsの取り組みとして継続することができました。

第2期アクションプランは2023年度が最終年度です。

そこで、引き続きオーガニックなまちづくりのステップアップに向け、内閣府がSDGsの達成に取り組んでいる都市を選定する2023年度の「SDGs未来都市」に「ORGANIC CITY PROJECT〜木更津SDGs推進モデル〜」を提案し、選定されました。これからはプロジェクトを推進することで、SDGsの推進に更に貢献してまいります。

行政はコーディネート役、ステークホルダーとともに次の100周年を目指して

–では「SDGs未来都市」に選ばれた「ORGANIC CITY PROJECT〜木更津SDGs推進モデル〜」の「経済面」「社会面」「環境面」三つの取り組みのうち、まずは「経済面」について詳細をお聞かせください。

野村さん:

「経済面」では「経済循環を高める食×農プロジェクト」と題し、地産地消の定着や安心安全な木更津ブランドの確立を目指しています。

特に注力している取り組みが、学校給食に提供している米の有機化です。

スタートした2019年度は契約農家5名、栽培面積1.8ヘクタール、有機米提供日数3日でしたが、2022年度は契約農家14名、栽培面積20ヘクタール、提供日数71日まで増えています。

市内の小中学校30校が対象ですが、お子さん達にはなぜ有機米を給食に提供しているのかを説明していますので「いつものご飯より美味しく感じる」という意見はもとより「これからも環境に優しいお米を作ってほしい」など嬉しい感想をもらっています。

また、有機米にかかる費用は給食費に転嫁せず、市が財政措置をして提供していますので、保護者の方からも大変喜ばれています。

この取り組みは、全国的にも注目されていて、他の自治体からの視察が後を絶たない状況です。

もう一つ注力しているのが電子地域通貨「アクアコイン」の普及拡大です。

専用アプリをダウンロードすることで、市内での飲食・物販・サービスの利用ができ、地域の経済循環を高めるツールとして活用されていています。

2022年度末の参加店舗は833店舗、年間利用額は約4億8千万円にのぼります。

また、万歩計の機能がついているため、歩数のデータを市のシステムと連携させ、1日8,000歩で10ポイント進呈するなどの健康増進のために活用しています。他にも、ボランティアに参加すると取り組みに応じた行政ポイントが獲得できるようなシステムもあります。

更に、国の交付金を使い、例えば「20%還元サービス」などのキャンペーンを開催するなど、地域内消費の拡大を促進しています。

《アクアコインアプリ画面》

–「社会面」「環境面」についてもお聞かせいただけますか。

野村さん:

「社会面」では「支え合いによる防災・減災プロジェクト」を掲げ、災害時に向けた安心・安全の確保を目標にしています。

目標達成に向け、災害コーディネーターの育成、地域一帯となった防災訓練の実施、自主防災組織への支援、WEB版ハザードマップの整備などに取り組んでいます。

また、中学校区での「まちづくり協議会」の設立も推進しています。現在、全地区で組織はできつつあるので、次は組織のあり方を設定して地域の防災力の組み立てを協議しているところです。

「環境面」では「木更津発脱炭素化プロジェクト」を進めており、「まち全体でCO2の排出削減に向けて」「森里川海と繋がるライフスタイルを取り戻す」の2つを目標として立てました。

目標達成のため、公共施設への再エネ導入や、住宅用再エネ・省エネ導入支援、4R(リフューズ(Refuse)・リデュース(Reduce)・リユース(Reuse)・リサイクル(Recycle))の啓発や森林の保全活用、サイクルツーリズムに取り組んでいます。

–これらのプロジェクトに取り組むにあたり、課題はどんなことだと考えていらっしゃいますか。また、それら課題を乗り越えた先の木更津市のあるべき姿もお聞かせください。

野村さん:

プロジェクトの目標達成には、行政だけではなし得ないことが多々あります。

例えば、ゼロカーボンシティに向けた取り組みは、地域全体で脱炭素化を進めなければなりません。どこまで民間企業や団体と連携して取り組めるか、また、再生可能エネルギーの導入だけでなく、色々な庁内関係部署との連携を図る必要があります。

それには行政がコーディネート役となり、ステークホルダーの同意を得ながら費用対効果を見える化し、わかりやすく取り組むことが重要だと考えています。

そのため、2022年4月1日付けで地方創生推進課を「オーガニックシティ推進課」と改め、プロジェクトマネージャーとして進行管理を担っています。

木更津市は2022年度、市制施行80周年の節目の年でした。

次は100周年を目標に、人と人との繋がりや、心の豊かさを市民の皆様が実感し、健康・健全でかつ美しい暮らしを享受できるウエルネス社会の実現を目指します。

本市が有する豊かな自然や資源を次世代に継承し、自然に寄り添い、経済が循環する自立した共生社会の構築が日本初のオーガニックシティの確立に繋がっていくと考えています。

《木更津市マスコットキャラクター きさポン》

市制施行80周年記念事業として、「きさらづ未来会議」を設置し、高校生から45歳未満の方42名に木更津の未来を語っていただきました。

話し合われた結果は、20年後の木更津市の姿として7つの提言にし、市が受け取りました。

  • ビジョンテーマ1  人のつながりがあるまち 
  • ビジョンテーマ2  自然とともにあるまち 
  • ビジョンテーマ3 人を呼ぶ魅力のあるまち 
  • ビジョンテーマ4  誰もが安心して暮らせるまち 
  • ビジョンテーマ5  子ども・若者が育つ環境のあるまち 
  • ビジョンテーマ6  わくわくして暮らせるまち 
  • ビジョンテーマ7  生活が便利なまち 

参照:市制施行100周年に向けた きさらづ未来ビジョン提言書

この提言に向け取り組み、着実に推進していきたいと考えています。

ファンクラブに応援団、皆の力を結集させ実現する未来都市

市民の皆さんとの連携を大切にしていらっしゃるのですね。

野村さん:

そうですね。市民や地域企業との連携は特に大切にしたいと思い、「オーガニックアクションパートナーズ」と「オーガニックアクション宣言企業」という制度も設けています。

「オーガニックアクションパートナーズ」は「オーガニックなまちづくり」の実践や木更津市の魅力発信などの活動に参加・協力することに賛同いただいた91名の個人と、127団体に登録いただいている(2023年10月現在)ファンクラブ的なものだと考えています。

《オーガニックシティ木更津 ロゴマーク》

「オーガニックアクション宣言企業」は、地域貢献活動、産業支援活動、自然環境保全活動、労働環境改善活動、いずれかの活動の取り組みを実践している市内の企業・団体です。

市と連携し、協働で取り組みを行うパートナーであり、応援団という位置づけとなっており、現在、認定登録は84団体(2023年10月現在)にのぼります。SDGsが国民に認知されるようになり、企業イメージの向上などにもつながるため、協力いただく企業が年々増えています。

《オーガニックアクション宣言企業ロゴマーク》

2023年8月に開催した「木更津市港まつり」では、イベント用の電力をパートナー企業が提供してくれた電気自動車でまかない、クリーンな電力で運営ができました。

また、パートナー企業の協力で廃油回収をしてリサイクルをする取り組みなど、市が抱えている課題に対し、一緒に考えアクションの実践をしていただいています。

–市民の方々や市の職員の方々にはどのようにSDGsを周知されているのでしょうか。

野村さん:

市民の皆さんには、市の広報紙やホームページをはじめ、市役所の各課の入り口にその課がSDGsのどの目標に取り組んでいるかを掲示し、お知らせしています。

また、第3次基本計画のそれぞれの施策にSDGs17のゴールを紐づけし、どうSDGsの目標達成に貢献していくのかを見える化しています。

セミナーの開催や出前講座、小中学校の出前授業でも、オーガニックなまちづくりを推進することがSDGsの目標達成に貢献することを説明しています。

出前授業を受けたお子さんたちの感想を聞くと「食品ロスについて知ったので、給食を残さないようにします」とか「地元産に着目した買い物をしたい」などの感想を数多くいただきます。

《小学校での出前授業》

市職員に向けてはSDGs研修を行っていますが、「SDGs未来都市」として、更に職員の意識高揚を図ってまいりたいと考えております。

–では最後に、これからの展望をおきかせください。

野村さん:

本市は2023年7月に「株式会社ホテル三日月」「特定非営利活動法人国連の友Asia-Pacific」「世界連邦ユースフォーラム」と意見を交換するなかで、本市が取り組む「オーガニックなまちづくり」にご賛同いただいたことから、四者協定を締結しました。

市内にある龍宮城スパホテル三日月内に、SDGs推進センター(仮称)が設置される予定です。

この拠点を中心に、市民をはじめ、企業・団体等と連携・協働し「オーガニックなまちづくり」やSDGsの推進に向けたセミナー、ワークショップの開催など、2030年の目標に向けて機運を高め行動変容に繋げたいと思います。

そして、多くの方に木更津市にお越しいただきたいとも考えています。

毎年「市民の日」の11月3日に行われる「木更津オーガニックシティフェスティバル」は「オーガニックなまちづくり」が1日でわかるイベントなので、ぜひご来場いただき体験して欲しいですね。

本日は貴重なお話をありがとうございました。

関連リンク

木更津市ホームページ: https://www.city.kisarazu.lg.jp/

オーガニックシティきさらづ公式WEBサイト : https://www.k-organiccity.org/