#SDGsに取り組む

【探知犬の職場は空港だけじゃない!】オーストラリアの森で広がる野生生物探知犬との保全活動

【探知犬の職場は空港だけじゃない!】オーストラリアの森で広がる野生生物探知犬との保全活動

オーストラリアでは、探知犬を使った野生動物保護活動が行われています。

探知犬=空港にいるというイメージを抱かれがちですが、オーストラリアの探知犬は環境保全のためにさまざまな場所で働いているのが特徴です。

人間よりも効率的に探索できる探知犬は、野生動物の個体数・生息地の確認のほか、怪我などで動けない野生動物の保護にも役立っています。

この記事では、環境保全に関わる探知犬の種類、野生動物探知犬を活用する理由、使われる犬種、ハンドラーに関する調査、野生動物探知犬のトレーニング方法をテーマに解説していくので、日本とは一味違った探知犬の活動をチェックしていきましょう。

環境保全に従事する探知犬の種類とは?

環境保全に従事する探知犬の種類とは?
出典:Spaceship Earth

エコ大国であるオーストラリアでは、環境保全を目的にさまざま種類の探知犬を導入しています。

以下は、オーストラリアで頻繁に見られる主な探知犬の目的です。

  • 密輸動物の探知
  • 汚染物質の探知
  • 外来種の探知
  • 野生動物の探索

密輸動物の探知犬は、空港で密輸動物を見つけるのが仕事です。

日本の空港で見られる麻薬犬に似ており、スーツケースなどに入れられている密輸動物、絶滅危惧動物、象牙を含む違法動物の一部などを匂いで判断します。

汚染物質の探知犬は、パイプラインのガス漏れ、海岸沿いの重金属、農業害虫などを探し出します。

探知犬自身が危険な環境に身を置くことになるため、探索は慎重に進めなければなりません。

また、外来種の探知犬は、オーストラリアの生態系を壊しかねない外来種を探索します。

動物はもちろん、植物の匂いもかぎ分け、発見された外来種はサンプルを採取してラボで調査されます。

野生動物の探索犬は、絶滅が危惧されている野生動物を探すのが仕事です。

通常、個体数の確認及び生息地の分布を把握するために探索をしていますが、怪我を負った野生動物の発見にも力を入れています。

実際、2019年から続いた大規模森林火災では、火傷したコアラを見つけるために野生動物探知犬が使われました。

今回は、野生動物の探索犬について取り上げていきます。

野生動物探知犬を活用する理由

野生動物探知犬を活用する理由
出典:Spaceship Earth

野生動物探知犬は、絶滅危惧種の発見と保護を支援する新しい技術として導入されました。

人間の3,000~10,000倍の嗅覚を持つ犬は、スピーディーに野生動物を探す高いスキルを持っています。

また、人間よりもコンパクトな身体のサイズなので、人間がアクセスしにくい地形や状況であっても問題なく調査可能です。

しっかりとトレーニングを受けた野生動物探知犬は、ターゲットとなる野生動物の糞をヒントに調査を行います。

人間3人が目視で探すのに1時間かかるエリアであっても、野生動物探知犬なら実に5分でカバーできるのです。

人員削減に繋がるのはもちろん、人間よりも正確に野生動物を発見できるというメリットもあることから、野生動物探索の効果を高める存在として期待されています。

野生動物探知犬で使われる犬種に関する調査

野生動物探知犬で使われる犬種に関する調査
出典:Spaceship Earth

野生動物の探索では、さまざまな犬種が使われています。

しかし、野生動物探知犬の訓練には、1頭あたり1万5,000~3万ドル(約150~300万円)もの費用がかかります。

コストを抑えながら環境保全を促進するためにも、野生動物探知犬の活動により適した犬種を絞ることが重要です。

そこで、クイーンズランド大学では、野生動物探知犬としての適性が高い犬種の調査を行いました。

さまざまな犬種の訓練時間や探知の正確性を調査した結果、野生動物探知犬としての成績が良い犬種はボーダーコリー、グレイハウンド、ラブラドールレトリバーと判明しました。

ボーダーコリーは、訓練時間が最短かつ探知の正確性も高い犬種です。

ラブラドールレトリバーは野生動物探知犬として最も頻繁に使われる犬種ですが、正確性に関しては個体差が大きいという結果が出ました。

最後のグレイハウンドについては、訓練の所要時間が長く、訓練を完了できない個体もいた一方で、訓練済みの個体についてはラブラドールレトリバーよりも高い正確性を維持しています。

個体の性格や個性に左右される部分もあるものの、今後新たに野生動物探知犬を導入する際の参考になると考えられています。

ハンドラーに関する調査

野生動物探知犬は、必ずリードを握る人間・ハンドラーとペアになって仕事を進めます。

しかし、同じ探知犬であってもハンドラーによって探索の成績に違いが見られたことから、ハンドラーの性格、スキル、ハンドラーと野生動物探知犬の相性に関する調査が行われました。

調査に協力した35名のハンドラーのうち54%が女性で、ハンドラーとしての経験は平均7.2年です。

ハンドラーの性格については、神経質な気質、外向性、オープン性、協調性、誠実性をチェックするアンケートが収集されました。

その結果、外向性、オープン性、誠実性が高いハンドラーが探索において比較的良い成績を残しています。

また、犬のボディーランゲージを読み取る知識が豊富であり、なおかつ担当の野生動物探知犬との信頼関係を築いているハンドラーは、総じて探索結果が良好でした。

よって、野生動物探知犬の探索における迅速性や正確性を向上させるためには、ハンドラーの知識や野生動物探知犬への接し方が重要だと考えられています。

野生動物探知犬のトレーニング方法

野生動物探知犬のトレーニング方法
出典:Spaceship Earth

犬たちを野生動物探知犬として育成する専門トレーニングは、森の中で効率的かつ正確に野生動物を見つける上で必要不可欠です。

ここでは、野生動物探知犬のトレーニング方法を5つのステップに分けて説明していきます。

合図の習得

野生動物探知犬は、自然界に生息する野生動物を探すことが仕事です。

そのため、最初のトレーニングでは、特定の何かを探させるための合図を教えます。

食べ物や犬用のおやつといった分かりやすい物の匂いをかがせてから隠し、ジェスチャー、声、音などで特定の物を探すように指示する流れです。

合図の習得は生後15週目の子犬にも行っており、何度も繰り返すことで合図と同時に物を探すようになります。

匂いの導入

合図の導入が成功したら、次は実際の探索現場で使われる頻度が高いターゲットの導入です。

何もない部屋を用意し、動物の糞や草といったターゲットを1つだけ部屋に持ち込みます。

持ち込んだターゲットを箱や瓶といった容器の中に入れて、部屋の中を容器とその中に入っているターゲットのみにします。

匂いとご褒美

部屋に犬を入れたら、ハンドラーが①で教えた合図を出します。

犬は部屋の中に唯一置かれている容器とターゲットに近付き、臭いをかぎ始めるのが一般的です。

犬が臭いをかぎ始めた瞬間にハンドラーがクリッカーなどを使って音を出し、犬に対してご褒美のおやつなどをあげます。

犬が探し当てる度にご褒美をあげることで、犬はターゲットの匂い発見=おやつがもらえると認識し始めます。

また、クリッカーの音については、ターゲットの発見と探索の一時終了を犬に理解させるために使われているツールです。

慣れてきたら時間帯や日を変えてトレーニングを繰り返し、徐々に容器の数を増やしていきます。

ターゲットが入っている容器は1つだけとなっており、犬に正解の容器を見つけさせるという目的があります。

さまざまな匂いの中での訓練

さまざまな匂いの中での訓練
出典:Spaceship Earth

次は、動物の糞や草などのターゲットだけでなく、おもちゃ、おやつ、他の犬といったさまざまな匂いを導入します。

犬にとって気が散る匂いを加えることで、実際の現場で漂うさまざまな匂いに惑わされることなく野生動物を探索できます。

さまざまな環境での訓練

あらゆる匂いの中でのトレーニングを積んだら、最後は色々な環境での探索活動にトライします。

風の強い日、高い場所、空気の流れを遮断するような位置でトレーニングを行い、実際の現場で役立つ専門スキルを磨きます。

5つ全てのトレーニングを成し遂げることによって、犬ははじめて野生動物探知犬として現場デビューを果たすのです。

まとめ

さまざまな種類の探知犬が存在するオーストラリアでは、野生動物の探索専門の犬が活躍しています。

時短かつ的確に野生動物の探索を行えることから、国内の多数の団体が野生動物探知犬の育成に努めています。

野生動物探知犬のトレーニングに力を入れているのはもちろん、最適な犬種やハンドラーの適性など、より効率的に作業を進めるための調査も進んでいるオーストラリア。

まだ日本では導入されていない野生動物探知犬ですが、近い将来、日本の森でも働く犬たちの姿を目にする日が来るかもしれませんね。