アサヒグループホールディングス株式会社 古原さん|現場の声を商品開発に活かす、未来に繋げるSDGs活動の全貌とは

アサヒグループホールディングス株式会社 古原様 インタビュー

古原 徹

1984年島根県松江市出身。2003年東北大学工学部入学。2009年大学院修士課程修了。
アサヒビール入社後、PETボトルなどの容器開発に携わり、江戸切子伝統工芸士とのコラボでグッドデザイン賞受賞。2017年より酒類容器開発。
スーパードライ生ジョッキ缶の生みの親。子どもができたことをきっかけに、ソーシャルビジネス領域へ自身の思考の軸足を移行。SDGsに貢献するイノベーションプロジェクトを立案、推進。オープンイノベーションでの商品化実績多数。森のタンブラー(パナソニック)、もぐカップ(丸繁製菓)、UPCYCLE B(ECOALF)など。モノづくりだけでなく、生活者参加型のコトづくりに重点を置き、サステナブルイベント、ゴミ拾い、勉強会、産学連携などZ世代との協業を加速。アサヒグループでのサステナビリティ事業化に向けて社内巻き込み中。
アサヒグループが参画するふぞろいのストロープロジェクトにて、広域連携、農福連携での「麦わらストロー」の復活を支援中。

アサヒスーパードライ生ジョッキ缶の生みの親、古原さん

インタビュアー 永瀬 真奈美
インタビュアー 永瀬 真奈美

今回は、アサヒグループホールディングス株式会社古原徹さんにお話をお伺いします。古原さん、よろしくお願いします。
最初に、古原さんが現在どんなことをされているか教えてください。

古原 徹
古原 徹

よろしくお願いします。現在はアサヒビールのパッケージング技術研究所という部署も兼務しています。容器包装全般やお酒のパッケージ開発などの研究開発業務を行なっています。

重点的に取り組んでいるのが、「アサヒスーパードライ生ジョッキ缶」です。4年前にシーズ提案して、2021年4月に発売したものですが、発売後の今も改良を重ねています。

「アサヒスーパードライ生ジョッキ缶」とは

古原さんが、初期アイデアの段階から一貫して開発に携わり、泡立ち缶胴やフルオープンのフタを含む資材開発を担当した。

サステナビリティの推進を、事業として継続できる形で行う

永瀬 真奈美
永瀬 真奈美

大人気商品の開発に携わられていたとは驚きです!
SDGsの取り組みとしては、どんなことをされていますか?

古原 徹
古原 徹

ちょうど4年程前、NPO団体「持続可能な社会をつくる元気ネット」の鬼沢良子さんのセミナーを聞いたことがきっかけで、SDGs関連の取り組みをはじめました。
パッケージは使い終わるとゴミになりますが、それを扱う技術者として「使い終わったら社会のためになる」とか、「使うことで世界が良くなっていく」みたいなことが、仕事としてできたら面白いだろうなと思ったんです。

ちょうど子どもができたタイミングでもあり、社会における自分の仕事の存在意義についても考えていたところでした。

古原 徹
古原 徹

SDGs関連の活動を進めていくことで、アサヒビールという立場を超えて、サステナビリティに関心がある方や、未来を担っていく子どもたちとの関わりが増えてきました。そんな中、アサヒビールという立場だけではなく、もう少し包括的な立場でやっていきたいと思うようになりました。

9月1日からアサヒグループホールディングスとの兼務で、社内外連携のサステナビリティ推進のプロデューサーとしての活動も始めたところです。こちらは、CSRではなく事業としてきちんと継続させていくことを念頭に置いています。

永瀬 真奈美
永瀬 真奈美

古原さんは、もともとサステナビリティに興味があったのですか?

古原 徹
古原 徹

もともとすごく興味があったというわけではありません。ただ「何かおもしろいことをやりたい」とか、「人がやらないことをやりたい」、もしくは「人に喜んでもらいたい」「人と何かを作り上げたい」というマインドが、小さい頃からずっとありました。

だからこそ、サステナビリティに取り組むこと自体が、自分の興味関心とすごく合っているんだなという実感があります。

アサヒビールとパナソニックが共同開発した「森のタンブラー」

永瀬 真奈美
永瀬 真奈美

SDGs関連の活動として取り組まれた「森のタンブラー」の開発についても、詳しく教えていただきたいです。

古原 徹
古原 徹

森のタンブラーは、アサヒビールとパナソニックで共同開発したエコカップです。アサヒビールは、イベントや球場などでビールを多く販売していますが、その裏では大量の使い捨てコップが出てしまっています。ビール会社なのに、そういった現状を放っておくのは良くないと思い、4年程前から取り組みを始めました。使い捨てではなく、マイカップ、マイタンブラーのように繰り返し使いたくなるもの、そして押しつけではなくポジティブに使いたくなるものが必要だし、自分も欲しいと思ったからです。

1年間色々試してみて、なかなか良い素材が見つからなかったのですが、パナソニックさんとの技術交流会で良い素材と出会うことができたんです。

永瀬 真奈美
永瀬 真奈美

良い素材とは具体的にどういった素材ですか?

古原 徹
古原 徹

「高濃度セルロースファイバー成形材料」というパナソニック独自の材料で、木材の繊維を55%以上という非常に高い含有量で使用した樹脂です。本物の木を削り出したコップって、カビやすかったり、食洗機に入れられなかったり、重かったりと使いづらさがあるんですよね。

でも、この素材は木材のような質感を持ちながら、プラスチックのように成形ができるので、「コップにしたら見た目も良くなるし、機能をつけることもできますね」という技術者同士の会話から開発がスタートしました。そこから、紆余曲折ありながらも、半年程でテスト販売までこぎつけることができたんです。ビールの泡が美味しくなる、という副次的な効果も得られました。

FUTURE Tide とは

「森のタンブラー」に関する詳しい情報や、アサヒビールとパートナーの取り組みを発信している。

考:https://futuretide.jp/

古原 徹
古原 徹

森のタンブラーを通してできたコネクションやネットワークがすごく有益でした。アサヒビールとしての環境取り組みだと、お酒を前提とするので20歳以上の方やビールを飲む方向けになっていたのですが、森のタンブラーはコップなので、何を入れて飲んでも良いんですよね。

子供たちとも「使い捨てコップの代わりに森のタンブラーでお茶を飲むことで、ごみが減っていいよね」みたいなコミュニケーションができるので、コネクションの幅が広がりました。直接お話することで見つかったアイデアや問題点などによって、プロダクトやサービスの改良や新規開発も広がってきているなと実感しています。

古原さんが開発に携わった、食べられるコップ「もぐカップ」とコーヒークラフト「蔵前BLACK」とは

永瀬 真奈美
永瀬 真奈美

森のタンブラー以外の商品開発にも力を入れていらっしゃいますよね。
よろしければ、そちらについても教えてください。

古原 徹
古原 徹

ありがとうございます。まずは、話題になっている「もぐカップ」からご紹介できたらと思います。

使い捨てではなく、「使い食べよう」というコンセプトで作ったもので、ゴミの削減を面白さや楽しさにフォーカスして伝えられたらと思い開発しました。

永瀬 真奈美
永瀬 真奈美

「おもしろい」というところから、自然と環境問題に興味が持てるのは良いですね!

古原 徹
古原 徹

はい。もう一つが、「蔵前BLACK」というコーヒークラフトです。
コンセプトは、「無駄なものやゴミを、価値のあるものに変えて美味しくしよう」というアップサイクルの概念を意識したものです。

このアップサイクルという概念は、森のタンブラーでコラボした、サステナブルファッションブランドのECOALFさんから教えていただきました。今年2月にECOALFの責任者である下川さんとトークイベントでご一緒したとき、「アップサイクルという概念をクラフトビールで表現できたら、お互いの伝えたい想いを伝えられるんじゃないか」ということでコラボが実現しました。

アップサイクル(アップサイクリング)とは?

アップサイクリング(Upcycling)は創造的再利用とも呼ばれ副産物廃棄物、役に立たないまたは不要な製品を、より良い品質と環境価値の新しい材料または製品に変換するプロセスである。

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

古原 徹
古原 徹

蔵前地区という台東区のかなり狭いエリアで出た、テスト焙煎をした余りや、まだまだ飲めるけど販売期間管理上、捨ててしまうコーヒー豆を使って作るコーヒークラフトです。
地元の福祉作業所の知的障がいのある方々にカフェや焙煎所を回ってコーヒー豆を回収してもらい、我々のクラフトブルワリーで蔵前BLACKというコーヒースタウトを作っています

簡単に言うと「コーヒー本来の香りが楽しめる黒ビール」ですね。クラフトビールの新しい概念として「誰かのために飲む1杯」つまり、その1杯を飲むことで誰かが喜んでくれて、地球が良くなっていくといった商品を、今後も地域と協創していこうとしています。

古原 徹
古原 徹

今、サステナブル〇〇とか、エシカル〇〇と名乗る様々な商品が出てきていますが、サステナブルビール、サステナブルクラフトビールというジャンルはまだ全然なくて、Instagramでハッシュタグ検索してもほとんど出てこないんですよね。

もちろん、新たなサステナビリティの推進ということもあるのですが、その後の地域連携や誰かが喜んでくれるビールというものを、「UPCYCLE B」というブランドとして展開していきたいと考えています。地域との取り組みにもなるので、「クラフトビールの新しい価値」としても、どんどん協業先を広げていきたいです。

「伝わりやすさ」を大切にすることで、未来にポジティブなインパクトを

永瀬 真奈美
永瀬 真奈美

ありがとうございます。ここまでお伺いして、周りの人の声を聞いてものづくりをするというのが、古原さん原動力になっているんだなと感じました!

古原 徹
古原 徹

やっぱり、喜んでくれた人の顔が見える仕事ってすごく楽しいですし、喜んでくれた人って他の人にも紹介してくれるので、次に繋がっていくんですよね。「サステナビリティをビジネスに」と、どの会社さんもやられていると思いますが、何をやって良いかわからないみたいなところもあると思っています。

また、社会課題を探して解決することが目的になってしまいがちですが、私としては社会課題を解決することは、あくまでも手段だと考えているんです。活動によって、誰が喜んでくれるのかとか、未来に対してどういったポジティブなインパクトがあるのか、ということが大事だと思います。
だからこそ、直接現場の方と会話をして、課題の粒度を落としていくことで、納得できるものを作っていきたいです。

永瀬 真奈美
永瀬 真奈美

様々な活動に取り組まれていると思いますが、SDGsの活動を伝えていく上で、作る側として意識されていることはありますか?

古原 徹
古原 徹

例えば、ただ単に「SDGsのビールです」と言うと「またその類か」と思われたり、イメージが湧きにくいと思うんです。それを、「廃棄物を生まれ変わらせたビールです」だったり、「福祉作業所の方とコラボしています」のように分かりやすいワードで伝えていくことが大切だと思っています。

SDGs、エシカル、サステナブル…というワードは聞いたことがあったとしても、なかなか自分ごととして捉えるのって難しいと思うんですよね。だからこそ、メーカーサイドとして「伝わりやすいか」というところは、もっとこだわっていくべきだなと感じています。

永瀬 真奈美
永瀬 真奈美

理解できないと行動に繋がっていかないですもんね。

古原 徹
古原 徹

そうですね。もちろん事業として成り立たせることは大事なのですが、消費者と一緒にアクションをして、理解してもらい、背中を押してあげることが一番大切だと感じています。消費者が自分のSNSに自発的に上げてくれるような体験価値というのも、これからすごく大事になると思うんです。だからこそ、私自身が「中の人」として出ていくことで、応援したいなと思ってもらえるような取り組みにしていきたいなと思っています。

クラウドファンディングに挑戦する、「ふぞろいのストロープロジェクト」

永瀬 真奈美
永瀬 真奈美

現在、「ふぞろいのストロープロジェクト」クラウドファンディングにも挑戦されているようですね。

古原 徹
古原 徹

はい。こちらはアサヒグループとしてのクラウドファンディングではなく、「一般社団法人広域連携事業推進機構」としてクラウドファンディングを実施しています。
どんなプロジェクトかというと、全国各地の生産者さん、農家さんとその周辺にある福祉作業所の方々に麦わらのストローを作っていただき、それを事業として成り立たせていくための活動をしている組織となります。

古原 徹
古原 徹

なぜ麦わらを使ったストローを作るのか?というところですが、プラストローの代替なので、もちろん100%自然由来で土に還る、CO2削減、海洋プラ削減という観点はありますが、今回はもう少し上の視点を持って取り組んでいます。
今まで実を取った後にただ土に還していた麦わらを、農家さんや福祉作業所の方々が彼らの仕事としてアップサイクルし、地元で細々と売るのではなく、取り組み自体を多くの人に知ってもらうことで、消費のあり方を変えていくことことを目指しています。
そのためには、大都市圏で使っていただけるよう、インフラを整えるという部分を社団法人として担っているというわけですね。

古原 徹
古原 徹

アサヒグループとしては、社団法人の立ち上げメンバーでもあるので、企画や分析のお手伝い、資材開発、作業効率化の設備開発などを行なっています。中でも一番期待されているのが、商品価値やストーリーを分かりやすく伝えて、販売していくことだと思っています。

クラウドファンディングなので資金調達という意味もありますが、どちらかというと、この取り組みを知っていただくためのプラットフォームにしたいと思っているので、支援していただいた方とのコミュニケーションを取り、活動記録を残していくところに力を入れていきたいです。

永瀬 真奈美
永瀬 真奈美

ありがとうございます。事業として続けられるというところを強く意識されているんですね。

古原 徹
古原 徹

そうですね。「魚を与えるのではなく、魚の釣り方を教えよ」という言葉もありますが、将来的には経済的に持続することが必要ですし、仕事にやりがいや、仕事の意義を全員が感じられることがすごく大事だと思っています。今回、「農福連携」という大きなテーマではありますが、自分たちが関わった商品が東京のカフェで使われてるんだよ、というところもきちんとと伝えることで、仕事の意味を感じてもらうという部分も大切にしていきたいです。

未来ある子どもたちにツケを残さないために

永瀬 真奈美
永瀬 真奈美

ありがとうございます。様々な取り組みをされている古原さんですが、最後に今後の展望を教えてください。

古原 徹
古原 徹

現在、SDGsの取り組みを事業や会社としてやっていく意義、パーパスを決めています。
内容としては、「イノベーションとパートナーシップで地域課題を解決し、たのしさ・おいしさ・ここちよさを未来につなぐ」というものですが、個人的には後半部分が大事だなと思っているんですよね。
私も2歳の子どもがいますが、子どもたちが20歳、30歳になったときに、ツケを残したくないという思いが強くあります。たのしさ、おいしさ、ここちよさを未来に届けるために、今後も色々とやっていきたいと思います!

インタビュー動画