
北川 裕也(きたがわゆうや)写真左
熊本市政策局総合政策部政策企画課主任主事
福岡県福岡市出身。熊本大学教育学部卒。2012年に熊本市役所に入庁。観光振興業務や少子化対策関連の業務を担当。平成28年熊本地震の発災後は、復興業務に従事し、2021年より現職として、SDGsの推進に関する業務を担当している。
河津 雄介(かわつ ゆうすけ)写真右
熊本市環境局環境推進部環境政策課温暖化・エネルギー対策室主任技師
熊本県菊池郡菊陽町出身。九州大学経済学部卒。民間企業を経て、2018年に熊本市役所に入庁。河川排水機場の維持管理や浸水対策等を担当。2021年より現職として、地域エネルギー事業に関する業務を担当している。
introduction
2019年、SDGs未来都市と自治体SDGsモデル事業に選ばれた熊本県熊本市。以前から豊かな環境を守るための取り組みを行なっていましたが、2016年の熊本地震をきっかけに地域防災へも力を入れています。今回は熊本市役所様にSDGs未来都市としての取り組みや今後の展望などについてお話を伺いました。
「上質な生活都市」を目指すSDGs未来都市「熊本市」

-本日はよろしくお願いします。まず始めに、熊本市について教えてください。
河津さん:
熊本市は、人口約74万人を有する政令指定都市です。九州地方の中では3番目に大きな都市でありながら、古くから「水の都」「森の都」と呼ばれているほど自然に恵まれた地域です。特に水資源が豊富で、水道水を、ミネラル分を適度に含んだ地下水で100%まかなう、日本一の地下水都市でもあります。
また、2016年には熊本地震に見舞われましたが、国内外からの温かいご支援と市民の皆様の懸命な努力により復旧復興への歩みを進め、九州の中心として着実に発展してきた都市です。
-蛇口からミネラルウォーターが出てくるのですか!すごいですね。
熊本市は2019年にSDGs未来都市、さらに自治体SDGsモデル事業にも選出されているそうですね。どんな取り組みをなさったのですか?
河津さん:
そうですね。本市では、SDGs来都市計画の中で、めざすまちの姿として、災害に強く誰もが安心して暮らすことができ、多様性にあふれ、市民が住み続けたい、だれもが住んでみたくなる、訪れたくなるまち「上質な生活都市」を掲げています。
その実現に向けた取組の一つとして、2016年の熊本地震の経験を通して、人と人との「絆」の大切さや、地域での「助け合い」の重要性を再認識し、地域防災力の向上を図るなど、ハード、ソフト両面から災害に強いまちづくりを進めています。
エネルギーの地産地消で、災害時にも安定してライフラインを供給できる街へ

–ここからは、地域力、防災力を高める「自治体SDGsモデル事業」について詳しくお伺いしていきます。まずは内容を教えて下さい。
河津さん:
私たちが現在注力しているのは、地域のエネルギーを軸とした「ライフライン強靭化プロジェクト」です。
例えば、電力の地産地消を目指し、市内2か所の廃棄物処理施設で発生する熱を利用して発電した電力を学校や市役所などの市有施設(約220箇所)へ供給し、市有施設で使用する電気の約30%をまかなっています。その結果、1.8億円の電気料金が削減できました。(2019年度実績)

-地域の防災力を高める取り組みも教えてください。
河津さん:
災害時の電力供給に必要な仕組みを整備しました。
例えば、学校や庁舎に大型蓄電池を設置し、停電に備えるとともに、指定緊急避難場所に位置付けている屋外運動施設に設置したEV充電スポットには、廃棄物処理施設から直接電力を供給し、大規模停電時に市民が所有する電気自動車の充電を可能としています。
また、市が所有する電気自動車やEVバスを蓄電池として、避難所等へ電力を提供することとしています。
-万が一の際も、蓄電池が活躍したり、廃棄物処理施設が動けば電気を供給できたりするということですね。
河津さん:
そのとおりです。さらに環境面でも大きな変化がありました。市有施設で使用する電力は廃棄物処理施設で発生する熱(再生可能エネルギー)で発電しているため、地球温暖化の原因となる温室効果ガスを1万トンも削減できたのです。(2019年度実績)
-温室効果ガス1万トンの削減には驚きました。電力の地産地消で防災力が高まっただけではなく、環境保全にも繋がったのですね。
災害でも活躍するEVバス・EV車を日常生活に
-電気自動車やEVバスは、災害時にどのような使われ方をするのでしょうか。
河津さん:
EVバスは2020年から運行されており、普段は熊本城周遊バス「しろめぐりん」として利用されています。
災害時には、避難所となる公共施設に派遣し、避難所の電源を確保する仕組みです。
また、熊本市は日産グループと協定を結び、災害時には日産の販売店が所有する電気自動車を使い、各避難所に電力を供給できるようにしています。
電気自動車は「走る蓄電池」とも言われ、車のバッテリーに接続すれば、照明や冷暖房器具などの家電に電力を供給することができます。


-電気自動車やEVバスが災害時に出動できるなんて、避難所での電気利用の面でも安心ですね。
市民への普及啓発と企業との連携
-その他にも積極的に取り組んでいることがありますか?
河津さん:
本市では、学校や企業等への出前講座や成人式とタイアップしたSDGsキックオフ宣言などによる市民への普及啓発や、企業等の取り組みの見える化にも重点的に取り組んでいます。
その結果、市民のSDGsの認知度が5.9%(平成30年度)から57.8%(令和3年度)にアップしたんですよ。
また、熊本県や金融機関等と連携して、民間企業等の取組を見える化する「熊本県SDGs録制度」を創設し、令和3年度から運用を開始しました。
-積極的に市民や企業と関わり、変化を起こしていらっしゃるのですね。素晴らしいです。
2022年4月から、新たな未来都市計画へ 全国初となる取り組みも

-2019年より始まった熊本市の未来都市計画は今年の3月に改定されたということですが、今後の方針を教えてください。
河津さん:
引き続き、自治体SDGsモデル事業等をはじめ、本市の特性のある地下水保全の取組やフェアトレードの推進、加えて「熊本連携中枢都市圏」の市町村等と連携したSDGsの推進や脱炭素社会実現への取組を推進していきます。

-熊本市内に限らず、今後は連携中枢都市圏域でまつわる取り組みを活発化させていこうということですね。
河津さん:
そうですね。圏域全体でエネルギーの地産地消に力を入れ、地球温暖化対策や防災力の向上に努めていきます。
地球温暖化対策は、一般的には自治体ごとに計画を策定することが多いのですが、各自治体が一体となって取り組むことでより大きな効果が得られると期待し、「2050年までに温室効果ガス排出実質ゼロ」を目標として、熊本連携中枢都市圏が共同で地球温暖化対策実行計画を策定しました。これは、連携中枢都市圏としては全国初となる取組みです。
-全国初ですか!達成できる日が今から楽しみですね。
2050年までに温室効果ガス排出実質ゼロを達成するために

-熊本市の周辺18市町村が、共同で「2050年までに温室効果ガス排出実質ゼロ」を達成するために具体的にどのようなことを行う予定でしょうか。
河津さん:
再生可能エネルギーの利活用の促進について検討しており、都市圏では、太陽光や風力、水力、地中熱、バイオマスなどの多様な再生可能エネルギーの導入ポテンシャルがあります。
そこで、地域の特性を踏まえ、
①エネルギーを地産地消できる地域(地産地消地域)
②エネルギーを地産地消したうえで、余剰エネルギーを需要の大きい他地域へ融通できる地域(再エネ供給地域)
③エネルギーの融通を受ける地域(再エネ需要地域)
の3つに分類しました。

-地域ごとの特性に合わせて、エネルギーを循環させていくのですね。
河津さん:
そうですね。エネルギーを地産地消できる地域では自給し、余ったエネルギーは、他地域へ循環させます。エネルギーの地産地消が難しい地域でも温室効果ガスの排出量を削減できますし、災害時にも全域で安定したエネルギーを確保できるようになります。
-画期的な取り組みですね。熊本市の公共施設における電力の地産地消だけでも1万トンの温室効果ガスが削減できたということでしたので、さらなる削減が期待できそうですね。
「持続可能な熊本」の実現を目指して

-最後に、北川さんからメッセージをお願いします。
北川さん:
熊本市では、モデル事業やエネルギーの地産地消の取組をはじめ、持続可能なまちづくりを行ってきました。
今後も熊本連携中枢都市圏の市町村をはじめ、様々なステークホルダーと力を合わせ、地域課題を解決し、持続可能な社会を作り上げていきたいですね。
-本日は貴重なお話をありがとうございました。