#インタビュー

株式会社フプの森|北海道産エッセンシャルオイルを通して、日本の森と林業にまつわるストーリーを伝えたい

株式会社フプの森 田邊さん インタビュー

田邊 真理恵

1976年8月2日北海道千歳市生まれ。北海道大学在学中に北海道の森へフィールドワークに出る機会を得て、トドマツの香りと出会う。その後、札幌の生花店やインターネット販売の仕事に携わりながら、いずれ地方で森にまつわる仕事に就きたいと考えて情報収集していた中、下川町の取り組みを知る。下川町では木材だけでなく在学中に感動したトドマツの香りも商品にしていると聞き、自らも志願。2007年に下川町へ移住して現在に至る。2012年にトドマツ精油事業の先輩と二人で株式会社フプの森を起業。2015年には新たなブランドNALUQを立ち上げ、より多くの人に「森のある暮らし」を届けるべく、日々邁進中。

Introduction

株式会社フプの森では、北海道の北部・下川町で、トドマツの枝葉からエッセンシャルオイルを抽出しています。水蒸気蒸留で採れたオイルをはじめ、さまざまな化粧品や雑貨類・自社ブランドを展開中です。

今回は代表取締役・田邊真理恵さんに、会社が出来た背景とFSC認証の取得、林業やSDGsとの関わりについて、お話を伺いました。

オイルの蒸留は、下川町の森林組合から始まった

蒸留作業の様子

–よろしくお願いします。早速ですが、フプの森ができた経緯を教えてください。

田邊さん:

よろしくお願いします。フプの森が行っている蒸留の事業は、1998年に下川町内で開発が始められたものです。古くから林業が盛んな下川町ですが、木材だけでなく森林の資源を有効に活用しつつ、森を中心としたまちづくりをして行こうという動きが生まれました。

そこで有志で集まった町の人たちが、さまざまな意見交換をし、森にまつわる新たな事業を模索したのです。

–その中で、蒸留が選ばれたのはなぜでしょうか?

田邊さん:

トドマツの枝葉から採れる精油が、アロマテラピーに使えることが分かったからです。

トドマツの枝葉には精油が含まれていることは以前から分かっていたのですが、木材として木を切り倒した後の枝葉の活用法は特にありませんでした。ところがアロマテラピーの世界では、ヒノキやスギのように、トドマツの精油も活用できるということがわかりました。

そこで2000年、下川町森林組合が「HOKKAIDOもみの木」というブランドを立ち上げ、東京のエッセンシャルオイルを扱う企業の協力を得て商品化したのです。

–森林組合が精油を販売するなんて、当時は珍しかったのではないかと思います。

田邊さん:

そうですね。それまでも木工品などはあったかもしれませんが、精油というのは珍しかったのではないかと思います。当時の担当者も、人々の生活に溶け込み長く愛される商品を作るため、新しい分野にチャレンジしたのだと思います。

柔軟に変化し、継承されてきたアロマの蒸留事業

作業の様子

2000年にスタートした「HOKKAIDOもみの木」のブランドですが、2008年にはNPO法人「森の生活」に移管しました。

もともと「森の生活」では、森林にまつわる様々な体験事業を行っており、そのひとつに森林療法がありました。エッセンシャルオイルなら、気軽に森へ行けない方にも香りを通して癒し効果をお届けできるということで、森林療法と組み合わせた形で新たなスタートを切ったのです。

–森のいい香りは、嗅ぐだけで癒されますもんね。

田邊さん:

そうですね。最終的に「株式会社フプの森」として独立したのは2012年で、私が蒸留事業を担当してちょうど6年目のことでした。現在は、エッセンシャルオイル以外にも、森林資源を活用した商品を幅広く展開しています。

–時代やニーズに合わせてステージを変えつつも、蒸留の事業を継続してきたのですね。

田邊さん:

はい。とはいえ、蒸留の設備や作業場所は、森林組合の頃からほとんど変わっていません。作っているものや関わる人も、大して変化はないんですけどね(笑)。

森林に関わりたいという想いから、下川町へ移住

広大な下川町の景色

–田邊さんご自身は、下川町の出身ですか?

田邊さん:

いえ、私は北海道千歳市の出身です。2007年に移住してからずっと下川町に住んでいますが、引っ越す前からお客さんとして、下川町の林業や精油事業に興味を持っていました。

–千歳市にいながら、どのようにして下川町の森林事業について知ったのですか。

田邊さん:

幼い頃から森林や林業に興味があって、いつか人と森との関わりにまつわる活動をできたらいいなと思っていました。

大学時代に北海道の森に調査に入ったときに、トドマツの香りに魅了されました。林業のことを調べていくうちに、下川町にたどり着き、そこには自分が一番好きなトドマツの香りを使って仕事をしている人たちがいて、感動したのを覚えています。

–トドマツをきっかけに下川町と関わるようになったのですね。

田邊さん:

そうですね。自分もそのような仕事がしたい、と思いました。

–お客さんという立場から、なぜこの仕事に就くことになったのでしょうか。

田邊さん:

下川町は、北海道で初めてFSC認証を取得するなど、取り組みが先進的で、町には林業について真剣に議論している人たちがいたので、自分もここで勉強させてもらいたいと思うようになりました。

全世界で共通基準を持つFSC認証を広めることは、一般の皆さんの消費行動や意識を変えるきっかけになるんじゃないかな、と考えていたので、下川町森林組合の方々とそのようなお話をするようになり、精油事業の担当に空きが出た際、声をかけてもらえました。

–森へのゆるぎない想いがあったからこそ、今の田邊さんやフプの森があるのですね。

全国で11例目、北海道では初めてのFSC認証取得

–先ほどFSC認証の話が出てきましたが、どのような認証なのですか。

田邊さん:

簡単に言えば、森林や環境にきちんと配慮しながら事業を営んでいることを証明できるものです。森林にまつわる認証制度はいろいろありますが、FSC認証は世界基準であり、審査が最も厳格だと言われています。​

森林環境への配慮だけでなく、生産から販売までのすべてのプロセスに厳しい基準があります。育てている森はもちろん、労働者や周辺地域・社会への配慮が足りているかチェックされるんですよ。

※FSC認証について詳しくはHPをご覧ください。

–その厳しい審査を、北海道で初めて取得したのが下川町なのですね。

田邊さん:

はい。下川町では2003年にFSC認証を取得しましたが、当時の日本では全国でも11番目と、取得している事業者もごくわずかでした。

–どれだけ難しい認証なのかが想像できますね。

田邊さん:

そうですね。ただ、厳しくて審査が通らない、というより、毎年審査費用もかかる上、世の中でまだ知られていないうちは、認証取得によるメリットもそれほどないので、なかなか簡単には広まらない側面があります。また、最終製品が出来上がるまで、そこに関わる事業体が全て認証を取得する必要がありますし、自分たちだけでは完結できない難しさもあります。

私たちフプの森が取り扱うオイルにもFSC認証マークが付いていますが、下川町の森林同様、毎年の審査を受けています。

–毎年チェックがあるんですか、それは大変ですね。それでも、下川町がFSC認証を取得した目的は何だったのでしょうか。

田邊さん:

当時から衰退傾向にあった日本の林業を盛り上げたい、という想いが根底にあったようです。加えて、自分たちの木材の付加価値を高めて世に送り出し、少しでも認知度アップに繋げることができればと。

–実際にFSC認証を取得して、フプの森としてメリットを感じることはありますか?

田邊さん:

FSC認証の認知度は、以前より上がったとはいえ、まだまだ一般的とまでは言えないと思います。ただ、認証があることで、森林や環境に配慮していることへの説得力は増していると思います。

現にエッセンシャルオイルの世界では、FSC認証があると特別有利というわけではありませんからね。それでも、商品を手にする消費者の皆さんに、きちんと認証を受けた信頼のおける商品であると伝え続けることは大切だと思っています。

好きな商品のパッケージで見かけたFSC認証マークをきっかけに、森林の魅力や、日本の林業にどういった現状があるのか知ってもらえればいいなと願っています。

エッセンシャルオイルのパッケージにFSC認証の表示が

さまざまな魅力を秘める北海道の木「トドマツ」

トドマツの葉

–フプの森で扱っているトドマツですが、本州以南ではあまり馴染みのない名前ですよね。どんな樹木なんですか?

田邊さん:

トドマツはマツ科モミ属の植物で、北の地域に自生する木のひとつです。北海道にも自生しています。

「モミ属」というとクリスマスツリーに使われるモミの木をイメージしますよね。トドマツも、見た目はクリスマスツリーによく似ています。

–クリスマスツリーですか。

田邊さん:

はい。また、クリスマスツリーに使われる木は、モミの木の他にもありまして、地域によってはマツ科トウヒ属の木が使われることもあります。北海道で言うとアカエゾマツがトウヒの仲間です。香りもトドマツとは全然違うんですよ。

それは面白いですね。トドマツには、どのような効能があるのでしょうか?

田邊さん:

モミ属の樹木全般の特徴として、咳を楽にしてくれる効能があるなど、呼吸器のケアに使われます。

蒸留されたトドマツのエッセンシャルオイル

日本では精油を薬として使うことは出来ませんが、免疫力を高めてくれるため、海外では風邪やインフルエンザといった症状の予防によく利用されます。また花粉による症状が気になる人にもおすすめです。

アロマデフューザーや熱湯を入れたマグカップに数滴垂らして置くだけでも、空気をクリアにしてくれますし、よい香りを楽しめますよ。

–花粉症がひどい方は、ひとつ持っておくと便利かもしれませんね。

田邊さん:

そうですね。ちなみに私は、人混みが予想される場所へ出かける際、トドマツの精油を襟元に垂らして使っています。外出先でも香りに癒されるのでおすすめです。

エッセンシャルオイルとSDGsの関係は?

–ここまでFSC認証や自然由来のトドマツの効能についてお伺いしてきましたが、フプの森としてSDGsとの関わりや貢献を意識していることはありますか?

田邊さん:

私たちの目的は、この香りを本当に必要としている方に商品を届け、製造過程にある人と森とのストーリーを知ってもらうことです。

確かに枝葉を活用してはいますが、大量に処理しているわけではないので森林環境への影響は大きくありません。それよりは、身近な商品を通して森について知ってもらいたい気持ちのほうが強いですね。

–人々の認知・理解の促進に努めているのですね。

田邊さん:

都会に住んでいる人をはじめ多くの人にとって、森を訪れる機会は少ないかもしれません。まして林業の現場を見ることなんて、ほとんどないでしょう。

しかし、自分たちの毎日の暮らしにある消費行動と、森は実は密接に繋がっています。日々の買い物で何を選ぶかによって、日本はもちろん世界の森へインパクトを与えうるのです。

フプの森の商品を通して、そうした事実を知っていただく機会を得てもらえたら嬉しいです。

–フプの森が取り扱うアイテムは、身近に取り入れやすいからこそ、多くの消費者が林業や森について知るきっかけとして最適な気がします。

田邊さん:

そうですね。この事業がみなさんの意識や価値観・行動を変えるきっかけとなり、社会の環境に対する意識の底上げをする一助になればと、切に願っています。

森林資源を通して、暮らしに身近な「森」を知るきっかけづくりを

–最後に、今後の展望や目標があれば教えてください。

田邊さん:

今後も、蒸留を軸に、森について知ってもらえるような商品を届ける活動は変わらず続けていくつもりです。スタンスが変わることもないでしょう。

例えば最近では、より幅広い方に私たちの商品を手に取っていただけるよう、森の恵みを使ったヘアワックスやヘアオイルの販売も始めました。

NALUQヘアケアシリーズ

–こちらは何を使っているのですか?

田邊さん:

ベースはトドマツやカラマツといった、下川町に生えている樹木のマツヤニです。マツヤニの粘性を活かして、頭髪のスタイリング剤を開発しました。

新商品の開発以外にも、ウェブサイトでは写真や言葉での伝え方にも工夫を凝らしたり、2014年に購入した自社森で、撮影やワークショップを行ったり。お客様との接点をひとつずつ増やして、ひとりでも多くの人へ森林のストーリーを伝えたいです。

冬の森での遊び

–ウェブサイトを拝見しましたが、とてもすてきですね!林業や蒸留についてのお話が、美しい写真と共に分かりやすく綴られているので、興味のある人はぜひ読んでもらえたらよいですね。本日は貴重なお話をありがとうございました!

インタビュー動画

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