#インタビュー

公益社団法人倉敷青年会議所|気づくことがSDGsの第一歩 普及活動で地域の問題解決に貢献する

公益社団法人 倉敷青年会議所 熊本さん インタビュー

熊本 雄介

1986年11月30日、岡山県倉敷市児島生まれ。2015年、倉敷青年会議所に入会。2018年西日本豪雨災害をきっかけにSDGsへの取り組みを決意し、勉強を始める。
2019年、倉敷青年会議所のまちづくり委員会副委員長として委員長と一緒に、SDGsを倉敷市内に普及するため、小学校での出前授業を開始。中学校や高校、大学からも出前授業のオファーが次々と舞い込む。2019年、倉敷市内の企業と協力して廃材を使ったものづくりのワークショップを開催。
社業は保険代理店(株式会社三備保険事務所)。倉敷青年会議所での経験で得た知見を活かし、社業へSDGsを取り入れた活動を実施。「安心かつ安全で持続可能な社会の実現」を目標に、事業活動を通じた社会課題の解決に取り組む。SDGsをベースに①事業継続強靭化②健康経営③事故削減対応④SDGsの推進⑤健康・長寿五つの取り組みを推進している。

introduction

「倉敷でSDGsと言えば倉敷青年会議所」といわれるほど、倉敷青年会議所はSDGsへの熱い思いを持った団体です。それは、サステナブル経営の原形とも言える経営手法で明治期を牽引した倉敷の実業家、大原孫三郎さながらの熱量です。

地域企業や自治体と協力し、SDGsの活動を通じて地域貢献に積極的に取り組んでおり、2020年には「おかやまSDGsアワード」を受賞しました。

今回は、公益社団法人倉敷青年会議所の熊本雄介さんに、これまでの取組みや苦労についてお話をお聞きしました。

SDGsは課題発掘ツール どこに進むべきなのかを明確に示してくれる

–はじめに倉敷青年会議所がどのような活動をされているか、またどのような方々が入会されているのかお聞かせください。

熊本さん:

青年会議所は日本全国にあり、「明るい豊かな社会」の実現を目指すためにそれぞれ活動している団体です。倉敷青年会議所ではひとづくり運動、まちづくり運動、青少年育成運動、環境運動を中心に、地域への貢献活動をしています。特に現在はSDGsの普及に力を入れています。

入会している人の業種は様々で、20歳から40歳の会員で構成され、2022年10月現在で72人が活動しています。

–では、SDGsを意識して活動に取り組んだのはいつからだったのでしょうか。

熊本さん:

SDGsの活動に本格的に取り組み始めたのは2019年からです。

それまで倉敷青年会議所は、さまざまな活動に取り組んで来ましたが、それが本当に「明るい豊かな社会」の実現に貢献しているのかどうかわからなくなっていました。

それと同時期、2018年に倉敷市真備町が西日本豪雨で甚大な被害を受けました。その現実を見て、街として災害に強くなる必要があると実感したんです。さらにその災害の原因をたどると、気候変動や砂漠化の問題などが関係していると知りました。

SDGsという言葉は、2017年頃から日本青年会議所の大会などで聞いていましたが、積極的な取り組みには至りませんでした。

しかし、真備町の水害をきっかけに、自分達の行動が災害を引き起こす原因になっていると気づき、倉敷青年会議所でもSDGsに取り組むことにしました。

その後、2019年から本格的な取り組みを始めるために、2018年中は日本各地を飛び回りSDGsの猛勉強をしました。すると、「SDGsにはいろいろな課題があり、これは課題発掘ツールで、どこに進むべきなのかを明確に示してくれるものだ」とわかったんです。

そこから、倉敷青年会議所はSDGsを地域へ普及することに力を入れています。

–2020年、倉敷市は「SDGs未来都市」及び「自治体SDGsモデル事業」に選定されていますが、倉敷青年会議所の関わりもあったのでしょうか。

熊本さん:

2019年当時、自治体は特にSDGsと公言した取り組みをしていたわけではありません。

なぜならこれまでもずっと地域のために、ひとづくり、まちづくり、また高梁川の環境問題などに取り組んでいたからです。

一方、倉敷青年会議所では2018年からの勉強を活かして、小学校から大学まで、さまざまな教育現場でSDGsを知ってもらう事業や、地域企業での講演やワークショップなどの活動をしていました。

そして「倉敷でSDGsと言えば倉敷青年会議所」と言ってもらえるまでになっていました。

そんな中で、市の事業の中でもSDGsが重要な位置を占めるようになってきたんです。そこで、今まで市の取り組んできた事業の視点を変えて、SDGsの活動として再構築するために倉敷青年会議所も協力するようになりました。

「気づき」こそがSDGsを知ること 自分ごと化につながる

–倉敷青年会議所の取り組みが、地域と自治体に広がりSDGsの普及につながっているのですね。では現在、特に力を入れている活動についてお聞かせください。

熊本さん:

ずっと続けているのは出前授業です。

小学校、中学校、高校、大学、ときには企業でもSDGsを普及する講演や授業をしています。

倉敷青年会議所が出前授業を始めた2019年は、教師でもSDGsを知らない人が多かったんです。ですから受け入れてくれる学校は少なかったのですが、地道に活動を続けたおかげで多くの学校で出前授業をするまでになりました。

–小学校ではどんな授業をされているのですか。具体的にお聞かせください。

熊本さん:

小学生にSDGsを教えるのは大変です。

45分という授業時間の制限もありますし、内容を盛り込みすぎると飽きてしまいます。その中でSDGsを「自分ごと」として感じてもらえるようなプログラムをいかに組むかが大事です。

《小学校での出前授業の様子》

あまり難しいことを話しても集中できませんから、簡単な内容なのですが、「識字率」の話をします。

まず、世界には読み書きのできない子どもがたくさんいることを話し、読み書きができないとはどういうことかを考えます。

そして具体例として、字が読めないと実際にどういったことが起こる可能性があるかを演劇で観てもらいます。

内容は、病気の人に薬を飲ませたいけれど、字が読めなくてどんな薬かわからない。あなたはA・B・Cどの薬を選びますかというものです。このときの薬にはアラビア語が書いてあり、子ども達は薬の表記は読めないんですね。選んだ薬がもし毒だったら、などと身近なこととして想像してもらいます。

《小学校出前授業 アラビア語が書いてあるボトル》

世界中に読み書きができない子ども達がいるのはなぜか、それは自分達とは関係がないことなのか、自分たちの日ごろの行動が今の世の中を作っているのではないか、と考えることが大切です。

授業が終わった後に感想文を書くのですが、それを読むと子ども達にはきちんと伝わっていると感じます。SDGsには「気づき」が重要です。

「自分たちの行動がそんなことに繋がっているのか」という気づき、「どの立場から行動を変えるのか、消費者か生産者か製造者なのか」ということが感想文には書いてあります。

45分1コマの授業では伝えきれませんので、もう少し掘り下げた知識を勉強するため、現在、水についての授業のプログラムを実施しています。

さらに自分達の日常生活と身近に繋がっていることを実感できる授業にしたいと思っています。

–中学校での授業はどのような内容なのでしょうか。

熊本さん:

中学校の授業では「2030SDGs」というカードゲームを行います。

「2030SDGs」は、現在から2030年のSDGsのゴールまでの道のりを体験するゲームです。ゲーム上でも現実世界と同様、様々な価値観や違う目標を持つ人がいる世界が繰り広げられます。

与えられたお金と時間を使って、自分の選んだ目標に向かいプロジェクト活動を行います。どうやってSDGsビジョンを実現していくのかを考えることで、「異なる価値観を持つ人たち・国・企業が、自分の利益を目指しながら、交渉や合意形成を通して、世界共通のゴールを目指す」という仕組みを学習できます。

出典:カードゲーム「2030 SDGs」の紹介 | 一般社団法人イマココラボ (imacocollabo.or.jp 

2019年には1学年全員が体育館に集まってゲームをしたこともありますし、1クラス単位での授業も行います。

生徒たちの反応はとても良く、ゲームもものすごく盛り上がります。

このゲームの体験から、自分たちの行動がどんなところに繋がっていくかを考えるきっかけになればと思っています。

《中学校出前授業 カードゲームの様子》

また、倉敷の美観地区を活用した特別授業も行いました。

2020年以降、修学旅行を行えない学校が多いんですが、そんな中でも旅行気分を少しでも味わいながらSDGsの学習をさせたい、との学校からの要望で行った授業です。

SDGsについての学習をした後、美観地区でいろいろなSDGsを発見するというプログラムでした。

《中学生の美観地区での特別授業》

倉敷の美観地区は新しく作られたものではありません。実業家であった大原孫三郎が、戦後の高度成長期の中、「倉敷の街の美しさを守り、地方の文化を尊重し大事にしたい」と考えたことが発端となり、現在まで守られ続けているものです。

大原氏の思想は、企業の社会的責任を明確にした「真の利益とは社会貢献の対価としての利益でなければならない」との発言からもわかるように、SDGsに通じる信念であり、日本のSDGsの第一人者とも言えます。

ですから美観地区にはSDGsのヒントがたくさん隠されているので、それを見つけ出す授業をしました。

–小学校、中学校どちらも楽しそうな授業が行われているのですね。一般市民向けの授業もあるのですか。

熊本さん:

はい、子ども達も大人も参加できるプログラムがあります。

2019年に「ひやさい2019×SDGs」という大きな取り組みをしています。

「ひやさい」というのは細い路地という意味なのですが、そんな路地にあるような隠れた素晴らしい倉敷の魅力を発信したいと、まちづくり委員会が取り組んできた活動です。

その活動とSDGsの取り組みも同時に発信しようと「ひやさい2019×SDGs」を行いました。

《ひやさい2019×SDGs 倉敷美観地区算数ツアーの様子》

いろいろな地域の企業とコラボして授業を組み立てましたが、SDGsを知らない方も多く、賛同を得られないこともあり、とにかく進めるのは大変でした。

しかし、「SDGsをいちから始めるのではなく、その企業が今まで取り組んできたことがSDGsだ」という視点でアプローチし、一緒に発信していこうとお誘いしました。

その結果多くの企業の参加が得られ、地元の酒造の見学をして酒粕で漬物を作ったり、倉敷が産地である「連島ごぼう」を掘る農業体験をしたり、17の授業を行うことができました。

《酒粕で漬物を作る様子 菊地酒造株式会社にて》
《連島ごぼうを掘る農業体験》

そのときにご縁をいただいた企業には、引き続き授業をしてくれる所や、倉敷青年会議所のテレビ番組に出演してもらうなど、お付き合いが続いています。

–参加者の反応はいかがでしたか?

熊本さん:

とても楽しんでくれました。やはり楽しむのが一番ですから嬉しかったですね。

イベント後のアンケートでは、「人権・環境問題など勉強になった」「電気を消すようにしたい」「フェアトレードの商品を選ぶようにします」など、気持ちの変化がみられます。

SDGsは、今後自分がどのようにアウトプットしていくかを考えるのが大事ですが、きちんとそのアウトプットが書かれていました。

《ひやさい2019×SDGs 美観地区で行った高校生との授業の様子》

「ひやさい2019×SDGs」の最終日に、それまでのSDGsの集大成として美観地区で閉会セレモニーを行いました。市長も招き、「公益社団法人倉敷青年会議所SDGs宣言」を発表しました。

《美観地区でのひやさい2019×SDGsの閉会セレモニー》

最初は大変なことばかりでしたが、続けることでそこまでたどり着いたと思っています。

長くいろいろな授業をしていると、「小学生のときに倉敷青年会議所の授業に参加し、それからSDGsの取り組みをしています。」などと言われることがあります。ちゃんと意識が変わっている人はいるんだなと嬉しくなりますね。

企業への意識の橋渡し、後継者への継承、持続可能な活動で地域を盛り上げる

–倉敷青年会議所オリジナルのテレビ番組も作っていらっしゃるのですね。出前授業もテレビ番組も、SDGsの深い知識が必要かと思いますが、会員の方たちはどのように勉強されているのでしょうか。

熊本さん:

はい、地元のケーブルテレビ局と提携してSDGsに特化した番組を作っています。

SDGsをより身近に感じてもらうため、衣食住など身近な話題や、地域企業の取り組みなどを紹介する番組です。

番組を作っていると、現在取り組んでいる自社の事業を見直し、SDGs活動への足がかりになったという企業が多くあります。このような事例をお話しすることで、企業同士のSDGs発信の橋渡しになればという思いで番組作りをしています。

SDGsの勉強に関して言うと、新しく青年会議所に入会した会員は、カードゲームから始めます。

出前授業の構築などに勉強は不可欠です。SDGsの担当になったら必然的に勉強しますし、先輩達の授業の見学もします。

ただ、メンバーが誰でも講演や授業ができるように、あまり難しい内容にはせずにシナリオをきちんと作るようにしています。

–最後に今後に向けた展望をお聞かせください。

熊本さん:

これからも真の地域課題にアプローチするような事業をしていきたいですね。

いろいろな良い仕組みを考えても、使う人のニーズを満たしていなければ意味がないと思います。本当に困っている人の声を拾える仕組みが大事ですので、いろいろな人達と情報共有、見える化して横のつながりを増やしていこうと思います。

企業ごとにSDGsへの取り組みの温度差はありますが、自動的に参画できる仕組みを作っていけばよいと考えています。

そもそもSDGsは慈善事業ではありませんから、経済がまわることが重要です。「こんな分野で地域課題に取り組めます」と企業側から発信して、自治体と協力することも可能です。

そのように経済のまわる仕組みを作り、地域に貢献したいと思います。

–本日はお忙しい中、貴重なお話をありがとうございました。

関連リンク

倉敷青年会議所HP:http://kurashiki-jc.or.jp/