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マイクロファイナンスとは?仕組み・問題点と日本企業の取り組み事例を解説

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苦しい生活からの脱却を応援する新しい金融の形、それがマイクロファイナンスです。小規模な資金を、融資や貯蓄のために提供することで、貧困に苦しむ人々の未来を開く手助けをします。

マイクロファイナンスは、どのように貧困解決に貢献するのでしょうか?マイクロファイナンスの仕組みや世界・日本の取り組み事例、メリットや問題点についてなどを、わかりやすく解説します。あなたもマイクロファイナンスの力で、社会的なインパクトを与えることができるかもしれません。

目次

マイクロファイナンスとは

マイクロファイナンスとは、小規模なビジネスや貧困層の人々に少額の、「貸し付け」「貯蓄」「保険」「送金」などの金融サービスを提供する取り組みです。

つまり、お金がなくても、小さなビジネスを始めたい人や、お金を貯めたい人に、少額の融資や貯蓄、保険などを提供します。これを利用することで、貧困に苦しむ人々が自己資本を増やし、収入を得ることができるようになる手助けをします。

ただし、マイクロファイナンスには注意点もあります。例えば、後に紹介するグラミン銀行が採用している「グループ連帯保証制度」では、5人1組のグループが作られ、一人が返済できない場合、他のメンバーが返済を肩代わりします。

これは支払いを確実にするための方法ですが、一方で返済困難に陥ったメンバーに対するプレッシャーも生じます。

マイクロファイナンスは日本語で何と呼ぶ?

マイクロファイナンスは、日本語では「小口融資」とも呼ばれています。また、そのまま「マイクロファイナンス」という呼び方も用いられます。

どちらも貧困者向けの「小口(マイクロ)金融(ファイナンス)」の総称で、小規模の貸し付け・貯蓄・保険・送金などの金融サービスを指します。

マイクロファイナンスは寄付ではない

ここで押さえておきたいことが、マイクロファイナンスは貧困層や低所得者層が自立や経済活動を促進するための手段であるということです。お金を与えたり、高利貸ししたりするのではなく、彼らのニーズに合った金融サービスを提供することによって、貧困問題の解決や経済発展に貢献することを目的としています。

マイクロファイナンスが必要とされる背景

マイクロファイナンスが必要とされる背景は、多くの貧困層の人々が一般的な金融サービスを利用できないためです。貧困に苦しむ人々は、銀行口座を持っていない場合が多く、また、一般的な銀行からの貸付では保証人や担保を求められるため、融資を受けることが困難です。

このような人々が、マイクロファイナンスを利用して、

  • 新しいビジネスを始める
  • 子供を学校に行かせる
  • 病気の治療費を払う

などのことができるようになります。

また、マイクロファイナンスは、社会的課題解決を目的としたビジネスの1つであり、必要な人が利用することで、地域経済の活性化につながります。

例えば、ある人が子どもの将来のために学校へ通わせたいと思っています。しかし、現状では子どもを働かせることでどうにか家族が生活できるほどの収入を得ているうえに、その人は保証人のあてもなく銀行からお金を借りることができません。

このような状況の人に、マイクロファイナンスの組織は少額のお金を貸して、ビジネスを始める手助けをします。収入が増えれば、子供を学校に通わせることができ、貧困削減だけでなく、児童労働の問題削減にも貢献します。

近年では世界中で、マイクロファイナンスは貧困を減らすための重要な方法の1つとして広がっています。次の章では、マイクロファイナンスの歴史から、より理解を深めていきましょう。*1)

マイクロファイナンスの歴史

マイクロファイナンスは、人々が自分たちの生活を改善するための手段として長い間存在してきました。その歴史は、共同体の結束力を利用した小規模な金融活動から始まり、現在では世界中の貧困層を支援する重要な手段となっています。

15世紀:初期のマイクロファイナンス

15世紀には、フランシスコ会の修道士たちが信心深い行いから「モンテス・ピエタティス」を設立しました。これは、共同体内での小規模な融資の基礎となったと言われています。

1849年:信用協同組合の設立

1849年には、プロイセンの市長であったフリードリヒ・ヴィルヘルム・ライファイゼンが、初めて預金と貸付を行う信用協同組合を設立しました。これは、貧しい労働者や銀行から排除された人々に預金サービスを提供するためのものでした。

1970年代:マイクロクレジットの誕生

【グラミン銀行創設者 ムハマド・ユヌス博士】

1976年、ムハマド・ユヌス氏がグラミン銀行を設立し、貧困層の女性に小規模な融資を提供することで、彼女たちが自立し、家族の生活を改善する支援を開始しました。この頃は「マイクロクレジット」と呼ばれることが一般的でした。

1980年代:マイクロファイナンスの概念が広まる

1980年代後半になると、マイクロクレジットは単なる融資にとどまらず、金融教育や職業訓練などのサービスを提供するようになりました。また、マイクロクレジットの対象は、女性だけでなく、男性や農家などにも拡大しました。

1980年代後半から1990年代にかけて、マイクロクレジットマイクロファイナンスに発展し、単なる融資から、貧困削減や経済発展に貢献する取り組みへと進化していきます。

しかし、マイクロファイナンスは、融資(マイクロクレジット)だけでなく、貯蓄や保険なども含むようになりましたが、この変化が具体的にいつ起こったのかは、明確ではありません。この変化が1990年代後半から始まったという考え方もあります。

1990年代:マイクロファイナンスを国連が支援

1990年代になると、国際連合(以降、国連)がマイクロファイナンスを開発の手段として認識し、普及を支援するようになりました。1995年には国連が「北京会議」において、マイクロファイナンスの普及と拡大を宣言しました。

この頃から、マイクロファイナンス機関の設立が相次ぐようになります。

2000年代以降:国連が「マイクロファイナンスに関する世界宣言」

2005年、国連が「マイクロファイナンスに関する世界宣言」を採択し、マイクロファイナンスの普及を促進し、貧困削減や経済発展に貢献することを宣言しました。2006年には、グラミン銀行とその創設者であるムハマド・ユヌス氏がノーベル平和賞を受賞し、以降現代でもマイクロファイナンスは社会的課題解決の1つとして注目されています。

以上が、マイクロファイナンスの歴史です。マイクロファイナンスは、貧困層の人々に金融サービスを提供する取り組みとして、今後もますます注目されることでしょう。

次の章では、マイクロファイナンスの仕組みを確認しましょう。*2)

マイクロファイナンスの仕組み

マイクロファイナンスは、小さな資金が大きな変化をもたらす力を持っています。貧困層や小規模事業者に金融サービスを提供することで、彼らの経済的自立を支援し、持続可能な成長を実現する道を開拓します。

マイクロファイナンスの仕組みをしっかりと理解しておきましょう。

①マイクロファイナンス機関に申し込む

まず、マイクロファイナンス機関に申し込みます。これらの機関は、銀行や政府系金融機関、非政府組織(NGO)など、さまざまな形態があります。地元のコミュニティーセンターや市役所で情報を得ることができます。

②審査を受ける

次に、マイクロファイナンス機関は、融資の可否を審査します。審査では、返済能力や事業計画などを考慮します。この段階では、具体的な事業計画や収入源を明確に説明することが重要です。

③融資を受ける

審査に通過すると、融資を受けることができます。融資の金額は、マイクロファイナンス機関によって異なりますが、数万円から数十万円程度が一般的です。このお金は、新しいビジネスの開始や既存ビジネスの拡大などに使用できます。

④返済する

最後に、融資を受けた資金は、決められた期間と利息をつけて返済する必要があります。返済計画は個々の状況に合わせて作成され、通常は毎週または毎月の返済となります。

また、完全に返済が終わった後、再度融資を受けることが可能です。これにより、持続的な事業運営が可能となります。

マイクロファイナンスの仕組みを理解し活用することで、生活改善や自立を支援する重要な手段となります。もしあなたが、

  • お金を借りるのが難しい
  • 事業を始めたい
  • 学費を支払いたい
  • 病気やケガの治療費がかかる

といった状況にあるなら、マイクロファイナンスの仕組みを活用することを検討してみてはいかがでしょうか。次の章では、マイクロファイナンスのメリットに焦点を当てていきます。*3)

マイクロファイナンスのメリット

マイクロファイナンスは、小さな種を植えて大きな木を育てるようなものです。その力は、一見小さく見えますが、その影響力は大きく、多くのメリットを生み出します。それでは、その具体的なメリットを見ていきましょう。

 貧困層の経済活動を支援

マイクロファイナンスは、貧困層の人々が自立し、自分自身の力で生計を立てるための手段を提供します。少額な資金で、できる範囲の新たなビジネスを立ち上げることが可能となります。

ジェンダー平等の推進

特に貧困に苦しむ女性は、資金調達に困難を伴う場合が多いので、マイクロファイナンスは、世界中にある根強い問題の解決を目指します。これにより、より多くの女性が自立し、経済活動に参加する機会が増えます。

地域経済の活性化

マイクロファイナンスは、個々の事業や生活改善だけでなく、地域全体の経済も活性化します。新たなビジネスが生まれ、雇用が生み出されることで、地域の経済が成長します。

貧困の連鎖を断つ

貧困層の子どもは、教育や医療を受けることができないため、就職や起業などの機会を失い、親と同じように貧困に陥るリスクが高くなります。マイクロファイナンスによって、貧困層は子どもの教育や医療を受けられるようになり、貧困の連鎖を断つことができるでしょう。

マイクロファイナンスのメリットは、個々の経済活動から地域全体へと広がる波及効果があることです。これらのメリットを通じて、マイクロファイナンスは世界中の貧困に苦しむ人々に希望と機会を提供し、より良い生活を送る手助けをしています。

次の章では海外のマイクロファイナンスに関する取組事例を見ていきましょう。*4)

【海外】マイクロファイナンスに関する取り組み事例

マイクロファイナンスは、途上国を中心に世界中で広く普及しています。ここでは、海外のマイクロファイナンスに関するいくつかの取組事例を紹介します。

グラミン銀行

【真剣な表情で日本の学生たちに語りかけるムハマド・ユヌス氏】

グラミン銀行は、バングラデシュでムハマド・ユヌス氏によって設立された世界初のマイクロファイナンス機関です。グラミン銀行のマイクロファイナンスの特徴は、

  • 無担保で融資を行う
  • グループ連帯保証制度を採用する
  • 女性を優先的に融資する

などが挙げられます。

グラミン銀行の「グループ連帯保証制度」

グラミン銀行の「グループ連帯保証制度」とは、5人程度のグループを作り、そのグループで連帯保証を組んでもらうことで、返済能力のない個人でも融資を受けられるようにする制度です。この制度によって、担保や保証人がなくても、貧困層が事業を始めたり、生活を改善したりすることが可能になりました。

Kiva

【kiva:Unlock your organization’s impact potential】

Kivaオンラインのマイクロファイナンスプラットフォームです。世界中で貧困問題解決を目指す投資家から資金を集め、貧困に苦しむ人々や小規模事業者に提供しています。

Kivaのマイクロファイナンスの特徴は、

  • インターネットを通じて、誰でも世界中の借り手に融資できる
  • 融資額は25ドルから
  • 利息は借り手の返済能力に合わせて設定される

などが挙げられます。このマイクロファイナンスを利用するには、Kivaのウェブサイトにアクセスして、借り手を選び、融資を申し込みます。融資は通常、1年から5年の期間で返済します。

VisionFund

【VisionFund Impact Evaluation: Savings Group Lending for VisionFund Rwanda】

VisionFundは、世界的なマイクロファイナンスネットワークです。VisionFundは、世界中の貧困や低所得に苦しむ人々に小規模な融資を提供することによって、経済的自立を支援しています。

VisionFundのマイクロファイナンスの特徴は、

  • キリスト教に基づく理念に基づく
  • 女性を優先的に融資する
  • 金融教育や職業訓練などのサービスを提供する

などが挙げられます。VisionFundのマイクロファイナンスは、世界中で広く展開されており、貧困問題解決に重要な役割を果たしています。

Bima

Bimaは、2010年に設立された会社で、主にアフリカやアジアの貧困層や低所得者層を対象に、マイクロ保険を提供しています。Bimaのマイクロ保険は、

  • 死亡保険
  • 疾病保険
  • 農業保険
  • 災害保険

などがあり、無担保で提供されているので、低所得者でも利用しやすいことが特徴です。また、Bimaは、保険金の支払いを迅速かつ確実に行うことにも注力しています。

ここで紹介した例はごく一部で、海外では政府やNPOなどのさまざまな主体が、マイクロファイナンスによる貧困問題解決に取り組んでいます。これらの取組事例は、日本のマイクロファイナンスの普及と発展の参考になっています。

しかし日本の貧困の状況は途上国とは異なるため、日本でマイクロファイナンスを拡大するには独自のシステムが必要とされています。次の章では、日本のマイクロファイナンスに関する取組事例を確認しましょう。*5)

【日本】マイクロファイナンスに関する取り組み事例

マイクロファイナンスは、途上国だけでなく日本でも広がりを見せています。日本では、貧困の原因は、海外と比べて経済的な要因よりも、社会的な要因や個人の要因が大きいと言われています。

厚生労働省の「2018年 国民生活基礎調査」によると、日本の相対的貧困率(貧困線※に満たない世帯員の割合)は15.4%でした。これは、日本人口の約6人に1人、約2,000万人が貧困ライン以下での生活を余儀なくされていることを示しています。

貧困線

相対的貧困を測る指標として用いられる。相対的貧困とは、ある社会において、平均的な生活水準に達していない状態のこと。

厚生労働省が2018年に公表した情報によると、日本の貧困線は年収が、

  • 単身世帯:約124万円
  • 2人世帯:約175万円
  • 3人世帯:約215万円
  • 4人世帯:約248万円

となっている。

【貧困率の年次推移 】

同じく「2018年 国民生活基礎調査」によると、子どもの貧困率(17歳以下)は13.5%でした。これらのデータは、日本社会における貧困問題の深刻さを示しています。

この問題に立ち向かう機関と、日本から世界に向けたマイクロファイナンスに取り組む期間を紹介します。

【関連記事】相対的貧困とは?わかりやすく解説!日本の現状と問題点や取り組み事例

グラミン日本

グラミン日本は、バングラデシュのグラミン銀行をモデルとした日本のマイクロファイナンス機関です。グラミン日本は、バングラディッシュのグラミン銀行の直接的な子会社や関連会社ではありません。しかし、グラミン銀行の創設者ムハマド・ユヌス博士公認の、日本版のグラミン銀行であると言えます。

グラミン日本は、まだまだ設立して間もない団体ですが、着実に活動を拡大しています。グラミン日本の特徴はグラミン銀行と同じく、

  • 低金利・無担保で融資を行う
  • 起業や就労の支援を行う
  • 互助グループを結成して、グループで助け合う

などです。現在は2週間に1度の互助グループが集まるミーティングに参加できる範囲での支援ですが、今後はオンラインでのミーティングも実施する予定です。

五常・アンド・カンパニー

【金融サービスの説明を聞くカンボジアの村の人々】

五常・アンド・カンパニーは、途上国の人々に対してマイクロファイナンスを提供し、十分な資金のない人たちが、自立のためにビジネスを始める手助けをしています。また、他のマイクロファイナンス機関と連携し、その能力向上を支援することで、より広範な影響を生み出しています。

五常・アンド・カンパニーは、途上国の人々に日本と同じような融資制度を提供するだけでなく、ビジネスのアドバイスや教育も提供しています。

五常・アンド・カンパニーは、すべての人に金融アクセスを届け、機会の平等を実現します。

引用:五常・アンド・カンパニー『五常・アンド・カンパニーは、マイクロファイナンス機関とのパートナーシップ金融アクセスを実現します』

この宣言からもわかるように、五常・アンド・カンパニーは、世界中に金融包摂※を届けることを目指しています。

金融包摂

金融包摂とは、金融サービスへのアクセスを広げ、経済的な包摂を促進すること。具体的には、低所得者や農村部の人々など、金融サービスにアクセスしにくい人々に対して、銀行口座の開設や貸付の提供などを行い、経済的な機会や安全網を提供するなどの活動。金融包摂は、貧困削減や経済成長の促進などの効果が期待される。

日本でもマイクロファイナンスに取り組む機関はありますが、利用者数はまだ少なく、その内訳も女性や高齢者に偏っていると言われています。また、マイクロファイナンスは、貧困や生活困窮者の自立支援を目指していますが、日本の法律や制度の影響で、海外のモデルをそのまま適用することは難しいのが現状です。

次の章では、このようなマイクロファイナンスのデメリットや問題点などを確認します。*6)

マイクロファイナンスのデメリット・問題点

マイクロファイナンスは、貧困層の経済的自立を支援する有効な手段ですが、その一方で、いくつかのデメリットや問題点も指摘されています。世界と日本に分けて見ていきましょう。

世界的に見たマイクロファイナンス

世界的なマイクロファイナンスの問題点は、多重債務や高金利、女性への貸付問題などがあります。これらは、マイクロファイナンスが主に途上国で展開されていること、そしてその地域特有の社会経済的な課題から生じています。

多重債務問題

1つのマイクロファイナンス機関への返済のために、別の機関からさらに借り入れを行い、返済に苦しむことがあります。この問題は、マイクロファイナンス機関が借り手の信用履歴※を共有できないことが大きな原因とされています。借り手が借り入れを繰り返すことで、金利の上昇や返済期限の短縮などが重なり、返済が困難になることもあります。

信用履歴

個人や企業が過去に借金やクレジットカードの利用などでどれだけ返済能力や信用があるかを示す情報。借り手の返済履歴や未払いの情報などの記録。借り手が返済能力を示し、貸し手がリスクを最小限に抑えるために欠かせないもの。

返済不能のリスク

マイクロファイナンスの融資は、貧困層を対象としているため、返済不能になるリスクが高いと言えます。そのため、貸し倒れが発生し、マイクロファイナンス機関の経営が悪化する可能性があります。

高金利

世界平均のマイクロファイナンスの金利は、20%〜40%と、先進国の金融機関の融資と比べて高いのが現状です。マイクロファイナンスの融資は無担保であるため、貸し倒れリスクをカバーするために、金利が高く設定されている場合があります。

しかし、実際にはマイクロファイナンスの金利が高い主な理由は、運用コストが高いためです。貧困に苦しむ人々が遠隔地に住んでいたり、1件当たりの貸出金額が小さいことから、運用コストが高くなります。

女性の搾取

女性への貸付は女性をエンパワーするとされていますが、実際には男性が女性を利用してお金を借りることがあります。また、女性は男性に比べて経済的な力が弱いことが多く、借りたお金を返済できず苦しい状況に陥ってしまう可能性があります。

日本のマイクロファイナンス

日本のマイクロファイナンスは、先進国特有の課題を抱えています。例えば、日本では銀行口座開設が比較的容易であるため、マイクロファイナンスの必要性が低く感じられることがあります。

また、日本では起業よりも雇用されることの方が多いため、マイクロファイナンスによる起業支援の需要が限定的です。

利用者が少ない

日本のマイクロファイナンスの利用者は、約40万人と少なく、対象となる生活困窮者の数に比べて、まだまだ普及が進んでいません。

女性や高齢者に偏っている

日本のマイクロファイナンスの利用者は、女性や高齢者に偏っています。そのため、男性や若者の貧困対策にも貢献できるような取り組みが必要です。

地域格差

日本のマイクロファイナンスは、地域によってサービスの提供が異なる場合があります。地方や農村地域では、金融サービスへのアクセスが限られていることが課題となっています。

法律や制度

日本の金融業界は厳格な規制があるため、海外のマイクロファイナンス機関がそのまま日本で事業展開することは難しいと言われています。また、日本の金利制限法によって、金利の上限が設定されているので、マイクロファイナンス機関にとっては貸し倒れのリスクを考慮した金利設定が難しい場合があります。

今後は、これらの問題や課題を克服しながら、マイクロファイナンスの普及と効果の向上を図っていくことが大切です。また、マイクロファイナンスは、貧困層に対して無担保で少額の融資を行うことで、彼らの経済的自立を支援する取り組みです。そのため、マイクロファイナンスによって、貧困層がより苦しむという例は、ごく少数に限られます。

次の章では、マイクロファイナンスの普及に向けて私たちができることを考えてみましょう。

マイクロファイナンスの普及に向けて私たちができること

マイクロファイナンスは、貧困層の自立支援を目指す重要な手段です。しかし、まだ十分に普及しているとはいえず、その普及のために私たちの協力も必要です。

個人にできること

マイクロファイナンスの普及に向けて、私たち個人にもできることがあります。代表的な例では、

  • マイクロファイナンスについて理解を深める
  • マイクロファイナンスの知識を周囲に広める
  • マイクロファイナンス機関に寄付・投資する

などによって、マイクロファイナンス機関を応援したり、マイクロファイナンスによって貧困から脱出する機会を必要な人に届けることができます。

企業にできること

企業は資金力やネットワークを活かして、マイクロファイナンスの普及と社会的な包摂の推進に貢献することができます。例えば、

  • CSR活動としてマイクロファイナンス機関へ支援する
  • マイクロファイナンス機関に投資する
  • マイクロファイナンス機関とパートナーシップを結び、共同でプロジェクトを行う

などの取り組みが挙げられます。

マイクロファイナンスの普及は、貧困層の経済的自立を支援し、社会の持続可能な発展に貢献します。個人や企業で、それぞれの立場でできることに取り組み、マイクロファイナンスの普及と効果の向上につなげましょう。

次の章では、マイクロファイナンスがSDGsの目標達成に向けて果たす役割について解説します。

マイクロファイナンスとSDGsの関係

小さなお金が大きな変化を生むマイクロファイナンスは、SDGsの達成に向けた貴重な手段の1つです。特に関係が深いSDGs目標を確認しましょう。

SDGs目標1「貧困をなくそう」

マイクロファイナンスは、小さな貸付で貧困に立ち向かう人々を支えます。例えば、少額のお金を借りて商売を始め、生活を改善することができます。これにより、自分自身で貧困から脱出する力を得ることができます。

SDGs目標5「ジェンダー平等を実現しよう」

女性はしばしば経済的なチャンスを得られない場合があります。しかし、マイクロファイナンスは女性に小さな資金を提供し、自分のビジネスを立ち上げるチャンスを与えます。これにより、女性の経済的自立とジェンダー平等の実現に貢献します。

SDGs目標8「 働きがいも経済成長も」

マイクロファイナンスは、人々が自分の仕事を持ち、自分自身で生計を立てることを可能にします。これにより、働きがいを感じながら経済成長に貢献することができます。

SDGs目標10「人や国の間の不平等をなくそう」

マイクロファイナンスは、貧困層や女性など、社会的に不利な立場にある人々に対して、経済的な機会を提供します。これにより、社会的な格差を縮小することができます。

これらの目標を達成するためには、まだまだ多くの課題があります。しかし、マイクロファイナンスがもたらす小さな資金が、貧困から脱出しようとする人にとっての大きな希望となる可能性は少なくありません。

直接的にマイクロファイナンスを必要としない人も、マイクロファイナンスによってより良い未来を目指す人も、マイクロファイナンスへの理解を深め、その効果を社会に浸透させることが重要です。*8)

>>各目標について詳しくまとめた記事はこちらから

まとめ

貧困に苦しむ人々は、自らの力で生活を改善することが難しい状況に置かれています。しかし、マイクロファイナンスを利用することで、経済活動に参加し、収入を得て、生活を改善することができます。

しかし、まだまだ課題は多く、

  • マイクロファイナンスを利用できる環境にない人
  • 情報や知識が乏しいためにマイクロファイナンスを利用できない人

なども多く存在します。

マイクロファイナンスの普及は、貧困問題の解決に向けた大きな一歩です。私たちひとりひとりが、マイクロファイナンスを正しく理解し、小さな行動を起こすことで、社会に大きな変化を生み出すことができます。

あなたもマイクロファイナンスについて理解を深め、行動することで、貧困に苦しむ人々が自らの力で生活を改善し、貧困の連鎖を断ち切るために貢献できます。あなたも無理なくできることから始め、世界のより多くの人が豊かな人生を送れる社会を実現しましょう!

〈参考・引用文献〉
*1)マイクロファイナンスとは
グラミン日本『MICRO FINANCE マイクロファイナンス/小口融資』
日本財団『「やりたいことは、今すぐやりなさい」ノーベル平和賞ムハマド・ユヌス氏が、日本の若者に伝えたこと』(2019年12月)
外務省『ノーベル平和賞を受賞したグラミン銀行を支えた日本のODA』
アジア経済研究所『マイクロファイナンス Microfinance』
*2)マイクロファイナンスの歴史
グラミン日本『あなたとつくる希望の一歩』
庄司 匡宏『マイクロファイナンスの経済学―新返済制度を中心とした現状と展望―』(2009年11月)
株式会社日本総合研究所『我が国におけるマイクロファイナンス制度構築の可能性及び実践の在り方に関する調査・研究事業』(2013年3月)
鈴木 久美『マイクロファイナンスにおける新たな潮流*−ASAによるグループ貸付の実例から−』
*3)マイクロファイナンスの仕組み
JICA『貧困緩和とマイクロファイナンス』
CROWD CREDIT『マイクロファイナンスの日本の現状と企業などの取り組みについて』(2022年8月)
*4)マイクロファイナンスのメリット
熊本大学『発展途上国の貧困削減に対するマイクロファイナンスの効果』
庄司匡宏『マイクロファイナンスの経済学―新返済制度を中心とした現状と展望―』
国際開発センター『マイクロファイナンスはミラクルだったのか?:その効果の有無を巡る論争とインパクト評価による検証』
佐野 聖香『マイクロファイナンスによる貧困削減~インド SHG プログラムを事例に~』
日本総研『アジアの貧困削減とマイクロファイナンス』(2006年10月)
経済産業研究所『融資は何に使われたのか? マイクロファイナンスと貧困層の起業支援』(2008年7月)
有本 寛『「マイクロファイナンスは貧困削減に効く!?』(2009年11月)
王 京濱『アジア途上国の農村開発とマイクロファイナンス 』(2014年)
外務省『マイクロクレジット事業における、ビジネス研修利用の有用性とその汎用性について』(2005年3月)
*5)【海外】マイクロファイナンスに関する取組事例
日本財団『「やりたいことは、今すぐやりなさい」ノーベル平和賞ムハマド・ユヌス氏が、日本の若者に伝えたこと』(2019年12月)
外務省『ノーベル平和賞を受賞したグラミン銀行を支えた日本のODA』
Naseer JAMADAR『最貧困層の自立へ希望を与えるグラミン銀行マイクロクレジットの考察と今後の課題─ バングラデシュを事例として ─』(2015年8月)
kiva『Make a loan, change a life.』
VisionFund『In the aftermath of a crisis, offering loans to help families rebuild their lives』
THE DEGITAL INSURER TDI『BIMAは携帯電話事業者を通じてマイクロ保険を配布しています』
THE DEGITAL INSURER TDI『保険業界全体でデジタルを探索、学習、提供するためのプラットフォーム』
THE DEGITAL INSURER TDI『BIMAは携帯電話事業者を通じてマイクロ保険を配布しています』
kiva『We envision a financially inclusive world where all people hold the power to improve their lives.』
*6)【日本】マイクロファイナンスに関する取組事例
厚生労働省『「2019年国民生活基礎調査の概況」(厚生労働省) 抜粋』
グラミン日本『あなたとつくる希望の一歩』
グラミン日本『MODEL 支援モデル』
五常・アンド・カンパニー『五常・アンド・カンパニーは、世界中に金融包摂を届けることを目指します』
五常・アンド・カンパニー『五常・アンド・カンパニーは、マイクロファイナンス機関とのパートナーシップ金融アクセスを実現します』
NIKKEIリスキリング『途上国の貧困問題を解決 日本発マイクロ金融で挑む 五常・アンド・カンパニー 慎泰俊社長』(2020年1月)
*7)マイクロファイナンスのデメリット・問題点
西垣 鳴人『マイクロファイナンスを機能させるための政策課題~「貸し手」と「借り手」双方の行動分析に基づいて~』
CROWD CREDIT『マイクロファイナンスの問題点とその対策   ~投資家側の責任について~』(2018年6月)
高野 久紀,高橋 和志『マイクロファイナンスの現状と課題』
蜂谷 りり『バングラデシュにおけるマイクロファイナンスの役割と課題に関する研究~グラミン銀行を事例として~ 』
アシフル・ラーマン『バングラデシュにおける大規模マイクロファイナンス機関の事業拡大の課題と展望 : グラミン銀行、ASA、BRACの事例より』
上西 英治『マイクロファイナンスの意義とその課題-グラミン銀行を事例とした論点整理-』(2007年11月)
*8)マイクロファイナンスとSDGs
経済産業省『SDGs』