宮村 連理
東京生まれ。小学生のとき、東京学芸大学「子どものための冒険学校」への参加をきっかけに野外活動に興味を持つ。同大学院在学時に損保ジャパン環境財団(当時)の学生プログラムで活動、公立中学校総合学習の支援などを行い、教員の道へ。2018年より同大附属小金井中学校勤務、同大環境教育研究センター兼任所員。学生時代より同財団が支援する森林NPO緑のダム北相模に参加、2016年より同会副理事長。2020年より東京学芸大Explayground推進機構GREEN TECH ENGINEER LABに参加。
目次
Introduction
「緑のダム北相模」は、神奈川県相模原市周辺で民有林等の森林整備を行うNPO法人です。1998年の活動開始以来、幅広い活動を通じて、地域の森林環境の改善に尽力しています。
2020年からは、東京学芸大学の「GREEN TECH ENGINEER LAB(GTEラボ)」と協働プロジェクトを開始。ここでは学芸大附属の中学生が主体になって、間伐材の活用に取り組んでいます。
今回、東京学芸大学にお邪魔し、緑のダム北相模の副理事長である、東京学芸大学附属中の宮村先生に、活動の様子や今後の展望などを伺いました。インタビュー中にも、生徒さんたちが歓声を上げながら、一生懸命に制作に取り組んでいる姿が印象的でした。
緑のダム北相模:森を守る3つの活動
-まず活動内容からお聞かせください。
宮村さん:
緑のダム北相模では、「森をつくる」「森とつなぐ」「森をいかす」という3つの観点に基づき、中高生の生徒たち主体で活動を行っています。
1つ目の「森をつくる」ですが、これは間伐や枝打ち、植樹などによる森林整備です。
相模原市の民有林で間伐の必要がある木を伐採しています。
-適度に森林を間伐しないと、大雨や台風の時に被害が出てしまいますからね。
間伐は実際に子どもたちが行うんですか?
宮村さん:
はい。子どもたちが森に入り、自分たちで木を切るんです。
チェーンソーは18歳以上の有資格者しか扱えないため、子どもたちは手ノコを使います。それを軽トラに積めるくらいの大きさに切って運び出します。
宮村さん:
2つ目の「森とつなぐ」では、地域の小学生を対象にした体験教室などのイベントを開催しています。
このイベントでは緑のダム北相模に所属する大学生が企画や運営を行い、中高生達には、参加する子どもたちの世話をしてもらっています。
-学生主体でイベントが運営されるんですね。
宮村さん:
はい。参加者を募集するためのチラシの作成なども中高生で作成しています。
デジタルを使ったなかなか本格的な仕上がりになっているんですよ。
-そして今こちらでは、生徒さんたちが間伐材を使って一生懸命制作に励んでいますね。
宮村さん:
はい。この作業が3つ目の「森をいかす」活動で、今日はこれを中心にお話しますね。
宮村さん:
「緑のダム北相模」は2020年から、東京学芸大学のGREEN TECH ENGINEER LAB(GTEラボ)と協働プロジェクトを発足し、大学内に作業スペースを設けて活動しています。
東京学芸大Explayground推進機構という組織があり、その中に複数のラボがあります。GTEラボもその一つです。
ここにいるメンバーは基本的にGTEラボに所属しているのですが、同時に緑のダム北相模の学生会員でもあるという位置付けです。
-具体的にどのような活動をされているのでしょうか?
宮村さん:
ラボでは切り出してきた間伐材を使って、生徒たちが自分の作りたいものを制作したり、自治体や団体、企業などから注文を受けて製品を制作、販売したりしています。
レーザー加工機や3Dプリンタのようなデジタル機材もありますので、そうした機材も使いこなしながら、3〜4人くらいのチームを組んで作業しています。
基本的に大きな危険を伴う作業はさせませんが、ほとんどは先輩の学生や教員が指導したうえで、チャレンジしてもらっています。
-多少危なくても、まずはやってみるということなんですね。
宮村さん:
そうですね。そして制作物の打ち合わせはSlackで連絡を取り合うなどもしています。
-中高生でSlackですか…。すごいですね。
宮村さん:
本当ですね(笑)。学校だとスマホやWi-Fiの利用に制限がありますが、ここの活動は学校を下校して参加するという位置付けなので、このスペースにあるWi-Fiもデジタル機材も自由に使ってもらってます。
活動を支える学芸大との協働プロジェクト
-学校を下校して行う、関係ないということは、部活動や学内活動の一環というわけではないんですか。
宮村さん:
そうですね。基本的にExplaygroundが主体となって行っているプロジェクトです。そのため、彼らの活動についてもExplaygroundが全面的に支援することになっています。
-部活動でもないということでしょうか?
宮村さん:
部活動ではないですね。生徒の中には、部活動に入っている子もいて、それが終わってからこちらに来る子もいますね。
放課後から、だいたい18時から18時半くらいまで作業をしますが、親御さんの了承が得られれば、比較的遅い時間まで活動ができます。
旺盛な創作意欲と最新技術が育むハイレベルな作品
-ここでは、どのようなものを作っているんでしょうか。
制作物をいくつか見せていただいてもよろしいですか。
宮村さん:
例えばすのこです。学校の玄関口にあるものが古くなったということで、生徒たちが作っています。
最初はうまくできませんでしたが、何度か改良を重ねて実用に耐えるものになりました。
他には、学内のベンチ。一時は座板が壊れて廃棄寸前だったものを、修復して座れるようにしています。
宮村さん:
また、保育園などからは木をかたどった積み木などのご依頼を受けることもあり、これまで何セットか作って、小金井市の幼稚園や公民館などに納めています。
こちらの名札ケースは3Dプリンターを使って作りました。
宮村さん:
他にもアクリル板をレーザー加工機にかけて作った樹名板があり、実際に活動している相模原の森の果樹園で使われています。
-どれも本格的ですね!
宮村さん:
技術の授業のように、採寸してプレカットされた木材キットを手順通りに組み立てるようなものではなく、本格的なものを作っています。作っていてつまらないものは子供にはすぐ見抜かれ、興味を持ってもらえませんからね(笑)
体験し、楽しむ。森から学ぶ子供たち
-緑のダム北相模さんは1998年から長く活動されています。当初から生徒さん主体だったのでしょうか。
宮村さん:
いいえ。今から20年ほど前、私が緑のダム北相模に出入りし始めたころは、大人ばかりでしたね。
職業も、看護師さんだったり、工務店に勤めている方だったりとさまざまでした。
ただ、もともと年配の方が多かったこともあり、だんだん来られる方が少なくなっていきました。
そうした事情もありまして、ならば子供たちに参加してもらおうかとなったわけです。
-子供たちに参加してもらおうと思ったきっかけは何だったのでしょうか。
宮村さん:
私は当時、こことは別の高校に勤めていましたが、不登校の子が多い学校でした。何かできることはないかと考え、その子たちを森に連れて行ってみたら、とても元気になったんです。新しい活躍の場を見出して、実に生き生きとしていました。
そこで、山の斜面ひと区画を預かって、森林保全活動をやったら面白いんじゃないかと始めたのが始まりです。
そこから中学校に移り、子供たちに声をかけていくうちに、どんどん活動が広がっていきました。
-徐々に子どもたちが中心の活動にシフトしていったんですね。
宮村さん:
そうですね。今は参加者を集めることに関しても、大人が呼びかけることはほとんどしていません。
子ども同士で声を掛け合ったほうがうまくいくことが多いので。逆にあまり私たちがあれこれと干渉すると、自分たちが考えてやっているんだから、口出しするなと言われる有様です(笑)
場を用意して、大事なところだけ押さえて、後は任せて見守るくらいですね。
大学生もそうですが、大人による上からの押しつけやお仕着せでは、今の子たちはついていきません。もうそういう時代じゃないんです。
-確かにそうかもしれません。学校活動の中で力を入れつつある探究型学習にしても、子供の主体性を重んじると言いつつ、結局は大人や教師の側が主導権を手放さないものになりがちですからね。
宮村さん:
そういう意味で、森の中やラボで子供たちが体験していることは、今の教育で何が大事なことなのかを教えてくれるものだとも思っています。
テレビゲームやデジタル空間だけでは得られない感覚や気付きもありますし、失敗したり、思うようにいかなかったりすることからも、学ぶことはたくさんありますから。
森と木々を通じ、子供たちが集える場にしたい
-最後に、今後の展望についてお教えください。
宮村さん:
部活動とは違った活動として、いろいろな所から子供たちが自由に集まれる場にしたいですね。
現在は、緑のダム北相模ではあるものの、学内の活動ということで、外部の人は入構申請が必要になっています。
これをもっとオープンにできれば、小金井市内の他の中学校や高校からも生徒が集まって、活動の幅がより広がります。
宮村さん:
そして相模原での活動も広げていきたいですね。生徒の中に相模原から通学している子がいるのですが、小学校の時にこの活動に興味を持ってくれたことがきっかけで当校に入学しました。
その子は地元の友達も誘ってくれて、緑のダムの活動にも一緒に参加してくれています。今後は相模原の子たちとも、そうしたつながりを持って、一緒に活動していきたいと思います。
-活動内容もそうですが、生徒さんたちの取り組む姿勢や制作物にも、本当に驚かされました。本日はありがとうございました。
現在、GREEN TECH ENGINEER LABでは、制作の幅をさらに広げるためにクラウドファンディングにも挑戦しています。ぜひそちらもチェックしてみてください。
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取材 大越/執筆 shishido