#インタビュー

ライブコマース「ミルカウ」を通して作り手と視聴者をつなぎたい

現在、急成長を見せるライブコマース
ライブコマースとは、インターネットを利用して生放送で商品を紹介し、販売する手法のことです。

これまでも各企業のホームページ上で商品説明は行われていました。しかし、生産者の伝えたい想いと購入者の知りたいことが必ずしも一致しない、一方的な発信になってしまうという課題もありました。


一方ライブコマースでは、生産者や販売元が商品の説明をリアルタイムで行いながら、視聴者も疑問点などをコメントをすることが可能です。生産者の温度感が伝わる、双方向のコミュニケーションが生まれるという、店舗に足を運んだ時のようなリアルな体験ができるのがポイントです。

このライブコマースは、特に中国で盛り上がりを見せており、2021年には市場規模が約34兆円にのぼると予測されています。(*参考文献1)

そんなライブコマースは、SDGsとも相性が良いと考えられています。
特に、モノの生産から廃棄までのストーリーに目を向け、責任を持った消費行動を心がけることが掲げられている目標12「つくる責任、つかう責任」は直接的な関係があると言えるでしょう。

今回、2021年5月より試験的に運用を進めているライブコマース「MIRUKAU(ミルカウ)」を運営している共同印刷株式会社の石井さんと窪田さんにお話を伺い、ライブコマースが実現できる未来やSDGsとの関りを伺ってきました。

生産者とつながれる ライブコマース「MIRUKAU(ミルカウ)」

石井 徳之
大学卒業後、編集プロダクションにて編集人として、企画立案・コンテンツ制作・制作管理業務・広告管理業務を担当。日本法人「株式会社キャドワークス」、フィリピン法人「Subic Software Solutions, Inc(SSS)」を立ち上げ、SSSのGeneral Managerに就任。建築設計、ソフトウェア開発のBPO業務を行う傍ら、日本法人のマーケティング部門も歴任。その実績が買われ、一部上場企業子会社でマーケティングプランナーとして、芸能プロダクション、音楽レーベル、化粧品メーカー、金融などのブランディング・メディアプランニング、広告管理・コンテンツ制作管理・企画立案・動画制作など多岐にわたるマーケティング領域に従事。その後、株式会社エンジンに参画し、マーケティング領域だけでなく、新規事業開発支援、販売戦略支援、CRMなどの業務にも場を広げ、様々な業種・業態の企業を支援。現在は、共同印刷株式会社に常駐し、新規事業開発支援等を行っている。

窪田 祐介
1980年5月17日 大阪府茨木市生まれ。2003年共同印刷株式会社入社、大手出版社の出版物の印刷営業担当者として漫画誌、幼児児童雑誌、ファッション誌、ライフスタイル関連書誌を16年間に渡り歴任。印刷案件担当業務の他、縫製品の制作、動画の制作、トークショー等のイベントの企画運営、協賛営業活動、タイアップ記事の企画営業等、既存事業の周辺領域案件も経験。2019年にはJTBパブリッシングとの協業事業として女性の度動画投稿プラットホームサービス、「たびのび」を立ち上げ。現在は印刷営業チームのマネジメント業務に従事しながら、ライブ配信で商品情報を消費者に届けるECサービス「MIRUKAU」の実証実験を進めており、事業リリースに向けてサービス構築中。

–本日はよろしくお願いします。早速ですが、「MIRUKAU(ミルカウ)」はどのようなサービスなのでしょうか?

石井さん:

「MIRUKAU(ミルカウ)」はライブコマース専用のECサイト※です。さまざまな商品の詳しい説明をライブを通してお伝えすることができますし、消費者側はわからないことがあれば質問もできるので、納得いった上で購入できる仕組みになっています。

ECサイトとは

モノやサービスの売買ができるサイトのこと。

ECは「electronic commerce(エレクトロニックコマース)」の略で、日本語にすると「電子商取引」を意味する。

SDGsと関わりのある商品のバックストーリー

出典:MIRUKAU

–なぜ「MIRUKAU(ミルカウ)」を展開しようと考えたのでしょうか?

石井さん:

今中国で流行っているライブコマースが、これから日本でも一定の市場は取れるんじゃないかと。これが一番のきっかけですね。

ただ、中国ではKOL、いわゆるインフルエンサーがライブ配信を行う形がメインなんですが、日本の市場を見渡した時に、これはフィットしないんじゃないかなとも思いました。

それよりも、最近では商品の持つバックストーリーが重要だと言われているので、それを効果的に伝えられる場にしたらどうだろうかと思いました。

–確かに現状では、商品が生まれるきっかけや生産者の想いといった販売前の話までを知れる場所ってなかなかありませんよね。

石井さん:

普通のECサイトにも画像や商品説明があるので、値段、サイズ、仕様などはわかります。でももっと踏み込んだ情報が必要なんじゃないかなと思うんです。

–SDGsの特に目標12「つくる責任つかう責任」につながる部分ですね。

目標12「つくる責任つかう責任」

大量生産大量消費の経済体系を見直し、生産から廃棄までの流れの中で廃棄物や二酸化炭素を出さない仕組みを作り、持続可能な経済を実現するための目標。そのなかで、

・農薬散布による生産者の健康被害を食い止められるよう生産体系の改善

・製品の輸送時に排出される二酸化炭素の抑制のために地産地消を心がける

などが掲げられている。

石井さん:

SDGsへの関心の高まりによって、商品の基本的な情報に加えて、「この商品はどんな思いから生まれたのか」、「生産者がどのような取り組みをしているのか」、「どんな課題に対してチャレンジした商品なのか」のようなバックストーリーがこれからは重視されていくと思います。

ライブコマースなら臨場感ある中でそれを伝えられると考えていて、SDGsとの相性が非常に良いんじゃないかなと考えました。

–SDGsの中で取り上げられているもう一つの課題が、中山間部の過疎化した地域に住む方や高齢の方の買い物事情ですよね。誰でも、どこからでも買い物ができるというのは大きな価値と言えます。

その点でも、「MIRUKAU(ミルカウ)」は相性が良く、幅広い年代に広まればおもしろいのでは?と思います。そこで気になるのが操作性ですよね。

石井さん:

「MIRUKAU(ミルカウ)」では、17LIVE株式会社が展開している「HandsUP (ハンズアップ)」というプラットフォームと連携しています。「HandsUP (ハンズアップ)」は複雑な操作を必要とせず、URLをタップしていくだけでライブを観れるので、簡単に操作できると思いますね。

購入に関してもECサイトと同じように「カートに追加」を選択するだけなので、そこまでハードルは高くないのかなと。

–配信したい生産者さんも同様に簡単な操作で済みますか?

石井さん:

アプリは必要になりますが、こちらも複雑な操作はありません。電波状況も4G回線で十分なので、スマホからすぐに配信できます。

地方の商品を接客に近い形で全国にアピールできる

–続いては商品について伺います。商品は国内のものを取り上げる予定ですか?

石井さん:

そうですね。場合によっては海外の品も扱う可能性もあるとは思いますが、今は国内の、特に地方に目を向けて商品を取り上げていこうかなと。

地方の方々は首都圏に売り込みたいっていう気持ちもあると思うんですよね。でもうまくいっていない現状がある。

–というのは?

石井さん:

地方の中小企業や農家さんって自分たちでもECサイトを持っているんです。でも消費者は、なかなかそこに辿り着かない。そこで次は広告を打ってみるものの、名前の知らない企業の商品を目にしても購入意欲は高まりませんよね。

一方で、旅行とか仕事で地方を訪れた時に、ふらっと立ち寄った店で試食したらおいしかった、よし買おうってケースは多々あります。それは知名度関係なしに、接客を通して購買意欲が高まっている。

ライブコマースは、この形を再現できると思います。オンライン上でお客さんとコミュニケーションを取れるので、より接客に近い形で商品をPRできるのかなと。

やっぱりこの臨場感が大事ですよね。

–なるほど。ちなみに、「MIRUKAU(ミルカウ)」では誰でも配信できるんでしょうか?

石井さん:

そうですね。集客に関してはそれぞれに頑張ってもらう必要があるんですが、誰でも配信できます。

※配信したい場合は、こちらからお問い合わせください。実証実験後の検証が2021年12月頃までの予定ですので、それまではいつでも配信できるそうです。

顧客の声を知ることもできる

–5月から運営していく中で、すでに配信されている商品がありますよね。そちらの売り上げはいかがですか?

石井さん:

売り上げ自体はまだ多くはないと思います。すでに多くのファンがいるブランドや商品であれば別ですが、正直、ライブコマースは1回実施しただけで爆発的な売り上げを記録するってものではないんですよね。地道に活動して、視聴者と密にコミュニケーションをとることでファンを獲得していく。

そして今度は、そのファンが友人など別の人におすすめして、輪が広がっていくイメージです。

–中長期的な戦略が必要になるんですね。

石井さん:

とはいえ、配信した方々は結構手応えを感じているみたいですね。オンラインでの顧客獲得に加えて、店舗への集客につながるかも、なんて期待もあるようです。

他にも、顧客満足度の向上という面でも効果を感じているケースもありました。コメントに質問が寄せられるので、企業としては「あ、こんな疑問を感じているんだ。」と気付けるみたいです。

–過去の配信を見ましたが、結構質問がありますよね。

石井さん:

そうですね。やっぱりみんな気になるんだなと。それにリアルタイムで回答できるのが、ライブコマースの良いところですよね。

先ほど話したECサイト以外にも、最近では商品紹介系の記事がたくさんありますが、そこでわからないことをライブを通してクリアにする。

逆にライブで把握できないところをそのような記事で補完する。この相互関係がこれからは重要になってきますよね。

良いものを誰でも手に入れられる未来を

–次回(2021年10月16日)、自然栽培の野菜を取り扱っている「JAはくい」さんを取り上げるそうですが、個人的には「オーガニック」とどう違うのか気になりますね。

窪田さん:

私も、もともと自然栽培とオーガニックの違いは分かっていませんでしたが、実際に現地に行ってみて驚きましたね。オーガニックは、「農薬は使ってないけど、肥料は使っている」ってのがあるみたいなんですが、自然栽培は、農薬も堆肥も肥料も除草剤もすべて使わずに育てている。だから畑に足を踏み入れると草むらなんですよね。どこに野菜があるの?みたいな笑

–そんな場所で育てられているんですね。

石井さん:

除草剤などを使っていないのが一目でわかります。だからこそ本当の意味での安心感があるなと思いましたね。そしてそんな場所でもしっかり育つ植物の力ってすごいなとも感じました。

窪田さん:

一般的な野菜って時間が経つと腐りますよね。この腐る原因が化学肥料だったり、農薬だったりするらしいんです。対して自然栽培の野菜って腐らないので枯れる。

例えば、普通のりんごだったら切った部分から酸化して、茶色くなって腐敗していきますよね。でも自然栽培で作られたりんごは、包丁で切ってしばらくしても切り口が茶色にならないんです。

だから「腐る」ってなんだろうと考えた時に、「あ、余計なものが入っているんだ」と分かる。生産者さんたちは、余計なものが入っていない作物を子供たちに食べて欲しいという強い想いがあって、色々なチャレンジをしているんです。

そこで今回、頑張っている生産者さんたちの野菜を首都圏の消費者に届けるお手伝いができればと思い、通常の実証実験とは少し異なった方法でライブ配信をする予定です。

自然栽培の野菜は通常より手間がかかる分、今は値段が少し高い状況です。でも、この配信をきっかけに多くの人が知って、流通量が増えれば、手に取りやすい価格になっていくと思います。

良いモノは、みんなが買えるようにしたいですよね。

※JAはくいさんにも取材しているので、こちらをご参照ください。

ライブコマース「MIRUKAU(ミルカウ)」で、想いを伝播させていく

–今日お話を伺って、「MIRUKAU(ミルカウ)」はモノのストーリーを伝えるだけでなく、地方活性化の観点からも期待ができそうなサービスであることがわかりました。最後に今後の展望を教えてください。

石井さん:

今は生産者さんや販売元の企業さんが配信する形になっていますが、顔を出したくないという人もいると思います。その時に第三者が情報を発信できる仕組みも必要だと感じています。

例えば、この商品を食べてみたらすごく良かった!と感じた人がライブ配信で魅力を伝える、みたいな。

とはいえ、インフルエンサーがこれが良い!と紹介するというよりかは、本当に生産者さんや企業さんの想いに共感して、実際に食べたり使ったりしてから発信するのが理想ですね。そうやって、人の想いをどんどん伝播させることでライブコマースも流行って定着していくといいなと思います。

–本日は貴重なお話をありがとうございました。


参考文献
*1 SankeiBiz『「ライブコマース」中国では34兆円市場も…日本では“ライブ感”活かせず?』
https://www.sankeibiz.jp/business/news/210530/bsj2105301000001-n1.htm