#インタビュー

虹色ダイバーシティ| 常設型のLGBTQセンターを拠点に、社会の課題を解決に導く

認定NPO法人 虹色ダイバーシティ井上さん・長野さんインタビュー

井上 陽子
1975年兵庫県生まれ。大学卒業後、印刷関連企業にて約13年間、印刷物の企画・デザインに従事。その後、美容室の経営企画と人事担当を経験。フリーランスにてデザインや写真撮影をする傍ら、2017年4月より虹色ダイバーシティに参画。主に、ホームページ・SNSの管理、配信制作、淀川区LGBT支援事業、グッズの企画や販売、撮影を担当。

長野 友彦
大学卒業後、建築関連企業で設計・積算業務に従事。その後、海外でのボランティア経験を経て大阪で勤務。現在は虹色ダイバーシティの大阪スタッフとしてプライドセンター大阪の運営、イベント企画等を担当。

introduction

大阪府に拠点をおく認定NPO法人「虹色ダイバーシティ」。団体設立から9年目を迎えた今年は新たに「プライドセンター大阪」を開設するなど、LGBTQの支援に関わる取り組みを精力的に行っています。

今回は同団体の井上さんと長野さんに、プライドセンター大阪のことを中心に話を伺いました。

性的指向や性自認による格差のない社会をつくる

–まず、虹色ダイバーシティの事業内容を教えてください。

井上さん:

「Bridging the gaps for diversity and inclusion ~ SOGI*による格差のない社会をつくり、次世代に繋ぎます」をミッションとし、以下の活動を主に行っています。

  • LGBTQに関する調査研究活動・データの蓄積・情報発信
  • 企業等に向けた研修・コンサルティング
  • 現行の公共政策・法律を変えていくための取り組み

元々は現在代表を務める村木が、2012年に一人で活動を始めました。2013年にNPO法人化し、当時は企業研修・コンサルティングなど、職場を中心とした支援をメインの活動としていました。

その後活動を続ける中で、より幅広い意味合いを込めたミッションを設定し、現在のような事業を行うに至っています。

*SOGI(ソジ)…Sexual Orientation and Gender Identityの略。性的指向や性自認のことを指す。

–2012年というと、LGBTQへの理解が今以上に進んでいなかった時期ですよね。代表の村木さんは、どのようなきっかけで始められたのでしょうか。

井上さん:

当時、LGBTQ当事者である村木自身が職場などで生きづらさを感じていました。

一方、その頃欧米では、LGBTQと職場に関する調査データが出始めていた頃です。そういったデータを調べていく中で「これは個人の問題でなく、社会の課題である」と感じたのが、団体設立のきっかけです。

「プライドセンター大阪」がオープン!

–今年4月に、プライドセンター大阪がオープンしました。こちらは、どのようなきっかけで開設されたのでしょうか。

井上さん:

村木が2019年に、オーストリアのウィーンへ視察に行き、市内のLGBTQのためのセンターを見学しました。大阪市と人口規模の近いウィーンには、当時このようなセンターが4つありました。これを見た村木が、大阪にも同じような施設が必要だと感じたのがきっかけで開設にいたりました。

センターの主な役割は、LGBTQに関する情報発信や相談支援、そして当事者への居場所の提供などが挙げられます。

現時点では週4日、各日5時間オープンしており、時間内は予約不要で気軽に立ち寄れる施設となっています。LGBTQに関する書籍を揃えたミニ図書館で情報収集・調べものをしたり、スタッフやほかの利用者と交流をしたり、フリーWi-Fiや電源完備のオープンスペースで作業をしたりもできます。

今後はセンターを拠点に、様々なイベントを開催していきたいですね。

–現在までに、どのような方々が利用されているのでしょうか。

長野さん:

今年4月にオープンして、7月下旬までの約4ヶ月で延べ500人以上の方に利用していただいています。一日平均は10名程度です。年齢層は10代から70代まで幅広く、LGBTQ当事者の方が6割以上を占めています。

スタッフと話がしたいという方や、利用者同士で話をして友達を作りたいという方、ちょっと本を読みに来たり、スペースを使って仕事や作業をしに来る方もいます。

約3人に1人がリピーターなので、その方々にとって大切な居場所になっているという実感があります。

井上さん:

他にも予約制ですが、専門の相談員に個別相談をすることもできます。

相談者のプライバシー保護の観点から相談内容はお話しできないのですが、予約枠が埋まっていることからも一定のニーズがあるのだと感じています。

また当事者以外にも、その家族の方が悩みを抱えて相談に見えることも多いですね。相談内容を聞いて、近隣の様々な社会資源につなげる支援も行っています。

–プライドセンター大阪は立地にもこだわりがあるそうですね。

長野さん:

大阪には堂山という、東京でいうと新宿二丁目のようなLGBTQ向けのバーやクラブが集まるエリアがあります。これまでLGBTQ向けの施設というと、こういったエリアに開設されるケースが多く見られました。ですが、「LGBTQの存在を社会に示す」というセンターのミッションからも、社会に開かれている場所として、堂山ではなくこの天満橋・大川沿いを選んだんです。

センターの近くには行政機関や他のNPO法人も多く、センターの公共性を担保し、他の機関と繋がりやすいという強みがあります。

プライドセンター大阪 3つのミッション

–ここからは、プライドセンター大阪が掲げる3つのミッションについて伺います。
1つ目は「パンデミックで傷ついたLGBTQの心身の健康、社会的な健康の回復を支援します」ということですが、コロナ禍で当事者の方々の健康が損なわれたのですか?

井上さん:

人とのつながりがコロナ禍によってなくなり、心の健康を損なってしまった方が多くいます。

原因の一つとして、元々LGBTQのコミュニティがバーなどの飲食店に依存しがちという点があります。そのお店でしか会わない、仲がいいけど本名や連絡先を知らないという関係もあるんです。その中で飲食店の休業要請が出て、自分らしく居られる場所がなくなってしまったという人は少なくありません。

またコロナ禍当初は、濃厚接触者の追跡が行われていましたよね。どこで感染したのかとか、どういうコミュニティに出入りしていたのか、などが調査・公表されていました。以前は(戸籍上の)性別の公表もされていたので、そういった調査や報道がアウティングになりかねない状況があったんです。

もちろんコロナ禍では、LGBTQ以外の人たちも様々な面でダメージを受けましたが、センターではこのようなLGBTQ固有の現象に特化した支援をしていきます。

–ビジョンの2つ目「LGBTQがまちの中で共に生きていることを可視化します」は、どのような内容ですか?

井上さん:

まずは、プライドセンターの存在を街に向けてアピールします。そうすることによって、当事者に対しても一人じゃないということを伝えられると考えています。そして、当事者ではない人たちにとっても、学びの場が開かれていることを知ってもらいたいですね。

企業研修を行ったときに受講者にいただいたアンケートに、「うちの職場にはいないから関係ない」という感想を書かれることがあります。でも社員規模から考えれば絶対にそんなことはなくて、当事者がカミングアウトできる環境にないだけなんです。そういった意味でも、LGBTQが身近に存在していることの可視化を進めていきたいと考えています。

可視化につながるイベントとしては、「プライド・クルーズ大阪 2022」を6月に開催しました。センター対岸の船着場からレインボーフラッグを掲げた参加者がクルーズ船に乗り、大阪の中心部を1周するコースをめぐりました。

川岸から一般の方が手を振ってくれたり、レインボーグッズを身につけた方がアピールしてくれたりしたことは、街との一体感を感じてとても嬉しかったですね。

–3つ目は「LGBTQも使える社会資源を増やすことで、自分やひとや社会を信頼して、ありのままで安心して生きていけるまちをつくります」です。社会資源ということですが、現状ではLGBTQが使えるものは限られているのですか?

井上さん:

社会資源といっても多岐にわたりますが、そもそもLGBTQの存在を想定せずに制度設計されているものもあります。LGBTQのことを正しく理解し、きちんと対応できるような体制を整えていきたいと考えています。

先ほど言ったように、プライドセンター大阪は近隣に様々な機関があります。大阪府の就労支援施設である“OSAKAしごとフィールド”や、ホームレス支援の認定NPO法人“Homedoor”、孤立する若者を支援する認定NPO法人“D×P”などは、私たちが信頼している支援団体です。これらの団体のように、信頼できる支援先を増やしていきたいです。

地方にもLGBTQセンターを広げていきたい

–話は変わりますが、LGBTQは地方になればなるほど理解が遅れている印象です。ここまでの話を聞くと、プライドセンター大阪のような施設は地方にこそ必要だと感じています。

長野さん:

地方は都市部と比べて、やはり当事者の存在が見えづらいですね。学校の先生や地域の人、家族などで、当事者や理解者が身近にいることは、LGBTQの若者にとって大きな心の支えになるんです。でも地方では当事者や理解者、さらには「人生のロールモデル」となりうる人を見つけにくい。これは特に学生や若者にとっては大きな問題であると思います。

また、これは先生方全員に言える話ではありませんが、学校現場は保守的な傾向にあると聞きます。“男なら結婚して家庭をもって一人前”といった古い価値観も生きていて、当事者の教職員も声を上げづらい状況だそうです。

こういった環境では、子どもも自分らしく生きることは難しいですよね。教職員の方々の意識をアップデートしていくことも必要だと思います。

井上さん:

そういった意味でも、地方にこそLGBTQセンターは必要だと感じています。大阪で様々なノウハウを蓄積し、地方での運営に還元したいと考えています。

SDGsへの取組と今後の展望

–SDGsと関連した取り組みはなにか行っていますか?

井上さん:

「NIJI BRIDGE」というLGBTQに関するデータをまとめているサイトを運営しているのですが、こちらではSDGsとの関係にも触れています。それぞれの目標とLGBTQとの関連や、虹色ダイバーシティとしての取り組みを紹介しているので、ぜひご覧ください。

ちなみにサイトのテーマカラーは、SDGsの目標10と16の色を使っているんですよ。

参考資料:https://nijibridge.jp/wp-content/uploads/2021/08/2021_SDGsLGBT_nijiirodiversity.pdf

最後に、今後の展望をお聞かせください。

井上さん:

4月に団体の長年の目標であった、プライドセンターの立ち上げができたところです。今後はここを拠点にイベントの開催や、大阪府・大阪市といった行政との連携を進めていきたいと考えています。

また地域に対しても、地道にコツコツと存在をアピールしていきたいです。

–本日は貴重なお話、ありがとうございました!

取材:大越
執筆:カナタ

関連リンク

認定NPO法人 虹色ダイバーシティ 公式サイト:https://nijiirodiversity.jp/