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南北問題とは?歴史的な原因と現状を打開するための解決策・世界と日本の取り組み

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「Global North and Global South」という言葉は1960年代に入って広く用いられるようになりました。日本語では「南北問題」と訳されます。比較的豊かな国が多い北半球と貧しい国々が多い南半球を対比した表現で、両地域の経済格差をわかりやすく示しています。

世界が今ほど一体的でなかった時代は、ここまで地域間格差が大きくありませんでした。しかし、欧米が植民地として支配する中、欧米の利益を優先した政策の実施により、植民地化された地域は経済構造がゆがめられてしまったのです。

そのため発生したのが南北問題です。今回は南北問題の基本や背景、国際的な取り組み、日本の政府開発援助などについて解説します。この機会に世界の格差を知っていただきたいと思います。

南北問題とは

南北問題とは北半球に多い先進国と南半球に多い開発途上国との間の政治・経済の格差のことです。

南北問題を辞書で調べると以下のように定義されています。

《North-South problem》北半球に偏在する先進諸国と南半球に偏在する開発途上諸国との間の経済格差に基づく政治的、経済的諸問題

出典:デジタル大辞泉

先進国はかつて世界の大半を植民地として支配していました。その後、第二次世界大戦が終わると多くの植民地が独立しています。

しかし、植民地から独立国になっても政治的・経済的に苦しい状況が続いていました。そのことをあらわした言葉が「南北問題」なのです。

南北問題はオリヴァー・フランクスの講演で問題が認識されるようになった

南北問題という言葉を生み出したのはイギリスの銀行家であるオリバー=フランクスです。彼はソ連率いる東側諸国との対立(冷戦)でアメリカや西欧中心の西側が優位に立つには、北半球の先進国と南半球の開発途上国の経済的バランスをとることが大事だと主張しました。*2)

彼はあくまでも西側の経済人の一人として発言しましたが、当時の国際関係の本質を突いたものでした。かつての宗主国と植民地の格差が新たな対立の火種となっているのはまぎれもない事実だったからです。

南南問題との違い

南北問題と似た言葉に「南南問題」があります。南南問題の定義は以下のとおりです。

1970年代後半に生じた第三世界内部の経済格差

出典:旺文社世界史事典 三訂版

第三世界という言葉が出てきましたが、わかりやすく言えば、アメリカや西欧・日本などの「西側」やソ連や東欧などの「東側」に属さない国々のことです。

つまり、第三世界内部の経済格差とは開発途上国内での経済格差という意味です。

1970年代から80年代にかけて、石油資源をもつ中東諸国や工業化を達成しつつあった東南アジア諸国が経済発展を遂げる一方、資源を持たず絶対的貧困層を多数抱えるアフリカ諸国・南アジア諸国との経済格差が明確になってきたのです。

南北問題が生まれた背景にある・歴史的原因

南北問題が先進国と開発途上国の経済格差であることや、開発途上国内の経済格差を南南問題ということについて解説しました。

しかし、なぜ先進国と開発途上国の間で大きな経済格差が生まれたのでしょうか。南北問題の原因となる植民地支配と独立後の経済的な停滞の2つの歴史的要因ついて解説します。

  • 歴史的背景①:欧米による植民地支配
  • 歴史的背景②:旧植民地の経済的停滞と人口急増

欧米による植民地支配

19世紀後半から20世紀初頭にかけて、欧米諸国のなかで強大な軍事力を持つ「列強」が世界各地を植民地化していました。イギリスは「7つの海を支配する帝国」の異名を持ち、インドをはじめとする広大な植民地を支配しました。

イギリスほどではないにしても、フランスドイツロシアアメリカも世界各地に進出し、その後に、日本も列強に加わります。

列強は獲得した植民地を、原料の供給地と製品の市場として扱いました。

イギリスを例に見ていきましょう。イギリスは自国の綿織物産業を発展させるために、インドから大量の綿花を輸入しました。そして自国で綿織物製品に加工し、インド人に買わせて利益を得ました。大量生産で安い衣料が出回ったインドでは、綿織物産業が壊滅的打撃を受ける結果となったのです。

工業化が進むと、石炭や石油、鉄鉱石などの工業原料が欧米諸国に送られ、工業化の糧となります。その一方、植民地とされた国は工業原料のほかにサトウキビやタバコ、綿花などの安い原料の供給地とされ、自国の産業発展が進まなくなりました。

旧植民地の経済的停滞と人口急増

アジアでは1950年代を中心に、アフリカでは1960年代を中心に植民地から独立する動きが活発化しました。こうして、世界の大半の植民地が宗主国から独立し政治的な独立を達成します。

しかし、独立した旧植民地の経済は先進国に大きく依存するものでした。多くの旧植民地は宗主国が必要とする商品に特化して生産するモノカルチャー経済でした。ガーナのカカオ、キューバの砂糖、スリランカの紅茶が有名です。これらの国際価格が下落すると、たちまち経済危機に陥りました

これに追い打ちをかけたのが人口の急増です。経済の発展が未成熟であるにもかかわらず、人口だけが急増してしまったため、大量の貧困層が発生してしまいました。

出典:総務省*4)

上のグラフでわかるように、アジア・アフリカ地域の人口は急増しており、現在も増加しています。*5)

【関連記事】植民地とは?歴史や形態、デメリット、植民地一覧も紹介

南北問題是正に向けた世界の取り組み・解決策

南北問題を是正するため、どのような取り組みがなされているのでしょうか。最初に、取り組みの流れを紹介します。

1960年代UNCTADの設立を決定主要国が開発途上国に対し、経済・技術の援助を開始「国連開発の10年」がスタート
1970年代「第二次国連開発の10年」資源ナショナリズム
1980年代「第三次国連開発の10年」中南米諸国の累積債務問題
1990年代「第四次国連開発の10年」冷戦の終結とODAの縮小
2000年代以降経済格差、教育格差、情報格差の発生

第二次世界大戦後、世界は東西両陣営に分かれて争う冷戦の時代に突入しました。その一方、独立したての開発途上国は経済的問題に苦しんでいました。これに対応するため、国連を中心に主要国が開発途上国を支援するようになりました。UNCTADが設立されたのもこのころです。

1970年代に入ると、開発途上国で先進国の大企業を排除し、自国の発展のために資源を使う「資源ナショナリズム」の考え方が広がります。*6)

1980年代には中南米諸国を中心に、債務不履行(デフォルト)が頻発するなど経済危機が発生しました。

債務不履行(デフォルト)

債務の利払いが滞ったり、元本の返済ができなくなること。*7)

冷戦が終結すると先進国からのODAが減少したため、開発途上国は支援の増額を訴えます。しかしその後も経済格差は容易に埋まらず、経済・教育・情報などでの格差が現在も残されています

解決策①「国連開発の10年」の実施

国連開発の10年とは、アメリカのケネディ大統領の提唱にもとづき作成された国連の10年計画のことです。内容は開発途上国全体の経済成長率を年5%とすることや、それを達成するために先進国が援助を増やすことなどを定めました。

最初の10年間で目標とした経済成長率は達成できましたが、開発途上国の人口が増大したため、かえって先進国との経済格差が拡大してしまいました。そのため、最初の10年で終わらず、1970年代に第2次19880年代に第3次1990年代に第4次の国連の10年が設定されました。*8)

第4次国連の10年では、経済成長だけではなく、人口政策や貧困の解決、地球環境の保全などが優先課題とされました。*9)

解決策②UNCTADの創設

UNCTAD(国連貿易開発会議)は、国際連合の常設会議です。設置されたのは1964年で、先進国と開発途上国の経済格差の是正や、開発途上国の経済開発の促進などについて取り扱っています。*10)

UNCTADが設置された背景には南北問題があります。開発途上国の経済的困難の解決なくして、世界の平和や繁栄もあり得ないという考え方によって設置されたのです。*11)国連における南北問題解決の機関として重要な位置を占めています。

南北問題是正に向けた日本の取り組み事例

南北問題の解決に日本はどのような動きを見せたのでしょうか。ここからは、日本の取り組みについてまとめます。

日本は政府開発援助(ODA)を実施して、開発途上国の経済を支援してきました。

政府開発援助(ODA)

先進国が開発途上国やそれを支援する国際機関に対して行う援助のこと。返済義務のない贈与や貸し付けである借款、戦争の賠償などからなりたつ。*12)

日本の政府開発援助の流れについてみてみましょう。

1954年政府開発援助スタート
1960年国際開発協会(IDA)に加盟 →国際機関を通じた資金協力を開始
1961年海外経済協力基金(OECF)設立 →円借款の中心的役割を担う
1962年海外技術協力事業団(OTCA)設立 →海外への技術協力の中心となる
1974年JICA(国際協力機構)の前身である国際協力事業団を設立 →技術協力・資金協力(有償・無償)を一元的に管理
1992年政府開発機構大綱を策定 →2003年、2015年に改定を実施

*13)

2019年3月末の段階で、日本が支援してきた国や地域は190を超え、5,143億ドルの資金を拠出してきました。また、専門家の派遣数は約189,000人、青年海外協力隊員などのボランティアの派遣は約53,000人に達しています。*13)

ここまで、国家間の経済格差について見てきましたが、同国内でも南北問題は見られます。次で詳しく確認しましょう。

同国内での南北問題(経済格差)の具体例

国内での経済格差を南北問題と評することがあります。ここでは、イタリア、日本の経済格差を取り上げます。

イタリアの経済格差

【イタリアの北部と南部・島しょ部】

出典:内閣府*14)

イタリアは南北に細長い国土の国で、以前から北部と南部の経済格差が問題となっていました。

【1人あたり実質GDP】

出典:内閣府*14)

1人あたり実質GDPで比較すると、北部と南部では大きな格差があります。その原因は基盤となる産業の違いです。北部は生産性が高く給与面でも比較的高い地域ですが、南部や島しょ部は農業や観光業の割合が高く、北部よりも所得面で劣ります。そのため、同じ国でありながら所得に格差が生まれています。

【家計所得の北部/南部・島しょ部比率】

出典:内閣府*14)

2000年代は北部は南部の約1.3倍の所得を得ていましたが、2010年の欧州債務危機で所得差が約1.34倍に拡大しています。失業率についてみると、南部は2011年以降に失業率が急増しています。また、近年は20%前後の高い失業率の状態が続いている状況です。一方、北部の失業率は5〜10%の範囲に収まっています。*14)

日本の経済格差

日本国内を見てみると、太平洋ベルト地帯とそれ以外の地域で格差が大きくなっています。

太平洋ベルト地帯

南関東から中京・阪神・瀬戸内・北九州に至る連続した工業地帯。東京・大阪・名古屋の三大都市圏を含み、鉄道や高速道路、港湾設備が整備され多くの人が居住している。

太平洋に面した地域は、工業原料やエネルギー資源の輸入に有利です。工場用地を確保しやすいこともあって急速に発展してきました。

その一方、日本海側や東北地方、北海道は工業化から取り残されてしまいます。同様に、山間部も工業化しにくかったため、経済的発展の恩恵をあまり受けられませんでした。その結果、太平洋ベルト以外の地域や中山間地域などで過疎化が深刻化しているのです。

【関連記事】経済格差の日本と世界の現状は?原因や問題、解決に向けた取組も紹介

南北問題の解決に向けて私たちにできること

南北問題解決のため、私たちには何ができるのでしょうか。ここでは、南北問題に関して私たちが取れる行動をまとめます。

海外協力隊への参加

海外協力隊は、JICAが実施している開発途上国の支援活動です。開発途上国の国づくりに貢献できる人材を派遣し、帰国後はその経験を生かしてグローバルな仕事に就くことが期待されています。

2018年以降、年齢による区分が改められ、幅広い職種で応募する案件を「一般案件」、一定以上の経験や知識、技能が必要な案件を「シニア案件」とよんでいます。海外協力隊になると環境問題・格差問題・医療問題・農業問題など、多岐にわたる問題を抱える国々に派遣され、問題解決に取り組みます。*15)

開発途上国支援団体への支援

海外協力隊などのボランティア活動に参加できなくても、南北問題解決の支援は可能です。その方法は開発途上国で活動している日本のNPO法人に寄付することです。支援は「資金」「物品」「役務」の3つに分類できます。*16)

寄付は、

  • 寄付金を直接NPO法人に渡す「直接寄付
  • 共同募金などを通じて各NPO法人に配分される「間接寄付

に分けられます。*16)

また、国内NPO法人でボランティア活動を行うことで間接的に支援することも可能です。

南北問題とSDGs目標17「パートナーシップで目標を達成しよう」との関わり

南北問題の解決は一つの国や一個人で解決できる問題ではありません。世界の国々が協力してこそ解決できる問題です。今回はSDGs目標17「パートナーシップで目標を達成しよう」の観点から南北問題を見てみましょう。

【SDGs目標17の概要】

SDGs目標17は、他のSDGs目標に比べると幅広い内容を含んでいます。その中でも特に重視しているのが、先進国と開発途上国の協力です。南北問題のそもそもの原因は先進国による植民地支配です。長期間にわたる植民地支配は、開発途上国の経済をいびつなものにしてしまいました。つまり、その責任を果たすという意味でも、先進国の積極的な協力が重要なポイントとなります。

協力すべき内容は、資金・技術・能力開発・貿易などあらゆる分野で求められています。開発途上国が自立するための経済支援公平な貿易ルール作りなど、やるべきことは山ほどあるのです。

そして先進国に住む私たちも、

  • 海外協力隊としてボランティア活動に従事
  • 国連職員として働く
  • 国内のNPO法人で活動・寄付する

など、様々な形で南北問題解決に向けてできることがあります。

国・企業・個人のすべてが連携することで、南北問題の解決が加速していくかもしれません。

まとめ

今回は南北問題について取り上げました。アジアやアフリカの開発途上国は、長期間の植民地支配により自国経済の土台が歪んでしまいました。その結果、モノカルチャー経済になりがちで経済的自立が難しく、貧困層を多く抱える原因ともなりました。

このまま経済格差が大きい状態で推移すれば、開発途上国が不安定になり、日本を含む世界経済にも悪影響を及ぼしかねません。また、SDGsが掲げる「誰一人取り残さない」持続的な社会を実現するためにも、南北問題の解決は必須といえます。

海外協力隊、ボランティア活動、寄付などさまざまな方法で解決に携わることができますので、興味を持ったかたはJICAの公式サイトや支援団体のサイトをご覧になってみてはいかがでしょうか。

参考
*1)デジタル大辞泉「南北問題(ナンボクモンダイ)とは?
*2)知恵蔵「南北問題(ナンボクモンダイ)とは?
*3)旺文社世界史事典 三訂版「南南問題(なんなんもんだい)とは?
*4)総務省「総務省|平成25年版 情報通信白書|生活資源を取り巻く社会情勢
*5)スペースシップアース「【2023年版】発展途上国とは?開発途上国との違いや一覧と先進国日本の支援や個人でできることを解説
*6)デジタル大辞泉「資源ナショナリズム(シゲンナショナリズム)とは?
*7)デジタル大辞泉「デフォルト(でふぉると)とは? 意味や使い方
*8)ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典「国連「開発の10年」(こくれんかいはつのじゅうねん)とは?
*9)ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典「第4次国連開発の10年のための国際開発戦略
*10)デジタル大辞泉「UNCTAD(アンクタッド)とは?
*11)外務省「国連貿易開発会議(UNCTAD)United Nations Conference on Trade and Development
*12)デジタル大辞泉「政府開発援助(せいふかいはつえんじょ)とは?
*13)参議院「我が国のODAの姿
*14)内閣府「今週の指標 No.1202 2018 年6月 20 日 イタリアの南北格差について <ポイント> 1. イタリアは
*15)JICA「JICA海外協力隊
*16)内閣府「117 参考資料4.NPO法人を取り巻く支援の概況 NPO法人に対する支援は、大きく「資金」
*17)スペースシップアース「SDGs17「パートナーシップで目標を達成しよう」現状と日本の取り組み、私たちにできること