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一般財団法人 沖縄県環境科学センター|目指すのは、環境・福祉・観光などにまたがる課題を同時解決する『一石三鳥以上』の取り組み

一般財団法人 沖縄県環境科学センター岩村 俊平さんインタビュー

岩村 俊平

1977年岡山県倉敷市生まれ、沖縄県在住。キャリアコンサルタント、技術士(建設・水産)、潜水士。徳島大学大学院エコシステム工学専攻で、環境と防災が融合した未来を創るための基礎を学ぶ。就職氷河期世代、紆余曲折ありながら2001年から東京の建設コンサルタントに勤務。生物共生型港湾構造物に関する事業、インフラ整備事業で影響を受けるサンゴ移植事業の管理技術者、その他調査研究事業など、現場の最前線で18年間活動。その後、一般財団法人沖縄県環境科学センターに転職。現在は、管理部門とSDGs事業実行班の責任者を兼務し、沖縄社会の持続可能性向上に少しでも役立ちたいとの思いで、環境・福祉・観光など分野横断的な社会課題に関する地道な活動を展開している。一般社団法人Career Design Okinawa副理事長、MICE開催におけるサステナビリティガイドライン作成委員会委員、沖縄県SDGs専門部会委員。

introduction

沖縄県内の食品や飲料水、生活環境の保全、管理に関する必要な検査・調査研究・啓発などを行っている沖縄県環境科学センター。同法人は、17項目すべての目標に取り組んでいます。

本日は、SDGs事業立ち上げの考え方や、取り組みの中でもひときわユニークで画期的なものの内容について、岩村さんにお話を伺いました。

自然・生活・社会環境を守り育てるよろずや

-沖縄県環境科学センターは様々な事業をなさっていると伺っています。日々どのようなことに取り組まれているのか、教えてください。

岩村さん:

具体的な活動の一例としては、さまざまな環境の調査や分析、水道の検査、食品検査、学校給食センター衛生管理のサポート、希少種の保全、外来種対策やジュゴン、サンゴなどの調査・研究などを行っています。

-本当にいろんなことをやっていらっしゃるのですね。

岩村さん:

加えてここ2年ほどは、新型コロナのPCR検査も行っています。私たちは「自然環境・生活環境・社会環境事業のよろずや」と言えるかもしれません。

-1981年の設立とのことで、SDGsが採択される以前より持続可能な社会に貢献されているんですね。2015年にSDGsが登場したわけですが、事業を結びつけようと思ったきっかけは何でしょうか?

岩村さん:

SDGsそのものが法人の理念や目的にピッタリ合っていましたので、やらない手はないなと思いました。また、SDGsを新規事業の展開に繋げたかったというのもあります。SDGsという看板を掲げることによる法人の知名度アップに加え、異業種・異職種との連携が進み、それが新規事業の開拓にも繋がります。そうすると私たちの事業がより多角的に自然・生活・社会環境の維持・向上に貢献できると考えました。

-SDGsという共通項があることで、他社との連携や外部への発信がより進む、そういう効果も狙っているということですね。

<テレビ番組でのSDGsに関する解説の様子>

岩村さん:

はい。私たちの事業はよく「掴みどころがない」と言われます。何をやっている法人なの?と。ですから法人の知名度を上げるというのは重要なテーマの一つなんです。

「得意」や「好き」をSDGs事業に活かす

-SDGsと事業を関連させたことにより、どのような効果が生まれましたか?

岩村さん:

私たちは、2020年4月1日にSDGs事業実行班を立ち上げました。この事業のいいところは、メンバーひとりひとりが自分の応援したい会社や自分のやってみたいことをやろうという切り口で事業の掘り起こしを行っているところです。

<おきなわSDGsパートナー登録証/令和4年4月更新>

-自分の得意分野や好きなことをSDGs事業に結びつけているということですね。

岩村さん:

普段、職員は本業に余念がありませんが、もちろん本業以外に自然や食、音楽などそれぞれに趣味や好きなことがあります。自分の好きなことと専門技術のどちらも活かして、何もないところから新しい事業を作っていく。ここ2年でそういうことができるようになり、少しずつ職員がいきいきと働ける雰囲気が出てきているなというのを感じているところです。

-いきいき働ける職場って素敵ですね。実際、SDGs事業実行班ではどんな事業を立ち上げられたのですか?

岩村さん:

いくつかありますが、一つは観光分野です。沖縄の主力産業ですが、私たちの事業で目指しているのはいわゆる観光でも旅行でもなく、「旅」という形です。

-どういうことでしょうか。

岩村さん:

従来、観光と言うとたくさんのお客さんが沖縄に来て、ちょっと見て帰る。そういう薄利多売のようなイメージがあると思うのですが、ここに私たちの特技を活かして付加価値を付けます。私たちは自然を見る専門的・科学的視点を持っていますし、現場の人(地域の語り部)との綿密なコミュニケーションと連携により、特別な学びや楽しいストーリーを紡ぎ出すように努めています。

岩村さん:

また私たちは、例えば生物の専門家が解説をしたり、山一つをとっても特徴や性質、環境保全等の法律的な背景などを説明したりします。お客さんには、ただ見に来るというだけではなく人を介して生きた体験をしてもらうことで、「沖縄に来た甲斐があったな」「自分の考え方や見方が変わったな」という経験や人とのつながりを届けたい。それが私たちの目指す「旅」ですね。

大切にしているのは番号に縛られないこと

-他にも沖縄県環境科学センターはSDGsの多くの目標に貢献されていますが、どのようなステップを踏んで事業と目標を結びつけているのですか?

岩村さん:

まず、私たちの既存事業を洗い出し、各課長などと連携をとって「この事業は SDGs の何番に寄与している」というように星取表を作りました。これを沖環科SDGs レポートと呼び、毎年作成してホームページで公開しています。既存事業の状況を踏まえつつ、SDGs 事業実行班では、何番のSDGs事業をやろうと決めつけないようにしています。

※沖環科SDGsレポート2021

https://www.okikanka.or.jp/wp/wp-content/uploads/2022/06/reportOkikankaSdgs2021.pdf

<沖環科SDGsレポートのイメージ>

-その理由を教えてください。

岩村さん:

はじめに「何番を達成する事業をやろう」と決めてしまうと、そこに関係する部署以外の人は自分には関係ないと思ってしまう恐れがありますよね。そのため、SDGs 事業実行班では、番号に縛られずに「今困っているこの人たちと一緒に事業をやろう」という想いを起点に事業を立ち上げています。

-番号に縛られず、どんな事業をやりたいか?というところからスタートするのですね。

岩村さん:

事業をやってみて、同時解決できそうな課題があれば後からどんどん追加していきます。先ほどの観光で言えば、8番「働きがいも経済成長も」、11番「住み続けられるまちづくりを」にも当てはまりますし、切り口によっては14番「海の豊かさを守ろう」、15番「陸の豊かさも守ろう」などにも通ずるものがありますよね。

-ひとつ事業をやってみたら、それが実はSDGsの目標に3つも4つもまたがっていたということがあるということですね。

岩村さん:

はい。ですから終わってみないと本当の意味で「何番の事業だった」とは言えないと考えています。

コロナ時に独自の対応。予約なしでPCR検査を

-ここからはSDGsに関する取り組みについてより詳しく教えてください。目標3「すべての人に健康と福祉を」ではどのような取り組みをなさっていますか?

岩村さん:

これはもう私たちの既存事業そのものですね。例えば、安心・安全な水が飲めるよう水質基準に従った水道検査事業に携わっていますし、沖縄県内の学校給食センターの衛生管理のサポートは全て私たちが請け負っています。

-事業のベースがそのままSDGsの目標に当てはまっているのですね。

岩村さん:

はい。もともと沖縄県環境科学センターは、40年前の設立当初、沖縄県で唯一の食品衛生法および水道法に係る厚生大臣指定検査機関として認可された機関であり、沖縄の健康と福祉を守るために立ち上がっているんです。

-そういった意味で、現在は新型コロナウイルスへの対応も行われているんですね。

岩村さん:

はい。コロナPCR検査自体は他の多くの事業者も参入しているのですが、私たちは公益性確保の観点から独自の取り組みを継続しています。

-それは何でしょうか?

岩村さん:

PCR検査を予約なしで受けられるようにしています。通常は事前予約制ですよね。でもあえて予約を取らないことによって、どうしても今日の今日検査を受けたい人やインターネット環境に不慣れな人でも、窓口に来ればPCR検査が受けられます。実際に、親族の方が重病なのですぐに検査を受けて面会したいという方が来られた例もあり、私たちの仕事の重要性を肌身で感じることもありました。

<PCR検査室の様子>

-県民にとっては嬉しい取り組みですね。

岩村さん:

そうですね。人件費などのコストは相応にかかるのですが、予約を取らないからこそ助かる人もいらっしゃいます。正直、マネジメント上は非常に大変ではあるのですが、「大変だけど意義のあることだから、頑張ろう。」と役職員一同頑張って取り組んでいます。

休みやすく、子育てしやすい職場に

-近年、働きがいも重要視されるようになっています。御社は沖縄県ワークライフバランス企業として認証登録されていますが、具体的にどのような働き方を推奨しているのでしょうか?

岩村さん:

職員が伸び伸び働ける職場になるような制度を設けています。例えば、有給休暇を0.5時間単位で取得できるようにするなどですね。「ちょっと銀行に寄ってから出社する」なんてことがやりやすくなったと思います。

-これは嬉しい制度ですね。

岩村さん:

さらに私たちは、子育てしやすい環境作りのため様々な有給休暇制度を設けています。例えば、出産予定日6週間前と出産日の翌日から8週間は有給休暇を申請できるようにしています。また、生後満1年に達しない子を育児する職員は1日2回30分間ずつまたは1回60分間の有給休暇、さらに就学前の子どもを看病するために年5日間まで有給休暇が申請できます。

-休みやすく、子育てしやすい制度が揃っていますね。素晴らしいです。

<沖縄県ワーク・ライフ・バランス企業認証書>

オニヒトデの大量発生を予測して備えるためのアプローチ

-続いては、サンゴを食べてしまうオニヒトデの対策事業、またサンゴ礁再生事業についてお聞かせください。

岩村さん:

オニヒトデ対策と言えば、ダイバーのボランティア団体などによる駆除をイメージされると思います。私たちは、異なるアプローチでオニヒトデ対策に関する調査・研究をしています。

-どんな取り組みをしているのですか?

岩村さん:

沖縄県をはじめとする多様な機関との連携によって、オニヒトデが大量発生する仕組みの解明を行っています。 私たちは、オニヒトデトラップと誘引する物質を使い、稚ヒトデや幼生のヒトデを捕獲する技術の開発に携わっています。

岩村さん:

稚ヒトデや幼生がどこにどのぐらいいるのかがわかると、どのくらい先に、どの辺りの場所でオニヒトデが大量発生するのかが予想できます。それをもとに、集中的に守りたいサンゴ礁の場所を選んだり、予防措置が可能となったりするんです。

-オニヒトデが大量発生する前の段階で手を打つということですね。

岩村さん:

はい。サンゴ礁再生の取り組みについては、「サンゴの村」を宣言し、SDGs未来都市でもある恩納村が有名です。世界一サンゴと人にやさしい村を目指しており、私たちは恩納村漁業協同組合ほか関係者と20年以上パートナーシップを保ちながらサンゴ再生の取り組みに携わっています。

-具体的にはどのような取り組みなのでしょうか?

岩村さん:

私たちは、サンゴの養殖や植え付けにより親サンゴを育て、親サンゴが産卵することでサンゴ礁の自然再生を助ける活動のサポートや専門的調査を行っています。

<サンゴ調査の様子>

※恩納村のインタビュー記事もご覧ください

理想は環境・福祉・観光が三位一体となった事業作り

-ここまで様々な取り組みを伺ってきましたが、環境は良い方向に向かっていると感じられますか ?

岩村さん:

そうですね。私は高度経済成長期のあとの1977年生まれで、一番環境の良くなかったと言われるような時期に幼少期を過ごしました。海は黒っぽくてキレイではなかったですし、川もゴミだらけ。工場からもいっぱい煙が出ていました。でも、今は色々な場所で自然再生事業が立ち上がっていたり、法的な整備も進んでいたりするので、昔と比べてやはり環境は良くなっていると思います。

-その時代と比べると、環境に対する意識はかなり改善してきていますね。

岩村さん:

昔は、自然環境の保全活動といえばボランティアの人が取り組んでいるイメージでしたが、今はそういった活動が仕事になってきていますよね。環境を良くすること自体が仕事になってきているという点で、SDGsのスパイラルアップ(好循環)に繋がっていると思います。

-確かに、それ自体が仕事になったというのは大きな変化ですよね。では最後に、今後の展望をお聞かせください。

岩村さん:

沖縄の主力産業である観光と福祉・環境が三位一体となった事業が進めばいいなと思っています。

-具体的にどういうことでしょうか。

岩村さん:

やはり観光と言うと、環境に良くないイメージがあると思うんです。例えば、海でサンゴを踏んでしまうとかですね。逆に、観光が環境保全や自然再生に繋がる役割を果たしつつ、さらに福祉事業との連携による雇用の創出が進む仕組みがセットになれば、持続可能な沖縄社会の実現に近づくのではと考えています。この仕組みづくりには、まさに多様な主体のパートナーシップ、沖縄の大切な文化である「ユイマール(相互扶助の考え方)」がポイントになると考えています。

さらに、環境に対して負のイメージが強い建設分野においては、重要な観光資源である自然環境を守ったり再生したりする事業に将来もっと予算がつくようになっていくことが期待されます。

-主力産業の観光を中心に一石三鳥、四鳥にもなる取り組みですね。

岩村さん:

はい。こうした事業が進めば、持続可能な沖縄社会の実現に近づいていくと思います。

-SDGs事業実行班の今後の取り組みが楽しみです。本日は貴重なお話をお聞かせいただき、ありがとうございました。

関連リンク:

一般財団法人沖縄県環境科学センター : 公式サイト

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