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「サステナブル」を具体的に伝えたい バナナペーパーなど3つの事業から持続可能な社会へアプローチ | 株式会社ワンプラネットカフェ

株式会社ワンプラネットカフェ エクベリ聡子さんインタビュー

エクベリ聡子(エクベリ さとこ) 

“日本出身。サステナブル経営・事業開発・人財育成支援において数多くの実績を持つ。欧州、ザンビア、インドのグローバルなパートナーシップを通じて、持続可能な発展に向けた事業開発支援を行う。産学官民の異なるステークホルダーが参画するネットワークの運営や、環境省環境人材育成コンソーシアムの企画、東北大学大学院の環境関連修士課程の開発*1などを経て、現職。企業の有識者ダイアログや鼎談のファシリテーション、CSR報告書の第三者意見にも携わってきた(一例:KDDI、味の素、カルピス、オリエンタルランド)。近年は、SDGs(持続可能な開発目標)を基礎としたサステナビリティ関連のコンサルティングの他、アフリカ・ザンビアで廃棄されていたオーガニックバナナ繊維と日本の和紙技術を活かしたエシカル・バナナペーパー事業に注力。クラウドファンディングによる資金集めから、日本大使館のファンドまで幅広い支援を通じ、現地に環境&コミュニティ共生型グリーン工場を建設。現地のチームメンバーと共に事業を推進する。’16年10月国際フェアトレード認証(WFTO)を取得。NPO One Planet Café ザンビア共同設立者、ワンプラネット・ペーパー協議会副会長、東北大学大学院環境科学研究科非常勤講師(2005-2015)、株式会社イースクエア取締役(2002年-2015年。企業向けCSR・環境取り組み支援、研修、講演)、著書「うちエコ入門 温暖化をふせぐために私たちができること」(共著、宝島社)、「地球が教える奇跡の技術」(執筆協力、祥伝社)、「エシカル白書2022-2023」(執筆協力、山川出版社)
*1: 東北大学大学院環境科学研究科における社会人対象の修士課程「高度環境政策・技術マネジメント人材養成ユニット(SEMSaT)」のカリキュラム開発、運営に従事”

introduction

株式会社ワンプラネットカフェは、「環境循環を基盤とし、サステナビリティに貢献するビジネスを生み出す」を理念とした企業です。2012年2月の設立以降、日本・スウェーデン・アフリカの3拠点で持続可能な社会づくりに関わる様々な事業を展開しています。2016年にはフェアトレード認証(WFTO)を取得、2020年には、経済産業省「SDGsに取り組む中小企業等の先進事例」15社のうちの1社に選ばれています。

今回は、代表取締役のエクベリ聡子さんに、事業の「3つの柱」で実現しているサステナビリティについて詳しく伺いました。

3つの事業を通してサステナブルを実現するワンプラネットカフェ

–まずは株式会社ワンプラネットカフェについて教えてください。

エクベリさん:

株式会社ワンプラネットカフェは、「サステナブル」をより具体的に、実践できる形にする「サステナビリティ イン リアリティ」をスローガンに、日本・スウェーデン・アフリカの拠点で事業を展開しています。

–実際にどのような事業を行っているのでしょうか。

エクベリさん:

主に以下の3つの事業を行っています。

まず、講演や研修。「Talk」のパートです。サステナビリティやSDGsについての基礎理解を深め、学びから実践に移すことを重視した内容を提供しています。

次は視察ツアー、「Show」のパートです。サステナビリティは、幅広いテーマが関わってくるため、頭では理解しても、その価値や実際にできることがピンとこない、という声もあります。そのため、その世界を体験できる現場ということで、サステナビリティ先進国であるスウェーデンの視察ツアーを行なっています。

現地では、サステナビリティをテーマとした街づくりや交通、ビジネス、ショップやレストランなどを訪問、見学することで、世界で起きている大きな変化とエキサイティングな可能性を感じていただけるようなプログラムを提供しています。

そして3つ目は、バナナペーパーで、「Do」のパートです。自らもモノづくりの現場を持ってサステナビリティの具現化に取り組んでいます。私たちが手がけるバナナペーパーは、商品名が「ワンプラネット・ペーパー®︎」といい、アフリカの貧困問題をなくし、環境と野生動物を守ることを目的としています。

バナナペーパーで貧困と環境問題にアプローチ

–ここからは、事業の3つの柱について詳しくお話を聞かせてください。

エクベリさん:

はじめにワンプラネットカフェ設立のきっかけにもなった「バナナペーパー事業」についてお話します。

–バナナペーパーとはどのようなものでしょうか。

エクベリさん:

オーガニックのバナナの茎から採れる繊維を活用した紙です。

茶色い線状のものがバナナ繊維。この繊維を原料に、手すきから機械すきまで幅広い紙づくりを行なっている。

世界の100ヵ国以上でバナナが生産されていますが、バナナの実の収穫後は、5 – 6mほどある茎は、燃やされたり、川に捨てられたりと大量に廃棄されている現状があります。

バナナの茎。実を収穫した後に刈り取り、バナナペーパー工場へ運び込む

–本来であれば捨てられてしまう部分を活用して紙を作っているのですね。バナナペーパー事業を始めたきっかけについて教えてください。

エクベリさん:

きっかけとなったのは2006年のザンビア旅行でした。大好きな自然や野生動物と触れ合う旅の途中、ガイドの方からの提案で現地の村を見ることになりました。

そこでは、1日200円以下で生活をする最貧困層と呼ばれる人々が生活をしており、生活資金を得るために仕方なく密猟をして象牙や野生動物の肉を売ったり、違法で森林を伐採して木材をお金にしたりなどの問題が起こっていたのです。

–貧困が、環境問題を引き起こす原因のひとつになっていたのですね。

エクベリさん:

私は2001年から環境分野のコンサル業をしていたこともあって、この現状を何とかしたいと感じました。そこで、以下の条件でできる事業を考えたのです。

  • 現地で手に入りやすいこと
  • 雇用を生み出し、経済的自立に役立つこと
  • 人や環境に負担をかけないこと

この3つを考慮して試行錯誤を重ねた結果、「バナナペーパー事業」にたどり着きました。

人と地球に優しいフェアトレード認証も取得

バナナペーパーの仕事に関わるチームメンバーには、仕事への誇りが生まれている

–バナナペーパーは、どのように作られているのでしょうか。

エクベリさん:

現地では、バナナの茎から繊維を取り出す過程までを行っています。

最初は2〜3人ほどでの手作業から始まりました。高さ約5~6メートルのバナナの茎を約1メートルに切り、そこから水分や皮を取り除き繊維にしていくのは非常に力や体力のいる仕事です。しかし、皆さん真剣に作業を進めてくれたのが印象的でした。

その後は、ザンビアに再生可能エネルギーなどを活用した工場を設立し、現在は25名のチームメンバーが働いています。仕入れ先として提携している約60のバナナ農家は全て、オーガニックであることや、児童労働をしていないことなどサステナビリティの取り組みにこだわっています。

バナナチームメンバーは、性別や年齢だけでなく部族や宗教などの多様性も大切にしている。

–生産工程でも環境や社会への配慮を徹底しているのですね。

エクベリさん:

その結果、2016年に紙業界では日本初となるWFTOのフェアトレード認証を取得し、さらに2021年にはクライメートポジティブ(CO2の排出量より、削減量が上回る状態で生産していること)を実現しました。

WFTO(世界フェアトレード機関)認証とは

人と地球を優先するビジネスモデルを持ち、フェアトレードを実践する企業が認定される。フェアトレードとは、発展途上国でつくられた農産物や製品などを、適正な価格で輸入・消費することで、生産者の生活を支える取引の在り方。

–実際に働かれている現地の方の反応はいかがですか。

エクベリさん:

人生初の仕事だというメンバーも多く「仕事をして収入を得られる喜びを感じる」と言っています。

茎から抽出したバナナ繊維を天日干しで乾燥させる

また、ここは経済的な理由で学校に通えないなどの問題も多い地域でしたが、「子どもが大学にまで進学できた」というメンバーや、「収入を得たことで家族が住む家をより大きく丈夫にできた、井戸を作れた」などというメンバーもいます。

バナナペーパーの事業を通じた取り組みが、現地の人の生活に役立っていると思うと、非常に嬉しいですね。

名刺やハンガー、ラッピング 幅広い製品に活用されるバナナペーパー

–ザンビアで作られたバナナの繊維は、どのように紙になるのでしょうか。

エクベリさん:

バナナ繊維に環境配慮されたFSC認証のパルプを配合して紙にしています。日本では福井県の「越前和紙」の工場に協力して頂いています。

福井県・越前和紙の工場で。バナナペーパーには和紙の伝統技術と知恵が生きている。

ザンビアの人々の手仕事が、1500年以上受け継がれてきた和紙の技術と融合し、ワンプラネット・ペーパーという名称で販売しています。

–日本の伝統技術がバナナペーパーに活かされているとは驚きました!実際にどのような製品になっているのでしょうか。

エクベリさん:

現在、世界15ヶ国(2022年6月現在)で使っていただいていますが、日本では企業の名刺として人気が高まっています。さらには高校や大学の卒業証書、世界的に有名なナチュラルコスメブランド「LUSH」のギフトパッケージでも利用されています。

<LUSHパッケージ>

–LUSHの華やかなラッピング用紙にも、バナナペーパーが使われていたのですね。知りませんでした!

エクベリさん:

他にもハンガーとして活用されています。紙とはいえ、重さ10kgまで耐えられますので使いやすいと好評です。

バナナペーパーの紙ハンガー「rik skog」

–脱プラスチックの観点からも注目が集まりそうです。今後、さらに様々な製品にワンプラネット・ペーパーが使用されていくことが期待されますね!

SDGs17の目標を一気に体験できる「視察ツアー」

–続いては、事業の柱の2つ目、「視察ツアー」について教えてください。

エクベリさん:

SDGs17について理解を深めることを目的とした視察ツアーです。ここ数年はコロナの影響で2時間ほどのオンラインツアーが中心でしたが、2022年からは現地でのツアーも再開する予定です。

これは約一週間の旅で、サステナビリティ先進国とされるスウェーデンに滞在し、ビジネスや街づくりにおける環境への取り組み、ライフスタイル、社会問題の現状と解決策などについて学べます。宿泊や移動、食事まで全てをサステナブルにこだわっています。

マルメ市にある、欧州初のカーボンニュートラル地区「ウェスタンハーバー」

おすすめの一つは、持続可能な街づくりで世界をリードしている「マルメ市」の見学です。世界一の家庭ゴミのリサイクル率(99%)と言われるスウェーデンが誇る、家庭の生ごみを再生可能エネルギーに変えるシステムなどを視察できます。

その他にも

  • タオル交換や客室清掃の選択制を、世界に先駆けて導入していたエコホテルへの滞在
  • 環境ラベル認定の美容室への訪問
  • 日常でのサステナブルを体感できる家庭訪問・交流

などをお楽しみ頂けます。

–ビジネスから日常まで包括的にSDGsを体感できるのですね。どのような方が参加されるのですか。

エクベリさん:

学生や会社員、経営者、行政・政策立案者、NPO職員の方など立場や経歴も様々な方です。近年は特に中小企業の経営者や、大企業の管理職の方などの参加がとても増えています。

参加者からは、「いろいろな分野の方とご一緒できて良かった」「サステナビリティと聞くと制限が多いと思っていたが、エキサイティングな体験ができました!」「本当に楽しく、ためになるツアーだった!」というお声も頂いていますよ。

スウェーデン視察ツアー参加者の皆さんと。ツアー中の参加者同士の意見交換も貴重な時間となっている。

–どんな方でも参加でき、楽しくSDGsを体験できるツアーなんですね。私も参加したくなりました!

エクベリさん:

ありがとうございます。ワンプラネットカフェのホームページからツアーのお問い合わせ・ご予約いただけるので、ぜひ目を通してみてください。

他にも、バナナペーパーの生産工程やフェアトレードについて学べる「ザンビアツアー」もありますので、ぜひ多くの方に参加していただきたいですね。

169のターゲットを束ねたツールでSDGsをシンプルに伝える

SDGsターゲット研修の様子。世界の目標を理解し、自らの役割や可能性を探る。

–最後に、3つ目の事業の軸、サステナブルを伝える「講演・研修」について教えてください。

エクベリさん:

会社設立以来、企業や大学、自治体、個人など様々な方を対象にサステナビリティや環境についての講演を行ってきました。最近では、SDGsを包括的に学べるワークショップに力を入れており、「ターゲット・ファインダー」というツールを使用していることが特徴です。

–「ターゲット・ファインダー」とはどのようなツールでしょうか。

エクベリさん:

SDGsには、17の目標を達成するための169の詳細目標があります。169ターゲットと呼ばれるものです。これはSDGsを達成するために行動を起こすうえで非常に大切なのですが、長文や専門用語が並んでいてとっつきにくいと感じる方も多いはずです。

そこで、これら全てに一目でわかるアイコンと、一言でシンプルに内容がわかるスローガンをつけ、分かりやすくSDGsを学べるようにしたのがターゲット・ファインダーです。皆さんよくご存じのSDGs17目標のロゴのデザイナーが開発されたもので、弊社は日本語版を共同制作として携わらせていただきました。

例えば、目標14「海の豊かさを守ろう」にあるターゲットの原文は「2025年までに、海洋ごみや富栄養化を含む、特に陸上活動による汚染など、あらゆる種類の海洋汚染を防止し、大幅に削減する」というものがあります。

これが、ターゲットファインダーでは、以下のように表現されています。

ターゲット・ファインダー®︎

–海にゴミが浮かんでいることが一目で分かるアイコンに、シンプルな一言が添えられていますね。これならすんなり理解できそうです!

エクベリさん:

そう言ってもらえるととても嬉しいです。

日本語版の開発では、SDGsロゴデザイナーのヤーコブ・トロールベックさんや彼のチームの皆さんと直接やりとりしながら、意味や表現にとことんこだわって作成しました。

–英語と日本語で意味に違いが出ないよう、慎重に言葉を選ばれているのですね。ターゲット・ファインダーを使用した方からの反応はいかがですか。

エクベリさん:

「169のターゲットをしっかり理解できたことで、具体的な行動につながった」との声が上がっています。

また、ビジネスの場ではSDGsが必須条件になりつつありますので「企業の中長期目標を立てるために役立った」という声も多く寄せられています。

–企業としてこのようなワークショップに参加すると、今後のビジネスにおいて非常に価値のあるものになりますね。

エクベリさん:

そうですね。一般的に企業がSDGsの取り組みを始めようとすると、最初のステップとして、「今やっている取り組みやビジネスはSDGsのどの目標につながっているか」といった視点で議論する傾向にあります。しかし、これでは視野や新たな取り組みが広がらないんです。

私たちの研修では、「アウトサイドイン」という視点を大切にしています。これは、まず社会課題や変化を理解し、そこから自分たちに求められる役割や可能性を見つけていくというアプローチです。169のターゲットを理解すると、これまでになかった新しい視点や考え方で自らを見つめるきっかけにもなります。そこから事業を見直すことで、SDGs達成のためのアプローチ方法や目標が明確になり、社会が必要としている事業やサービスのイメージもつきやすくなるはずです。

それを繰り返すことで、ビジネスを通して社会問題を解決する企業として、お客様や取引先、社会との関係強化につながると考えられます。

パートナーシップからSDGsへの取り組みを広げよう

–最後に、SDGs達成に向けてエクベリさんが最も重要だと考えていることを教えてください。

エクベリさん:

最も重要なのは「パートナーシップ」であると感じます。国を挙げてSDGsやサステナビリティの実現が求められる今、さらなるスケールアップとスピードアップが必要です。そのためには多くの主体が関わり、協力することが欠かせません。

子どもも大人も、様々な立場の人たちも、今やSDGsという同じ目標があります。本来であれば関わることのなかった業種や人であっても、SDGsによってつながりやすくなっています。多様性を大切にしながら、パートナーシップを実現することで、SDGs達成へと近づいていきたいですね。

–本日は貴重なお話ありがとうございました。

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