東濵 孝明
1984年熊本県熊本市西区生まれ。小学校からサッカーを始め、強豪校である熊本県立大津高等学校へ入学、サッカーに明け暮れる。卒業後はファッション専門学校に入学し、のちに中退。地元企業へ就職したが、20歳で上京し、6年間建築会社の経理として働いたあとIT企業へ転職。その後結婚、熊本へUターンし地元IT企業に就職したが、熊本地震をきっかけに退職。「未来の子供たちのために綺麗な海を残したい」という思いから、2019年1月に代表取締役社長として株式会社SUSTAINABLE JAPANを設立。現在に至る。
introduction
海洋ゴミやマイクロプラスチックを回収する「SEABIN(シービン)」という機械の普及活動を通して、日本各地の綺麗な海を守る活動を行う株式会社SUSTAINABLE JAPAN様。代表取締役社長を務める東濵さんに、SEABINの特徴や環境問題を「自分ごと」として考えるために必要なことについてお伺いしました。
海洋ゴミやマイクロプラスチックから綺麗な海を守りたい
-はじめに、SUSTAINABLE JAPAN様の事業内容を教えてください。
東濵さん:
弊社は、海洋浮遊ゴミ回収機SEABINの販売・リースと、それに付随する海洋ゴミの回収業務をメインで行っています。
-SEABINを使ってどのように海洋ゴミを回収するのですか?
東濵さん:
オーストラリアで開発されたSEABINは、水中に設置する「ゴミ箱」です。装置に水を送り込むことによって、浮遊するゴミやマイクロプラスチックを回収していきます。また、石油を吸収するパッドが装備されているため、汚染された水を綺麗にする効果も期待できるんです。
ヨーロッパやアメリカを中心に約860台稼働実績がありますが、日本では全く普及していません。海を汚すゴミの約30%はアジア諸国から出ているとも言われる中、ゴミを出す本人たちが問題解決に取り組めていない…そんな状況に違和感を感じていました。
-なぜ海洋ゴミの回収を事業にしようと思われたのですか?
東濵さん:
妻の妊娠を機に、東京から故郷である熊本に戻ったことがきっかけでした。約20年ぶりに母の実家近くにある漁港に足を運んだのですが、湾内にたくさんのゴミが浮いており、幼少時代に見た海と様変わりしていたんです。「このままではまずい」と危機感を覚えました。
-その後活動を始められたのですか?
東濵さん:
はい。「何かしなくては…」という思いから、ビーチクリーン活動などを始めたのですが、毎日のように流れてくる大量の海洋ゴミを見て、もっと効率的にゴミを回収できる方法はないかと考えるようになりました。そんな時に出会ったのが「SEABIN」だったんです。
-生まれ育った熊本の綺麗な海を取り戻したいという思いがスタートだったんですね。当時は、日本でSEABINの取り扱いがなかったそうですが、どうやって見つけられたのですか?
東濵さん:
インターネットでたまたま見つけました。今でこそ「SEABIN」で検索すると日本語サイトが出てきますが、当時は英語のサイトしかなかったのでGoogle翻訳機能を駆使して機械の特徴について調べました(笑)。
-素晴らしいですね。そこからどうやって取扱いできるようになったのでしょうか?
東濵さん:
オーストラリアのSEABIN PROJECTに直接メールで問い合わせをしたり、輸入のために法人化したり…と、いろいろやりましたね。同時期に東京の株式会社平泉洋行さんがSEABIN PROJECTとコンタクトをとっていたこともあり、ありがたいことに弊社も一緒に取扱い出来ることになりました。
SEABINを熊本から日本全国の海へ
-現在、SEABINを日本全国に普及させる活動を行っているとのことですが、普及状況はいかがですか?
東濵さん:
「まずは地元熊本の海を綺麗に」という思いで始めたのですが、おかげさまで他県からもSEABINの導入を検討しているというお問い合わせをたくさんいただけるようになりました。実際に、三重県の真珠養殖業者さんや大分県の製造会社さんから設置の依頼を受けています。
-SEABINの知名度が上がってきていますね。普及活動を行う中で、何か大変だったことはありますか?
東濵さん:
立ち上げ当初は、SEABINの価値を理解してもらえないことがつらかったですね。実証実験のためには自治体から設置許可をもらわなくてはならないのですが、当時は海洋ゴミやマイクロプラスチック問題が今ほど認知されておらず、どんなに一生懸命説明してもポカーンとされることが多かったんです。そんな流れを変えてくれたのが、メディアでした。
-具体的に教えてください。
東濵さん:
私の活動を知った新聞社やテレビ局、ラジオ局などから出演オファーをいただけるようになったんです。一番反響が大きかったのは、新聞の一面に掲載していただいた時ですね。一気にSEABINの存在を多くの人に知ってもらうことができました。
-コツコツと活動を続けてきたからこそですね。ご自身でメディアに売り込みを行ったことはありますか?
東濵さん:
ほとんどないです。SDGsが認知されるようになったことも追い風になったのではないかなと感じています。
>>東濵様の活動が取り上げられた新聞記事【熊本日日新聞 2019年9月29日発行】
きっかけは米農家さんの声。0から開発を進める用排水路浮遊沈殿ゴミ回収機
-現在、用排水路専用の浮遊沈殿ゴミ回収機の開発も進めているそうですね。なぜ開発しようと思われたのですか?
東濵さん:
一人の米農家さんの声がきっかけでした。熊本日日新聞に掲載された記事を見た米農家さんから「SEABINを用水路に付けたい」というご要望をいただいたんです。用排水路のゴミが回収できれば、海に流れ出るゴミの量を減らすことができる…そう思い引き受けたのですが、大きな課題が見つかったんです。
-どういった課題ですか?
東濵さん:
用排水路は年間を通して水位が安定しません。1メートルの時もあれば、15センチほどの時もあります。SEABINが稼働するには少なくとも水深が1.2メートル程度必要なため、水位が低くなると全く稼働しなくなるわけです。どうしようかと悩んだ結果、これはもう自分で作るしかないと思いました。もちろん開発の経験はないんですけどね(笑)。
-専門家の方と一緒に開発されているのでしょうか?
東濵さん:
いいえ、私と同じく機械の開発をやったことがない内装業者さんと一緒に始めました。専門業者にお願いするという手もありましたが、アイデア豊富な方で以前から仕事の話をする機会も多かったため、直感でお願いすることを決めました。
図面とにらめっこしながら「こういう形が良いんじゃない?」、「こうしたらゴミが取れやすいよね」とアイデアを出し合い、たくさんの打ち合わせと改良を重ねて約1年で完成・実証実験までこぎつけました。今は2022年春に販売できるよう頑張っています。
環境問題の解決には先行投資が必要
-SEABINの一番の目的は「ゴミを取る」ことだと思いますが、事業を進める中でどういった効果を感じていますか?
東濵さん:
SEABINを実際に見て興味を持ってくれた方が、海洋ゴミの問題を「自分ごと」として考えるきっかけになっていることが、大きな効果だと感じています。一人一人の小さな気付きが、海洋ゴミやマイクロプラスチック問題の解決に繋がっていくと信じています。
-SUSTAINABLE JAPAN様の事業はSDGsに直結していると思うのですが、企業がSDGsに取り組むことの意味や役割についてどのようにお考えですか?
東濵さん:
正直に言うと、事業をするうえであまりSDGsを意識したことはありません。今の世の中は利便性を追求しすぎて、大事なことを忘れているのではないかと感じています。
-「大事なこと」というのが、東濵様にとっては「綺麗な海を守る」ということだったんですね。
東濵さん:
そうですね。多くの企業さんがSDGsに取り組まれていると思いますが、活動を見ると「本質をついていないのでは?」と感じることもあります。最近印象的だったのが、SEABINの導入を検討してくださっている企業さんから「最終的には費用対効果を基に検討します」という言葉をいただいたことです。
個人的には、環境問題に取り組むのであれば「費用対効果」で考えてはダメだと思っています。先にリターンを求めてしまうと、何も始められないんですよね。大切なのは、まず企業として「やる」と決めて行動に移すこと。もちろん、企業として費用対効果を考えるのは当然ですが、環境問題に取り組むのであれば先行投資が必要というのが私の考えです。
全ては「自分ごと」として捉えることから
-最近では、小・中・高の学生向けの講演会にも登壇されているそうですね。学生たちと接する中で、何か意識していることはありますか?
東濵さん:
環境問題を「自分ごと」として捉えてもらうにはどうしたら良いかということは常に考えています。
学生さんから「僕たちには何ができますか?」という質問をいただくことが多いのですが、私がいつも言うのは、「道端にあるゴミを毎日1個拾ってください」ということです。
1日1個拾えば1年で365個も拾うことができます。海洋ゴミの約8割が街中から出ると言われているので、たとえ小さな活動でも海洋ゴミの減少に寄与することができる。そんな風に想像ができれば、環境問題を少しずつでも「自分ごと」として捉えられるようになるのではないかなと思います。
-最初から大きな問題として捉えるのではなく、まずはできるところからという認識が大切ですね。今後回収したマイクロプラスチックを下敷きなどの教育商材に変えていきたいという思いもあるそうですね。
東濵さん:
はい。SEABINで回収したマイクロプラスチックを原料として、下敷きなどの教育商材を作っていきたいと考えています。学生生活の中で実際に触れてもらうことで、海洋ゴミやマイクロプラスチック問題に目を向けるきっかけとなればと思っています。
他にも、熊本の企業さんからプラスチックを堆肥にするというお話もいただいています。海や用排水路で取れたゴミを堆肥として自然に戻す。そういった、良い循環システムをどんどん形成していきたいですね。
SEABINで未来の子供たちに綺麗な海を残したい
-最後に、今後の展望を教えてください。
東濵さん:
日本は海に囲まれているので、SEABINが設置できる場所には全て設置していきたいです。SEABINはゴミ回収機ですので、設置台数が増えれば、それだけ海が綺麗になるということです。
会社の発展が環境問題の解決に直結すると信じ、これからも未来の子供たちに綺麗な海を残すために頑張っていきたいです。
-東濵さん、貴重なお話をありがとうございました!
取材・執筆/ 永瀬 真奈美