吉村 祐一
1985年福井県生まれ。大学卒業後、(株)リコーにて、複合機、電子黒板などのエレキ設計に従事。その後、NISSHA(株)ではプラスチックに電気機能を付加する技術開発を担当。技術開発を行いつつ、社会課題となっているゴミ問題を解決するビジネスプランを作るため、(株)フェニクシーの新規事業開発・社内事業化に向けた、居住型の起業支援・起業家育成プログラムに参加。そこでリユース容器を起点としたRe&Goの骨子となるアイディアをまとめ、社内でプロジェクトチーム化。現在はプロジェクトリーダーとして、NECソリューションイノベータ社と連携してRe&Goの事業化・拡大を目指している。
加藤 一郎
1968年山口県生まれ。NECソリューションイノベータにおいて、機械翻訳、グループウェアなどのソフトウェア開発に従事。近年では新電力などのエネルギー事業や地域の環境問題など新事業の立ち上げに参画し、その縁でNISSHA社からアプローチをもらい、Re&Go事業の理念に共感し、参画。
introduction
使い捨て容器を減らしてゴミゼロを目指すサービス「Re&Go(リーアンドゴー)」。
NISSHA株式会社(以下、NISSHA)と、NECソリューションイノベータ株式会社(以下、NECソリューションイノベータ)が共同で始めた取り組みです。
今回は、NISSHAの吉村さんとNECソリューションイノベータの加藤さんをお迎えし、Re&Goの仕組みと特徴、双方の強みを最大限に活かすメリットについてお伺いしました。
環境問題改善を目指した取り組み「Re&Go(リーアンドゴー)」
–吉村さん、加藤さん、本日はよろしくお願いいたします。まずは「Re&Go」の事業内容について教えてください。
吉村さん:
「Re&Go」は、シェアリング容器を提供することで街中から使い捨てゴミを減らすサービスです。現在は、「Re&Go cup」と呼ばれる使い捨てカップの代替となるサービスの都内実証実験中です。
主にテイクアウト時に発生する使い捨てカップやお弁当パックなどを、我々が提供する”洗って繰り返し使えるリユース容器”に変えて頂くことで、ゴミによる環境への負担を減らすことを目的としています。
スタートを切ったばかりの「Re&Go」は現在2回目の実証実験を行っています。
第一回目は、沖縄県読谷村にてドリンク用のシェアリングカップ、お弁当用のシェアリングボックスのサービス(2020年12月〜2021年2月)、現在は東京都丸の内周辺のスターバックス店舗でシェアリングカップのサービス(2022年5月まで)を展開しています。
深刻化する海洋プラスチックゴミ問題と使い捨てゴミ
–街中から出る使い捨て容器と環境問題はどう繋がっているのでしょうか。
吉村さん:
プラスチックゴミによる海洋汚染へ影響しています。また容積比でみると、ゴミの中で使い捨て容器が多く占めています。
例えばテイクアウトで使用されるプラスチック容器が適切に処理されなかった場合、陸から海へと流れつき、海にゴミが溜まっていきます。そうなると、環境だけでなく生物へも悪影響を及ぼしかねません。
–そうして蓄積されたプラスチックゴミを海で暮らす生き物が餌と間違えて食べてしまったという悲しいニュースも見たことがあります。
海に漂流するプラスチックゴミは街中から発生したものなんですね。
吉村さん:
そうですね。海岸に漂流するゴミの多くは私たちの生活の中から発生するプラスチック容器だというデータがあります。
海洋ゴミに限らず、ごみの総量を減らしていくには、やはり使い捨て容器を減らすことが重要なのではないかと考え、今回のサービスを始めました。
「IT×環境課題改善」企業の持つ強みを活かした事業
–「Re&Go」は、NISSHA株式会社とNECソリューションイノベータが共同で開始されたサービスだと伺っています。どのような経緯で共同事業を始めたのでしょうか。
吉村さん:
もともと私自身がゴミを削減できるサービスを提供できないかとアイディアを練っていたところで、NECソリューションイノベータの加藤さんとご縁がありまして、共感いただいたという経緯があります。
–加藤さんはどのようなところに共感されたのでしょうか。
加藤さん:
吉村さんの目指す事業目的と、弊社がこれまで実践してきた取り組みの方向性が同じだったことが理由の一つです。
もともと弊社は、住民の方々と一緒に、適切なゴミ処理や分別を着実にやっていこうと、弊社の強みであるITを活用しながら環境課題を解決するための活動を進めてきました。
そうした中で、2019年2月に、吉村さんからITのパートナーを探しているというご連絡をいただき、ゴミを減らし環境を守りたいという方向性が同じであると感じて、連携させて頂きました。
–両社の想いとゴミ問題を解決するという事業の方向性が一致して、「Re&Go」が誕生したのですね。
加藤さん:
はい。我々の特徴はIT技術をしっかり持っているということです。そのノウハウを環境課題解決に役立てられることが参画に至った理由です。
街中から出る使い捨てゴミを実質ゼロに。企業の強みを活かした画期的な仕組みと特徴とは
–ここからは「Re&Go」のサービス内容について詳しくお伺いします。まず、どのような仕組みで成り立っているのでしょうか。
吉村さん:
こちらが現在行っている「Re&Go cup」の全体フローとなります。
お客様はRe&Go加盟店でサービスを利用できます。いつものドリンクを「Re&Go cup」に入れてテイクアウトしていただき、飲み終えたあとは加盟店に返却する流れです。
返却されたカップは輸送パートナーが定期的に回収し、提携する洗浄パートナーにて洗浄し再使用するというサイクルなので、ゴミが出ない仕組みとなっています。
–様々な企業が連携していますね。
吉村さん:
はい。様々な企業のご協力のもと進められることも事業の特徴です。今後全国展開となった際、地域ごとで企業が連携し、サービスをご提供させていただくことで、地域経済の活性化に繋がると考えています。
–新たな雇用を生み出すきっかけにもなりますね。続いて、容器管理の仕組みについても詳しくお伺いします。容器はどのように管理されているのでしょうか。
吉村さん:
返却漏れ、どこかに置き去りにされてゴミになってしまうことを防ぐために容器ひとつひとつにQRコードが印字されており、どなたがどのカップを利用しているかシステムで管理しています。
返却基準は商品購入から3日を目安にして頂き、加盟店であればどの店舗への返却でも可能です。
やはり利用した店舗で返さなければいけないとなると、どうしても使う時のハードルが高くなってしまいますが、Re&Goの加盟店が全国に増えていくことで、街中でゴミ箱を探すよりも簡単になり、気軽に利用できるようになることを目指しています。
–ここにIT技術がしっかり活かされていますね!では、ユーザー側も何か登録が必要なのでしょうか。
加藤さん:
「Re&Go」にはLINEアカウントがあります。そこにアクセスしLINE上で友だちになることで登録が完了し、ニックネームと年齢、郵便番号のプロフィールを入力するだけですぐに利用を開始できます。
–新たにアプリをダウンロードする手間がなく、入りやすい仕組みですね!
”みんなの環境貢献度”で削減量を見える化
–LINEで登録後すぐに利用できるということですが、他にどのような機能があるのでしょうか?
吉村さん:
お近くの加盟店舗を確認できるほか、個人・サービス全体で、容器ゴミとCO2排出量をどれだけ削減できたかを示す”みんなの環境貢献度”を見ることができます。(※CO2排出量に関しては準備中)
–それは面白いですね。なぜCO2削減量が関係しているのでしょうか。
吉村さん:
容器を洗浄して繰り返し使う方が、CO2排出量など環境負荷が高いのではないか?とご質問を頂くことがあります。もちろんRe&Goの利用1回だけと使い捨て容器1個を比較すると、Re&Goの方が環境負荷が高くなります。
しかしながら、Re&Goは繰り返し使うことで使い捨て容器よりも環境負荷が低くなります。現在は、そのデータを分かりやすくユーザーに伝える準備を進めています。
–ちなみに、みんなの環境貢献度を確認することによってユーザーにはどのような効果が期待できるのでしょう。
加藤さん:
サービスを利用することで、私も環境活動に貢献できた!というモチベーションが高まるきっかけになることを目指しています。
今、脱炭素という言葉もありますが、個人の方にとっては問題が大きすぎるため、取り組みたいと思っても何から始めたらよいのかいまいちピンとこないという方もいらっしゃると思います。
Re&Goを活用することで、誰でも気軽に貢献できるんだと実感できるサービスにして頂けたら嬉しいですね。
また、「Re&Go」はリサイクルよりも、リユース・リデュースに注力したサービスであることが特徴です。こうした仕組みは環境負荷が低いことが分かっていますし、利用者の方々にはそれを知るツールにしていただきたいです。
利用者のニーズに合わせた「Re&Go cup」
–使い捨て容器を減らすと聞くとマイボトルをイメージする方も多いと思います。両者の使い分けや明確な違いも教えて頂けますか。
吉村さん:
マイボトルとの違いは、ずっと持ち歩かなくてもいい、洗わなくてもいい、といったユーザーの負担が少ないことですね。
もちろんマイボトルはメリットも多いので、私もお水を入れて持ち歩いていますが、例えば出先でコーヒーをテイクアウトしたいとなったときに「Re&Go cup」を利用すれば、コーヒー用に2本目のマイボトルを持ち歩かなくて済みます。
–利用者のニーズに合わせて使い分けられますね。
吉村さん:
はい。さらに「Re&Go cup」は保温保冷効果が付いているので、機能面も充実しているというメリットがあります。
–それは嬉しいです!
吉村さん:
そうですね。非常にシンプルな仕組みですので、ぜひ気軽に利用頂けたらと思います。
パートナーシップが生み出した社会貢献の場
–「Re&Go」のサービスが今まさに実証実験段階に入っているとのことですが、お客様の反応や事業に関わる方のフィードバックはありましたか?
吉村さん:
ユーザーの方からはSNSでタグづけしていただくなど好評をいただいております。もちろん、厳しめのご意見もありますが、今後はLINEのRe&Goアカウント上でアンケートを行い、アップデートして参ります。
ほかにも、第一回目の実証実験を行った沖縄県読谷村の加盟店の方からは、「こうしたサービスはお店のPRになる」と嬉しい声が届いています。
–吉村さんご自身の変化などはいかがでしょう。
吉村さん:
これまで練っていた構想が少しずつ現実化してきているなと、良い感触を得られています。
–加藤さんはいかがでしょうか。
加藤さん:
おかげさまで実際にLINE登録者数も着実に増えているため認知していただけるなと感じておりますし、何よりも一般のお客様との接点ができたことが一つ、私共にとっては嬉しい変化ですね。
–どういうことでしょうか。
加藤さん:
我々はもともと企業様向けにITサービスを提供するといったB to Bの事業を本業としていましたが、「Re&Go」サービスを通じて、直接一般のお客様にお使いいただけるサービスを提供できるんだ!と社員一同喜んでおります。
–「Re&Go」の取り組みを機に、企業の社会貢献の場が広がっているのですね。
リユースサービスを通じて環境負荷の低い社会に
–現在、実証実験を行っていらっしゃるとのことですが、今後の展望についてお聞かせください。
吉村さん:
2022年以内に本格的に事業化をスタートさせ、その後全国へ拡大したいと考えています。現在まではカップとランチボックスでの実証実験段階ですが、やはりリユース容器という意味ではほかにも展開できる可能性が見えておりますので、「Re&Go〇〇」といった新たなサービス展開を計画しています。
また、ユーザーの方に向けては、利用クーポンを発行するなど、より参加しやすくなる仕組みの構築を進めております。リユースを軸に環境負荷の低いサービスが選ばれる社会とするために、ユーザーの方にとっても使いやすいサービスにしていきたいですね。
–本日は貴重なお話をありがとうございました。
取材・執筆/ Mayu Nishimura