柾木 要介
1988年生まれ栃木県出身。高校卒業後にサーフィンと出会い、2008年から約3年間は静岡伊豆のサーフショップに住み込みで働きながらビーチクリーンを始める。活動の中で、「砂浜のゴミを拾う以外にも、何かできることはないだろうか?」と考えるようになる。その後、2011年からは都内のアイウェアメーカーに転職。商品企画やセールスなどブランド運営に関する様々な業務に約9年間従事。2020年に退職したのち、オウン合同会社を創業。美しい自然を守るために何か貢献したいという想いと、アイウェアブランドを運営してきた経験を掛け合わせ『PLAGLA | プラグラ』ブランドを2021年4月からスタートさせる。
introduction
使用済みペットボトルを再利用し、ブルーライトカットのメガネやサングラスに生まれ変わらせた新しいアイウェアブランド「PLAGLA」。メガネフレームからレンズ、包装に至るまで徹底的に環境に配慮して作られており、環境意識の強い若い世代から注目を集めています。今回は、サーフィンを愛する代表が環境に配慮したメガネを作るようになったきっかけや、環境問題への配慮と使い心地を両立させるまでの経緯についてお伺いしました。
フレームもレンズも付属品も。すべてが自然に優しいメガネ
–早速ですが、PLAGLAについて教えてください。
柾木さん:
PLAGLAは、2021年の4月に立ち上げたばかりの新しいブランドです。
現在は、度なしのブルーライトカットメガネや老眼鏡、サングラスなどを展開していて、全てのメガネフレームが使用済みペットボトルからできているのが特長です。
メガネのレンズも環境に優しい生分解性のものを使用しているんですよ。
–生分解性とはどういう特性のことでしょうか。
柾木さん:
生分解性とは、使い終わったレンズが微生物に分解されて、ゆくゆくは土に還るという特性のことです。メガネ自体が役目を終えて廃棄された後も、環境になるべく影響の無いようにと、配慮して選びました。
環境面の配慮としては、付属品についてもしっかりこだわっているんです。
メガネケースの表面は再生紙でできていて、メガネをかけている間は小さく折り畳めるようになっています。内側はベロア素材なので傷もつきにくいようになっています。
またメガネ拭きも、フレームと同じようにペットボトルを再利用した繊維でできているんですよ。
–メガネ自体も付属品も、すみずみまで環境への配慮がなされているのですね。
柾木さん:
ペットボトルって、もう一度ペットボトルに生まれ変わらせた場合は、使ってもらえるのは中の飲料を飲み切るまでがほとんどで、とても短い時間ですよね。
メガネに生まれ変わらせてあげれば、手にした人に使ってもらえる時間が長くなります。これにより、手放されるまでの時間を引き伸ばせるかなと。この想いを実現するために、細部までこだわりました。
ビーチクリーンを通して環境への問題意識が芽生えた
–どんなきっかけでPLAGLAを立ち上げることになったのですか。
柾木さん:
課題意識を持ったのは、サーフショップで働いていた頃に行っていたビーチクリーン活動です。
–もともとはサーフショップで働いていらっしゃったんですか?
柾木さん:
そうなんです。海なし県の栃木出身ということもあり海にずっと憧れていまして、高校卒業後にサーフィンにどハマりしたんです(笑)。すぐサーフィンできるように、海の近くのサーフショップに住み込みで働いていたこともあるんですよ。
–そこでビーチクリーン活動を始められたんですね。
柾木さん:
はい。結構地元の人なんかは、庭掃除をするような、当たり前の感覚で浜辺を掃除していて。それに感化されて始めたんですけど、拾っても拾っても、気づけばまたゴミが流れてついているんですよ。海に流れ着くゴミの量は年間800万トンとも言われているんです。
–それはすごい量ですね。
柾木さん:
上流の方から流れ着いたゴミだけでなく海外のペットボトル飲料なんかもあって、「拾うだけではなくて、捨てられるゴミ自体を減らさなければ問題は解決できないんだ」と実感したんです。
–捨てられなければ、海に流れてこないですもんね。
柾木さん:
それからは、ゴミ自体を減らすために何かできないかと模索していました。2020年頃ですかね、たまたま福井の工場の方と出会って、ペットボトルをリサイクルしてメガネを作っていると知ったんです。これだ!とひらめいて、その方にも協力していただいてPLAGLAを立ち上げることにしたんです。
使い心地にとことんこだわり、失敗作は3万本
–PLAGLAのメガネで使われるペットボトルは、どのように再利用されているのですか。
柾木さん:
一般のゴミとして出されるペットボトルを綺麗に洗い、細かく砕いた後に、福井県の鯖江市というところでフレームに加工しています。メガネフレームを1つ作るのに、約2本分のペットボトルが使われます。
鯖江市というのはメガネの産地として昔から有名な地域で、日本製メガネのシェア9割を占めています。世界からも評価の高い高度な技術力で、良質なメガネを作れる職人さんがたくさんいらっしゃるんです。
–再利用のプラスチックをメガネにするには、相当の技術力も必要なんでしょうね。
柾木さん:
そうですね。ただリサイクルしたプラスチックを使ったメガネ、というだけではなくて、使い心地も一般的なメガネと遜色ないレベルにしたいと考えていましたから。
とはいえ、リサイクルのプラスチックを素材として使うとどうしても壊れやすくなってしまうのが課題でした。強度をあげるとつけ心地が悪くなってしまう。このジレンマを解消するために、工場では3万本も試作をくり返し、軽さと柔らかさと壊れにくさ、すべてを叶えたメガネを作ってくれたんです。工場の皆さんには本当に感謝の気持ちでいっぱいですね。
–本当に軽くて、初めて持ったときにとても驚きました。
柾木さん:
そうですよね。さらに、工業規格もクリアしているんですよ。つるの部分の開閉テストも何千回と行って、ゆがみやガタつきがでないことが証明されているんです。金属を使っていないので、ここも強度を確保するのにとても苦労しました。
–つるの部分に金属を使わないのには理由があるのですか。
柾木さん:
水洗いしたり海で使ったりしてもサビないようにすることと、もう一度溶かしてリサイクルできるようにするためです。
今やペットボトルは、食品用のトレイや卵のパック、下敷き、肌着など、様々な用途に再利用されていますからね。使わなくなったり、買い替えたくなったりしたら、再度リサイクルできるようにペットボトル由来の素材だけで作っています。
–メガネが使われなくなったその先まで見据えているのですね。
価格も含めて、お客様に親しんでもらいたい
–今までのお話で、商品への並々ならぬこだわりを感じたのですが、その割には求めやすい価格帯だなと感じました。何か秘密があるのですか。
柾木さん:
秘密ってほどではありませんが(笑)、理由は2つあります。
1つは、大量生産に近い方法で生産をしていること。そしてもう1つは、まずはブランド自体を広めたいという意図があるからです。
–なるほど。まずは、生産方式についてお伺いできますか。
柾木さん:
はい。現在PLAGLAのメガネを生産してくれている工場が、もともと他にもいろいろな種類のプラスチック製品を手がけているところなんです。例えば回転寿司店のお皿とか、飲食店で見かけるプラスチックのお箸とか。
そういったものを大量に・安く作るノウハウをすでにお持ちだったので、なんとか価格を抑えることができています。
–試行錯誤の末に見つけた製法で、一度にたくさん作っているのですね。
柾木さん:
そうですね。また、私たちのブランドはまだ立ち上げて間もないので、求めやすい価格にすることで製品自体やその魅力の認知を上げていきたいと考えています。
価格も含めて、PLAGLAのメガネは魅力的だと感じてもらえることが、多くのお客様に使っていただく一番の近道だと思っていますから。
–なるほど。現在は、どのようなお客様が多いのですか。
柾木さん:
20-30代のお客様がメインで、学生など若い方も多いですね。
渋谷でポップアップストアを開いたときには、環境やブランドコンセプトに興味があってPLAGLAを知ってくださった方が多くて嬉しかったです。
ブランド立ち上げ当初は、サーフィンやアウトドアが好きで、水に濡れても大丈夫なサングラスを探している方を想定していたので、いい意味で予想外でした。
遠回りでも、着実に。美しい海を取り戻す
–ありがとうございます。最後に、今後の展望を教えていただけますか。
柾木さん:
PLAGLAというブランドはまだ始まったばかりなので、まずは長く続けていくことを目標にしています。せっかく環境保全につながる取り組みなのに、問題が改善される前に終わってしまったらもったいないですから。
–確かにその通りですね。
柾木さん:
長く続けていくために、多くの方にPLAGLAの製品を体感していただける機会を増やしていきたいなと考えています。ポップアップもそうですし、全国区のメガネ販売店などにも置いていただけるといいなと思っています。
現在は度が入っていないブルーライトレンズやサングラス、老眼鏡のラインナップのみなので、今後は度入りのレンズを開発するなど、商品としての魅力も高めていきたいです。
また現在は、PLAGLAの売り上げの一部を「海の羽募金」に募金することで、ビーチクリーンの活動の支援もしています。「海の羽募金」はビーチクリーン活動や植林などを行っている団体で、募金はゴミ拾いの際のゴミ袋などに使われています。
私たちのメガネが広まるほどに、海岸のゴミ拾いも活発になって、そこで拾われた資源でまたPLAGLAの商品を作っていく。
この前向きな循環を深めていけるといいなと考えています。
–捨てられるゴミの削減と、捨てられたゴミの回収がどんどん進んでいくのですね。素晴らしいです。
柾木さん:
ビーチクリーンやペットボトルの再利用は、マイボトルやマイ箸のように即効性は見込みにくいかもしれません。しかし、私たちの商品をきっかけに環境保全活動に参加したり、ゴミの削減を意識する人が増えたらいいなと願っています。
–その通りですね。本日は貴重なお話をありがとうございました!
取材・ mai nagatani/ 執筆 h.ono