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【SDGs未来都市】陸前高田市|震災を乗り越えた陸前高田市がSDGsとともに進める「ノーマライゼーションという言葉のいらないまちづくり」とは

陸前高田市 政策推進室 菅野さんインタビュー

菅野 大樹

1985年7月25日、岩手県陸前高田市生まれ。2009年3月に大学卒業後、宮城県仙台市に就職。2010年に行われた陸前高田市役所採用試験を受け、翌年からの採用が決まる。市役所への就職が決まり、自宅である陸前高田市への引っ越しを控える中、2011年3月11日に東日本大震災が発生。家族とも連絡が取れないなか、友人と車で帰省。家族は無事だったが、自宅は全壊。帰省後は避難所での生活となった。同年4月1日、混乱も収まりきらない中、市役所を含め公共施設がほぼ全壊だったため高台にあった市学校給食センター(当時の市災害対策本部)で入庁式が行われ本市役所へ入庁。入庁後は教育委員会に配属となり、被災資料の回収、修復や、断水となっていた市内小中学校への水や物資の運搬なども行った。その他、市内の状況が落ち着いてからは、各種スポーツ教室やイベント等の再開検討のほか、学校給食センターでの業務を担当。2016年4月からは都市計画課で下水道関係の業務に携わり、2020年4月より政策推進室にて広報担当を務める。

introduction

岩手県最南端の沿岸部に位置する陸前高田市は、2011年、東日本大震災による津波で甚大な被害を受けました。大部分が再建した陸前高田市が次に取り組んでいるのがSDGs。震災からこれまでの11年、陸前高田市はどのような経緯でSDGsに取り組むようになったのでしょうか?陸前高田市 政策推進室 菅野大樹さんに話を伺いました。

甚大な被害からの復興。目指す姿には、SDGsとの共通点があった

–陸前高田市といえば、東日本大震災を思い出す人もいると思いますが、市のことを教えてください。

菅野さん:

はい、本市は地震による津波で壊滅的な被害を受けました。震災前の人口は約24,000人でしたが、震災で人口の7%、つまり1,800人近くの人が犠牲になっています。市内の約8,000世帯のうち、約半数の4,000世帯が被災しました。

本市の中心部である高田町、そして公共施設のほとんどが被害を受けています。本市は震災後、ゼロからまちを作り直さなくてはなりませんでした。今年で11年が経過しましたが、未だに復興は完了していません。

–ゼロからの出発…本当に大変な道のりだったのではないかと思います。壊滅的な被害からの復興を経て、現在の陸前高田市がSDGsに取り組むようになったきっかけは何だったんですか?

菅野さん:

実は、最初からSDGsに取り組もうと思ったわけではないんです。3.11以降、本市では着るものも食べるものも何もかもが不足しました。市民全員が誰かの助けを借りなくては生きていけない状況に陥り、いわば社会的弱者になってしまったんです。私たちは、何よりもまず復興に取り組まなくてはなりませんでした。

復興からのまちづくりを展開していくなかで掲げた理念が「ノーマライゼーションという言葉のいらないまちづくり」でした。「ノーマライゼーション」とは、障がいのある人も、そうでない人と同じ生活を送れるようにと生まれた言葉です。市民全員が弱い立場になった本市にとって、まさに重要なキーワードだと感じました。

–市民全員が「助けがないと生きていけない状況」を経験したからこそ、「ノーマライゼーション」という理念が浸透しやすい環境だと考えたんですね。

菅野さん:

ええ。さらに、まちづくりの理念は、単なるノーマライゼーションではなく、もう一歩踏み込んだものにしようと考えました。障がいのある方だけでなく、小さな子どもから高齢者まで、誰もが笑顔で暮らせるまちをつくろうと考え、「ノーマライゼーションという言葉のいらないまちづくり」を本市の理念に掲げました。

この考えがSDGsの「誰一人取り残さない」という理念と一致したため、復興やまちづくりにあわせてSDGsにも取り組むことにしたんです。

ノーマライゼーションが当たり前のまちを目指す

–確かに、「ノーマライゼーションという言葉のいらないまちづくり」とSDGsには、通じるものがありますね。まちを再建するにあたって意識したことは何ですか?

菅野さん:

ゼロになったまちを復興するにあたって、まずは障がいのある方の生活利便性を意識しました。再建する施設はバリアフリー設計にして、車いすの方が通りやすいように段差をなくし、施設内の通路を広く整備しています。

民間の事業者さんにも協力をお願いしました。ユニバーサルデザインに対応した施設へ再建してもらえるように、事業者さんに補助金を助成しています。店舗をユニバーサルデザインで再建してもらった場合は、ユニバーサルデザイン対応店舗として認証し、店舗情報を市のHPに掲載しています。

「防災・減災」―大震災を経験したまちだからこそできること

–まさに、「誰一人取り残さないまち」を作っていったんですね。大震災を経験したまちとして、他に取り組まれたことはありますか?

菅野さん:

復興するにあたって、私たちが心に留めていたのは、「同じ過ちを繰り返さない」ことです。残念ながら自然災害は避けられません。地震は周期的に起こると言われており、沿岸部に位置するまちとして、また地震や津波が起こった時に、どれだけ被害を減らせるかが大切です。そこで本市は、「防災・減災を学べるフィールド」になるようにまちづくりをすすめています。

–近年、国内外で大規模な地震が発生していますし、「防災・減災」については誰もが知っておくべきだと思います。

菅野さん:

そうなんです。陸前高田市には高田松原津波復興祈念公園がありますが、これらの施設を通じて「防災・減災を学べるまち」を国内外へ発信していきたいと思っています。祈念公園には語り部ガイドツアーがありますが、海外からの来園者を見据え、多言語対応できるよう語り部さんに英語や中国語などを学ぶ機会を提供しています。

また、市の職員が講師になって、学校や民間事業者さんへの出前講座の実施や、地域で防災リーダーとして地域で活躍できる人材を養成する「防災マイスター養成講座」を行っています。

–まちづくりでは、どのように防災・減災の工夫をしましたか?

菅野さん:

防災・減災のため、安全性の確保とコンパクトなまちづくりを目指しました。防潮堤の整備をはじめ、かさ上げした場所への中心市街地の再建、防災集団移転による高台への住宅再建など、災害に強いまちづくりをすすめています。

公共交通機関については、JR東日本の大船渡線BRT(バス高速輸送システム)の他、グリーンスローモビリティの運行を予定しています。グリーンスローモビリティとは、時速20㎞未満で走行する電動バスです。高齢者の足を確保するため、平日は災害公営住宅から中心市街地へバスを走らせます。休日は道の駅や発酵の里、農業テーマパークである「オーガニックランド」など、市の観光施設をグリーンスローモビリティでつなぎ、レジャーや観光を促進できるよう計画しています。

グリーンスローモビリティとは?

グリーンスローモビリティとは、電動車による小さな移動サービスのこと。サービスと車両を含めてグリーンスローモビリティと言います。低炭素化社会を目指すための交通機関です。走行時速は時速20㎞未満で、定員も従来のバスや電車より少なく、利便性が高いとされています。高齢者の交通の便や、観光資源として利用されています。

官民で推進する陸前高田市のSDGsの取り組み

–これらの取り組みは、SDGs未来都市計画にも盛り込まれていますが、しっかりと具現化が進んでいるんですね。SDGsに取り組むときには、市民や民間事業者の理解が不可欠だと思いますが、どのように啓発しましたか?

菅野さん:

広報誌でSDGsの取り組みを紹介して、徐々に認知度を上げてきました。また、市内の学校や企業などで出前講義を行って、啓発に努めてきました。

「ユニバーサルマナー検定」を実施したのも効果的だったと思います。多くの民間事業者に検定を受けてもらいました。もちろん市の職員も受検しましたよ。

–他にもSDGsに関する事業に取り組まれていますか?

菅野さん:

SDGsを推進するには、民間事業者との連携が必要不可欠です。官民が連携するために「陸前高田市SDGs推進プラットフォーム」を作りました。現在、20以上の会員と、毎月SDGsに関する話し合いをしています。また、事業者が市民に向けた取り組みの発表やワークショップの実施など、SDGsの取り組みについて市民に情報提供する場をつくっています。

その他にも、本市は2019年に法政大学とSDGsに関する連携協定を締結しました。2021年には法政大学の学生18名と、本市と市内の社会福祉法人や文房具店などの4事業者が参加し、ワークショップを開催しています。ミーティングでは活発な意見交換が行われました。私たちも市の事業者も、学生さんの新鮮な感性やアイディアにおおいに刺激を受けましたね。

人と人とのつながりが陸前高田市の未来を描く

–SDGs達成の国際目標である2030年まで、あと8年です。最後に、2030年までの陸前高田市の展望を教えてください。

菅野さん:

本市は、震災からの復興を第一優先として、SDGsの「経済・社会・環境」の3つの分野で様々な取り組みを行ってきました。今後はまちを活性化し、人と人とのつながりを増やすのが目標です。また、市外や県外、さらには海外からもたくさんの方に本市を訪れてもらいたいですね。「防災や減災を学べるまち」として、災害に備える大切さを世界中に発信したいと思います!

インタビュー動画

取材・執筆/ スペースシップアース編集部

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