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【SDGs未来都市】富山県南砺市 | 地域資源活用や市民協働で、自立した地域を目指す

富山県南砺市役所 エコビレッジ推進課  加藤さんインタビュー

加藤 修雅

1986年3月生まれ、富山県南砺市出身。2008年4月、南砺市役所に入庁。農政、住民生活、交通政策の部署を経た後内閣府へ派遣となり、派遣終了後の2019年4月からSDGsを所管するエコビレッジ推進課に所属。「なんとSDGsパートナー」事業による市内での取り組みの可視化を進めているほか、富山県立大学の学生団体と連携制作したボードゲームや、カードゲーム「SDGs de 地方創生」を活用した出前講座などを通じて、市民へのSDGs普及啓発に取り組んでいる。

Introduction

富山県南西部にある南砺市は、西に石川県、南に岐阜県と接した位置にあります。2004年、平成の大合併により8つの町村が合併して誕生した新しい市です。人口5万人ほどの南砺市は、約8割を森林が占めています。1995年にユネスコ世界遺産に登録された「五箇山の合掌造り集落」があり、日本遺産の井波彫刻や、国内シェア4割を誇るバットの生産をしているなど、文化的にも特色のあるまちです。

今回、この南砺市で持続可能なまちづくりに関する業務に携わるエコビレッジ推進課の加藤さんに、SDGsや環境、地域づくりなどの取り組みを伺いました。

2013年から取り組んでいる「エコビレッジ構想」とSDGs

-本日はよろしくお願いします。まずは、南砺市がSDGsに力を入れ始めたきっかけを教えてください。

加藤さん:

元々、南砺市では2013年に「エコビレッジ構想」を策定し、新しい暮らし方や地域の資源を生かした「地域の自立」を目指して取り組んできました。エコビレッジ構想では、「小さな循環による地域デザイン」を掲げ、再生可能エネルギーや農林業の再生、商工観光業、次世代の育成などを包括した取り組みを行っています。

加藤さん:

その後、SDGsの達成に向けた取り組みが始まる中で、エコビレッジ構想とSDGsが同じ方向性であることに気づいたんです。そこで、エコビレッジ構想のセカンドステージとして、SDGsの視点を取り入れればいいのではないか、となったのが始まりです。

木質ペレットの製造、流通で地元の地域資源を有効活用

-では、土台となっているエコビレッジ構想の具体的な取り組みを教えてください。

加藤さん:

南砺市は面積の約8割が森林であり、この資源を有効活用した木質ペレットの製造と流通を展開しています。地域の森林資源を市内で使って、地元で資源とエネルギー、また経済を回していこうという取り組みです。木質ペレットは再生可能エネルギーなので、地球温暖化対策にもなります。

南砺市では、まず病院や温泉施設などの公共施設にペレットボイラーを導入する需要計画を作りました。そして、「南砺市内でこれだけ需要があるので、地域で木質ペレットを作れませんか」と、地元の製材所や林業、建築業の方に集まってもらって協議したんです。今では賛同を得た皆様から出資してもらい、組合を作って木質ペレットや薪を製造しています。

-生産するだけではなく、地域内で資源が循環するような仕組みを作ったんですね!南砺市で元々林業は盛んだったんでしょうか?

加藤さん:

林業はそこまでですが、富山県はかつて港から輸入材が入ってきて、国内に卸す産業が盛んでした。その関係もあり、製材屋さんや建築業者は多いんです。

-そのような業者さん達と一緒に、新しい木材産業である木質ペレット事業に取り組んできたんですね!

南砺市の具体的な取り組み

-続いては未来都市について伺います。
2019年にSDGs未来都市に選定された南砺市ですが、具体的な取り組みを教えてください。

加藤さん:

SDGsの枠組みである「経済・社会・環境」の3つの側面から、様々な取り組みを進めています。また、3つの面をつないだ統合的な取り組みを展開していて、例えば市民ファンドの創出として、新たに「南砺幸せ未来基金」の取り組みを始めました。

1.南砺幸せ未来基金

-南砺幸せ未来基金とはどのような組織で、どのような取り組みをしていますか?

加藤さん:

南砺市内を活動範囲とする「コミュニティ財団」で、地域が行う課題解決に向けた取り組みへの伴走支援や、地域内資金循環の調査・研究などを行っています。

プロジェクトの一つである「頑張る人・地域応援事業」では、暮らしを支える事業や森里川海のつながりを保全する事業、子ども・若者を支える事業など、7つのテーマを設け、このテーマに沿った活動をしている個人や団体に対し、30万円を上限に助成をしています。毎年春と秋の募集によりこれまで4回実施し、年間約180万円、2年間で約360万円を支援してきました。

-この取り組みを始めたきっかけを教えてください。

加藤さん:

南砺市は過疎集落を含んだ小さな町村が合併してできたまちという背景もあり、昔は地域でできていたことが、人口減少や少子高齢化によりできなくなったことも多くなってきました。新たな地域課題が様々な分野で出てくる中で、行政では細かい課題まで手が届かないこともありました。そこで、行政一人ひとりが自分ごととして地域づくりの主体となる新たな住民自治組織と、それを資金面で支えるためにできたのが「南砺幸せ未来基金」です。

民間から寄付金という形で資金を調達して、2019年に財団法人として立ち上げ、同年12月に公益法人として設立されました。300名近い方から寄付していただいたんです。

-本当に困っている市民を見逃さず、行政が支援しにくい隙間の部分を援助しているんですね。

加藤さん:

はい。他に休眠預金等を活用した助成も行っており、ここでは「社会的困難者を支えるローカルアクション」を掲げています。不登校や引きこもり、孤立する産前産後の女性、経済困窮者など、日々の暮らしの中で生きづらさを抱えている社会的困窮者を支援する団体に資金援助をしています。こちらは2020年度に、4団体、合計約2,900万円の支援をしました。

-まさに社会と経済を統合した取り組みですね!

2.なんとSDGsボードゲーム

-SDGs普及啓発のために行っている活動はありますか?

加藤さん:

SDGsを市民にわかりやすく伝えるために、富山県立大学の学生団体「COCOS」と一緒に「なんとSDGsボードゲーム」を作りました。「SDGsという言葉を聞いただけで抵抗感を感じてしまう」という市民の声もあり、「SDGsを知る入口として南砺の要素を入れたゲームのようなものを使えば親しみやすいのではないか」と考え開発されたんです。

-ゲームなら楽しく取り組めそうですね!

加藤さん:

そうですね。すごろく形式のゲームで、各マス目には南砺市のSDGsに関する取り組みや事例が書かれていて、お金や人材などの資源チップが獲得できます。それをもとに南砺市に関するプロジェクトを実行していき、ポイントが一番多い人が勝ちという内容になっています。

-どのような場所で使われているんでしょうか?

加藤さん:

市が行っているSDGs出前講座がありますが、講義形式だけではなく、ゲームを使って楽しく学べるようにこの「なんとSDGsボードゲーム」を使っていただいています。また、市内の団体、学校などに無料で貸し出しています。

加藤さん:

実はリリースしたときに全国ニュースで取り上げられて、県外からも「やってみたい」と反響があったんです。そこで、南砺市のホームページから誰でもダウンロードできるようにもなっていますので、よかったら見てくださいね。

市民のSDGs認知度は上がっている

-これまで様々な取り組みをご紹介いただきましたが、その効果は感じられていますか?

加藤さん:

エコビレッジ構想は他地域に先駆けてやってきた自負がありますが、市民が自主的に協力し合って課題解決に取り組む「顔の見える地域」になってきたと思います。地域のそれぞれの個性や強みが出てきて、市民も地域に愛着を持っているのを感じます。

実は行政ががんばればがんばるほど、地域の個性がなくなる危険性もあるんです。しかし、南砺市では行政と市民が協働して取り組んできたので、その心配はなさそうです。

-市民の主体性も大事にされてるんですね。SDGsについてはいかがでしょうか?

加藤さん:

市民の認知度は着実に上がっていると感じています。2021年4~12月に行ったSDGs出前講座では、およそ50団体、2,000人に受講いただきました。人口5万人の南砺市で、これだけの人数に参加いただいたのは多いのではないかと思っています。

加藤さん:

また、2021年の総合計画市民意識調査で「SDGsを知っていますか?」という質問に7割を超える市民が知っていると回答しました。これは全国平均よりも高いものです。

また、小中学校で出前授業をしていることもあり、最近ではほとんどの子どもがSDGsを知っています。意識調査は18歳以上が対象だったので、子どもを含むとSDGs認知度はより高くなるでしょうね。

より暮らしやすいまちづくりへ

-最後に、今後の展望を教えてください。

加藤さん:

南砺市では、2020年4月から「第2次南砺市総合計画」に取り組んでいます。「誰ひとり取り残さない誰もが笑顔で暮らし続けられるまちへ」という将来像を目標に掲げ、教育や子育ての充実、幸福度の向上、暮らしやすいまちづくりなどを目指しています。この中に地域資源の活用やSDGsも含まれています。市民がより暮らしやすく、そして持続可能なまちになるよう今後も取り組んでいきます。

加藤さん:

また、SDGsの認知度は上昇しているものの、具体的に何をしたらいいのかわからないという人もいます。今後は、普及啓発活動を続けるとともに、「知る」ことから何ができるかを「考え」、具体的な「行動」に移せるよう促していきたいですね。

-知ることからさらに一段ステップアップし、みんなが行動できるようにするんですね。

加藤さん:

はい。「身近な取り組みが世界的な目標につながっているんだよ」と呼びかけていきたいですね。一人ひとりが身のまわりでできることを考えて行動できるよう、これからも市としてできることに取り組んでいきます。

-本日はありがとうございました。

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