#インタビュー

株式会社リングスター|創業137年の企業として、プラスチックとの正しい向き合い方を伝えるために

株式会社リングスター

株式会社リングスター 唐金祐太さん インタビュー

唐金 祐太

1988年生まれ。2009年にアトツギとして株式会社リングスターに入社。2020年にアウトドアブランド「Starke-R(スタークアール)」を立ち上げ、クラウドファンディングでサポーター3千人から2500万円を集める。老舗の技術で実現した耐久力と「収納」の汎用性を活かし、幅広いコラボレーションを展開。長崎県対馬市に漂着した海洋プラスチックゴミを耐久消費財として製品化・販売し、啓発及びCSR活動を行っている。

introduction

オーシャンプラスチックは世界的に大きな課題の一つであり、海に漂流し続けているプラスチックごみは1億5,000万トンと言われています。

創業137年の歴史を持つ工具箱メーカー、株式会社リングスターは、長崎対馬市の海洋ごみ問題を目の当たりにし、少しでも地域の力になるために「対馬オーシャンプラスチック」プロジェクトを開始しました。

また、マーケティング戦略としてのSDGsに疑問を唱え、プラスチック製品との正しい向き合い方を発信することで、消費者が正しく商品を選べる世界を目指しています。

今回、取締役の唐金さんに、事業内容とSDGsに対する想いについて伺いました。

創業137年、工具箱という名前の信頼を提供し続けてきた

–始めに株式会社リングスターのご紹介をお願いいたします。

唐金さん:

弊社は明治20年に「唐金木材工業所」として創業し、今年で137年になる工具箱メーカーです。

当時は大阪の瓦町で木材加工業をやっていましたが、2代目が木製工具箱の製造を始め、そこから100年、丈夫な工具箱を作り続けています。

30年ほど前からプラスチック製工具箱の製造販売をスタートさせ、現在では釣り具やアウトドアの収納ボックスに事業を拡大しています。

弊社の工具箱の大きな特徴は、20年以上も使い続けられる耐久性です。

そのため、職人さんに「リングスターの工具箱は安心して使える」と思ってもらえる、その信頼を提供している企業だとも思っています。

(工具箱の歴史)

今の社名である株式会社リングスターは、4代目の時に変更されたものです。

リングスターという社名には、弊社に関わる全ての人たちが手取り合い、輪になって星を見上げる世界を実現する、という意味が込められています。

市場にはないモノを、圧倒的な強度で生み出す

–御社の事業にかける想いを教えてください。

唐金さん:

私たちの中に根付いているものの一つに、市場に今までなかったモノを生み出す、というこだわりがあります。

今の時代はすでに市場にあるものをより安くしたり、改善したりしてモノを販売していくのが主流だと感じています。

そうではなくて、ユーザーさんがまだ気づいていない事を課題として明示し、市場を育てていく。これが私たちが大事にしてきたことです。

もうひとつ、製品の強度にはこだわりを持っています。

職人さんが安心して現場で使用できるために、彼らの信頼に応えられるために、強度を追及し続けてきました。

例えば、他社製品で耐荷重100Kgであれば、うちでは800Kgというように、突き抜けたものを製造しているんです。

さらに、結果的に製品を長く使ってもらえると、サステナブルやSDGsの本質的な意味にも貢献できるのかなと考えています。

–続いては、御社の製品について教えてください

唐金さん:

現在の事業展開としては、ツールボックス(工具箱)、フィッシングボックス(釣具箱)、キャンピングボックスです。

その中でもリングスターの代名詞とも言える製品、「スーパーボックス」は工具箱としての究極を突き詰めた最もシンプルな箱です。

これは4代目と5代目が2年の歳月をかけて作り上げたプラスチック製工具箱で、シンプルな作りかつ、圧倒的な強度で開発時から形を変えず、今も主力製品の一つとなっています。

(スーパーボックスシリーズ)
(スーバーバスケットシリーズ)

もう一つご紹介したいのは、「スーパーバスケット」です。

これは元々、「職人さんが工具箱として次に求めるものはなんだろう?」と模索していた時に開発された製品です。

大きな声では言えないんですが、実は昔、職人さんが現場から現場へ移動する際、工具を運んで取り出すのに便利だということで、スーパーの買い物かごを無断で持ってきていたらしいんです。

そこに目を付けて、リングスターの強度で製品開発をしたのが「スーパーバスケット」です。

この製品こそまさに、市場にないモノを生み出した製品の例ですね。

開発当時は社員から大きな反対がありましたが、今では職人さんなら一つは持ってるくらいのベストセラーになりました。

企業が目を背けていたオーシャンプラスチック問題

–ここからは「対馬オーシャンプラスチック」について教えてください。

唐金さん:

2022年9月に、登山アプリ・Webサービスの「YAMAP」さんと、日本で最も海洋漂着物の多い島である長崎県対馬市の協力で、「海洋ゴミ」と向き合うプロジェクトが立ち上がりました。

そこに弊社も参加させていただき、私たちの持つ歴史や技術の中でどうしたら対馬市の力になれるのかを考え、開発したのが「対馬オーシャンプラスチックシリーズ」です。
この製品は、海から流れ着いたプラスチックゴミを指す、オーシャンプラスチック(OP)※を10%配合した製品です。この商品の製造販売を続けていくことで、OPが対馬から無くなる可能性が見えてきます。

OPはOBP※に比べて、漂流時に紫外線の影響を受けていたり、汚れがあったりと、リサイクルコストが高くなります。また、リサイクルした後の製品強度にも影響を及ぼすため、OPと向き合う企業は多くありません。

そこで、長年職人さんたちの信頼に応えるため、製品の強度と向き合い続けてきた弊社であればOPの課題をクリアできると考えました。

オーシャンプラスチック(OP)

海に漂流している、または海から漂着したことが証明できるプラスチックのこと。

オーシャンバウンドプラスチック(OBP)

岸から約50km以内の内陸部に廃棄されているプラスチックのこと。海へ流出してOPとなる可能性を孕んでいる。

弊社の培ってきた技術と信頼によって開発された「対馬オーシャンプラスチックシリーズ」は、従来の製品と変わらない耐荷重数値を実現しており、安心してご使用いただけます。

(対馬オーシャンプラスチックシリーズ)
(荷重テストの様子)

また、このプロジェクトは対馬市の皆様の力になりたいという想いでスタートしましたが、私たちはSDGsとプラスチックとの正しい向き合い方について考え続けています。

SDGsとどう向き合っていくか、「正しく選ぶ、正しく捨てる、正しく向き合う」

–御社が考えるSDGsについて教えてください。

唐金さん:

私たちは、最近のSDGsという言葉の使われ方に疑問を感じていました。

SDGsの本質は「誰一人取り残さない世界の実現」です。でも、言葉だけが先歩きしてしまって、企業も消費者も正しくSDGsを理解できていないんじゃないかと…

特に最近では、マーケティングとしてSDGsが使われている気がしてなりません。それは社会に胸を張れる選択なのか、という疑問が強くあるんです。

弊社では、長く使っていただけるプラスチックとして、耐久性に優れた高品質の製品を販売するということを以前から決めていました。

これはSDGs施策として行うわけではなく、私たちがユーザーさんのために行ってきたこだわりや歴史が、そのままSDGsの本質に合致していると考えているからです。

私達は脱プラスチックを掲げるのではなく、正しいプラスチックとの向き合い方を伝えたいと考えています。

世の中には安くて便利なものが溢れていますが、消費者として購入したモノに責任を持つこと、例えば、使われている素材や廃棄の仕方を考えて購入することを大事にしてほしい。

消費者が正しい知識でモノを選び、使い、捨てること。

これを「正しく選ぶ、正しく捨てる、正しく向き合う」というゴールとして、私たちの事業の一つの目標に設定しています。

–このゴールを設定したことで、社内でも意識改革はあったのでしょうか?

唐金さん:

対馬オーシャンプラスチックシリーズが始まってから、弊社の物流センターでペットボトルの分別・ラベル剥がし・すすぎ作業がスタートしました。

事業所でこの作業をやるとなると、時間もコストも思ったより必要になるじゃないですか。

それでも物流センターの主任が、小さいことから変えていこうという思いで、始めたんです。

私は小さな変化が、会社全体や世の中に影響していくと思っているので、この出来事がとても大きい事だと感じています。

SDGsや世の中のためになるような事業って、会社の直接的な利益になりづらいので、社内でも理解を得るのが難しいんです。

でも、弊社は100年以上続いてきた企業だからこそ、次の100年に向けた行動を取るべきだと思っています。次の世代が、私たちのことを誇ってくれるような仕事をしたいと。

この想いは社員のみんなにも常に伝え続けているので、小さな変化でも社員の意識が変わってきているのはとても嬉しいです。

(ロジスティクスセンター)

消費者が正しく商品と向き合える世界へ

–今後の展望を教えてください。

唐金さん:

今回の対馬市のプロジェクトは、今後も継続して、具体的な成果として対馬市に貢献していくつもりです。

また、対馬市に加えて、弊社の工場がある奈良県生駒市、この2市と我々リングスターで今後子どもたちに対してどんな活動ができるかを検討しています。

具体的には、紙芝居を使った出張授業や工場見学などで、子どもたちがオーシャンプラスチックの課題や、社会問題に対して考えるきっかけになりたいと思っています。

そして私たちの目標は、消費者が正しく商品と向き合う世界を実現することです。

しかし、この情報過多の社会で消費者が自分の頭で信念をもって、商品を選択することは、すぐにできることではありません。

今までは大量生産でモノを安く販売する業態が世界的な流行だったこともあり、少しずつ変わっていくしかないと思っています。

弊社としては今後も、対馬OPのようなプロジェクトの展開やブランドコラボレーションで、消費者へ発信を続けていく予定です。

また、国内外問わず、展示会や公の場で私たちのプラスチックとの向き合い方を伝えて、堂々と議論をしていきたいと考えています。

(フランス展示会の様子)

–株式会社リングスターのSDGsに対する想い、そして次の100年に向けたお話にとても勉強させていただきました。本日は貴重なお話をありがとうございました。