日本サニパック株式会社 代表取締役社長 井上充治さん 経営企画部本部 日高真由美さん インタビュー
introduction
レジ袋が有料化されるなど脱プラの動きが加速しつつある昨今、プラスチック製のゴミ袋を作る会社と聞くと、ネガティブなイメージを持つ方もおられるかもしれません。その中で、日本サニパック株式会社は、徹底的に消費者に寄り添った戦略と地元を大切にした共創活動で、ゴミ袋メーカーならではの明るい未来を描いています。今回、その取り組みと今後の展望についてお話を伺いました。
反プラの時代を生き抜くプラスチックメーカーの、覚悟を決めた方針転換
–まずは、日本サニパック株式会社の事業内容や、理念について教えてください。
井上さん:
日本サニパック株式会社(以下日本サニパック)は、1970年に創業したゴミ袋・食品保存袋のメーカーです。1991年にはインドネシアのバタム島に製造子会社を設立しました。また原料調達や製品の輸出関連業務を担う拠点としてシンガポールにも支店があります。2005年には長年取引のあった伊藤忠グループに入り、現在は伊藤忠商事の100%子会社となっています。
そして創立50周年を迎えた2020年、企業理念を一新しました。「きれいな地球と、きれいな心を。」というスローガンの元、「世界と手を取り合って、地球を美しくする。」というビジョンを、また清潔で快適に暮らすためのソーシャルインフラとして、環境品質の高い製品づくりと環境意識を高める共創活動に取り組むことを謳っています。また、併せて具体的な中長期目標を掲げました。2030年までにプラスチック使用量を半減させて、CO₂排出量40%削減を実現すること、全商品を環境配慮型の商品に転換し、SDGsの考えに基づいたビジネスモデルに進化させること。この目標を公言したことで、きれいな言葉を並べた企業理念に、魂を込めることになりました。
企業理念を一新したことには時代背景があります。2017年頃から環境問題への関心の高まりとともに、特にプラスチック製品に対して厳しい視線が向けられるようになりました。レジ袋の有料化など反プラスチックの動きが強まると同時に、弊社のビジネスモデルが陳腐化してきたという側面もあり、将来に不安を抱いていました。このままでは会社の未来が暗いのは明確でしたから、会社の在り方を社内で徹底的に話し合うことにしました。おそらく2年位かかったと思いますが、その結果、プラスチック製品を扱う企業として生き残るために、競争よりもまず会社の存在意義を世間に認めてもらう必要があるという結論に至ったのです。これが新しい企業理念の礎になりました。
この企業理念を基に開発されたのが、2021年から販売開始している環境配慮型のゴミ袋「nocoo(ノクー)」です。
次世代型ビジネスモデルへの転機となった新商品「nocoo」
–「nocoo」について教えてください。
井上さん:
nocooは原料に天然ライムストーン(石灰石)を使用することにより、プラスチック使用量を約20%抑制したゴミ袋です。プラスチックは焼却時にCO₂を排出します。その中で、日常生活のゴミ出しにnocooのゴミ袋を使うことで、焼却時のCO₂排出量を約20%削減できることになります。
商品化のプロセスでこだわった点がいくつかあるので紹介します。まずはネーミングです。環境問題に関する消費者調査をしたところ、CO₂削減への関心が最も高いことが分かりました(※)。そこで消費者感覚に寄り添い、プラスチック問題ではなくCO₂削減をテーマにしたネーミングに絞りました。その結果「NO CO₂」をもじった「nocoo」という親しみやすいネーミングが生まれ、商品の普及に貢献しています。
※「株式会社アスマーク調べ 期間:2020年10月1日(木)~10月23日(金) n=148」
次にこだわった点は価格です。環境に良いものは高くても売れるかというと、残念ながらゴミ袋についてはこれまで厳しい現状がありました。そこで従来品と同じ価格で環境に良い製品をつくるという戦略を立てました。実は国内でも天然ライムストーンは採れますが、より良質で安価な天然ライムストーンを使用するため、弊社ではわざわざヨーロッパから取り寄せています。この良質な原材料と独自の製造技術により、従来品と同じ価格でありながら機能面にも優れたゴミ袋を作ることができました。
このようにnocooは、社会的な価値と機能的な価値を併せ持つゴミ袋として誕生しました。とはいえ、モノには情緒的な価値というものもあります。例えば高級バッグを持つことによる優越感がそれにあたりますが、残念ながら従来の地味なゴミ袋では、情緒的な価値を実現することができませんでした。その中で、nocooは渋谷区の推奨袋に採用され、芦屋市や西宮市などでは自治体の指定袋にも採用されました。同時に、各自治体が花柄や街の模様などゴミ問題への想いを表現した印刷も施したんです。また、バスのラッピングや駅前広告も実施しました。このような動きによってnocooの知名度は爆発的に上がり、情緒的な価値を持たせることにも成功しました。
今ではnocooの販路は全47都道府県に広がり、160社以上の小売り企業様で販売されるまでになりました。ドラッグストアやスーパーにおける環境配慮型のゴミ袋の中で、nocooの販売量は他社を圧倒しています。
–なぜそこまでnocooが広く浸透したのでしょうか。
井上さん:
私たちはブランド戦略にも力を入れました。ゴミと一緒に燃やしてしまうゴミ袋をブランド化するなんて、本当にできるのか正直不安でした。弊社の力だけでは限界がありましたから、家庭用品の最大手企業からマーケティングのトップ人材をヘッドハンティングすることにしました。正直これはかなりの挑戦でしたが、なんと成功してしまったのです。このようなチャレンジもあり、ブランド化戦略には4年を要しましたが、お陰で弊社のXのフォロワーは15万7千人にもなり、この戦略はかなりうまくいったと思っています。
この成功により、今では小学校での探求授業など広がりを見せています。
小学生の想いを乗せたオリジナルnocooの商品化物語
–ここからは、小学校における取り組みについて教えてください。
日高さん:
渋谷区の小中学校には、「シブヤ未来科」という探求学習の授業があり、地域の一般企業やNPO、ボランティアなどに取り組む大人を講師に招いて勉強します。
2023年、「臨川小学校で環境に関する授業をしませんか」と弊社に声がかかりました。そこで5年生を対象に、1時間目はnocooをツールに環境問題に関する授業を行い、2時間目には児童にゴミ袋のデザインを制作してもらいました。企業の社長による授業ということで、最初は児童たちと距離感がありましたが、CO₂の排出量を約20%も削減するということが心を捉えたこともあり、すぐに打ち解けて活発な意見を交わすことができました。渋谷区のゴミ問題をどう解決するのか真剣に考える子どもたちからは、大人になったらサニパックの社員になりたいという声まで聞かれ、大変頼もしく思いました。
井上さん:
予定では弊社の取り組みはゴミ袋の製品化で終わるはずでした。ところが先生からの「児童の想いを世界に向けて発信してほしい」という強い要望や、子どもたちの想定以上の熱意に押され、次第に弊社社員も「これは実際に商品化して店頭で販売するべきだ」と思うようになりました。コスト面の心配がありましたが、「想いは発信するべきだ」と私もゴーサインを出して、ついに商品化に踏み切ることになりました。そして数か月後、完成したゴミ袋を小学校で披露しました。また、地域のドラッグストアでも実際に販売されることをサプライズで伝えると、児童たちは目を輝かせて大喜び。その姿を見て、商品化してよかったなと心から思いました。そしてこの活動はフジテレビ「めざましテレビ」のオープニングや、テレビ朝日、地元の新聞やラジオなどで大きく取り上げられました。本当に子どもたちの想いが全国に発信された、とても素晴らしい授業となりました。
この取り組みはこれで終わりではありません。数カ月たち、6年生になった児童たちから、「今度は自分たちが作ったゴミ袋を販売する会社をつくりたい」と再度授業の依頼がありました。そこで弊社は、会社の仕組みについての授業をしました。半年の間に知能面も随分成長した児童からは「利益は会社のミッションに合致した活動に使うべきだ」と意見が出たり、原価を見事に当てて適当な仕入価格を提案されたりと、レベルの高さにこちらが驚いてしまうこともありました。また、売上を立てる前に仕入が必要だと気付いた児童たちは、PTAにプレゼンをし、4万円を借りることができました。こうして地元商店街のイベントブースにて、児童自らオリジナルのnocooを販売しました。この一連の取り組みにより、児童は環境問題だけではなく、ビジネスを体験することができたんです。
会社の未来を拓く共創活動のキーワードは「地元」と「子ども」
–小学校の取り組みを例に、日本サニパックが共創活動を進める意義を教えてください。
井上さん:
既に述べたように、会社の存在を認めてもらうことが弊社にとって不可欠です。そのためには地元に愛される会社であること、未来を担う子どもたちと弊社の想いを共有することが非常に重要です。確かに臨川小学校での活動は、会社運営の観点からは遠回りな活動に思えるかもしれません。しかし、地元の子どもたちが「nocoo最強!」なんて言ってくれるのは嬉しいですよ。これは、10歳の子どもたちにも分かる言葉で我々が授業できたからだと思います。実はこのことがマーケティングにおいてもとても大切なんです。10歳の子どもが理解できる言葉は20歳の大人にも伝わるはずです。ですから私は基本的に10歳の子どもでも分かる言葉で想いを発信し続けたいと考えています。
–最後に今後の展望について教えてください。
井上さん:
日本の人口がどんどん減少していくことは明らかです。企業として成長し続けるためにも、スローガンのとおり世界と手を取り合って地球を美しくするためにも、海外での販売を強化したいと思っています。そこで2025年以降は北米や東南アジア、中近東まで販路を拡大していきます。また、インドネシアでマングローブの植樹をするなど、工場以外の場所でもCO₂削減のための活動に注力します。他にも「北渋フェスティバル」など複数の地元イベントへの協賛や、大学の学園祭や渋谷ハロウィン、地元サッカークラブへのゴミ袋の提供など、社会貢献活動にも積極的に取り組んでいきたいと思っています。
–燃やしてしまうのだからゴミ袋なら何でも良いと正直思っていましたが、nocooに情熱を燃やす日本サニパックの取り組みに感銘しました。私の情緒をしっかり掴んだnocooは今後我が家のキッチンに常駐すること間違いありません。この度はありがとうございました。