株式会社 船場 インタビュー
商業施設をはじめオフィスや教育、ヘルスケア、余暇施設等の様々な空間づくりにおいて、調査・企画・デザイン・設計・施工・メンテナンスまでをトータルでサポートしています。2021年よりビジョンに「Good Ethical Company」、ミッションに「未来にやさしい空間を」を掲げています。人や地域社会、自然環境へ“おもいやり”の視点を持ち、サプライチェーン全体で未来にやさしい空間の共創を目指すエシカルデザインを推進しています。
introduction
株式会社船場は、商業施設の内装設計施工を主軸としながら、近年ではオフィスやグランピング施設など、多様な空間づくりに携わっています。
2021年からは「未来にやさしい空間を」というミッションを掲げ、エシカルデザインを推進してきました。
今回は、同社のPR部担当者に、持続可能な社会の実現に向けた取り組みについてお話を伺いました。
未来を見据えた空間のトータルデザインを
–まずは御社のご紹介をお願いします。
船場:
当社は創業時、陳列ケースを扱う会社としてスタートしました。そこから店舗の内装や外装を手がけるようになり、主に商業施設の内装設計施工を行ってきました。近年では事業領域を拡大し、オフィス、グランピング施設、図書館、教育関連施設など、多様な空間づくりを手がけています。
私たちの強みは、空間づくりを一貫してサポートできる点です。調査・企画という空間の初期構想から、デザイン設計、製作施工、そして開業後の保守・メンテナンスまで、トータルで空間演出を行っています。
–空間デザインを行う中で、なぜ現在のようにエシカルデザインに注力するようになったのでしょうか?
船場:
ショッピングモールなどの商業空間では改装のペースが速く、5〜6年で改装することが一般的です。これには、目新しさを演出したり、新たなブランディングを行うことで売り上げ増加を狙う目的があることに加え、テナントの契約満了に伴い短期間のサイクルで更新されるという理由もあります。
相当に売り上げが好調な場合をのぞいて、契約更新のタイミングで店舗を入れ替えるのが一般的なビジネスモデルになっているんです。
そして、そうした改装の際は、まだ十分に使える設備や素材が廃棄されてしまうことになります。当社は、これまでの空間づくりで行われてきた環境に負荷をかける手法に違和感を覚え、倫理的に正しいモノづくりを目指すべきだと考えるようになり、企業改革のテーマとして「エシカルとデジタル」を据え、2021年から「Good Ethical Company」というビジョンと、「未来にやさしい空間を」というミッションを掲げて活動するようになりました。
これまで人が過ごしやすい空間づくりをしてきた経験を活かし、その配慮や思いやりの姿勢を地域や自然環境にまで広げていこうという思いで、業界に先駆けてエシカルデザインに挑戦しています。
サーキュラーエコノミーを支える3つの柱
–具体的にはどのような手法でエシカルデザインを取り入れているのですか?
船場:
私たちは、サーキュラーエコノミーという枠組みの中で事業を行っています。
ここでのサーキュラーエコノミーの枠組みとは、「リシンク」「リターン」「リユース」「リサイクル」「リセレクト」「リデザイン」「リノベーション」という7つのステップで、循環を前提とした空間づくりを推進することです。
そしてその枠組みの中で取り組みとして行っているのが、船場のエシカルデザインを支える3つの柱「ゼロウェイスト」「アップサイクル(リプロダクト)」「エシカルマテリアル」です。
–3つの軸は、それぞれどのような役割を果たしているのでしょうか?
船場:
まずゼロウェイストは「作るだけでなく、使う・捨てるまで責任を持つ」という考え方に基づき、設計・施工の過程で出る内装工事の現場での廃棄物の分別・削減を行っています。
従来、内装工事の現場では廃棄物の分別があまり行われておらず、その先のリサイクル状況も把握していないことが多かったんです。
リサイクルするためには素材ごとに分別する必要があります。しかし、内装工事の解体現場から出る廃棄物は品目が多く、分別が困難な混合廃棄物も多いため、中間処分場での分別にかかる労力も大きくなり、リサイクルできる素材が埋め立て処分されることも少なくありません。船場では、2021年から、「現場分別重点8品目」を設定し、廃棄物をリサイクル可能な状態まで分別して排出する取り組みを始めました。現場で出た廃棄物量のうち、マニフェストの排出品目ごとに分別した割合を「一次リサイクル率」と定義し、現在は船場が施工を請け負った全案件で分別を実現し、リサイクル率の平均も94%まで上がっています。
–そのような取り組みをされる際に、クライアントから反対意見などなかったのでしょうか?
船場:
クライアントも工事現場での廃棄量の多さに問題意識を持っていた方が多く、ご理解いただくことができました。
むしろ、メディアに取り上げていただいたことで内装業界でも先駆的な取り組みとして注目され、クライアントからお声かけいただいてご依頼を受けるケースも増えてきています。
例えば、KISARAZU CONCEPT STOREでは、最終的な廃棄物のリサイクル状況までトレーサビリティを確保し、リサイクル率100%を達成しました。この施設自体がサステナビリティをテーマにしているため、空間づくりでもその手法を取り入れたいという要望で当社にご依頼をいただきました。
–アップサイクルについてはいかがですか?
船場:
アップサイクルは、資源を循環させるものづくりを目指す取り組みです。使い終えた廃棄物を新たな資源として活用し、使用後もリサイクル可能な素材と組み合わせてデザインしています。
例えば、日本の森林の7割を占める天然林の多くが広葉樹林ですが、これらは家具材としてあまり使われず、多くがチップとして取引されています。そこで、家具に使いづらい枝分かれの部分や根っこ、曲がった細い木などを繋ぎ合わせてテーブルを作るなど、新しい価値を生み出しています。
2023年には、広葉樹の木材とキッチンカウンターの製造工程で出る端材を活用した机の製品化を実現しました。この机は、教育空間向けに開発した形状を基に、シンクの端材を活用できるよう微調整を加えたものです。
従来の設計方法では、デザインを先に考えてから素材を探すという順序でした。しかし、船場は、地域や産業の課題を解決するために、どういう素材でどんな家具が作れるかを考えるという逆向きのアプローチでアップサイクルや空間づくりに取り組んでいます。
そのため、実際に森林に行ったり、丸太の流通拠点を訪れたりして、余っている木材を探すなど、これまでとは異なるアプローチで取り組んでいます。例えば、熊が爪を研いで傷ついた木材が余っているのを見つけ、それをどうデザインに活かすかを考えるといった具合です。
このような経緯で開発された商品も、展示会への貸出依頼や、実際に導入したいという引き合いが増えています。例えば、制服の展示会でサステナビリティの特集コーナーの家具として使用されたり、大丸京都店の屋上プロジェクトで地元の木材を活用したりするなど、反響をいただいています。
そしてこの「素材からデザインを考える」というアプローチがエシカルマテリアルです。
エシカルマテリアルとは、様々な建材メーカーが開発しているサステナブル素材を船場独自の視点で集約したものです。設計にサステナブル素材を取り入れやすくしようとしたのが始まりです。
例えば、壁紙を選ぶ際に、コストやデザインだけではなく、環境や人にやさしい素材を選りすぐった一覧から選べるようにしています。これにより、設計者がエシカルな選択をしやすい環境を整えています。
現場の予算によってはその一覧から素材を選択できないケースもありますが、このような取り組みを続けることによって、当初は担当者だけが熱心に取り組んでいたエシカルデザインも、社内共通の価値観として次第に浸透してきたのではないかと思っています。
船場の「エシカル」を世の中のスタンダードに
–最後に、今後の展望をお聞かせください。
船場:
私たちの目標は、船場のエシカルに対する考え方を世の中のスタンダードにしていくことです。エシカルデザインの活動の輪を広げ、分断されていた様々なサプライチェーンを繋ぎ、空間づくり全体でサーキュラーエコノミーを実現することを目指しています。
空間づくりのプロセス全体にエシカルの考え方を取り入れることで、持続可能な社会の実現に貢献したいと考えています。
そのために、毎年エシカルデザインウィークやフォーラムといったイベントを東京、大阪、福岡などで開催し、様々な共創パートナーと一緒に取り組みを発信しています。共感してくれる個人や企業を増やすことに注力しています。
–実際に成果は出てきているのでしょうか?
船場:
まだ検証途中ではありますが、現在は業界初の取り組みである石膏ボードの水平リサイクルの実証実験を進めています。
水平リサイクルとは、ペットボトルをペットボトルに再生するなど、同じ素材にリサイクルすることです。
内装工事で多用される石膏ボードは、再生利用する際に行われる「大型結晶化」に高い技術力が求められます。そのため、これまではリサイクルが難しい素材として認識されており、実際に10%程度しか原料として再利用されていませんでした。
そんな中、当社では、森ビルの施設で使用済みの石膏ボードを100%再生し、再び同ビルの施設で使用する取り組みを進めています。
今後もこの取り組みのように、エシカルデザインの理念を広げ、業界全体、そして社会全体で連携して持続可能な空間づくりを実現していきます。私たちの取り組みが、未来の標準になる日も、そう遠くないのではないでしょうか。
–今後のご活躍を楽しみにしています。本日は貴重なお話をありがとうございました。