#インタビュー

【SDGs未来都市】兵庫県西脇市|ダイバーシティとインクルージョン 牽引するのはSDGsを基軸とした都市経営

【SDGs未来都市】兵庫県西脇市

兵庫県西脇市 市長公室政策推進課課長 板場さん インタビュー

【SDGs未来都市】兵庫県西脇市

板場逸史(いたば いつし)

西脇市市長公室政策推進課長。西脇市出身。平成9年に西脇市に入庁し、福祉・環境部門を経て、市町合併事務を担当。平成17年の新市誕生後に企画部門で第1次総合計画の策定を担当し、商工観光・ふるさと納税部門を経て、令和5年から政策推進課に配属。SDGsの推進業務のほか交流人口の創出を通じた地域活性化に取り組んでいる。

introduction

日本列島の中心地「日本のへそ」がある市、兵庫県西脇市。

人口減少や都市縮小の課題がある中で、住みやすい、持続可能なまちづくりに取り組んでおり、全国紙の全国市区SDGs推進度調査では、人口5万人以下の自治体部門で、2回連続一位を獲得しています。

今回は、市長公室政策推進課課長の板場さんに、SDGsの取り組みや、まちづくり、展望などについて伺いました。

SDGsの取り組みはまちづくりの基軸

–まずはじめに、西脇市のご紹介をお願いします。

板場さん:

西脇市は、兵庫県のほぼ中央に位置する、人口約3万7千人のまちです。

県内最長の加古川が中央部を流れ、杉原川・野間川と合流する地点に開けた平野部にまちや農地が広がっています。

また、子午線東経135度と北緯35度が交差する、日本列島の中心地が市内にあるため、「日本のへそ」として、まちのPRを行なっています。

代表的な地場産業として、水が豊富な地域特性を生かした先染綿織物の「播州織」が挙げられます。他にも酒米「山田錦」やふるさと納税でも人気のある神戸ビーフの素牛「黒田庄和牛」などの特産物があり、農業、畜産業も盛んです。

–西脇市は2021年にSDGs未来都市に選定されましたが、目指すまちの未来像を実現するための取り組みで、SDGsはどのような位置づけになっているのでしょうか。

板場さん:

現在の西脇市の都市経営は、2019年に策定された「第2次西脇市総合計画」を指針とし、本市の都市像「人輝き 未来広がる 田園協奏都市」の実現に向け、計画期間中の将来像として「つながり はぐくみ 未来織りなす彩り豊かなまちにしわき」を目指しています。

そして、「第2次西脇市総合計画」は、SDGsを都市経営の基軸と位置付けています。

この総合計画を策定する前、2015年頃から、民間企業ではSDGsに関する理念を掲げ、取り組みを推進するようになりました。金融機関でもESG(環境・社会・ガバナンスに配慮した企業経営)を重視した企業への投資を推奨するような社会的流れがありました。また、国でも「SDGs未来都市」の選定が行われるようになりました。

その流れもあって、西脇市でも新しく策定する総合計画において、持続可能性を追求するためSDGsを位置付け、あわせて「SDGs未来都市」への応募も考えることにしました。

それは、市が進める主要事業がSDGsの取り組みと合致していたためでもあります。

「SDGs未来都市」へ応募する際、いちからSDGsの取り組みを考えたのではなく、総合計画として作られてきた施策をSDGsの17のゴールと、169のターゲットの視点から再整理し、みえる化した「SDGs推進計画」を2021年に策定しました。

人口減少や都市規模の縮小が避けられない中、この地域で暮らし続けている人に必要なのは、多様性や包摂性に基づいた持続可能なまちづくりであり、それを牽引するのがSDGsであると考えています。

SDGsを基軸にした総合計画で、市民・地域・企業や団体など様々なステークホルダーとともに、人々がお互いに支えあい、力を合わせて地域の未来を受け継いでいく人をはぐくむ思いを将来像に込めて取り組んでいます。

課題を見据えたうえで持続可能な心地よいまちづくりに取り組む

–人口の減少や都市規模の縮小という話しがありましたが、それが現在の課題でしょうか。

板場さん:

そうですね。人口減少は大きな課題です。

日本全体の人口が減少していく中で、この問題にどう向き合っていくのかは非常に難しいですね。

議会などで話しあっても、どうやって人口を増やすかという議論は、なかなか解決策は見つからないんです。もちろん人口を増やす、維持する施策には取り組んでいきますが、一方で人口を増やすことを前提にまちづくりを推進すると、過剰投資に終わるのではないかと考えました。

そこで、現在は人口が減少することを前提にして、西脇市に今住んでいる人、これから住みたいと思っている人が、いかに豊かに心地よく暮らせるまちをつくっていくかという考え方にシフトし、推進しています。

–では、「SDGs推進計画」について具体的なお話をお聞かせください。

板場さん:

「SDGs推進計画」では、「人と自然にやさしい循環型農業推進プロジェクト」をシンボルプロジェクトとしています。

産業資源である「黒田庄和牛」を起点とした「循環型農業」の取り組みを中核にし、農業人材の育成と誘致・農山村環境の保全・6次産業化・地産地消の推進などを展開するプロジェクトです。

具体的に説明しますね。

牛を育てると、当然排せつ物が出ますが、今までは産業廃棄物として処理していました。まずは、これを完熟有機堆肥として活用するために、市内に「土づくりセンター」という施設を新たに作りました。そこに牛の排せつ物を持ち込み、有機堆肥を作ります。

次に、この堆肥を農産物を育てるのに使ってもらい、安全安心な農産物としてブランド化し、市内に直売所などで販売する。

酒米の「山田錦」も西脇市の特産ですので、有機堆肥で育てた稲の藁も廃棄せずに牛の餌として与える。その藁を食べた牛が排せつ物をする。このようなサイクルの循環型農業に取り組んでいます。

また、今までは、「山田錦」を育てて酒の原料米を作るだけでしたが、「循環型農業」を推奨したことで、有名な酒造会社が西脇市に酒蔵を建ててくれましたので、6次産業化することができました。そして、酒蔵に酒造りを学ぶ学生が来て人材育成ができるなど、事業が拡大しています。

まちとひと 次世代に繋げて行くための取り組みを!

–では、「経済」「社会」「環境」各分野の取り組みについてお聞かせください。

板場さん:

まず、「経済」の分野は、「稼げる農業」を目指しています。そこで注目したのがイチゴです。

西脇市は山が多く、農地はそれほど広くありませんので、限られた場所で効率よく儲けられる農産物は何かを調査しました。その中で、イチゴはこれから需要が伸びることが見込まれ、いちご狩りなどは観光資源にもなりうると考えたんです。

そこで、イチゴ農家を育て、独立を支援する「スイーツファクトリー支援事業」に取り組んでいます。

市が整備したイチゴ栽培用のハウスで、苗の育て方から出荷、いちご狩りの受け入れなど生産から経営まで研修が受けられます。他にも住居や農地借入のあっせんなども行います。

もともと西脇市にはイチゴ農家は一軒しかありませんでした。その一軒の農家が、イチゴ栽培のノウハウを研修に提供してくれて、今では農家は12件まで増え、出荷量も大きく増えています。

もう一つ、地場産業である「播州織」にも力を入れています。

西脇市は、もともと織物の生地生産が盛んでしたが、円高や開発途上国での生産の増加などで、織物産業は全盛期の30分の1以下にまで落ち込んでいます。

そんな中、現市長が就任してから「生地産地からの脱却」を目指し、「西脇ファッション都市構想」を進めています。

というのも播州織は、もともと生地の受注生産が中心の産業でしたが、品質の高さから世界的なブランド等でも使われていたんです。しかし、素材産地のため、西脇市で作られたことは知られておらず、受注に生産が左右される。それで、生地の生産だけでなく、素材を生かしたデザインや企画から製造まで手掛けた最終製品の創出、ファッション分野の産業をのばすことを目指しています。

移住してきた方が立ち上げた「tamaki niime」というブランドは、播州織のスカーフやショールをはじめとしたファッション製品で有名ブランドになり、百貨店などでも取り扱われるようになった成功事例です。これに続くような人材を育成し、自社ブランドを育てていく支援をしています。

–「社会」の分野ではどのような取り組みをされていますか。

板場さん:

住民の健康寿命を伸ばすことを目的として、運動の習慣化や健康への関心を持ってもらう取り組み、スマートウェルネスシティ「健幸都市・にしわき」に取り組んでいます。

科学的根拠に基づき個人のレベルに合わせた運動メニューの提供や、歩いた歩数でポイントがもらえる「にしわき健幸ポイント事業」などの展開です。

ポイント事業は40歳以上の方対象ですが、応募いただいた方々に市から歩数計を貸し出し、歩数によって市内の店舗で使える商品券に引き換えできるポイントが付与される仕組みです。データは市で管理でき、これらの取り組みで、参加者の健康年齢が、平均約6歳若返ったというデータも出ています。

また、2021年の市庁舎のまちなか移転を機に、歩いて暮らせるまちづくり「コンパクトシティ」の取り組みを進めてきました。

人口が減少する中、西脇市の持続可能性を確保するために、都市機能をまちなかに集約し、都市を再構築するものです。

しかし、周辺部に住んでいる市民の生活の質も確保しなければなりません。そこで、デマンド型の交通システムを導入しました。

このシステムは1回200円で、市内どこからでもまちなかに向かって乗り合いタクシーが利用できるんです。

高齢者の利用が多いので、市民からの利用要請には電話で対応しています。行先など受けた情報をシステムに入力すると、AIが効率の良いルートなどをすべて自動で組んでくれます。この移動システムは、大変好評ですね。

《デマンド型交通システム》

–最後に「環境」の取り組みについてお聞かせください。

板場さん:

注力している取り組みの一つが、「新ゴミ処理施設」の整備です。

現在のごみ処理施設の老朽化に伴い、新しい施設の建設をしています。

基本方針は、「循環型社会の形成に寄与する施設」「周辺環境に優しい施設」「安全・安心な施設 」「住民から信頼される施設」「経済性・効率性に配慮した施設」の五つです。

ごみの処理量を出来るだけ減らし、環境にやさしいごみ処理場として、2026年の稼働を目指しています。

もう一つの取り組みは、森林環境を整備し、水源管理をしていくことです。

西脇市には、西日本で最大規模の面積を持つ「サントリー天然水の森 ひょうご西脇門柳山」があります。

天然水の森は、飲料メーカーのサントリーが良質な地下水の安全・安心と持続可能性を守るために、工場の水源エリアの森で、地域や専門家と共に、森林を保全・再生する取り組みです。

この取り組みにおいて西脇市は、企業と連携し森林環境を守ることを目指しています。

《サントリー天然水の森 ひょうご西脇門柳山》

SDGsの大きな目標を身近な取り組みにする

–今年度まで「SDGs推進計画」に取り組んできて、手応えは感じていますか。

板場さん:

はい。

特に、ICT(Information and Communication Technology)を活用した、健幸都市の取り組みなどは、参加者も増えてきて手ごたえを感じていますし、デマンド型交通システムも高齢者の移動手段を確保できたことは、大きな成果だと感じています。

そして、2020年から2年ごとに日本経済新聞社が実施している「全国市区SDGs推進度調査」で、人口5万人未満の自治体部門で、西脇市が2回連続一位になりました。

この調査は、全国の市区がSDGsの実現に向けた取り組みを、「経済」「社会」「環境」のバランスが取れた発展にどれだけ繋げているか評価するものです。

西脇市は特に、「社会」分野のスマートウェルネスシティの取り組みや、地域に拠点病院がある医療体制、デマンド型の交通システムなどが高く評価されています。

また、市役所の女性管理職の割合、男性の育休取得率なども高く、このようなところを評価されたのだと思います。

-では、市民の皆さんや職員の方々は、SDGsへの取り組みについて、どのように感じていらっしゃるのでしょうか。

板場さん:

市内の企業は温度差がありますね。

全く関心がない、関心はあるけれど何をしたらよいかわからないという企業もあります。

一方で、市のSDGsの取り組みを支援し、会社の取り組みをPRしたいという企業もあります。その企業とは連携し、企業版ふるさと納税による寄附金を活用し、子ども向けの啓発イベントを開催しました。

また、市庁舎のまちなか移転に伴いスタートした播州織の産地直売イベント「播博(播州織産地博覧会)」は、年々人気になり、今は1日で1万人が集まるイベントになっています。

このイベントで、今年はじめて、事業者のSDGsの取り組みを提示することを出展条件にしました。

事業者の皆さんには戸惑いもありましたが、「あなたの会社では、こんなことをしているのがSDGsですよ」と個別に根気よく相談に乗りました。それが、事業の方向性や消費者へのPRにつながるとわかってもらえ、意識の変化につながったと考えています。

このように取り組む企業もみられるようになり、少しずつではありますが市内でもSDGsの意識が浸透してきたと感じています。

そして職員ですが、研修なども随時行っていますがやはり意識づけが難しいですね。

その中で昨年から、ふるさと納税で納付された寄付金を活用した市の事業には、SDGsの視点から説明のできるものにしか当てないことにしました。自分の関わっている事業を再確認してもらい、SDGsの意識の浸透を図っています。

ふるさと納税のPRという面からは、西脇市のふるさと納税はすべてSDGsの取り組みに使われていると位置付けができています。

–最後に、これからどのように事業に取り組んでいくのか、展望をお聞かせください。

板場さん:

来年は、市町合併し西脇市が新たに誕生して20年となるので、各種記念事業を検討しています。

同時期、SDGsをテーマにした大阪・関西万博が開催されるので、この機会を利用してSDGsを実践する市民の行動変容につながるような事業を手掛けるのが大事ではないかと思います。

毎年行っている、まちづくり市民アンケートでは、SDGsを知っているという回答が、2020年は21%でしたが、2024年は75%になりました。認知度は大幅に伸びているので、これからは実際の行動に移す、それを皆で共有する環境や仕組みを整えるのが行政の務めだと考えています。

世界的にめちゃくちゃ大きく、壮大な目標であるSDGsの取り組みを、身近な取り組みにしていきたいと思います。

–西脇市発の取り組み、楽しみです。本日はありがとうございました。

関連サイト:

兵庫県西脇市公式サイト:https://www.city.nishiwaki.lg.jp/index.html

西脇市観光物産協会サイト:https://www.nishiwaki-kanko.jp/