#インタビュー

島村楽器|楽器アップサイクルインテリアで日常に彩りを!誰もが音楽を楽しめる社会をつくりたい

宇佐美 綾乃(うさみ あやの)
2018年に島村楽器株式会社に新入社員として入社。店舗従業員として3年間販売・接客を行った後、本社マーケティング部に異動。現在は広報課としてPR活動や自社オウンドメディア『HappyJam』の運営、SNS運用からCSR活動の一環として行っている楽器アップサイクルプロジェクトまで、幅広く島村楽器の認知拡大に努める活動をしている。

introduction

私たちの心を癒す楽器の音色、琴線に触れるメロディ。音楽は私たちの生活を豊かにしています。楽器販売やレッスンの提供を通じて、私たちの音楽シーンを支えているのが楽器メーカーや楽器専門店です。今回はSDGsに取り組む総合楽器店、島村楽器の宇佐美さんに話を伺いました。

楽器を日常に!アップサイクルインテリア

–早速ですが、島村楽器のサステナブルな取り組みについて教えてください。

宇佐美さん:弊社では「楽器アップサイクルプロジェクト」を展開しています。このプロジェクトは、本来耐用年数を過ぎてしまい廃棄されるはずのフルートやクラリネット、サックスなど、主に管楽器をスタンドライトやテーブルといったインテリア製品に生まれ変わらせます。

現在、「楽器が好き」「SDGsに関心がある」といったお客様にお求めいただいていて、例えばフルートに憧れを持つ方や実際に演奏されている方々が、フルートのアップサイクルインテリアを購入、というように、それぞれの音楽シーンに合った商品を購入されています。

そして、廃棄される楽器を減らすことに加えて、販売コストを除いた売上金を楽器購入資金にあて、国内外を問わず楽器演奏の機会を得にくい子どもたちに楽器を提供していきたいと考えております。

–なぜアップサイクルプロジェクトを始めたのでしょうか?

宇佐美さん:近年、企業に対して持続可能な開発が求められています。これを受けて、楽器店である当社も何かできないかと考えました。楽器は基本的には手入れをして長く使うものです。

つまり、楽器そのものがサステナブルなものと言えますが、価格帯によっては耐用年数の短いものがあったり、移動中に破損してしまったりと、廃棄される楽器があることも事実です。

昨今のSDGsの流れを鑑みて、弊社といたしましても廃棄楽器の問題に取り組まないといけないと感じました。

–アップサイクルインテリアはどのようにつくられていますか?

宇佐美さん:アップサイクルインテリアは、大阪でアップサイクル家具・インテリアの制作、販売を行っているupcycle interier様とのコラボレーション商品です。まず、弊社の修理工房で修理不能と判断された楽器や、、お付き合いのある小中学校の吹奏楽部などから使用できなくなった楽器を回収します。

集めた廃棄楽器をupcycle interier様に送り、検品とクリーニングを行います。この時、新品同様にピカピカに磨き上げるのではなく、サビやヘコミもなるべくそのままの状態。つまり、使用感を残すのがポイントです。これは「長年大切に使い込まれた証し」を残すためで、味わいのあるインテリアに仕上がります。

下準備が終わった楽器を、職人がスタンドライトやサイドテーブルなどのインテリアに生まれ変わらせます。楽器の形や大きさは様々ですので、スタンドライトであったり、サイドテーブルであったり、楽器の特徴を活かしてデザインしています。この商品から、実用性を重視しながらも、フォルムや佇まいにどこか「遊び心」を感じられるようにしていますね。

このインテリアを身近に置くことで「楽器の存在」を感じ、「物を大切にする」ことや「経年劣化の味わい」を楽しんでいただきたいと思っています。

–アップサイクルインテリアはどこで購入できますか?

宇佐美さん:島村楽器の「二子玉川ライズ・ショッピングセンター店(東京都世田谷区)」「ららぽーと豊洲店(東京都江東区)」「有明ガーデン店(東京都江東区)」「Wind & Repair(千葉県市川市)」で取り扱っています。また、当社のオンラインストアでもお求め頂けます。本商品は、廃棄楽器を使用する特性から大量生産は難しく、店舗ごとでラインナップが異なったり品薄になったりする可能性がありますので、各店舗に在庫状況をお問い合わせ頂けますと幸いです。

「楽器が足りない!」東日本大震災後に寄せられたSOS

–島村楽器がSDGsに取り組み始めたきっかけを教えてください。

宇佐美さん:当社のSDGs活動は、2011年の東日本大震災がきっかけでスタートしました。

震災により多くの小中学校や高校が被災し、楽器も流されたり破損したりしてしまったのです。例えば、宮城県石巻工業高等学校の校舎は津波で51cm浸水し、1階の音楽室が水に浸かりました。また、原発から6.5㎞圏内にある福島県立富岡養護学校では、立ち退きを余儀なくされ、楽器も校舎に置いて来ざるを得ませんでした。震災により多くの子どもたちが音楽活動をすることができなくなったのです。

楽器を専門とする弊社として何かできないものかと、宮城県・福島県などの、吹奏楽連盟に連絡を取りました。すると「リコーダーやピアニカなどは充足したけれど、部活で使用する管楽器が壊れて使えない」との回答が複数ありました。演奏の機会を奪われてしまった子どもたちのために、楽器を提供したいという思いから弊社は、楽器をを破損したり失ってしまった学校一校一校に直接伺い、状況をお聞きしました。その後、店頭で寄付金を募ったり、チャリティグッズを製作販売するなどして集まった募金でティンパニやシンバル、アコースティックギター、マリンバ、譜面台など様々な楽器や備品を仕入れて各校に寄贈しました。宮城県内5校、福島県内4校の計9校に対し、寄贈した楽器は237点です。

「被災者には楽器よりももっと必要なものがあるのでは」と思う方もいるかもしれません。しかし、普段音楽に親しんでいる人にとって、楽器や演奏の機会をなくすのは生きがいを失うに等しいことです。音楽の癒しのパワーを知っている当社は、今こそ活動すべきだと考えました。

この活動を2011年から約1年間行い、現在のアップサイクルプロジェクトに引き継がれています。

継続的に音楽にアプローチできる支援づくり

被災地支援の次はどのような活動をされましたか?

宇佐美さん:2013年から当社が取り組んだのが『楽器リサイクルプロジェクト』です。故障したり経年劣化して使用することが難しくなってきた楽器を回収、修理をして、児童養護施設や開発途上国の子どもたちに寄贈する活動です。普段、楽器を演奏する機会の少ない環境にある子どもたちに、音楽を身近に感じてもらうために始めました。

–児童養護施設に楽器を提供するだけでなく、演奏のレクチャーも行ったと伺いました。

宇佐美さん:お渡しする際には、その地域にある最寄りの島村楽器のスタッフや音楽教室の講師も同席し、演奏のレッスンを実施しました。楽器を贈るだけではなく、演奏の仕方を教えることも大切だと考えたからです。また、地域の教室の講師がレッスンすることで、子どもたちに「弾き方がわからなかったり、弦が切れて困ったりしたときに聞きに行くところがある」と知ってもらえたと感じています。音楽を継続できる環境づくりも私たちの役目ですからね。

この活動は5年ほど続き、2018年に楽器を希望したすべての施設への寄贈完了を以ってプロジェクトを終了しました。誰でも音楽を楽しめる社会をつくることが当社の目標でもありますので、リサイクルプロジェクトはその足がかりになったと思います。

–リサイクルプロジェクトで苦労したこともあったと思います。

宇佐美さん:修理技術者との折衝には苦労しましたね。回収した楽器の修理・修繕は、当時当社が運営していた技術者養成学校で修理技術者になる勉強をしている学生、いわゆる職人見習いに依頼しました。学生は普段、学習用の教材を使って修理技術を磨いているのですが、本当に壊れた楽器を修理するのは滅多にない機会でした。学生は「このチャンスに腕を磨きたい」と、張り切ってくれたのが印象的です。

ただ、そこまではよかったのですが、私たちが求めるレベルと職人が追究するレベルの違いから苦労もありました。技術者にとっての「修理」とは、「プロの演奏家が奏でる音が出せること」が基準です。つまり学生たちは、このプロジェクトでも完璧な演奏ができる楽器を求めようとしたのです。職人が求めるレベルまで修理するとなると、手間をかける時間はもちろんのこと、交換部品など多くのコストがかかってしまいます。

完璧を追求すると当然そこまでのレベルまで修理できないほど劣化した楽器も出てしまいますし、提供を希望されている方々の楽器数が足らなくなる事態が懸念されたため、学生の熱意に敬意を示しつつ何度も話し合いを重ね、子どもたちが楽器体験するのに支障がない修理レベルを見極めていきました。嬉しい誤算と言えばそうなのですが、妥協点を見つけるのが一番難しかった点ですね。

音楽の多様性を身近に感じた社員たち

–リサイクルプロジェクトに対する社員の反応はいかがでしたか?

宇佐美さん:リサイクルプロジェクトなど、SDGsに関する活動は社員が自発的に行っています。お客様から楽器を回収する場面から子どもたちに楽器を届けるところまで、郵送などで簡便に済まさず、Face to Faceにこだわって活動してきました。楽器を提供してくださったお客様へのお礼状も、社員が手書きで手渡しするというきめ細やかな取り組みです。

社員からは「お客様とコミュニケーションを取るいい機会になった」「普段知り合うことのない養護施設の子どもたちと触れ合えた」など、楽器の小売店としての社会的意義を感じ、仕事のやりがいにつながったという声が上がりました。SDGs活動は、従業員にとってもいい刺激になっていると感じます。

–最後に、「音楽の多様性」について島村楽器の考えを教えてください。

宇佐美さん:当社は「音楽の楽しさを提供し、音楽を楽しむ人を一人でも多く創る」ことを理念に掲げています。インターネットの発達でコミュニケーション様式が目まぐるしく変化する現代にあって、人と人とのつながりを生み出したり、言葉にならない思いを伝えたりする音楽は、普遍的な価値を持ち、多様な人間関係を象徴するものだと思います。

不況や経済格差が取り沙汰される現代ではありますが、心を豊かにする音楽がその流れに飲み込まれてはなりません。島村楽器では、楽器アップサイクルプロジェクトをはじめとするSDGs活動を通じて、多くの人に音楽の機会を届けられるよう、今後も努力したいと考えています。

–本日は貴重なお話をありがとうございました!

関連リンク

島村楽器公式サイト:https://www.shimamura.co.jp/