スラムとは?現状や対策、SDGsの達成目標まで紹介

新型コロナウイルスの流行によって、世界の貧困層はさらに増加しました。

その中でもとりわけ貧しい人々は、教育や医療などの生活に必要なサービスが十分に受けられない、劣悪な環境の区域に住んでいます。スラムは、貧困層の住居と密接に関わるキーワードです。

SDGsの達成にはスラムの改善が欠かせません。そこでこの記事では、スラムについて理解を深められるよう、詳しく見ていきます!

この記事の監修者
阪口 竜也 フロムファーイースト株式会社 代表取締役 / 一般社団法人beyond SDGs japan代表理事
ナチュラルコスメブランド「みんなでみらいを」を運営。2009年 Entrepreneur of the year 2009のセミファイナリスト受賞。2014年よりカンボジアで持続型の植林「森の叡智プロジェクト」を開始。2015年パリ開催のCOP21で日本政府が森の叡智プロジェクトを発表。2017年には、日本ではじめて開催された『第一回SDGsビジネスアワード』で大賞を受賞した。著書に、「世界は自分一人から変えられる」(2017年 大和書房)

スラムとは

スラムとは、都市部で多くの貧困者が集団となって住んでいる区域のことです。スラム街・退廃地区・貧民窟とも呼ばれ、語源は「眠る/休止している」という意味の「slumber」から来ています。

ドヤ街との違いは?

スラム街と似た意味を持つ言葉としてあげられるのが、ドヤ街です。

どちらも貧しい人が住んでいる区域という共通点がありますが、貧困の度合いや生活に明確な違いがあります。それぞれ確認しましょう。

スラム街幼い子どもから高齢者まで幅広い世代の最貧層が暮らしている
ドヤ街住居不定の日雇い労働者が暮らしている区域

ドヤ街で生活しているのは、日雇いの仕事で生計を立てている男性が多く、スラム街のように最貧層まではいかないものの貧しい人々です。

「ドヤ」というのは「宿(ヤド)」の逆さ言葉で、激安の簡易宿泊所が建ち並んでいます。ドヤ街自体に住居はなく、そのドヤ街の周辺に貧しい家庭が集まっています。

また近年では、外国のバックパッカーの需要に応えるための格安宿泊施設に形を変えているところもあります。

スラムの人口は増加傾向にある

ここからスラムについて踏み込んで見ていきましょう。

近年、スラムの人口は増加傾向にあります。2000年の時点で7.6億人だった世界のスラム人口は、2013年には8.6億人に達しました。

特にスラム住民が多い地域がアフリカのサブサハラ圏です。この地域では、スラム住民比率は61.7%と半数を超えています。また、インドなどの南アジア諸国もスラム住民の比率が高くその数は35%にものぼります。他にも、紛争国のリビアやナイジェリアはスラム住民の比率も高くなっているなど、あらゆる地域でスラム人口は増加しているのです。

スラムが都市部に存在する理由

では、なぜスラム人口は増加傾向にあるのでしょうか。その理由を知るためにまずは、スラムが都市部に存在する理由を掘り下げていきましょう。

貧困層が職を求めて都市部に移住する

スラム街に住む貧困層は、元々は農村や地方で暮らしていた人々です。生計のほとんどを農業で立てていることから、その生活はとても貧しいものです。

その結果、少しでも収入のいい仕事を求めて都市部に移住するものの、全員が職を得られるわけではありません。職に就けなければ収入が得られず、家賃を払えないため、居場所をみつけられなかったり、失ったりした人々がスラムを形成するのです。

教育を受けられないことで発生する収入格差

職がみつからない理由の一つに教育を受けていないことが挙げられます。ユニセフによると2018年時点で、

世界の5歳から17歳の子どものほぼ5人に1人にあたる3億300万人近くが学校に通っていない。

ユニセフ「世界の就学状況報告書発表 学校に通っていない子ども3億300万人紛争地・被災地では1億400万人

と報告しており、このほとんどが途上国で貧しい暮らしを送っている人々です。

教育を受けられない理由としては、

  • 教育費を捻出できない
  • 両親が教育の重要性を認識していない
  • 教育よりも家庭の仕事が優先されるため学校に通わせてもらえない
  • 紛争や自然災害により教育を受けるどころではない

などが挙げられます。

教育を受けられないことで、文字の読み書きや計算ができないため、賃金の高い仕事に就きにくい現状があるのです。

特に近年では紛争が増加傾向にあるため、貧しい暮らしから脱却することに加えて、危険から逃れるために都市部へ移住するケースが増えています。それに伴い、スラム人口の増加にもつながっているのです。

スラムの危険性

では、スラムが形成されることでどのような問題が発生するのでしょうか。

ここでは、自然災害・伝染病の流行・犯罪の多発・野生動物の面から確認していきます。

自然災害の影響を受けやすい

スラムにある建造物はほとんどが簡易的な小屋です。雨風に弱く、大雨や台風によって全壊してしまうこともあります。

住むところが無くなったスラムの人々は、路上生活を強いられるなど、さらに過酷な状況に陥ります。

伝染病が広がりやすい

スラムは上下水道の整備が行われていないことが多く、衛生環境が悪いと言われています。また、住宅が密集しており、排泄物が流れる川がすぐ側を流れているということもあります。

このような不衛生な環境下では、2020年から猛威を振るう新型コロナウィルスを初めとした伝染病が広がりやすくなります。

もしそのような病気にかかっても、スラムでは医療が行き届かないことから、十分な医療サービスが受けられません。例え病院があったとしても、治療費を払えないケースも多くあります。

犯罪の多発

スラムでは政府や警察の目が届かず、至る所で犯罪が多発しています。

例えばブラジルのスラムでは、麻薬密売組織間の銃撃戦や、「ミリシア」という民兵組織の勢力拡大を目的とした抗争事件が昼夜問わず発生しており、関係のない一般人が巻き込まれることも珍しくありません。

野犬の被害

スラムでは、野犬の存在も脅威となります。飢えた野犬は、食べ物を狙って人間に襲いかかることも珍しくありません。

襲われれば怪我はもちろん、「狂犬病」にかかる恐れがあるのです。

厚生労働省によると、狂犬病に感染して発症した場合、効果的な治療法はまだないため、致死率はほぼ100%としています。

病院に入院してワクチンを投与すれば助かるものの、先述したように医療サービスを受けにくいスラムでは、それを実現するのは困難でしょう。

途上国に存在するスラムの現状

出典:unsplash

ここまでスラムについて詳しく見てきました。

現在、途上国には多くのスラムが存在しており、現状は地域によって異なります。

ここでは、アフリカ・アジア・南アメリカのスラムが多い地域をピックアップして、どのような現状なのかを紹介します。

アフリカ

アフリカの国の一つであるケニアには「キベラスラム」という最大のスラムがあります。

キベラスラムの人口は約250万人で、その半数を占めるのが子どもです。子どもたちの親である大人たちは、貧困によって十分な医療が受けられず、若くして亡くなってしまうのです。

親を失った子どもたちは孤児となり、児童労働・虐待のターゲットにされるケースも多く見受けられます。

この現状に危機感を感じたケニア在住の日本人、早川千晶さんは、子どもたちを救うために「マゴソスクール」という駆け込み寺を開設しました。マゴソスクールでは子どもたちの教育はもちろん、朝昼の給食や職業訓練所など、生きていくために必要な設備も提供しています。

アジア

インドのムンバイにはアジア最大のスラム「ダラビ」があります。ここには70~100万人の貧困層が約2.1km²という狭い土地で暮らしており、人口が集中している場所です。

ここまで見てきたように、スラムは通常、経済やサービスが破綻しているものですが、ダラビは経済活動が活発で、その取引額は年間数十億円にものぼります。

その経済活動に大きく影響しているのが、陶器・革・繊維製品などの製造業です。

ダラビの住民はこの製造業に就いている割合が高く、他のスラムと比べて安定した収入を得ているのです。製造業を行う上で出る大量のゴミも、そのまま廃棄するわけではなく、全ての廃棄物の85%以上をリサイクルしていると言われています。

このリサイクルによって、エネルギーコストや材料調達コストの低減が可能となり、結果的に高い収益を実現しています。

衛生面については他のスラムと同様に課題を残すものの、交通の利便性も高いことから政府が注目し、高層ビルを造るなどの再開発の計画もありました。

しかし、実際にダラビで暮らす人々の多くは、今の生活を守りたいと考えており、8日間のハンガーストライキを起こしたこともありました。

南アメリカ

ブラジルのリオデジャネイロは、南アメリカの中でも裕福な街として知られているものの、貧富の格差が問題視されています。

リオデジャネイロ南西部にあるスラムは、ブラジルで最も人口密度が高く、リオ市民の4人に1人が約2.1km²の区域に密集して暮らしています。

このようなスラムをブラジルでは「ファヴェーラ」と呼び、大都市の郊外には必ずといってもいいほど存在します。

リオのファヴェーラは、経済発展により家賃が高騰したことで、そこに住めなくなった人々が移り住む形で生まれました。住民のほとんどは都心で働いているものの、低賃金の仕事しか就けず、さらには失業することも珍しくありません。

また、リオのファヴェーラは山の斜面に位置していることから、自然災害が大きな問題になっています。大雨による地滑りによって住宅が破壊され、時には命が犠牲になることもあります。

1940年代の「Parque Proletário(労働者公園)」計画で政府は、ファヴェーラの人々に公営住宅を提供しました。しかし、その数は少量であったことから、新たなファヴェーラが誕生しただけに終わりました。

先進国にもスラムは存在する

出典:unsplash

ここまで、途上国のスラムの現状について見てきましたが、先進国にも存在します。

最新技術に溢れた便利な都市の裏には、それとは対称的に貧しい暮らしをする人々の姿が隠れているのです。ここでは、先進国に見られるスラムの事例を見ていきましょう。

スペイン

歴史ある建造物が立ち並び、多くの観光客が訪れるスペイン。

そのなかでもEU内でパリに次ぐ大規模都市で、首都であるマドリードには、ヨーロッパ最大級のスラム「カニャダ・レアル」が存在します。

カニャダ・レアルは6つのセクターに分かれており、数字が大きくなるほど危険なエリアです。

中でもセクター6は、麻薬中毒者の温床となっているだけでなく、警察もほとんど立ち入ることがない無法地帯となっています。ここでは暴力事件をはじめ、あらゆる犯罪が多発しており、特に薬物に関しては「スペイン中のドラッグが集められている」と言われるほどの治安の悪さです。

アメリカ

犯罪の多いアメリカの中でも最も危険なスラムとして、ミシガン州の「デトロイト」が挙げられます。

かつては自動車工場の街として栄えていたデトロイトは、近年、ドイツや日本の自動車が主流となり、燃費の悪いアメリカ産が廃れてきたことで勢いを失いました。その結果、今ではゴーストタウンのように廃墟が多くなり、スラムが形成されています。

デトロイトのスラムでは特に治安の悪さが指摘されており、

  • 犯罪率が殺人事件だけで全米平均の約9倍
  • 観光客を狙った犯罪も多発する

など、滞在せずに通るだけの時でも注意しなければなりません。

また、デトロイトの3割以上が貧困層とされており、健康保険の未加入者も多く存在しています。

ただし、デトロイトにも治安のいい高級住宅街や整備された場所は存在しています。裕福な人々はいわゆる衛星都市に住んでおり、デトロイトの治安の悪い区域に入らずとも生活が成り立っているというのが現状です。

スラム解消のために行っている対策

途上国、先進国を問わず世界中にスラムが存在している現代では、実際のスラム住民はもちろん、その縁辺で暮らす人々にも大きな影響を与えています。

そのため拡大していくスラムの解消を目指して、それぞれの国が法規制や支援を行っています。

インドネシア

インドネシアでは2010年に「スラムなき都市」を目標に掲げ、翌年の2011年には「住居及び住宅地区法」が改変され、スラムを含む国民の住宅問題についての政府の役割が明記されました。

また、2015年には「スラムなき都市プログラム」の取り組みとして、すべての人が水道や衛生施設へアクセスできるように「インドネシア・スラム削減政策及び行動計画(SAPOLA)」が制定されています。

フィリピン

フィリピンでは2001年からスラムで暮らす貧しい子どもや、暴力や性的被害に遭った青少年を対象に、衣食住や教育を提供しており、政府だけでなく民間企業による支援も活発になっています。

例えば、自立支援施設である「若者の家」は、日本の伊藤忠商事株式会社の支援によって2009年に建設されました。入居する子どもたちは、虐待や育児放棄によって人と信頼関係を築くことが困難になっています。

若者の家では単に必要な設備が整っているだけでなく、スタッフや他の子どもたちと生活をともにして生まれる家庭的な愛情によって、心のケアも行っています。

アメリカ(ニューヨーク州)

アメリカのニューヨークは、世界的都市である一方で、移民を中心とした貧しい人々が多い区域でもあります。路上生活をする人の数は過去10年間で115%増加しており、その多くを占めるのが黒人やヒスパニックです。

彼らを救済する措置として州は2017年、総額200億ドルをかけて「ホームレス及び住宅対策プラン」を掲げました。

  • 住みやすい価格の住宅を11万戸以上建築
  • ホームレスや障害者などが普通の人々と同じように暮らすための支援住宅を6,000戸開発

することを目標に、現在も計画を続行中です。

ニューヨークは世界と比較しても家賃が極めて高く、ホームレスなどの弱者による周辺街のスラム化を防ぐには、彼らに向けた安価な住宅の建設が最優先とされています。

スラムの解消はSDGsの目標達成にも貢献する

最後に、スラムとSDGsの関わりについて見ていきましょう。

SDGsとは

SDGsとは「Sustainable Development Goals」の略で、日本語では「持続可能な開発目標」と訳されます。

2015年9月に開かれた国連サミットで、加盟国の全会一致によって採択されました。

SDGsは世界が抱える「環境」「社会」「経済」の課題を解決すべく、17の目標と169のターゲットで構成されており、地球上の「誰一人取り残さない(leave no one behind)」を理念に、2030年までに持続可能で、よりよい世界を目指す取り組みが行われています。

17の目標のなかでもスラムの解消と深い関係を持つのが、目標1・3・11です。1つずつ見ていきましょう。

目標1「貧困をなくそう」

スラムに住む人々は、貧しさから抜け出そうと都市部へ移住した結果、職を得られず、さらに貧困化してしまうことが多く見られます。

つまり、貧困に苦しむ人々を支援し、安定した収入を得られるような仕組みを確立することで、スラムの解消が近づくでしょう。

また、貧困は自然災害などでも加速すると言われています。

スラムには、小屋のような簡易的な住宅しかないため、一般の住宅より大きな被害が予想されます。気候変動への対策や、災害が発生した際のスムーズな支援体制を整えておく必要があります。

目標3「すべての人に健康と福祉を」

健康や福祉はすべての人に平等に与えられるべきものです。

しかし、世界には基本的な医療保険サービスを受けられない状況に置かれる人が約36億5,000万人もいます。

スラムに住む人々も、例外ではありません。

そこで目標3では、健康と福祉のあらゆる面からの改善を目指しています。

具体的には、妊産婦や子どもの死亡率の低下が挙げられます。世界には、適切な医療を受けられずに妊娠・出産で命を落としてしまう女性が大勢います。それに伴い体内にいる子どもも命を落としてしまうのです。

基本的な医療サービスにアクセスできるよう、設備や専門スタッフを配置することで、命を救えることはもちろん、スラムで問題視されている孤児を減らすことにも繋がります。

他にも、「麻薬を含む薬物やアルコールなどの乱用を防ぎ、治療をすすめる」ことが掲げられています。

先述したようにスラムでは、薬物の取引が至るところで行われていたり、ドラッグ中毒で人が倒れていたりと、治安の悪化および健康被害が絶えません。

これらの減少を目指すとともに、既に薬物やアルコールで体を壊してしまった人々の治療を進めることで、健康を取り戻し、スラムの解消にも繋がるでしょう。

目標11「住み続けられるまちづくりを」

スラムのような不衛生な地域では、土地や建物の劣化を早め、整備されていない場所が増えれば、犯罪が生まれる原因にもなります。また、スラム周辺地域の人々への配慮も忘れてはなりません。

目標11は、これらの問題を解決し、住み続けられるまちづくりを実現するための目標です。

目標11のなかでは、すべての人が安全で安価な家に住むことができ、基本的サービスを使えるようにすることを掲げており、これは直接スラムの解決につながります。

農村部に働き口がないことから、都市部に移住したものの、家賃が高くてやむなくスラムで生活をしているという人も多いことを先述しました。彼らに負担の少ない家を提供し、生活に欠かせない基本的なサービスを平等に使用可能にすることで、スラムの解消が期待されます。

そして、スラムを解消することが都市部を含めすべての人が住み続けられるまちづくりに繋がるのです。

まとめ

この記事では、スラムについて詳しく見てきました。

スラムは貧困をはじめとして、環境や治安の悪化など多くの問題点や危険性を持つため、解決に向けて取り組みを進めるとともに、なによりそこに住む人たちの人権を守らなければなりません。

そのためにも、実際に何かしら行動していくことが大切です。

例えば、スラムの人が作った伝統工芸アクセサリーを購入すれば、そのお金が彼らの生活費となります。

有名なのが、「RoyRak Creative」というスラム発のアクセサリーブランドです。

タイのバンコクにあるクロントゥーイ地区は、バンコクのスラムの中でも最大規模と言われています。その中で、女性たちの有意義な雇用を実現するために生まれたのが「RoyRak Creative」です。

アクセサリーの需要が高まれば、制作や販売など関連した職の雇用が増え、スラムの人々が安定した収入を得ることもできます。

他にもSDGsのスラムに関する3つの目標を念頭に、募金などを通じて少しでも行動することが、世界中のスラムをなくすことに繋がるでしょう。

<参考文献>
THE WORLD BANK
三菱総合研究所「進む都市化とHabitat3」
世界の就学状況報告書発表 学校に通っていない子ども3億300万人紛争地・被災地では1億400万人
外務省海外安全情報「ブラジル」
厚生労働省「狂犬病に関するQ&Aについて」
東洋経済オンライン「スラム街で一番怖い存在は「犬」という衝撃事実」
公益社団法人 日本看護科学学会「ケニア / Republic of Kenya – 異文化看護データベース」
http://magoso.jp/magoso
東洋経済オンライン「リオの真実をどれだけ知っていますか」
SDGsのポスター・ロゴ・アイコンおよびガイドライン | 国連広報センター (unic.or.jp)
RoyRak