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株式会社Social Design|訪れた人が沖縄の生活に溶け込む、新しい交流のカタチ

株式会社Social Design 加納さんインタビュー

加納佑樹
建築家・起業家
アジアを中心に活動する建築家として、フィリピン、中国、香港、ベトナム等でプロジェクトを経験。フィリピンにおけるIR施設Okada manilaの設計統括。2019年に建築設計事務所CATを創業。2020年10月、これからの時代における都市の形を模索すべく、株式会社Social Designを共同創業。
代表作として地域共創型コミュニティパーク「coconova」、ライフスタイルホテル「MEGURU|巡」など沖縄を舞台に活動を展開中。

Introduction

株式会社Social Design(ソーシャルデザイン)は、沖縄県名護市にコミュニティ施設「coconova」と、石垣島にライフスタイルホテル『MEGURU|巡』を開業。地域の人と県外の人とが、共に「まちづくり」に関わっていける場所づくりをしています。

大手企業や行政からも注目されているSocial Design。今回は代表のひとりである加納さんに、事業を手掛けたきっかけや、運営施設に対する想いについて伺いました。

「観光地」から一歩進んだ「居場所」を地域につくる

–本日はよろしくお願いします。まずは、御社の事業内容について教えてください。

加納さん:

株式会社Social Designは、地域創生や地域活性化のために、「民間主導でのまちづくり」を掲げて事業を行っている会社です。2020年10月に誕生し、本社は沖縄県名護市にあります。

–まちづくりのために、どのようなことをなさっているのでしょうか?

加納さん:

名護市にあるコミュニティパーク「coconova(ココノバ)」、そして石垣島のライフスタイルホテル「MEGURU|巡」を運営しています。「関係住(かんけいじゅう)」という言葉を提唱し、観光客として地域に接するところから少しステップアップして、訪れた町を自分の居場所として感じてもらえるような関係づくりを目指しています。

–大好きな地域を訪れるうちに「ただの観光客」からもう一歩進んで、常連さんになるというか、より地元に近い関係性になっていく感覚でしょうか。そういう気持ちはわかる気がします。
たとえば「地元ではないほかの地域を支援する」仕組みとしてふるさと納税がありますが、支援につながる仕組みづくりという点では近いものがあるのかもしれませんね。

「人との交流」を、沖縄という地域を知るきっかけに

–沖縄に、こうした場所を作ろうと思った理由をお伺いしてもいいですか?

加納さん:

消費する観光地としての「沖縄」という認識を超えて、地域自体に目を向けるためには、人との交流が重要だと感じたからです。私は本州の都市部で生まれ育ちました。沖縄の問題についてはニュースなどの知識でもちろん知っていましたが、実際にこちらに来てはじめて、自分ごととしてそれを体感することも多くありました。「知ったつもり」で、本当の意味での理解はできていなかったんだなと反省することも多かったんです。

–例えば、どのような問題でしょうか?

加納さん:加納さん:

基地問題や、学びの格差、賃金の問題などさまざまです。特に賃金問題は、沖縄県の最低賃金は47都道府県でも最低レベル。一番高い東京の1,041円に比べて沖縄は820円と、大きな差があります(※)。

※厚生労働省「令和3年度地域別最低賃金改訂状況」より

–200円も違うのですね。驚きました。

加納さん:

人口や、人口に対する観光客数が減っているわけではないですし、産業自体が弱体化する要因はないんです。豊かな自然をはじめとした、名護にしかない価値もあります。
だからこそ、名護にしかない価値を求める外の人たちが、名護の人たちに自分たちの持つスキルや経験をシェアすることで、互いにとってよりよい循環が生まれるのではないかと思っています。
たとえばですが、県外から来る旅人の中には、普段からSNSで発信をしている人もいます。そうしたスキルを共有することで、名護でお店をやっている人がもっとお客さんを呼べるようになるかもしれません。

–上手に宣伝できれば、お客さんがたくさん来てくれて、事業が潤い、賃金も上がる。いい循環を作ることができそうですね!

加納さん:

そのほかの問題についても、県内外を含めた色んな立場の人が、もっと「自分ごと」としてとらえて議論しあえば、きっと良い解決方法が見つかると思っています。
そんな色んな考えを持った人が交流できる場として、coconovaが活用されると良いなと思っています。

運営施設のひとつ「coconova」の館長は、名護で生まれ育っていて、沖縄のさまざまなことに向き合ってきた人間です。彼の熱い思いを聞いていると、同じ仲間として一緒に問題を解決していきたい、って自然と思えるんですよね。人との交流が、その地域を自分ごととして考える「関係住」を生む……という効果を、自分自身が一番実感しています(笑)。

–加納さんご自身も、人の交流から地域に関わりたいと思った一人なのですね!

得意なことでつながりあう「コミュニティパーク」coconova

–ここからは、Social Designで運営している施設について伺います。まずは、coconovaについて教えてください。

加納さん:

coconovaは、「コミュニティパーク」と名乗っていますが、イメージとしては公園と公民館を合わせたような施設です。レンタルスペースやコワーキングスペース、飲食店などがあり、さまざまなイベントやワークショップ、展示などが開催されています。

–たとえばどのような企画が行われていますか?

加納さん:

地域の人によるヨガレッスンやスパイスカレーなどのワークショップや、みんなで楽器を持ち寄っての演奏会、フリーマーケットや起業したい若者向けのビジネスイベントまで、様々なものがあります。空間が大きいので、体を動かすようなイベントも含め、多くの使い方をされていますね。

–汎用性が高い空間なんですね。

加納さん:

イベントに来てくれた人が、今度は自分で企画やワークショップをする側にまわったり、中には運営として関わってくれるようになったりと、お客さんと運営者の垣根が低いことも特徴ですね。それぞれが得意なものを持ち寄って、お互いに敬意を持ちながら関わり合えているのではないかと思います。coconovaでの交流がきっかけで、新たなビジネスが生まれたりもしています。

–様々な特技を持った人が集まっているなら、coconovaを利用することで、視野が広がりそうですね。coconovaは地域外の人の利用も多いですか?

加納さん:

徐々に増えています。でも、より地域外の方が利用しやすくするために、長期滞在者向けのワーケーションプランなど、まだ整備が必要だと感じる部分もあります。今後はさらに人員を増やして、対応していきたいと考えているところです。

旅と日常をつなぐ新しい宿泊体験「MEGURU|巡」

–続いて、石垣島のライフスタイルホテル「MEGURU|巡」について教えてください。

加納さん:

「MEGURU|巡」は市街地から離れた吉原という場所にあります。元々はペンションだった建物をリノベーションしました。

–「MEGURU|巡」の掲げる「ライフスタイルホテル」とはどのようなものですか?

加納さん:

石垣島の自然や、地域との関わりを通じて、普段の生活で意識していなかった感覚を掘り起こし、そこから『生活』を見つめなおす…そんな体験ができるホテルです。
旅行を一過性のものとして消費するのではなく、旅での体験がそのあとの生活にも変化を与えたり、あるいは地域の関係者となって継続的な関わりが生まれたり……といったことができればと考えデザインしました。

–私も何度か石垣島に行ったことがありますが、吉原の近くにある川平(かびら)湾は、美しい海で遊べて、船に乗りながら海中が見られる「グラスボート」に乗れる場所としても有名ですよね。でもホテルはあまりなかったと思います。

加納さん:

そうですね。石垣島の宿泊事情は少し特殊で、リゾートホテルか、街なかの滞在型ホテル、ビジネスホテルががほとんどなので、我々はは地域との繋がりを大事にする為、どちらにも属さないホテルを作りました。ホテルから歩いてすぐの場所にある地元ならではの売店にも、ぜひ足を運んでほしいと思っています。

–コンビニではなく、売店なのですね。

加納さん:

はい。観光客向けのお店ではなく、地元の方が一人で切り盛りしている売店です。そこに暮らす人が普段の生活のなかでインフラとして活用しているような場所にも立ち寄ることで、島の生活に触れて欲しいなと思います。

日常を共に楽しむところから、地域に関わるきっかけ作りをしたい

–今後は、沖縄以外のまちづくりもやってみようと考えていますか?

加納さん:

しばらくは沖縄に集中したいと考えています。ただ、少しずつ沖縄の外にも目を向けていきたいですね。coconovaを立ち上げたメンバーの一人が、我々の元を卒業して、自身の故郷である香川に、宿泊ができるコミュニティ施設をオープンさせました。そうした縁も大切にしたいと考えています。

–沖縄で共に成長する仲間も、卒業して新たなコミュニティを作った仲間も、お互いに刺激し合って、安心できる居場所作りを続けているのは素敵なことですね。最後に、読者のみなさんへメッセージをお願いします。

加納さん:

地域が抱える問題をシリアスに捉えるだけではなく、まずは日常を一緒に楽しむところから関わってもらえたら嬉しいなと思います。まずはぜひ、「coconova」や「MEGURU|巡」に来てみてください。

–今日は素敵なお話を聞かせていただき、ありがとうございます。

関連リンク

株式会社Social Design:https://social-design.town/

コミュニティパークcoconova:https://social-design.town/coconova

ライフスタイルホテルMEGURU | 巡:https://meguru-hotel.com/