#インタビュー

株式会社solar crew|空き家を地域の拠点に!空き家から解決する地域課題

株式会社solar rcrew

株式会社solar crew 河原勇輝さん インタビュー

河原勇輝

経営の中で地域に寄り添うことを学び、地域貢献やSDGsに取り組み始める。2033年には3軒に1軒が空き家になると予測されるほど深刻化する空き家問題、不足する避難所問題などを受け、2021年7月、空き家活用を主とする株式会社Solar Crewを立ち上げ活動中。第8回グッドライフアワードでは、『空き家×防災拠点』の取組みが認められ環境大臣賞を受賞。休日はNPO法人green bird横浜南チームリーダーとして、横浜市内5拠点でゴミ拾いを通じて、ゆるやかなコミュニティ活動を展開している。一部を表示

introduction

2023年10月に総務省が実施した調査によると、日本の空き家は約900万戸、2018年の調査から約51万戸増加し、空き家率も13.8%となり過去最高です。(総務省資料:chrome-extension://efaidnbmnnnibpcajpcglclefindmkaj/https://www.stat.go.jp/data/jyutaku/2023/pdf/g_kekka.pdf)

そして、2033年には3件に1件が空き家になるかもしれないと言われ、空き家は大きな社会課題となっています。

そんな社会課題を解決するために、空き家を防災拠点に変える事業を展開しているのが株式会社solar crew(ソーラークルー)です。

今回は、株式会社solar crew 責任者 河原勇輝さんに、空き家を防災拠点に変える仕組みや、なぜ空き家に注目したのか、SDGsについてなどのお話を伺いました。

増え続ける空き家をつながる拠点に

–初めに、株式会社solar crewのご紹介をお願いします。

河原さん:

株式会社solar crewは、地域の空き家を防災拠点に変えることをミッションの一つとして事業を展開している会社です。

毎年増え続けている空き家は、日本の社会課題です。また、地域に防災拠点が少ないことも大きな課題だと考えています。この二つを同時に解決できるように、リノベーションした空き家を拠点とし、コミュニティ活動の推進や、災害時には防災拠点として使用できるように取り組んでいます。

–そもそも、なぜ空き家を防災拠点にしようと考えたのですか。

河原さん:

私は中学卒業後、建築業の職人になりました。その後、24歳で独立したのですが、26歳で仕事が途切れてしまい、その時にもう一度仕事の在り方を見直す必要があると考えました。

そこから、地域で愛される企業を目指そうと思ったんです。

まずは街に貢献したいと思い、会社周辺のゴミ拾いから始めました。数年活動を継続する中で、その後「NPO団体グリーンバード」という清掃ボランティアの横浜チームを立ち上げ、結成9年目になる現在も継続しています。

ゴミ拾いのほかに、人手が足りない餅つき大会を手伝うなど、小さな困りごとを解決していくことで、町内会や町の人々とつながりを作りました。そんな中で、地域の課題を解決できるのは、地元とつながった中小企業なのではないかと考えるようになりました。

ですから、社会の大きな問題としてではなく、「あそこに空き家があって、今困っているんだ」というような街の課題に目を向けるようになり、それをビジネスで解決したいと、具体的に取り組み始めたというのが背景です。

《清掃活動の様子》
《清掃活動の様子》

一方で、各地で災害が起きた際にボランティアに行くことを常としているんですが、そこでの経験が災害拠点を増やす活動につながっています。

熊本にボランティアに行ったとき、避難生活をしている80代のご夫婦と出会いました。

このご夫婦は、避難所での生活が合わず、避難所を出て、暑い季節なのに自宅の目の前でテント生活をしていました。

話を聞くと、避難所が窮屈で嫌だったなどではなく、「自分達とまわりの生活のリズムが違うため、迷惑をかけてしまうのではないか」という思いが強かったようなんです。「自分達は朝早く起きるけれど、動き出すと周りの人達を起こしてしまうのではないか」などですね。気を使いすぎて精神的に疲れてしまい、出てきてしまったとのことでした。また、避難所が遠くて行けないという方にも会いました。

こんな状況を見て、分散型の避難所を作る必要があると痛烈に思いました。

地域ごとに避難所があれば、顔見知りの人達と過ごせるので、生活もしやすいのではないかと思い、地域の中に避難所を作るべきだと考えたんです。

この二つの経験から、増え続ける空き家を、数の足りない地域の防災拠点に変えることをミッションとして活動を始めました。

「つながり」を作りコミュニティーを育むDIYリノベーション

–では、どのように空き家を地域の拠点にしているのかお聞かせいただけますか。

河原さん:

まず事業の流れですが、空き家問題に取り組む弊社の想いに共感いただいた企業に会員になってもらい、月々の会費をいただきます。いただいた会費は、空き家のリノベーションや整備の費用などに使わせていただきます。

会員の方々には、空き家をリノベーションするところから携わってもらい、自分達で作った拠点をイベントやワークショップ、リモートワークの拠点などで使ってもらいます。

空き家に関しては、自治体が管理しているものを借りる場合もあります。しかし、多くは個人の方から相談があった物件を借りています。いろいろなメディアに取り上げていただいているので、空き家の問題で困っているオーナーの方から直接連絡をもらうことが多いですね。

空き家を提供してくれる方には、固定資産税分の金額を賃料として支払い、リノベーションや庭木の管理などは弊社が行います。地域の課題解決の拠点になり、社会貢献もできるというところも非常に大きなメリットだと思います。

–空き家のリノベーションには、会員の企業や一般の方々が参加できるとお聞きしました。

河原さん:

はい。参加者を募って、皆でDIYリノベーションを行います。

このDIYリノベーションを通じて地域の中に「つながり」を作ることが目的です。ただ防災拠点だけを作っても、なかなか認知されませんので、リノベーションの段階から多くの方々に携わっていただき、コミュニティとして普段から機能するようにしたいと考えています。

普段活動するコミュニティがあるからこそ、防災拠点として機能するという認識が一番大事だと思っています。

また、各拠点に「solar crew」コミュニティーを作り、イベントなどの活動をしています。DIYのメンバーも「solar crew」のフェイスブックやライングループなどで募集をしたり、広く一般にも呼びかけたりしています。

最初は、空き家問題や防災拠点を増やす意義など、ちょっと堅いお話をしてメンバーを募っていたんですが、あまり人が集まりませんでした。そこで現在は「壁を壊す会」などと銘打って、楽しいことを皆でしようという方向性にしました。

リノベーション作業の中でも、壁を壊す工程が一番人気があるんです。普段はできないことなので、皆さんとても楽しそうにするんですよね。それを見て、楽しいからこそ人が集まり、コミュニティーが育まれ「つながり」ができると実感しています。

《リノベーションの様子》
《リノベーションの様子》
《リノベーションの様子》

実際の作業については、10〜15名くらいの方々が、約3か月くらいかけて空き家をリノベーションします。壁を壊す、壁を塗る、机を組み立てるなど様々な作業を力を合わせて行なっています。

また、空き家の一部に耐震シェルターを設置することと、太陽光発電を導入して、災害の際に崩れることがなく、電気の供給が途絶えない場所にしています。

地域の課題は地域で解決「リビングラボ」の取り組みとは

–地域の拠点として完成したのちは、どのように活用されているのでしょうか。

河原さん:

災害時は避難所として使用されますが、平常時はわかりやすく言うと、地域のコミュニティースペースのような役割をしています。

使いたい日に空いていれば気軽に使える場所です。

手芸の会を開いたり、お茶飲み話で人が集まったり、無料の集いは料金がかからず使用できます。

講演会などの有料の催しは、集金額に応じた料金をいただいていますが、いつでも誰かが使っているような、家でも学校でも職場でもない、誰でも集える地域の中のサードプレイスとして、自由度の高い場所であるよう心がけていますね。

拠点の管理に関しては、もちろん弊社も行いますが、そこを使用して地元の活動をする方々が主体で行なっているんです。

また、水や保存食も常備していますが、行政と連携し提供をしてもらったり、企業に協賛してもらったりしています。

拠点では、「土嚢袋(どのうぶくろ)の作り方・使い方講座」などといった防災に関してのワークショップを開催することもあります。

今後もこのような防災の意識が高められるような催しも開催したいと考えています。

他には、各拠点で「リビングラボ」という取り組みを行っていることも大きな特徴です。

–「リビングラボ」の取り組みについて詳しくお聞かせいただけますか。

河原さん:

「リビングラボ」は、1980年代の後半に欧米で生まれた考え方といわれています。

「新しいものを生み出すには、実際に使ったり、関わりを持ったりする当事者の視点が欠かせない」という理論から生まれたオープンイノベーションの場や活動のことです。

これまで、課題解決や事業推進のプロセスは、企業の中だけにしまい込まれていることも多かったのですが、リビングラボではすべてオープンにして周りと一緒に開発や事業を進めていきます。ですから、様々なアイデアが出たり、協力者が増えたりという効果も得られます。

リビングラボの推進は、弊社のある横浜市でも力を入れており、私も「一般社団法人YOKOHAMAリビングラボサポートオフィス」の代表理事として活動を推進しています。

「地域の課題は地域で解決していこう」という考え方でもあり、地域の事業者が集まり、自社の事業の強みを使い、課題解決をします。

各拠点でこの考え方を取り入れて、産官学民が集まり「Living Lab Family」として問題解決に取り組んでいます。

また、Living Lab Familyとして、サーキュラーエコノミーの取り組みにも注力しています。

建材メーカーと協力して、使われなくなったものを有効活用するなど、循環型社会の実現を目指しています。

パートナーとの総力戦でSDGsの目標達成と地域課題の解決を

–循環型社会の実現もそうですが、御社では他にもSDGsの視点から推進していることなどはありますか。

河原さん:

私達が最もこだわっているのが「住み続けられるまちづくり」です。

住み続けられるまちは、待っていてできるものではないと思います。

SDGsの目標11「住み続けられるまちづくりを」を実現するために、目標12「つくる責任 つかう責任」からアプローチしていく。住み続けられるまちをつくるために主体的に関わっていくことが大事だと思っています。

ですから、空き家をリノベーションするときに、皆でDIYすることに意味があると思っています。

私が今までの事業経験の中で感じるのは、今後は中小企業が地域の課題や問題解決を担う存在になるのではないかということです。補助金などの行政のサポートには限界があるだろうと感じており、弊社は早い時期からSDGsを柱として多くの事業を展開してきました。

最初にSDGsを知り、目標を1から17まで見た時は、全部弊社が今までやってきたことだなと思ったんです。しかし、しっかり169のターゲットまで読み込むと、一つの企業だけでできることはそう多くはないということに気がつきました。

中小企業が地域で存続していくためには、住民やほかの企業と一緒に取り組むことが必要で、そんな機会も増えていくと考えています。

その中で、学校、住民、企業が連携して課題を解決した事例を紹介しますね。

清掃活動中にゴミが多く捨てられているエリアがあったのですが、近くの小学校と連携して、小学生と一緒にゴミ拾いをしました。そのときのプラスチックゴミを再生繊維に変え、皆でエコバックを作って街の商店街で販売しました。これこそパートナーシップがあってこその課題解決だと思います。

このパートナーシップのハブになっているのが、空き家を再生した拠点なんです。

–では最後に、今後どのように事業を展開していきたいか、展望をお聞かせください。

河原さん:

現在、いろいろな企業と連携し、たくさんの取り組みを考えています。

まずは、目標7「エネルギーをみんなに そしてクリーンに」の解決につながる再生可能エネルギーの事業です。

ある企業と連携して、空き家に太陽光発電を設置し、再生可能エネルギーを普及させる事業です。空き家は今後も増えていくと思いますので、そこでの再生可能エネルギー事業は非常にポテンシャルが高いと思います。

また、空き家を拠点にした就労支援事業も検討しています。

ハードを持っている弊社と、就労支援団体とがパートナーシップを組み、展開していく予定です。

これからの事業はチーム戦だと考えています。1社が多くの社員を抱えるよりも、各々の強みを持った中小企業どうしが繋がって新しい事業をつくっていく。そんな流れをつくりたいんです。そのために法人会員制にしていますので、たくさんの企業に加盟してもらい、総力戦で空き家問題をはじめ、地域の課題に取り組んでいきたいと思います。

–今後、空き家からどんな新しいことが発信されるのか楽しみです。本日はありがとうございました。

関連リンク

株式会社solar crew公式サイト:https://solarcrew.jp/