一般社団法人STUDY FOR TWO 土井爽詩さん インタビュー
2024年度学生代表 土井爽詩
2002年茨城県水戸市生まれ。大学生から不要になった教科書を寄付していただきそれを安価に再販売することによって得られた利益で途上国の教育支援を行う、という仕組みに共感し、大学入学とともにSTUDY FOR TWOの活動に参加する。大学1年生でSTUDY FOR TWO埼玉大学支部の支部代表になり、その後関東地区の代表、大学4年生の時はSTUDY FOR TWOの学生代表として、全国各地の大学でのイベントや活動に参加する。これまでの14年間の活動で3000万円以上を寄付してきたが、今後は年間1000万円寄付という目標を掲げて、ともに活動する大学生や教育を届けることのできる子どもたちの数を増やすこと、また、団体と関わる人の数と種類を増やし、団体としての影響力を拡大させていくことを目指している。
目次
introduction
一般社団法人STUDY FOR TWO(スタディフォーツー)は、全世界の子どもたちが、教育の機会を得られるようにすると同時に、日本で勉強する大学生が、高価な教科書を少しでも手にしやすくなることを目的とし活動する団体です。
また、ボランティアを受ける側だけでなく、する側もメリットを受け取れる、新しいボランティアの形を拡げることも目標の一つです。
今回は、2023年度学生代表、埼玉大学大学院の土井さんに活動の内容・課題や、今後の展望についてお伺いしました。
途上国の子どもの教育と大学生の教科書問題、まとめて解決する仕組み
–最初に、STUDY FOR TWO(以下SFT)についてご紹介をお願いします。
土井さん:
SFTは 、2010年に大学生が立ち上げた団体です。
不要になった大学の教科書を寄付してもらい、それを半額以下で販売し、得た利益を途上国の教育支援を行っている団体に寄付する活動をしています。
私たちは「勉強したいと願うすべての子どもたちが勉強できる世界に」を理念の一つとして掲げ、教育の重要性を訴え、全世界に教育の機会を届けることが目標です。
また、「FOR ME、 FOR TWOのボランティアが身近になる世界に」をもう一つの理念とし、ボランティアをする側、受ける側のどちらもメリットを受け取れる、新しいボランティアの形を世界中に広げていきたいと考えています。
–次に、SFTを立ち上げた背景やきっかけをお聞かせください。
土井さん:
SFTを立ち上げたのは、現在代表理事をしている石橋です。
石橋は大学生のとき、ラオスやバングラデシュなどの開発途上国へボランティアへ行きました。そこで、教育を満足に受けられない子どもたちが大勢いることを知りました。しかし「自分には何もできない」という無力感を抱きながら帰国せざるを得なかったそうです。
一方で、帰国後すぐに新学期が始まり、新しい教科書を買うタイミングになり感じたのは、「大学の授業で使う教科書がとても高くて揃えるのが大変だ」ということでした。
その中で、運よく先輩からもらえる教科書もあり、これをシステム化して、もう少し安く手に入れることはできないだろうかと考えました。
そして、途上国の多くの子どもたちが教育を受けられない課題と、大学生が高い教科書を手に入れづらいという課題を同時に解決する仕組みを実現する場所としてSFTが立ち上げられました。
SFTは2015年に一般社団法人となり、現在はNPO法人への移行を目指しています。
–立ち上げた当初に課題や、問題があったということは聞いていますか。
土井さん:
はい。大学生に使い終わった教科書を寄付してもらい、それを次に必要な学生に半額以下で売る。その利益を寄付するので、多くの教科書を集める必要があるんです。ですから、設立当初はどのように組織の規模を大きくするのかが、一番の課題だったと聞いています。
まずは、知り合いに声をかけ教科書を寄付してもらったり、他の大学に支部を作って欲しいと頼んだりして徐々に大きくしていったそうです。
また、設立当初、特に法人化される前は、周りの信用を得るのがより難しかったそうです。
教科書は、大学にとっても重要な財産です。そのため、大学の信頼を得られない中で教科書を集めて販売をすると、どうしても“怪しい団体”と思われがちなんです。加えて、大学・正規の値段で教科書を扱う学生生協などからは良く思われない時期もありました。
そこで、団体としての信用を得ることも大事だと考え、法人化した経緯があります。
自分たちが利益を手にしているのではなく、あくまでも「途上国の子どもたちに教育を届けるための活動」だということを説明し理解してもらい、大学の協力を得てここまで広がってきた活動だと思います。
教科書の回収がカギ!多くの寄付でより大きな支援を目指す
–では、活動について詳しくお聞かせください。どのような組織体制で活動しているのでしょうか。
土井さん:
主に大学生が中心の団体で、若干名ですが大学院生で活動に加わっている者もいます。現在約40の大学にSFTの支部があり、400名ほどのメンバーが各支部長を中心に各々活動しています。
また、SFTには事務局があり、その中にSNS運用チーム、営業チーム、支部設立チームなどが設置されています。
例えば、支部設立チームは、新しく大学に支部を作るサポートをします。
寄付金を送金する口座の開設から、活動の紹介・メンバーの集め方、SNSの運用の仕方や、まだ支部のない大学に設立を働きかける活動もしています。
–どのように教科書を集めたり、販売したりしているのですか。
土井さん:
この活動は、教科書を寄付してもらわないと成り立たない活動です。手元に教科書があれば、半額で購入したいというニーズは常にあるので、どれだけ回収できるかが成果につながります。
回収は年2回、大学の前期と後期の終わる頃に回収イベントを開催します。
大学に公認してもらい、構内で活動できる支部は、人通りの多い場所に露店を開いて回収したり、授業の際に教授にお願いして、活動を紹介させてもらい寄付を募ったりします。
販売は、新学期の始まるころに、同じように販売イベントを開いて販売しています。
大学に公認をもらえていない支部は、個人的に友人に声をかけたり、大学の近くの場所を借りて、回収や販売をすることもあります。
回収や販売の仕方は、各支部に任せています。
–大学から公認してもらうのは、やはり難しいことなのでしょうか。
土井さん:
そうですね。これは設立当初から続いている課題ですが、「お金を扱う団体は公認できない」とか、「組織の母体が別にあるなら、本大学で公認する必要はない」という理由で学内の活動を制限されている支部もあります。そんな支部でも、オンラインで回収予約をするなど、いろいろな工夫をして地道に活動しています。
しかし、大学の公認があると圧倒的に活動の幅も広がりますので、非公認の支部は認めてもらえるように努力しています。
大学のSDGs推進室や学生支援センター、広報課などにかけあい、自分たちに利益はないということを証明するために、証明書や領収書を提示したり、この活動がどんなことに繋がり、効果をもたらしているのかを説明したりしています。
このような現状をみると、大学生の活動をもっと応援してくれる社会的な風潮があればよいなと思います。
SFTだけでなく、社会課題の解決に向けて活動している学生団体はたくさんあります。学生の内側から出てくるモチベーションによって支えられている活動、特に非営利のボランティアの活動などを懐深く、社会全体で応援するような仕組みが日本全体に広がったらいいなと感じています。
「教育で人生が、世界が、未来が変わる」人を変えるのでなく環境を変える支援
–では、支援先はどのように選んでいるのですか。実際に現地に行ったりすることはあるのでしょうか。
土井さん:
今までは、各国の識字率や教育の男女の格差などのデータを調べて、ラオス・バングラデシュ・ネパールなどを支援してきました。
現在は事務局内の支援先調査チームがいろいろな調査をし、途上国への教育支援が充実している「Room To Read」という団体に寄付をしています。その中でも一番優先順位が高いと言われるタンザニアの女子教育プログラムを支援先に選んでいます。
ルーム・トゥ・リード公式サイト
以前は支援を実感するために、スタディーツアーという形で、現地の視察に行くこともあったのですが、現在は行っていません。
その理由は、例えば視察に行くと現地の人達は自分達を歓迎してくれて、それによって日常であるはずの教育が止まってしまうことになりかねないからです。それが良いのか悪いのかという議論もあるんです。
「Room To Read」もそういうことに配慮している団体で、今は現地訪問の代わりに、レポートとして支援した方たちの様子や、感謝の声などを届けてくれています。
また以前は、SFTの支援を受けてラオスで日本語を学び、日本語教師になった方を日本に呼んで、食事会を設けてくれたりしました。
このような事例や感謝の声を聞くと、すごく嬉しく、やりがいを感じますが、決して自分達の影響力を確認したくて支援しているわけではありません。
私達はあくまで、教育が受けられる環境を整えるために支援しているのであって、私達が直接誰かの人生を変えているわけではないんです。
これは、SFTが掲げる社会的使命「教育で人生が、世界が、未来が変わる」
教育が変われば、将来の選択肢が増え、人生が変わる。
人生が変われば、社会が大きく発展し、世界が変わる。
世界が変われば、新たな常識が伝播し、未来が変わる。
に通じていることだと思います。
日本中、世界中の大学にSFTの活動を広げ幅広いつながりを作りたい
–現在活動しているうえで、何か課題はありますか。
土井さん:
一番の課題は、SFTを継続していくための安定したシステムを構築することだと考えています。
今まで、SFTに関わってきた大学は100校を超えますが、現在は多くても40校です。
例えば、年間7〜80万円ほど売り上げていた支部が、2年後には廃止になってしまうということが普通にあるんです。これは大学生中心の活動なので、メンバーが絶対に入れ替わるということが理由です。カリスマ性のあるリーダーや教科書をものすごくたくさん集めてくるメンバーがいたとしても、同じように活動を継続できなければ支部がなくなってしまいます。
活動を始めて15年目になりますが、先輩たちが積み上げてきたノウハウや、自分たちが築いてきた企業などとの繋がりをどこまで引き継いでいけるのかが、今後の大きな課題だと思っています。
–では、SFTが目指しているのは、どんな社会なのでしょうか。
土井さん:
私達は、日本中、世界中の大学で、SFTの仕組みが運営されるような社会を目指したいと思います。
SFTの活動の一番の魅力は、その仕組みだと思うんです。
単純に、募金を集めて寄付するのではなく、教科書を集めてそれを必要な大学生に提供できるというメリットがあります。その仕組みをいろいろな人達に伝え、共感してもらいながら、広げていきたいと考えています。
ですから、この記事を読んでいる大学生や若い方達には、自分の周りの大学で教科書を寄付したり、支部のない大学で支部を立ち上げたり、今ある支部で一緒に活動したりすることを選択肢の一つに加えてもらいたいと思います。
–最後に、今後どのように活動していくのか、展望をお聞かせください。
土井さん:
SFTはこれまでに累計約3,500万円を途上国に寄付してきました。年間の最高寄付額は約600万円です。そして、今後の中長期の目標として年間寄付額1,000万円を目指しています。
そのためには、一緒に活動する大学の数を増やすこと。設立された支部を存続していくこと。一つの支部当たりの寄付額を増やしていくことの3ステップが重要だと考えています。
また、大学生だけでなく、企業など幅広い方々に自分達の活動に共感し、応援してもらえるような活動をしたいと思います。
現在は、教科書を寄付してくれる方にはメリットがないので、そこを企業などからの支援で、何かしらのメリットを付与したり、投資を募ったり、クラウドファンディングを立ち上げたりなど、いろいろな案が出てきています。それをきちんとシステム化することで寄付金を増やし、世界中の誰もが勉強できる環境を作っていきたいと思います。
–本日は、貴重なお話をありがとうございました。
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