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TIGR (Tradable Instruments for Global Renewables)とは?特徴やメリット・デメリットも

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再生可能エネルギーの活用は、企業のサステナビリティ経営にとって重要な取り組みです。その中で、TIGR(Tradable Instruments for Global Renewables)は、企業の環境配慮を強力にサポートする優れたシステムです。

しかし、TIGRについて、まだよく知らない人の方が多いのが現状です。本記事では、TIGRの特徴やメリット・デメリットをわかりやすく解説します。

このような新しいシステムや制度についての知識を身につけ、ビジネスにも活かしましょう。

TIGR (Tradable Instruments for Global Renewables)とは

TIGR (Tradable Instruments for Global Renewables)とは、企業の再生可能エネルギー調達をグローバルに管理・追跡するための仕組みです。APX※という企業が開発したこのシステムでは、再生可能エネルギーの証書(REC、RECs※)の発行、検証、取引を行うことができます。

RECとは、再生可能エネルギー発電の環境価値を証明する証書のことです。企業がこのRECを保有することで、自社の再生可能エネルギー利用を明示的に示すことができます。

つまり、TIGRを活用すれば企業の環境配慮や持続可能な取り組みを、客観的なデータで示すことが可能になるのです。

APX

クリーンエネルギーと持続可能性への世界の移行を支援する企業。環境およびエネルギー市場向けに、革新的なテクノロジーとサービスソリューションを提供している。

REC、RECs

再生可能エネルギーの発電事業者が、再生可能エネルギーの1MWh 分を発電したことを証明する証書。代表的なRECトラッキングシステムにはTIGRやNARなどがある。RECsは、上記のRECを複数まとめて表記したもので、企業が再生可能エネルギー由来の電力を使用していることを示す際に、RECsという表現が使われる傾向がある。

グローバル対応

TIGRは、北米以外の世界中の再生可能エネルギーのRECを管理・取引できるシステムです。企業は、世界中の再生可能エネルギー発電プロジェクトから、RECを調達・保有することができます。

また、TIGRでは、I-REC※を含むさまざまな種類のRECsを取引することができます。具体的には、以下の種類のRECsを取引することができます。

I-REC

国際的な再生可能エネルギー証書の標準規格。世界中の再生可能エネルギー証書を、共通の基準で発行・取引できるシステムを提供している。

【関連記事】I-REC(International Renewable Energy Certificate)とは?非化石証書との違いもわかりやすく解説!

RECの発行・管理

TIGRは、RECの発行、検証、取引を一元的に行えるオンラインプラットフォームを提供しています。再生可能エネルギー発電事業者は、TIGRを通じてRECを生成し、売却することができます。

企業の環境配慮を可視化

企業がTIGRを活用することで、自社の再生可能エネルギー利用状況を、客観的なデータで示すことができます。これにより、企業のサステナビリティ目標達成や、ESG(環境・社会・ガバナンス)への取り組みを、具体的に報告することが可能になります。

TIGRは、企業の環境への貢献を、透明性高く示すことのできる、グローバルな再生可能エネルギー管理システムといえるでしょう。世界規模の脱炭素化に向けて、企業のサステナビリティ推進に大きな役割を果たしています。*1)

TIGRの特徴とメリット

【TIGRのメカニズム】

TIGRは、企業の再生可能エネルギー利用を、確かな証跡と信頼性をもって管理・追跡するための優れたシステムです。RECの発行から取引まで一元的に行えるこのプラットフォームには、様々な特徴が備わっています。具体的な特徴やメリットを確認しましょう。

グローバルな再エネ調達を可能にする

TIGRは、北米以外の世界中の再生可能エネルギー発電プロジェクトから、RECを調達することができます。企業は、グローバルな視点で再生可能エネルギーの利用を推進できるのが大きな特徴です。

厳格な検証基準と信頼性の高い取引

TIGRで発行されるRECは、APX社の厳しい品質基準に基づいて検証されています。そのため、企業はRECの透明性と安全性を確保しつつ、信頼できる取引を行うことができます。

主要イニシアチブとの連携

TIGRで取り扱われるRECは、RE100、We Mean Business Coalition、CDP、GHGプロトコル※など、世界的な環境イニシアチブの基準に準拠しています。企業はこれらの取り組みを実現する上で、TIGRを活用できるのです。

RE100

参加企業が100%再生可能エネルギーの電力調達を目指すことで、気候変動対策に貢献するための国際的な企業イニシアチブ。

【関連記事】RE100とは?日本企業一覧・加盟条件・取り組み事例やメリットを解説

We Mean Business Coalition

世界的な環境保護団体が集まって設立した、企業の気候変動対策を促進し、持続可能な社会の実現を目指す連合体。RE100をはじめ、さまざまな取り組みを展開することで企業の環境経営を支援している。

CDP

企業の環境データの収集・分析を行う国際的な非営利組織。企業の気候変動、水、森林に関する取り組みを評価し、情報を投資家などに提供している。

【関連記事】CDPとは?気候変動・水・フォレストレポートの詳細やA入り企業の紹介も

GHGプロトコル

温室効果ガス排出量の算定・報告・管理に関する国際的な基準。信頼性の高い排出量データを提供することで、企業の環境経営を支援している。

【関連記事】GHGプロトコルとは?スコープ1〜3との関係や算定方法も

多様なアカウント保有者

TIGRのアカウント保有者には、再エネ発電事業者、企業、小売事業者、ブローカーなど、様々な主体が含まれています。買い手と売り手が一つのプラットフォームで取引できるのが特徴的です。*2)

TIGRが誕生した背景

TIGRを開発したAPXは、クリーンエネルギーと持続可能な社会の実現をミッションとする企業です。同社は、エネルギーや環境市場向けに革新的なテクノロジーとサービスを提供しています。

TIGRレジストリが立ち上げられた背景に注目してみましょう。

再生可能エネルギーへの世界的な移行の加速

近年、地球温暖化対策や脱炭素化の流れが加速しています。企業や産業界においても、再生可能エネルギーの導入が急速に進んでいます。

しかし、その利用状況を客観的に証明する仕組みが必要とされていました。

グローバルな再エネ調達ニーズの高まり

企業は、自社の事業拠点が広がる中で、世界規模で再生可能エネルギーの利用を推進したいと考えるようになりました。しかし、地域によって制度や基準が異なるため、一元的な管理が難しいという課題もありました。

信頼性の高い証明手段の必要性

企業は自社の再エネ利用実績を、可視化して報告する必要に迫られています。そのためには、透明性と信頼性の高い証跡が求められるようになったのです。

こうした背景の中で、APXはTIGRレジストリを立ち上げました。世界中の再エネ証書を一元的に管理・取引できる、信頼性の高いプラットフォームを提供することで、企業の脱炭素化と持続可能な社会の実現を後押ししているのです。*3)

TIGRのデメリット・課題

TIGRは、企業の再生可能エネルギー利用を促進する優れたシステムですが、それでも一定のデメリットや課題も存在します。

初期投資コストの高さ

TIGRへの参加には、アカウント開設や維持に一定のコストがかかります。特に中小企業にとっては、この初期投資が大きな負担となる可能性があります。

複雑な管理体制

TIGRでは、RECの発行から取引、さらには報告書の作成まで、さまざまな手続きが必要となります。企業によっては、この管理業務の煩雑さに苦慮する可能性があります。

専門家の活用などで、効率的な運用体制を構築する必要があるでしょう。

地域ごとの違いへの対応

TIGRは世界中の再エネ証書を扱えますが、地域によって制度や基準が異なるため、対応が難しい面もあります。企業は、自社の事業拠点に合わせた最適な活用方法を検討する必要があります。

市場の流動性確保

TIGRのプラットフォームには、多種多様な参加者が集まっていますが、中には流動性の低い商品も存在します。企業は、自社の需要に合わせてRECを柔軟に調達できるよう、市場の動向を注視する必要があるでしょう。

これらのデメリットや課題に適切に対応することで、企業はTIGRをより効果的に活用できるでしょう。十分な検討と準備を重ねることが重要です。

企業はTIGRをどのように活用すべきか

日本においては、再生可能エネルギー市場の成長と共にTIGRの活用が進んでいますが、まだ十分な普及が進んでいるとは言い難い状況です。現在、日本政府は再生可能エネルギーの普及を推進しており、TIGRを含む国際的な取引システムにも関心を示しています。

TIGRの活用

それでは、企業はTIGRをどのように活用すべきか考えてみましょう。

①自社の環境配慮を客観的に示す

TIGRを通じて発行されるRECは、APXの厳格な基準に基づいて検証されています。企業はこのRECを活用することで、自社の再エネ利用実績を高い透明性で開示できるのです。

②世界規模で再エネ調達を推進する

TIGRでは、北米以外の世界中の再生可能エネルギー証書を調達できます。企業はグローバルな視点で再エネ利用を推進でき、サステナビリティ目標の達成につなげることができます。

③主要なイニシアチブと連携する

TIGRで扱われるRECは、RE100やCDPなどの世界的な環境イニシアチブの基準に準拠しています。企業はこれらの取り組みを推進するためにTIGRを活用することができます。

④多様な市場参加者と取引を行う

TIGRのプラットフォームには、発電事業者、企業、小売事業者、ブローカーなど、さまざまな主体が参加しています。これにより、企業は、最適なパートナーと取引を行うことができるのです。

TIGRの購入方法

TIGRでRECを購入する際は、以下の手順に沿って進めます。

  1. TIGRのウェブサイトから無料のアカウントを作成
  2. 必要なRECの量や種類を検討
  3. RECの取引画面から、希望の条件で注文
  4. 入金や決済を完了
  5. RECが自社のアカウントに登録される

このように、比較的簡単な手順で、企業は確かな証跡を持ちつつ、柔軟に再エネの調達を行えます。*4)

TIGRとSDGs

TIGRは、企業の再生可能エネルギー利用を促進するだけでなく、SDGs(持続可能な開発目標)の達成にも大きく寄与しています。SDGsは2015年に国連が定めた17の目標からなり、地球規模の課題解決に向けた世界共通の行動指針です。

一方、TIGRは再生可能エネルギーの利用を促進し、企業のサステナビリティ経営を支援するシステムです。TIGRが貢献する、主なSDGs目標を確認していきましょう。

SDGs目標7:エネルギーをみんなに そしてクリーンに

TIGRは、世界中の再生可能エネルギー証書(REC)を一元的に管理・取引できるプラットフォームを提供しています。企業がRECを調達することで、クリーンエネルギーの利用が促進されます。

SDGs目標12:つくる責任 つかう責任

TIGRで発行されるRECは、APXの厳格な基準に基づいて検証されています。企業は、透明性の高い証跡を蓄積できるため、自社の環境配慮を説明することができます。

SDGs目標13:気候変動に具体的な対策を

企業がTIGRを活用して再生可能エネルギーを調達することで、温室効果ガスの削減に寄与します。これは、世界全体の脱炭素化を後押ししています。*5)

>>各目標に関する詳しい記事はこちらから

まとめ

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TIGRは、企業の再生可能エネルギー利用を促進するための優れたプラットフォームです。企業は、TIGRを活用することで、自社の環境配慮を客観的に示すことができます。

また、世界規模での再エネ調達を実現でき、主要な環境イニシアチブとも連携できるのが大きな特徴です。一方で、TIGRにはコスト面や管理面での課題もあり、企業はこれらに適切に対応する必要があります。

近年、世界的に環境問題への関心が高まっています。持続可能な社会の実現に向けて、企業には再生可能エネルギーの利用拡大をはじめ、さまざまな取り組みが求められています。特に、日本政府は2050年カーボンニュートラルの実現を目指しており、企業の役割はますます重要になっています。

このような状況下で、TIGRのような先進的なシステムを活用することは、企業にとって大きなメリットがあります。企業は、TIGRを積極的に活用し、自社の環境経営をさらに強化していくことが重要でしょう。

環境への取り組みは時代の大きな流れです。企業は、社会の一員として、自らの環境への取り組みを確実に前に進め、同時にそれを誰にもわかるように証明していく必要があります。

その中でTIGRは、その実現に向けた強力なツールと言えるのです。私たち個人レベルでも、このような新しいシステムや制度を理解し、より良い社会と地球環境の実現に向けて、できることから新しい行動を起こしましょう。

<参考・引用文献>
*1)TIGR (Tradable Instruments for Global Renewables)とは
APX『TIGR』
経済産業省『令和 3 年度 新興国等におけるエネルギー使用の合理化等に資する事業(アジア等における我が国洋上風力産業海外展開可能性調査)』(2022年3月)
CDP『CDP Technical Note: Accounting of Scope 2 emissions』
環境金融研究機構『TIGRs Tradable Instruments for Global Renewables 』
*2)TIGRの特徴
JETRO『中国における脱炭素に向けた取組・方法に関する調査』(2023年3月)
RE100とは?日本企業一覧・加盟条件・取り組み事例やメリットを解説
CDPとは?気候変動・水・フォレストレポートの詳細やA入り企業の紹介も
GHGプロトコルとは?スコープ1〜3との関係や算定方法も
*3)TIGRが誕生した背景
APX『革新的な電力スケジューリングとエネルギー会計サービス』
*4)企業はTIGRをどのように活用すべきか
APX『TIGR』
APX『MARKETSTUITE』
*5)TIGRとSDGs
国際連合広報センター『SDGsのポスター・ロゴ・アイコンおよびガイドライン』