テックタッチ株式会社 中出 昌哉さん インタビュー
中出 昌哉
テックタッチ株式会社 取締役 CFO / CPO
1988年7月16日、北海道札幌市生まれ、東京大学経済学部、マサチューセッツ工科大学MBA卒。野村證券株式会社にて投資銀行業務に従事し、素材エネルギーセクターのM&A案件を数多く手掛ける。その後、カーライル・グループにて投資業に従事。テックタッチ株式会社では、CFOに加えてプロダクト開発責任者、事業戦略立案等も担う。また、自社の資金調達に関して詳細に記したnoteを公開しており、そのような発信をきっかけに、他企業の経営層から資金調達や事業運営に関する相談も多く受けている。
目次
introduction
テックタッチ株式会社は、「すべてのユーザーがシステムを使いこなせる世界に」をミッションに掲げ、Webシステムの入力をナビゲーションでサポートするテックタッチを開発・提供している企業です。大企業の社内向けシステムや自治体のホームページ、システム開発会社が提供するクラウドサービスなど、さまざまな領域で導入が進み、現在のユーザー数は300万を超えています。
今回は、財務とプロダクト開発の両責任者を担う取締役の中出さんに、「テックタッチ」を開発した理由やサービス内容について伺いました。
テクノロジーでシステム操作をサポートするためにテックタッチを創業
–会社概要と事業内容を教えてください。
中出さん:
テックタッチ株式会社は2018年3月に設立したスタートアップ企業です。社名は、システム操作のサポートを指す”テックタッチ”という言葉からつけています。システムサポートには、ハイタッチ、ロータッチ、テックタッチという3つの用語があります。ハイタッチは人力で手厚い支援をすること、ロータッチはその逆で導入後のサポートをあまりしないこと、そしてテックタッチは「ハイタッチなサポートを、テクノロジーの力で実践すること」を指します。
事業内容は、システム上に後乗せでナビゲーションを出す「テックタッチ」サービスの開発・提供です。「ナビゲーション」とは、ユーザーがシステムの操作を開始すると、「こちらを押してください」という表示が出て、指定された場所を押すと「次はこちらを押してください」の表示が段階的に出てくるツールです。つまり、あたかもそのシステムに詳しい人がユーザーの隣に座って、ガイダンスをしてくれているかのように、画面上へ操作説明が表示されるイメージですね。
–テックタッチは2018年に創業されたということですが、代表の井無田さんが「テックタッチ」の分野で会社を立ち上げた経緯もお伺いできますか?
中出さん:
井無田は金融業界出身で、仕事をしている中で「使いにくいシステムが多いな」という問題意識を持っていました。その後、システムアプリを開発する会社で開発側として仕事をした際に「開発した側が思った通りに、ユーザーに操作してもらうことは意外と大変なんだな」と気づいたそうです。ユーザーが使い勝手のいいものがほしいと思っても、作る側がそれを届けることは難しいのだと。そこで、ユーザーと作り手のギャップを埋めたいと考え、創業したのがテックタッチ株式会社です。
「このシステムにはどんなナビゲーションが必要か」をアドバイスするところからサポート
–システム操作をサポートするという「テックタッチ」ですが、どのようなところで導入が進んでいるのでしょうか?
中出さん:
弊社のサービスは、一般企業、システム開発会社、官公庁・自治体の大きく3つに導入いただいています。
割合としては一般企業に使っていただいてるケースが一番大きいですね。企業の多くはDXの波に乗って、新しいシステムの導入を進めてきました。ただ、システムを導入したのは良いものの、操作に従業員が苦戦してしまい、管理部門に問い合わせが殺到したり定着が進まなかったりという課題を抱える企業が少なくないんです。そんなシステムの操作説明をサポートしているのが、「テックタッチ」です。
「テックタッチ」をシステムのナビゲーションとして入れてもらうと、従業員の活用率が上がることに加えて、正確な情報もたまりやすくなります。だから従業員のサポートになるだけでなく、本来経営側がやりたかったデータを活用して実践する、本当のDXに近づけるんですよね。DXのラストワンマイルに近いところを、我々が担っているんです。
もちろん企業には自社ルールもたくさんありますから、それぞれに合わせたナビが必要ですよね。テックタッチであれば、システム自体は全く触らず、拡張機能をインストールするだけで、社内で簡単にナビゲーションを作れる点が強みになります。
–自社で簡単にナビゲーションを作れるとのことですが、「ユーザーがどこでつまずいているのか」がわからない場合もあると思います。「このシステムには、どんなナビゲーションをつけるといいか」といったアドバイスを御社からもらうことは可能ですか?
中出さん:
もちろん可能です。弊社では「このシステムに、どんなナビゲーションを入れると使いやすくなるのか」という、UIやUX設計の部分にもかなり力を入れています。つまり、ユーザーがシステムの操作をしたときに「なんだか使いづらいな」と感じるところを突き止めて、「『テックタッチ』でナビゲーションをこのように実装したら、システムを初めて使う人でも迷いませんよ」というアドバイスもしているんです。
弊社内のカスタマーサクセスというサポートチームは常日頃からお客様と接していますので、「システムを使うユーザーが困りやすいポイント」を理解しています。システムの使いにくい原因特定と解決策まで提供するコンサルティングが、私たちの力の見せどころですし、実際にお客様からも一番感謝していただいている点ですね。
–企業では「社内で導入したシステム」にテックタッチを入れるということでしたが、システム開発会社はどのようにテックタッチを活用されているのでしょうか?
中出さん:
SaaS系のシステム開発会社では、「自社が開発・販売している自社プロダクトに、テックタッチを組み込んで販売」という形で活用いただいていますね。自社でプロダクトを作って提供してる会社は、販売した後もしっかり活用してもらうためにサポートをしなければなりません。現在、それらの多くは”ハイタッチ”でのサポートを実施しています。コールセンターなどを用意して絶えず人が問い合わせの対応をしたり、使い方をレクチャーしたりといったものです。
そのサポートをテックタッチ寄りにして、サポートをする側の負担の軽減をするのが私たちですね。しかも、都度電話をしなくても簡単に使いこなせるようになるので、ユーザー側からも喜んでもらっています。
自治体への導入を進め、誰一人取り残されない「人に優しいデジタル化」の実現を支えたい
–官公庁・自治体では、どのような用途で導入されているのでしょうか?
中出さん:
導入には2つのパターンがあります。今多いのは、国民や市民へデジタル庁や自治体が提供しているシステムやホームページ、電子申請の使い方を「テックタッチ」で説明するというものです。デジタル庁様や宇都宮市様の事例を公開していますが、特に神戸市様では「ホームページの使い方の問い合わせ件数が40%削減できた」など高い効果も出ています。
導入パターンのもう1つは、職員向けに導入したシステムの操作サポート目的になります。例えば農林水産省様では、導入したクラウド型の統合人事システムの操作が複雑で職員から多数の問い合わせが入ることが課題となっていました。その解決に向けて「テックタッチ」を導入いただきましたね。官公庁・自治体は人事異動が活発ですので、「それぞれの部署で使用しているシステムの教育が大変」という問題もあります。教育担当の負荷を軽減するという意味でも、「テックタッチ」の導入が進んでいます。
–確かに、自治体が導入している電子申請がわかりにくいという声はよく聞きます。市民向けのシステム操作サポートについて具体的な事例をお伺いできますか?
中出さん:
兵庫県洲本市では、DX推進の重要施策に「行政手続きのオンライン化」を挙げています。その1つが、ホームページ上での行政手続機能の強化です。ただ、市役所側が強化を進めたい一方で、市民からは「ホームページ上では、行政手続きや行政サービスの情報を見つけづらい」という声も出ていました。そこで、公式ホームページにある行政手続きのオンラインサービス「くらしの手続きガイド」に、操作ナビゲーションとして「テックタッチ」が導入されたんです。
この施策は「オンラインサービスを導入して終わり」ではありません。毎年2回、市民からアンケートなどを取って分析・評価を実施し、さらに使いやすいページへと改善していきます。使い勝手の分析には、「テックタッチ」のシステム利用動向を可視化する機能も活用される予定です。
–「行政手続きのオンライン化」は加速していくでしょうから、自治体でのテックタッチのニーズは今後も増えていきそうですね。
中出さん:
やはり国がデジタル庁を作り、デジタル化やDXに本気で取り組んでいる状況ですから、行政でもシステム導入の波はますます激しくなると思います。でも、一方的にシステム化をして「これを使ってください」と言ったところで、ユーザー側である市民・国民のIT知識量によってはそのシステムを使いこなせない場合がありますよね。特に、国のシステムなどはできることが多いために複雑になりがちです。そんなシステムでも、老若男女、IT知識のあるなしにかかわらず初見で使えるようにサポートしたい、そして、「誰一人取り残されない『人に優しいデジタル化』」の実現を支えたいと考えています。
–御社の今後の展望についてお伺いできますでしょうか?
中出さん:
「テックタッチ」は、社内のシステム、公共のシステム、さまざまな特性を持つシステムに後乗せができる点が強みです。なぜなら「このシステムだと動くけれど、このシステムだと難しい」といったことが発生しないよう、どんなシステムでもしっかり動かせるように、かなりこだわって開発をしてきたからです。ですので、この「どんなシステムにも入ることができる」ところを生かして、日本全体のDXのラストワンマイルをサポートしていきたいですね。
特に官公庁・自治体での活用という面では、日本にはスマートフォンを持っていない、持っていたとしてもあまり慣れてない方もたくさんいます。そのような方たちにもDXの恩恵を感じていただけるように、自治体などでの導入を増やす努力をしていきたいと思います。
–貴重なお話をありがとうございました!